\24時間OK/
\平日9-16時 土日祝9-18時/
\無料、お気軽に!/

ダイヤモンドは、炭素の原子がきれいに並んだ宝石です。ところが、その並びの中に、炭素が1つ抜けた「穴」と、炭素の代わりに入った窒素がペアになった、ごく小さな「傷」ができることがあります。
横浜国立大学の小坂英男先生の研究室は、この小さな傷を使って、光が運んできた「量子の情報」を受け取り、記憶する研究をしています。めざしているのは、遠く離れた量子の機械どうしをつなぐ「量子インターネット」です。今回は、SF映画でおなじみの言葉「テレポーテーション」が、実際の研究ではどういう意味なのかも、言い過ぎずに紹介します。

小坂先生の研究をひとことで言うと、ダイヤモンドの中の小さな傷を「量子の情報の受け取り口と記憶装置」にして、量子の通信を遠くまで届ける研究です。
| 言葉 | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| 量子 | 光の粒(光子)や電子のような、とても小さなもの。ふつうの物とはちがうルールで動く |
| NV中心 | ダイヤモンドの中で、炭素が1つ抜けた穴(空孔)と、となりの窒素がペアになった小さな傷。英語の Nitrogen(窒素)と Vacancy(空孔)の頭文字 |
| 量子メモリー | 量子の情報を、こわさずにしばらく保存しておく「記憶装置」 |
| 量子中継 | 遠くまで量子の情報を届けるための「中継ぎ」。この研究室の大きなテーマ |
出典:横浜国立大学 小坂研究室「概要」「研究内容」、科学技術振興機構(JST)・横浜国立大学 共同発表(2019年6月28日)。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた
研究室の説明によると、ダイヤモンドのこの傷は量子の状態を「秒単位」で、そのまわりにある特別な炭素は「分単位」で保存できる記憶装置になります。量子の世界では、1秒でも長い時間です。

小坂先生の研究のキーワードは「量子テレポーテーション」です。テレポーテーションと聞くと、人や物が一瞬で別の場所に移動する、SFの瞬間移動を思い浮かべるかもしれません。でも、実際の研究で送られるのは、人でも物でもありません。
ここでクイズです。まず自分で考えてから、下の答えを開いてください。

量子テレポーテーションで、相手に届くのはどれでしょう? ①光の粒そのもの ②光の粒が持っていた「状態」(情報) ③光の粒のコピー
答えは②です。届くのは、光の粒が持っていた「状態」だけです。光の粒そのものは移動しません。
③のコピーでもありません。量子の状態は、そっくりなコピーを作れないことが分かっています。写し取ると、元の光の粒の状態はなくなります。「写す」より「引っ越す」に近いイメージです。
もう1つ大事なこと。量子テレポーテーションでは、送り手が測った結果を、ふつうの通信(電話やネットと同じ、光より速くならない方法)で相手に伝えないと、受け手は正しい状態を取り出せません。だから、光より速く情報を送れるわけではありません。

2019年、小坂先生と大学院生たちは、ダイヤモンドに届いた光の粒の情報を、NV中心のそばにある特別な炭素(ふつうより中性子が1つ多い炭素。天然のダイヤモンドに約1%ある)に写し取ることに成功しました。発表では「世界初」とされています。
やり方は3つの手順です。
光の粒や炭素の情報そのものは調べないので、情報をこわさず、外にもらさずに写せるのがポイントです。実験はマイナス268℃ほど(5ケルビン)の低温で行われました。写した距離は、ダイヤモンドの中のごく短い距離です。遠くへ送るのは、次の節の話になります。
出典:JST・横浜国立大学 共同発表(2019年6月28日)、論文:鶴本さん・小坂先生ほか Communications Physics(2019年)

いまの光ファイバーの通信でも、光は進むうちに少しずつ弱くなります。ふつうの通信なら、途中で光を強くし直せます。ところが、ふつうの光の増幅器では、量子の情報を運ぶ光を、性質を保ったまま強くすることができません。
出典:JST・横浜国立大学 共同発表(2019年6月28日)注3、情報通信研究機構(NICT)「NICT NEWS」2013年7月号
研究室の説明では、光の粒が光ファイバーで届くのはせいぜい100kmほどまでです。それより遠くへ量子の情報を送るには、途中で中継ぎが必要になります。
| 方法 | 遠くまで送るには |
|---|---|
| ふつうの光通信 | 途中で光を強くし直す |
| 量子の通信 | 強くし直せない。途中の「量子中継器」で、量子テレポーテーションを使ってリレーしていく |
出典:横浜国立大学 小坂研究室「研究内容」
小坂先生たちがダイヤモンドを使うのは、この量子中継器を作るためです。光の情報を受け取り、記憶し、また光に乗せて次へ送り出す。その「中継ぎの駅」を、ダイヤモンドの中の小さな傷で作ろうとしています。

