石黒研(大阪大学):人間そっくりのロボットを作って、人間とは何かを調べる研究室

研究室で、人間そっくりの女性のアンドロイドと向かい合い、まばたきした瞬間に驚いてのけぞる茶髪の男子大学生。「大阪大学の石黒研」「人間そっくりのロボット」「人間とは何かを調べる」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

テレビや万博で、本物の人間と見分けがつかないロボットを見たことはありますか。まばたきをして、首をかしげて、こちらの目を見て話す。あのロボットを作っているのが、大阪大学の石黒研究室、通称「石黒研」です。

理系の大学では、4年生になると研究室に入り、1つのテーマに1年以上向き合います。だからこのコーナーでは、研究室から大学を見ていきます。今回は、ロボットの研究室の中でもいちばん「人間」に近づいた研究室です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

大きな鏡の前で、自分そっくりのアンドロイドと並んで立ち、首をかしげて見比べる茶髪の女子大学生。「人間らしさって何だろう」の文字。

石黒研の研究をひとことで言うと、人間そっくりのロボットを作って、人間とは何かを調べる研究です。

ロボットを作る研究なのに、知りたいのは人間のほう。ここが面白いところです。たとえば、石黒先生は自分そっくりのアンドロイド「ジェミノイド」を作りました。それを遠くから操作して、人と話させます。すると相手は、ロボットなのに「石黒先生がそこにいる」と感じる。では、人が「そこに人がいる」と感じるのは、顔なのか、声なのか、動きなのか。そっくりのロボットを1つずつ変えていくと、それが分かってきます。

石黒研の公式サイトは、ジェミノイドを「人間を理解するための研究用プラットフォーム(研究の土台)」と呼んでいます。

ロボット中学生向けに言うと
ジェミノイド実在の人にそっくりなアンドロイド。遠くから操作して、本人が「そこにいる」と感じさせられるかを調べる
エリカ(ERICA)自分で考えて話すアンドロイド。表情・目線・身ぶりも使って、人と自然に会話する
イブキ(ibuki)10歳くらいの子どもの大きさのアンドロイド。車輪で動き回り、人間の歩き方に似せて体をゆらす
テレノイド男性にも女性にも、子どもにもお年寄りにも見える、最小限の人の形。抱いて話すと、相手が目の前にいるように感じる
コミュー(CommU)高さ30cmの小さな会話ロボット。何台かが人の前で、目線や身ぶりを使って会話して見せる

出典:大阪大学大学院基礎工学研究科 石黒研究室「Robots」「Projects」(irl.sys.es.osaka-u.ac.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

黒い服に眼鏡の、そっくりな2人。1人は石黒浩先生、もう1人は先生そっくりのアンドロイド
石黒浩先生と、先生そっくりのアンドロイド「ジェミノイド HI-1」(オーストリア・アルスエレクトロニカセンター、2009年)
写真:Shervinafshar/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

ロボットは研究室の中だけで使うものではありません。テレノイドは、認知症にんちしょうのお年寄りの会話を助ける研究に使われています。コミューは、病院や支援学校と協力して、自閉じへいスペクトラム症の人の支援に使われています。ふだん話さない悩みを、支援する先生が操作するコミューに打ち明け、そのあと先生本人にも直接話せた例があります。

出典:石黒研究室「テレノイド」「コミュー(自閉症療育)」

髪のない白い顔と、短い腕の白い胴体だけのロボット「テレノイド」
テレノイド。男性にも女性にも、子どもにもお年寄りにも見えるように、人の形を最小限にしてある(日本科学未来館、2015年)
写真:Franklin Heijnen/CC BY-SA 2.0(Wikimedia Commons)

動画で見る

アンドロイドは、写真より動いているところを見るほうが何倍も伝わります。まずはこの1本です(12分)。ドイツの国際放送 DW の番組で、エリカ、ジェミノイド、テレノイドが次々に出てきます。英語の番組ですが、ロボットの動きは言葉が分からなくても分かります。字幕の自動翻訳で日本語にもできます。

次は、大阪・関西万博のパビリオン「いのちの未来」ができるまでを、1年以上追いかけた特集です(9分)。完成までの舞台裏と、「50年後はアンドロイドと暮らしている」という石黒先生の考えが、まとめて分かります。

最後は1分の短い動画です。話すアンドロイドのエリカが出てきます。石黒研の公式サイトのトップにも張られている動画です。

動画:DW Shift、MBS NEWS、Prime Minister’s Office of Japan(首相官邸)の YouTube 公式チャンネル

研究室から生まれたもの

未来的なパビリオンの中で、出迎えたアンドロイドに話しかけられ、満面の笑顔になる白髪の女性。「研究が万博の展示に」の文字。

石黒研の研究がいちばん多くの人の目にふれたのは、2025年の大阪・関西万博です。石黒先生がプロデューサーを務めたパビリオン「いのちの未来」は、3つのゾーンでできていました。

