勝木研(芝浦工業大学):走る電気自動車に道路から電気を送る「充電する道路」へ。工事の実験と、橋の健康診断の研究室

屋外の試験用の道路で、道路にはめこむ平たい灰色の板を胸の高さで両手に持ち、真剣な目で見つめる作業着の男子大学院生。「土木の研究室で」「充電する道路の工事を試した」「2026年6月から」の文字。

「土木」と聞くと、何を思い浮かべますか。道路工事、ヘルメット、ショベルカー。たぶん多くの人がそう答えると思います。

その土木の研究室が、2026年6月、電気自動車(EV)に関わる実験を始めました。走っている電気自動車に道路から電気を送る「充電する道路」をつくるため、道路の工事を試す実験です。今回は、芝浦工業大学の勝木太(かつき・ふとし)先生の研究室を紹介します。「土木=道路工事」と思っている人にこそ読んでほしい記事です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

館山の道路わきの歩道で、工事用のフェンスの向こうの道路工事を見て、首をかしげる志学館高の男子。「土木=道路工事?」の文字。

勝木先生の研究室の名前は「コンクリート構造研究室」です。研究をひとことで言うと、橋やトンネルなど、コンクリートでできたものを長持ちさせ、傷みを早く見つける研究です。大学のページには「コンクリート構造物の健康診断」と書かれています。

言葉中学生向けに言うと
土木道路・橋・トンネル・堤防・鉄道など、みんなが使う「まちの土台」をつくり、守る仕事と学問
舗装ほそう道路の表面をアスファルトやコンクリートでおおうこと。また、そのおおった部分
ワイヤレス給電きゅうでん電線をつながずに電気を送ること。スマホを置くだけで充電できる台と同じ考え方

出典:芝浦工業大学「コンクリート構造研究室」、芝浦工業大学 プレスリリース(2026年6月12日)。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた

研究室のページには、研究のテーマとして「たたいた音でコンクリートの傷をAIで見分ける方法(壊さずに調べる検査の1つ)」「ドローンを使った橋の点検」「地域で橋を守る仕組みづくり」が並んでいます。土木は、新しく作るだけの学問ではありません。作ったものを、何十年も安全に使い続けるための学問でもあります。

「充電する道路」の実験が始まった

図解。左は送電コイルを道路の深いところに埋める「これまで」、右は道路の表面に置く「今回」。右には「掘る量が少なくてすむ」「工事の時間も短くできそう」。「コイルを、道路の表面に置く」の文字。

2026年6月、芝浦工業大学は「充電する道路」の実証実験(実際に近い場所で試す実験)を始めたと発表しました。チームは3者です。

だれが専門
勝木太 教授(コンクリート構造研究室)土木(コンクリートの構造)
畑勝裕 准教授(先進電源システム研究室)電気(電気を変えて送り届ける仕組み)
世紀東急工業道路の舗装の工事をする会社

出典:芝浦工業大学 プレスリリース(2026年6月12日)

しくみはこうです。道路に「送電コイル」を置き、車の底に「受電コイル」を付けます。車がコイルの上を通ると、電線をつながなくても電気が車に送られます。これを「走行中ワイヤレス給電」と言います。

これまでの研究では、送電コイルを道路の深いところに埋め、上をアスファルトなどでおおうのがふつうでした。ただ、深く埋めるほど車のコイルまでの距離が遠くなり、工事や修理にもお金がかかります。そこで今回は、コイルを舗装でおおわず、道路の表面に出して置く方法を試しました。こうすると、掘る量が減り、工事の時間が短くなり、修理のときに道路を掘り返さずにすむと考えられています。

今回の実験で分かったこと、まだのこと

今回やったことまだのこと
実際の車の大きさに合わせた給電ユニット(道路に置く装置)を作った電気の設備と車の側の仕組みは、まだ十分にできていない
いくつか考えた工事のやり方のうち3通りを試し、工事ができることを確かめた車に電気を送る仕組み全体の性能は、まだ調べていない
配線の通し方、水が入らないようにする方法、結露など、工事の現場の課題を洗い出した車の重さにどれだけ耐えるかは、これから調べる