房総にも、通信の「玄関口」があります。南房総市の千倉には、アメリカやアジアとつながる海底ケーブルが陸に上がる施設があります(KDDIが2014年に開設)。今の海底ケーブルはふつうの光通信。量子の通信を海の向こうまで届けるには、まだ大きな壁があるということです。
2026年8月、研究室は新しい論文を公開しました。1つのNV中心の中で、受け取った光の情報を記憶に移し、それを新しく出す光に乗せ直すという、量子中継器の「駅」1つ分の動きを通して確かめた、という内容です。駅1つ分の動き全体として、正しく写せた度合い(忠実度)は78%でした。
この論文は、ほかの研究者のチェック(査読)を受ける前の段階で公開されたものです。駅と駅を本当に遠くでつなぐのは、これからの研究です。
出典:Fujiwara・関口ほか(最後に小坂先生)「Absorption-emission quantum repeater using diamond quantum memories」arXiv(2026年8月、査読前)、小坂研究室「ニュース」(2026年8月19日)
この動画は、小坂先生がセンター長をつとめる「量子情報研究センター」の紹介です。英語の動画ですが、研究や実験の様子が映ります(約5分)。研究の中身はこの記事の文章で読んでください。
動画:WebsEdgeScience「Inside Japan’s Quantum Future: Fostering Innovation & Connecting Minds at QIC」(2025年。小坂研究室のホームページでも紹介されているもの)

量子コンピュータの話もよく聞くようになりました。小坂研究室は量子コンピュータの研究もしていますが、特に力を入れているのは、量子コンピュータどうしを光でつなぐ部品です。
有力な量子コンピュータの1つは、超伝導を使って、電波の仲間(マイクロ波)で動きます。一方、遠くへ運ぶのが得意なのは光です。この2つのあいだで、量子の情報をこわさずに受け渡す「通訳」のような部品(量子インターフェース)を、ダイヤモンドを使って研究しています。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2020年 | 国の大型研究「ムーンショット型研究開発事業」で、量子コンピュータをつなぐ部品の開発プロジェクトのリーダーに |
| 2022年 | ダイヤモンドの中にたくさん並んだ量子の記憶から、光で1つを選び、それだけを操作する方法の原理を実証(発表では「世界初」) |
| 2025年 | 国の研究費(科研費の基盤研究A)で、小さな量子と大きな量子のあいだで情報を変換する研究を開始(2029年度まで) |
| 2026年 | 応用物理学会の「フェロー」に選ばれる(光・電子スピンなどの量子の情報の変換に関する研究で) |
出典:小坂研究室「概要」「ニュース」、横浜国立大学 プレスリリース(2022年7月)、KAKEN(科研費データベース)
どれも、量子コンピュータや量子インターネットを「実現するための部品や原理」を確かめている段階です。完成した量子インターネットが使われているわけではありません。

小坂先生は、理工学部 数物・電子情報系学科の「物理工学教育プログラム(EP)」の教授です。入口は横浜国立大学 理工学部 数物・電子情報系学科 物理工学EPです。キャンパスは横浜市保土ケ谷区の常盤台キャンパスです。
| 大学 | 学部・学科 | 偏差値 |
|---|---|---|
| 横浜国立大学 | 理工学部 数物・電子情報系学科 物理工学EP | 62.5 |
出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」。偏差値は河合塾のボーダー偏差値
学科の名前に「量子」も「ダイヤモンド」も入っていません。物理工学EPでは、1・2年生で力学・電磁気学・量子力学などの物理の基礎をしっかり学びます。小坂先生も、2026年度は学部の基礎の授業「電磁気学Ⅰ」「基礎力学Ⅱ」を受け持っています。
入学したときにEPが決まり、4年間そのEPで学びます。2年生に上がるときに、同じ学科の別のEPへ移りたいと1回だけ申し出ることもできますが、成績が考慮され、人数にも限りがあります。なお、物理工学EPは推薦やAOの入試を行っていません(一般選抜などで入ります)。
出典:横浜国立大学 物理工学EP「学部・入試情報」「カリキュラムの特徴」、横浜国立大学 研究者総覧「小坂英男」(2026年9月更新)
横浜国立大学の理工学部には、1〜3年生が早いうちから研究室の研究に加われる「ROUTE」というしくみがあります。小坂研究室もROUTEの学生を受け入れていて、2年生からROUTEで参加し、大学院まで進んで量子コンピュータを研究した先輩もいます。
卒業後は、物理工学EPの学生の大半が大学院に進み、就職するのは20〜30%です。大学院(修士)を出た先輩の就職先には、通信会社や電機メーカー、IT企業が並びます。
出典:小坂研究室「配属希望の学生へ」、横浜国立大学 物理工学EP「学部卒業後の就職」「大学院修了後の就職と進路」


小坂先生たちが2019年に炭素に写したのは、光の「偏光」という性質(光のゆれる向き)の情報です。偏光板を2枚重ねて、片方をゆっくり回してみてください。だんだん暗くなり、90度回したところでいちばん暗くなります。光には「向き」があることが、目で分かります。
小坂先生は、科学雑誌『ニュートン』の2024年10月号の特集「もつれる量子」の監修や、別冊『量子力学100年』(2025年)の「もつれる量子」の章に協力しています。図が多く、中学生でも雰囲気はつかめます。
量子の研究は、ベクトルや確率、三角関数などの数学で書かれます。中学・高校の数学と物理が、そのまま量子の世界の入り口です。横浜国立大学のオープンキャンパスの日程は、大学のホームページで確かめてください。
出典:横浜国立大学 研究者総覧「小坂英男」(著書)、JST・横浜国立大学 共同発表(2019年6月28日)

東進館山校 坂本



塾生の方は、ログインして読めます
まなぶ君のIDでログインすると、塾生限定の記事と、記事の中の塾生限定の部分(安房高校の指定校推薦の枠など)も読めます。
一度ログインすれば、この端末では次から自動でログインします。