石村研(千葉大学):館山の海岸の「段」は、地震で持ち上がった跡。土地に残った地震の記録を読む研究室

大学の実験室で、縞模様の地層の試料を縦に持ち、目を見開いて層を見つめる女子大学院生。「館山の海辺の岩場」「海岸の段は地震の記録」「1923年と1703年」の文字。

館山の見物(けんぶつ)海岸の岩場をよく見ると、階段のように2つの段があります。下の段は1923年の関東大震災で、上の段は1703年の元禄地震で、海の底から持ち上がってできたものです。館山の海岸には、300年分の地震の記録が、地形として残っているのです。

こうした「土地に残った地震の跡」を読んで、地震がいつ・どれくらいの大きさで起きたのかを調べる研究室が、千葉大学にあります。今回は、2025年に千葉大学に来た石村大輔先生の研究室を紹介します。「地学は石の名前を覚える科目」と思っている人に、特に読んでほしい記事です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

晴れた日の館山の海岸で、階段のように段になった岩場にしゃがみ、岩の段差に手を当ててのぞきこむ館山中の男子。「この段、何の跡?」の文字。

石村研究室の研究をひとことで言うと、地形や地層に残った跡から、昔の地震がいつ・どこで・どれくらいの大きさで起きたかを突き止める研究です。

言葉中学生向けに言うと
段丘だんきゅう海岸や川沿いにできる、階段のような平らな土地。土地が持ち上がるたびに1段ずつ増える
隆起りゅうき地震などで土地が持ち上がること
活断層数十万年前から今までの間にくり返しずれていて、これからもずれる可能性がある断層
津波堆積物たいせきぶつ津波が運んできて、陸に残した砂や石の層

出典:千葉大学 理学部 地球科学科、石村大輔 研究室ホームページ。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた

古文書に残る地震の記録は長くても千数百年分、地震計での観測は百数十年分しかありません。でも、地形や地層には、何千年、何万年分の地震の跡が残っています。それを読めば、次の地震がいつごろ来そうかを考える手がかりになります。

館山の海岸は、地震のたびに持ち上がってきた

図解。海岸の岩場の断面に2つの段があり、上の段に「1703年 元禄地震で上がった」、下の段に「1923年 関東大震災で上がった」、海面に「今の海面」。「海岸の段は、地震の記録」の文字。

館山の見物海岸の2つの段を、産業技術総合研究所(国の研究所)の宍倉正展さんが詳しく調べています。目印にしたのは、岩にくっついて暮らしていたカキなどの貝の跡です。貝は海の水面の近くでしか暮らせないので、その跡が高いところにあれば、土地がその分持ち上がったことが分かります。

見物海岸の段貝の跡がある高さ(標高)いつ持ち上がったか
下の段1.0〜1.7m1923年 大正関東地震(関東大震災)
上の段4.0〜4.6m1703年 元禄関東地震

出典:宍倉正展「房総半島南西岸の関東地震における隆起生物遺骸群集の露頭データ」『歴史地震』34号(2019年)

関東大震災のとき、このあたりの土地は約1.6m持ち上がったという記録があります。元禄地震のときは、房総半島の南のはしで約6mも持ち上がったと考えられています。館山の海岸は、大きな地震のたびに、海から陸へと押し上げられてきたのです。

出典:約1.6mは宍倉正展『歴史地震』34号(2019年)が引く陸地測量部(1926年)の記録、約6mは宍倉正展『歴史地震』19号(2003年)

館山の「沼」には、サンゴの地層がある

館山市沼には、千葉県の天然記念物「沼サンゴ層」があります。約7000〜6000年前、今より暖かかった時代の海の底でできた地層で、約80種類のサンゴが見つかっています。今の鹿児島の南から奄美大島のあたりにいるサンゴの種類の数に匹敵します。海の底だった場所が、今は陸の上にある。これには、当時の海面の高さと、土地の持ち上がりの両方が関わっています。

出典:千葉県教育委員会「千葉の地層10選」

動画で見る

研究室の中身はこの記事の文章で。動画では、石村研究室のある地球科学科の雰囲気が分かります。

千葉大学が作った、理学部 地球科学科の紹介動画です(3分)。石村先生は2025年に来たので映っていませんが、地球科学科で何を学ぶのかが分かります。

動画:千葉大学 公式チャンネル(2020年公開)