出典:芝浦工業大学 プレスリリース(2026年6月12日)

つまり今回の実験は、「走りながら充電できた」という段階ではありません。発表にも、今回は道路の工事を中心に調べたので、電気の設備や車の側の仕組みが不十分で、全体の性能はまだ評価できていない、と書かれています。

その代わりに分かったのが、電気の工事と道路の工事の「境目」に、これまであまり検討されてこなかった課題があるということです。配線をどこに通すか、水をどう止めるか。電気の専門家だけでも、道路の専門家だけでも解けない問題です。土木の研究室がこのチームに入っている理由は、ここにあると私は思います。

坂本

新しい技術は、「動いた!」で終わりません。道路に置いて、雨の日も、トラックが通っても、10年20年もつか。そこを考えるのが土木の出番です。

2027年度以降、館山道でも別のチームが実験予定

房総に住んでいる人には、もう1つ知ってほしいニュースがあります。NEXCO東日本は2026年5月、館山自動車道の君津PA(パーキングエリア)付近の、車が走る本線、約300mで、走行中ワイヤレス給電の実証実験をすると発表しました。NEXCO東日本によると、高速道路の本線では日本初で、2027年度以降に何回か行う予定です。

ただし、この館山道の実験は勝木先生の研究室とは別の取り組みです。東京大学の研究室の支援のもとで、自動車や部品の会社と建設の会社が組んだ2つのチームが参加します。

出典:東日本高速道路 プレスリリース(2026年5月26日)

同じ「充電する道路」に、大学と会社がそれぞれ別の道から取り組んでいる。それだけ、これから大きくなる分野だということです。

予想クイズ:日本の橋は、いくつある?

川沿いの堤防の歩道で、さくの内側から川にかかるコンクリートの橋を見つめ、眉を寄せて真剣な顔をする翔凜高の女子。

勝木先生の研究室のもう1つの柱は、橋の点検です。ここで問題です。

坂本

日本にある道路の橋(長さ2m以上)は、だいたいいくつでしょう? ①約7,000 ②約7万3,000 ③約73万

坂本

また、作ってから50年以上たった橋の割合は、2040年にはどれくらいになると見込まれているでしょう? ①約25% ②約50% ③約75%

まず自分で予想してから、下の答えを開いてください。

答えと考え方

1問目の答えは③の約73万です。日本中の小さな川や用水路にかかる短い橋まで数えると、これだけあります。

2問目の答えは③の約75%です。2025年3月の時点で約42%、2030年には約54%と見込まれています。日本の橋の多くが、高度経済成長のころにまとめて作られたからです。

橋やトンネルは、2014年から5年に1回、近くから目で見る点検が義務になりました。ただ、2巡目の点検で「直す必要がある」とされた橋の約9割は都道府県や市町村などが管理する橋で、それらのうち直し終わったのは32%にとどまっています(国の2024年度のまとめ)。

出典:芝浦工業大学 プレスリリース(2026年8月28日)。数字は国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」「道路メンテナンス年報(2024年度)」を大学が引用したもの

古い橋が増えるのに、点検する人の数は限られています。だから「速く、正確に、少ない人数で」点検する方法が必要になります。

研究室から生まれた、橋の点検の仕組み

大学の実験室で、コンクリートの壁を小さな点検用ハンマーで軽くたたき、耳をすませて音を聞く女子大学院生。

2024年2月、勝木先生の研究室の学生が、大きな地震のあとなどに橋をすばやく点検し、結果をすぐ報告できる「橋の緊急点検システム」を作りました。

これを、会社と組んで、市町村が実際に使えるサービスに育てたのが「e-まちカルテ」です。2026年9月1日に正式に使えるようになりました。

時期できごと
2024年2月研究室の学生が「橋の緊急点検システム」を開発
2024年〜関東の6つの自治体(市や町など)と、福井県の自治体をたずねて提案
2025年会社との共同研究で、橋だけでなく道路の点検にも広げる
2026年4月福井県の自治体で使われ始める
2026年9月「e-まちカルテ」として正式に提供開始

