駒場研(東京理科大学):海の塩と同じナトリウムで、スマホや電気自動車の電池を作る研究室

化学の研究室で、青く光るガラスの実験の器具を見つめる、ハーフアップの茶色の髪に白衣を着た女子大学生。「東京理科大学の駒場研」「ナトリウムで電池を作る」「海の塩と同じ元素で」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

皆さんのスマホの中には、リチウムイオン電池が入っています。何度でも充電して使える電池です。この電池の材料のリチウムは、とれる場所が世界の一部にかたよっています。

そこで「リチウムの代わりに、ナトリウムで電池を作ろう」と考えた研究室があります。東京理科大学の駒場研究室です。ナトリウムは、海の水や食塩にたっぷり入っている、ありふれた元素です。

今回は、この駒場研を紹介します。理科大は、千葉県の野田市にもキャンパスがある大学です。館山の皆さんにとって、意外と身近な大学です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

家の台所のテーブルで、食塩のびんと充電中のスマホを見比べて、首をかしげながら面白がる館山中の女子。「塩の仲間で充電できる電池」の文字。

駒場研の研究をひとことで言うと、ありふれた材料で、たくさん電気をためられる電池を作る研究です。

電池の中では、小さな粒(イオン)が2つの電極の間を行ったり来たりしています。充電するとイオンが片方へ移り、使うともう片方へ戻ります。リチウムイオン電池では、この粒がリチウムです。駒場研は、この粒をナトリウムやカリウムに取りかえた電池を作っています。

ナトリウムは、海の水にたくさん溶けていて、岩塩としてもとれます。地球の表面の地殻ちかくの約2〜3%がナトリウムです。

出典:東京理科大学「TUS Research Highlights Vol.05 夢の次世代電池 レアメタルフリー『ナトリウムイオン蓄電池』の研究」

研究室のテーマを中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
ナトリウムイオン電池塩と同じナトリウムで動く、充電できる電池
カリウムイオン電池ナトリウムの次の候補、カリウムで動く電池
リチウムイオン電池今のスマホの電池に、もっとたくさん電気をためる
走査型電気化学顕微鏡細い針で電池の表面をなぞり、充電中に何が起きているかを見る
電気化学センサ電気の信号で、血の中の糖などを測る小さな装置

出典:東京理科大学 駒場研究室「研究内容」(dept.tus.ac.jp/komabalab)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

ナトリウムは、ふだんは食塩(塩化ナトリウム)のように、ほかの元素とくっついた形でいます。金属のナトリウムだけを取り出すと、銀色でナイフで切れるほどやわらかく、水に入れると激しく反応します。理科の教科書に出てくる、あのナトリウムです。

透明なびんの油の中に入った、灰色がかった金属ナトリウムのかたまり
金属のナトリウム。空気や水と反応しやすいので、油の中などにしまっておく
写真:Hi-Res Images of Chemical Elements/CC BY 3.0(Wikimedia Commons)

「ナトリウムで電池なんてナンセンス」と言われた

夜の化学の研究室で一人、うまくいかなかった電池の実験の結果の紙を手に、肩を落とす若い研究者の男性。「ナンセンスと言われても」の文字。

駒場先生がナトリウムの電池の研究を始めたのは、2005年です。そのころは「リチウム以外で電池を作るなんてナンセンス」という空気でした。ナトリウムの原子はリチウムの約3倍の重さで、粒も大きいので、電極の中にうまく入らないと考えられていたからです。

先生が注目したのは、元素の周期表でした。リチウムのすぐ下にナトリウムがあり、電池に使うコバルトのすぐ横に鉄があります。となりの元素なら、似た働きをするはず。 そう考えて、ナトリウムと鉄を組み合わせた電極に挑みました。

出典:東京理科大学「TUS Research Highlights Vol.05」、東京理科大学 駒場研究室「研究内容」

結果は、こうです。

年できごと
2005年東京理科大学で、ナトリウムイオン電池の研究を始める
2009年電極の炭素を工夫し、世界で初めて100回以上の充電と放電を安定してくり返す
2011年レアメタル(とれる量が少ない金属)を使わない形で、電池が安定して動くことを初めて示す
2023年新しい炭素の電極で、今のリチウムイオン電池に負けないほど電気をためられる電池を作る(2011年の1.6倍以上)
2026年国のNEDOの電池開発の事業に、理科大が代表で採択される。電池メーカーや大学など12の団体と、実用化に向けて動き出す

出典:東京理科大学「TUS Research Highlights Vol.05」、東京理科大学 ニュース「ナトリウムイオン電池の負極に…ZnO鋳型ハードカーボン」(2023年11月13日)、同「本学がNEDO『革新型蓄電池技術開発・高度解析』事業に採択」(2026年7月9日)

2026年8月のテレビ東京の番組で、駒場先生がこの研究を語っています(23分)。まだほとんど注目されていなかった2005年から研究してきたこと、すでに量産を始めた中国の会社との競争に日本がどう挑むかが分かります。

動画:テレ東BIZ ダイジェスト(テレビ東京の YouTube 公式チャンネル)「『ナトリウムイオン電池』第一人者が実用化に挑む」(2026年8月)