ゾーン何を見せたか
1つ目(入口)土偶どぐう・仏像・文楽ぶんらく人形など、日本人が人の形に「いのち」を感じてきた歴史
2つ目(50年後)アンドロイドが身近にいる暮らし。未来のおばあちゃんと孫娘の物語
3つ目(1000年後)1000年後に人間がどんな姿になっているかを、作品で見せる

出典:IPA(情報処理推進機構)「未踏PM 石黒浩 大阪・関西万博インタビュー」

大阪・関西万博の会場に建つ、黒い外観のパビリオン「いのちの未来」
大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」(2025年8月)
写真:Niiryoku2910/CC0(Wikimedia Commons)

万博全体には2,800万人を超える人が来ました。パビリオンの雰囲気は、万博の公式チャンネルのこの動画で分かります(2分)。

出典:経済産業省「大阪・関西万博宣言」。動画:Expo2025 大阪・関西万博(YouTube 公式チャンネル)

万博が終わっても、アンドロイドは残っています。2026年の夏には、東京・高輪で、万博の展示に2075年の新しい物語を足した「いのちの未来+」が開かれました(9月25日まで)。万博で展示したアンドロイドのうち7体は京都府が受け入れ、京都のATR(国際電気通信基礎技術研究所)に新しくできた「いのちの未来研究所」と一緒に、研究と展示を続けています。

出典:株式会社パルコ プレスリリース(2026年)、ATR「40周年」資料

研究は会社にもなっています。石黒先生が社長を務めるAVITA(アビータ)株式会社は、アバター(自分の分身になるキャラクターやロボット)で接客するサービスを作っています。ローソンでは、複数の店でアバターの接客を約3年続けています。国の大きな研究計画「ムーンショット」でも、石黒先生は「だれもが自在に活躍できるアバター共生社会」をつくるプロジェクトのリーダーです。

出典:AVITA株式会社 公式サイト(avita.co.jp)、大阪大学大学院基礎工学研究科 教員公募(2020年12月)

白いソファに座る、ピンクのセーターを着た大人の女性そっくりのアンドロイド
遠くの人が操作して話す大人の女性型アンドロイド「オトナロイド」(日本科学未来館の展示「アンドロイド—人間って、なんだ?」、2015年)
写真:Franklin Heijnen/CC BY-SA 2.0(Wikimedia Commons)

どんな人が研究しているか

作業台で、後頭部のふたを開けたアンドロイドの頭の小さなモーターを、悔しそうに歯を食いしばって調整する大学院生の女性。「自然に見えるまで調整する」の文字。

先生の中心は、石黒 浩(いしぐろ ひろし)教授です。

  • 大阪大学の大学院(基礎工学研究科)で博士(工学)を取りました
  • 京都大学の助教授じょきょうじゅ、大阪大学工学研究科の教授を経て、2009年から基礎工学研究科の教授です
  • 2017年に大阪大学の栄誉教授えいよきょうじゅになりました
  • 京都のATRでは「石黒浩特別研究所」の客員所長も務め、人と一緒に暮らすアンドロイドを研究しています

出典:ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2025 登壇者紹介、IPA「未踏PM 石黒浩 インタビュー」、ATR 公式サイト(atr.jp)

赤い椅子に座り、マイクを手にした黒い服の石黒浩先生
パネル討論に登壇した石黒浩先生(イタリアン・テック・ウィーク、2023年)
写真:VectorVoyager/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

石黒先生の話は、本人の口から聞くのがいちばんです。この講演では、舞台の上に石黒先生と、先生そっくりのジェミノイドの「二人の石黒浩」が並びます(20分、日本語)。本物とそっくりが並んだとき、「人間とは何か」という問いが目の前に浮かび上がる。石黒先生がアンドロイドを作り続ける理由が、よく分かります。

動画:TEDx Talks(TEDxSeeds 2012、YouTube 公式チャンネル)

研究室には、先生のほかに助教じょきょう・特任の先生・研究員がいて、学生は41人です。内訳は、博士後期課程13人、博士前期課程(修士)22人、学部4年生6人。学部生より大学院生のほうがずっと多い研究室です。英語で研究している留学生もいます。研究室があるのは、大阪大学の豊中キャンパス(大阪府豊中市)です。

出典:石黒研究室「Members」(2026年10月11日に数えた)、大阪大学大学院基礎工学研究科 教員公募(2020年12月)。卒業生の進路は公式に出ていないので書いていない