溝を掘って、断層の「前回」を突き止める

地面に掘った深い溝の中で、ずれた縞模様の地層の壁に小さなスコップを当て、目を細めて層の境目を見つめる女子大学院生。

石村先生が得意とするのは、活断層の上に溝を掘る「トレンチ調査」です。溝の壁に出てきた地層のずれ方を見れば、断層がいつ、何回ずれたのかが分かります。

2026年4月には、2016年の熊本地震のときにいっしょにずれた断層(出ノ口断層)を調べた結果を発表しました。この断層は過去およそ1万5千年の間に最大8回ずれていて、最近2回ずれた時期を、それぞれ200〜300年の幅まで絞りこんだという内容です。

出典:千葉大学・東北大学ほか プレスリリース(2026年4月14日)

「誤差0年」に挑む

2026年からは、断層の上で傾いたり倒れたりした木の年輪を読んで、地震が起きた年を「誤差0年」で決めることに挑む研究も始めています。年輪は1年に1本ずつ増えるので、木が傾いた年が分かれば、地震の年がぴたりと分かるという考え方です。

出典:KAKEN「誤差0年の断層活動時期決定」(2026〜2028年度)

ほかにも、2021年の海底火山の噴火で海を漂って流れ着いた軽石を追いかける研究、AIを使って海岸の巨大な岩の分布をつかむ研究、2024年の能登半島地震で土地がどう変わったかの研究もしています。研究室のホームページには、学生の研究テーマの案として「房総半島をふくむ関東の段丘の地図づくり」「房総半島に流れ着く軽石の観察」が挙がっています。

坂本

石の名前を覚えるだけではありません。溝を掘り、年輪を数え、AIを使う。地学のイメージが変わりませんか。

この研究室に入るには

石村研究室に入るには、千葉大学 理学部 地球科学科を受験します。千葉大の理学部は学科ごとに入試をするので、入学したときから地球科学科です。

大学学部・学科偏差値
千葉大学理学部 地球科学科57.5

出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」(2026年10月)。偏差値は河合塾のボーダー偏差値

地球科学科では、1年生から野外での実験が必修です。教室で習うだけでなく、自分の目と手で地層や地形を調べます。卒業した人のおよそ半分が大学院に進みます。

出典:千葉大学 理学部 地球科学科「地球科学科Q&A」(受験生の方へ)

同じ学科に、チバニアンの先生もいる

同じ地球科学科の亀尾浩司先生は、市原市の地層が「チバニアン」(約77万4千年前〜約12万9千年前の時代の名前)として世界に認められたときの、申請チームの中心メンバーの1人です。目に見えないほど小さなプランクトンの化石で、地層がいつできたかを決める研究をしています。房総の地層は、研究の材料の宝庫です。

出典:千葉大学 お知らせ(2020年1月17日)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)ほか プレスリリース(2017年6月7日)

中高生のうちにできること

曇りの日、住宅地の小道わきにある、サンゴや貝の化石が混じった小さな地層の前で、メモを取りながら口を開けて見入る志学館高の男子。

見物海岸と沼サンゴ層を、自分の目で見る

見物海岸の2つの段と、沼サンゴ層は、どちらも館山市内にあります。沼サンゴ層は、JR館山駅から館山航空隊行きのバスで「西の浜海岸通」で降りて歩いて15分です(駐車場はありません)。海岸の岩場は、潮が引いているときに、大人と一緒に行ってください。「どこまで海の跡か」を探すだけで、地球科学の研究と同じことをしていることになります。

地学基礎を、ちゃんと選ぶ

高校の「地学基礎」は、地震・地層・火山を学ぶ科目です。地球科学科を目指す人にとっては、入学してからの基礎になります。千葉大の地球科学科は、毎年夏にオープンキャンパスを開いています(2026年は7月31日でした)。

数学と物理も手放さない

地形のデータをパソコンで解析したり、年代を計算したりするには、数学と物理が要ります。地学は「暗記の科目」ではなく、計算して確かめる科目です。

まとめ

夕方の館山の海辺で、階段状の岩場の上に立ち、富士山の見える海を見つめて小さくほほえむ翔凜高の女子。
  • 石村研究室は、地形や地層に残った跡から、昔の地震がいつ・どれくらいの大きさで起きたかを突き止める研究室
  • 館山の見物海岸の2つの段は、1923年と1703年の大地震で持ち上がった跡
  • 断層に溝を掘り、熊本地震でいっしょにずれた断層の最近の活動時期を200〜300年の幅まで絞りこんだ。次は年輪で「誤差0年」に挑む
  • 入口は千葉大学 理学部 地球科学科(偏差値57.5)。同じ学科にはチバニアンの研究者もいる

東進館山校 坂本

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