出典:芝浦工業大学 プレスリリース(2026年8月28日)

点検する人は、現場でタブレットやスマホに結果を入力します(声でも入力できます)。結果はインターネット上にためられ、地図の上で確かめたり、検索したりできます。事務所に戻ってから書き写す手間が減ります。ロゴとキャラクターは、同じ大学のデザインの研究室の大学院生が作りました。

学生が作ったものが、会社の力を借りて、本当に市町村の仕事で使われる。研究室の中だけで終わらないのが、土木の研究のおもしろさです。

この研究室に入るには

勝木先生の研究室があるのは、芝浦工業大学 工学部の土木工学課程 都市・環境コースです。芝浦工大の工学部は「学科」ではなく「課程」と「コース」に分かれていて、入試もこのコースごとに募集します。

大学学部・課程(コース)偏差値
芝浦工業大学工学部 土木工学課程(都市・環境コース)52.5
芝浦工業大学工学部 電気電子工学課程(先端電子工学コース)55.0
芝浦工業大学システム理工学部 建築・環境課程(環境・都市コース)57.5

出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」。偏差値は河合塾のボーダー偏差値

土木工学課程のテーマは「都市の防災と再生」です。構造(力学)、環境、防災、計画(道路・鉄道・まちづくり)、情報(地図のデータや人工衛星の利用)を幅広く学びます。1・2年は埼玉県の大宮キャンパス、3・4年は東京・豊洲キャンパスで、勝木先生の研究室も豊洲にあります。都市・環境コース(土木工学課程はこのコース1つ)の入学定員は104人です。

出典:芝浦工業大学「土木工学課程」「都市・環境コース」

「充電する道路」の電気の側をやりたい人は、2行目の電気電子工学課程が入口になります(畑先生は先端電子工学コース)。まちづくりの側から入るなら、3行目のシステム理工学部という道もあります。ただ、今回の実験のように、これからの技術は土木と電気がいっしょに取り組むものです。どちらから入っても、つながる道があります。入試の方式や人数は、大学の入試ガイドで確かめてください。

中高生のうちにできること

館山の川にかかる歩道橋の上で、手すりのつぎ目をのぞきこみ、目を輝かせる館山中の女子。

通学路の橋を見てみる

いつも渡る橋の下側や、つなぎ目を見てみてください。コンクリートのひび、さびた水のあと、つなぎ目の金具。橋の名前と、作られた年が書かれた板が付いていることもあります。これを銘板めいばんと言います。何年前に作られた橋か、調べてみると身近になります。ただし、川や道路に下りて近づくのはやめてください。歩道から見るだけで十分です。

理科の「電流と磁界」を大事に

コイルに電流を流すと磁界ができ、磁界が変わると別のコイルに電流が流れる。中学2年の理科で習う「電磁誘導」が、ワイヤレス給電の入口です。土木に進む人も、物理と数学は道具になります。

ニュースの「どの段階か」を見る

「充電する道路」のニュースを見たら、「工事を試した段階か」「車に電気を送れた段階か」「高速道路で試す段階か」を確かめてみてください。新しい技術は、いくつもの段階を一歩ずつ進みます。

まとめ

夕方、館山の高台から、遠くの道路を走る車の明かりを見つめて小さくほほえむ志学館高の男子。
  • 勝木先生のコンクリート構造研究室は、橋やトンネルなどコンクリートでできたものを長持ちさせ、傷みを早く見つける研究室
  • 2026年6月、電気の研究室と道路工事の会社と組んで、送電コイルを道路の表面に置く「充電する道路」の実験を始めた。今は工事のやり方を確かめた段階で、全体の性能はこれから
  • 研究室の学生が作った橋の点検の仕組みが、2026年9月に市町村向けのサービス「e-まちカルテ」になった
  • 入口は芝浦工業大学 工学部 土木工学課程 都市・環境コース(偏差値52.5、河合塾2027年度)。土木は「作る」だけでなく「守る」学問

東進館山校 坂本

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