この研究室に入るには

新幹線の窓際の席で、遠くの大学の案内を膝に置き、少し心細そうに流れる景色を見つめる館山中の男子。「大学院からも目指せる」の文字。

道は2つあります。

道流れ
阪大に入る(学部から)大阪大学 基礎工学部 システム科学科に入る → 2年生から「知能システム学コース」に進む → 4年生の「特別研究」で研究室に入る
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻(博士前期課程)の入試に受かる

出典:大阪大学基礎工学部「学科とコース」、基礎工学部システム科学科 知能システム学コース 公式サイト、石黒研究室 公式サイト

システム科学科の入学定員は174人で、1年生は共通の授業、2年生から「機械科学」「知能システム学」「生物工学」の3つのコースに分かれます。石黒研は知能システム学コースの研究室です。

出典:大阪大学基礎工学部「学科とコース」(entrance.es.osaka-u.ac.jp)

大事なのは2つ目の道です。石黒研の公式サイトには、大学院には情報・制御・機械・材料・生物のどの分野からでも受験できるとあります。ロボットの研究室だからといって、ロボットを作ってきた人だけが来るわけではありません。研究室では、大学院に進みたい人向けの見学会も開いていて、次は2026年11月25日(水)です(現地とZoom、申し込みは11月15日まで)。

出典:石黒研究室 公式サイト「定例見学会」「博士前期課程への進学」。見学会は大学院への進学を考える人向けで、個人の見学や学校の社会見学は受けていない

研究室は、大学院からもう一度選び直せます。理系の学部と研究室の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。同じ「研究室で選ぶ」では、AIの研究室の松尾研(東京大学)も紹介しています。

中高生のうちにできること

博物館の展示室で、ガラスケースの中に座るアンドロイドを初めて見て、目を見開いて感動する館山中の女子。「本物のロボットに会いに行く」の文字。

いちばんのおすすめは、本物のアンドロイドを自分の目で見に行くことです。万博の「いのちの未来」にいたアンドロイドのうち、1000年後の人間をイメージした「MOMO」と、子どもの姿の「アスカロイド」2体が、東京都多摩市の長谷工マンションミュージアムで常設展示されています(2026年5月9日から一般公開)。見学は事前予約制なので、行く前に公式サイトで日時と申し込み方を確かめてください。

出典:株式会社長谷工コーポレーション ニュースリリース(2026年5月7日、2025年6月)

大阪大学の基礎工学部は、毎年夏にオープンキャンパスを開いています。2026年は8月8日が来場型で、研究室の見学もありました。次の夏に向けて、高1・高2のうちに一度のぞいておくと、大学で何を学ぶかが具体的になります。女子の中学生・高校生向けには「基礎工NAVI」という説明会もあり、2026年は3月4日でした。

出典:大阪大学基礎工学部「基礎工学部オープンキャンパス2026を開催します!」「女子高校生・女子中学生のための基礎工NAVI」

アンドロイドを作るのに要る教科は、数学・物理・情報です。ロボットの腕や首をなめらかに動かすのは、三角比やベクトル。人の声を聞き分けたり、表情を読み取ったりするのはAIで、中身は関数と確率です。そしてもう1つ、石黒研らしい教科があります。人の心や体のしくみに興味を持つことです。「なぜ人は相手の目を見ると安心するのか」を考える研究室なので、生物や国語で人間について考えることも、遠回りに見えて近道です。

ロボットが人と話す様子は、この短いニュースでも見られます(1分)。石黒先生そっくりのアンドロイドが、学校の生徒たちと話す特別授業です。「表情がよくて、真剣に聞いてくれる感じがした」という生徒の声も出てきます。

動画:ANNnewsCH(YouTube 公式チャンネル、2024年12月7日)

塾長 小池

人間そっくりのロボットを作るには、まず人間をよく見ることから。数学と物理で「動かす力」を、ほかの教科で「人を見る目」を育ててください。

まとめ

夜の自分の部屋で、ノートパソコンでプログラムを書き、机の上の小さなロボットがしゃべり出すのをワクワクしながら見つめる館山中の男子。「理数と情報が近道」の文字。
  • 石黒研は、大阪大学大学院 基礎工学研究科の石黒研究室。人間そっくりのロボットを作って、人間とは何かを調べる研究をしている
  • 本人そっくりのジェミノイド、話すアンドロイドのエリカ、子ども型のイブキなど、ロボットは研究の道具でもある
  • 大阪・関西万博のパビリオン「いのちの未来」をプロデュースした。アンドロイドは東京・多摩市の長谷工マンションミュージアムで今も見られる
  • 入る道は、阪大の基礎工学部システム科学科(知能システム学コース)から、または大学院(基礎工学研究科)から。大学院はいろいろな分野から受験できる
  • 近づく勉強は、数学・物理・情報と、人間への興味

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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