動画で見る

まずは、理科大の公式チャンネルの研究室紹介「Labo Scope」です(3分)。テーマは「レアメタルに頼らない新たな二次電池で、脱炭素社会を切り開く」。駒場研が何を目指しているかが、短くまとまっています。

次は、研究室が高校生向けに作った紹介動画です(6分)。研究室のサイトでも「研究室紹介(高校生向け)」として紹介されています。

3本目は、兵庫県にある巨大な実験施設「SPring-8」の公式チャンネルの動画です(5分半)。SPring-8は、とても強い光(X線)で物の中のつくりを調べる施設です。そこを使ったナトリウムイオン電池の開発を、駒場先生の研究として紹介しています。

動画:東京理科大学 / Tokyo University of Science(YouTube 公式チャンネル、2024年・2020年)、spring8channel(SPring-8 の YouTube 公式チャンネル、2016年)

研究室から生まれたもの

晴れた日の家のガレージで、壁の大きな蓄電池から電気自動車の充電が始まり、満面の笑顔で喜ぶ茶髪の男子大学生。「ナンセンスが当たり前に」の文字。

駒場研のいちばんの成果は、「ナトリウムでも電池は作れる」ことを世界に示したことです。2010年ごろから、世界中の大学や会社がナトリウムイオン電池を研究し始めました。

2025年4月には、世界最大の電池メーカーである中国のCATLが、世界初の量産のナトリウムイオン電池を発表しました。駒場先生の2026年の公開講座の案内にも「最近実用化されたナトリウムイオン電池」とあります。20年前に「ナンセンス」と言われた電池が、もう売られる時代です。

水色と銀色の、薄い板のような四角いナトリウムイオン電池。上に2本の端子がついている
イギリスの会社 Faradion が作ったナトリウムイオン電池(ロンドンの科学博物館の展示・2024年撮影)
写真:The wub/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

出典:東京理科大学 駒場研究室「研究内容」、テレ東BIZ「CATL『ナトリウムイオン電池』の衝撃」(2025年4月28日)、東京理科大学 公開講座「電池の現在・過去・未来」案内(2026年7月11日)

研究室は、新しい道具も取り入れています。2024年には、AI(機械学習)に昔の実験データを学ばせて、電池の材料の一番いい配合を予想させました。予想どおりに作った材料は、予想とほとんど同じ性能を出しました。その研究を紹介する、理科大の公式動画です(2分半)。

出典:東京理科大学 ニュース「機械学習を活用してナトリウムイオン電池の正極材料を効率的に探索」(2024年11月5日)。動画:東京理科大学 / Tokyo University of Science(YouTube 公式チャンネル)

2026年2月には、茨城県東海村の加速器の施設J-PARCで、中性子という粒を使って、充電中の電池の中にナトリウムが入っていくようすを世界で初めてその場で見ることにも成功しました。

出典:東京理科大学 ニュース(2026年2月27日、論文は英国王立化学会の Chemical Science)

どんな人が研究しているか

国際学会のポスター会場で、自分の研究のポスターの前に立ち、海外の研究者に身ぶりを交えて楽しそうに説明する大学院生の女性。「学生も世界で発表する」の文字。

研究室を率いているのは、駒場慎一しんいち教授です。埼玉県の県立高校から早稲田大学の応用化学科に進み、博士(工学)を取りました。岩手大学の助手、フランスのボルドーの研究所を経て、2005年に東京理科大学に来ました。2013年から教授です。

駒場先生は、世界中の論文によく引用される研究者「Highly Cited Researchers」に6回選ばれています。2026年4月には市村地球環境学術賞を受けました。

出典:東京理科大学 駒場研究室「メンバー」「ホーム」(2025年11月・2026年4月のお知らせ)

研究室のメンバーは、こうです。

立場人数
教授・准教授・講師・助教6人
博士研究員3人
博士課程の学生3人
修士課程の学生23人(2年生11人・1年生12人)
学部4年生10人

出典:東京理科大学 駒場研究室「メンバー」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月12日に数えたもの)。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

修士の学生も、国際学会で賞をとっています。2024年には、修士2年の学生がナトリウム電池の国際会議でBest Poster Awardを受けました。学生も世界の舞台で研究を発表する研究室です。

出典:東京理科大学 ニュース「International Conference on Sodium Batteries 2024において本学大学院生がBest Poster Awardを受賞」(2024年11月25日)

塾長 小池

先生がナンセンスと言われた研究を20年続けて、それが世界の当たり前になった。研究の面白さは、ここにあります。

この研究室に入るには

大学の図書館で、山積みの教科書とノートを前に、負けないと歯を食いしばって問題に向かう茶髪の男子大学生。「入るより出るのが大変」の文字。

駒場研は、東京理科大学 理学部第一部 応用化学科の研究室です。キャンパスは東京都新宿区の神楽坂キャンパスです。

青空の下、大通りに面して建つ白い高層の大学の校舎。上の方に TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE の文字
東京理科大学の神楽坂キャンパス(外堀通りから・2021年)。駒場研はこのキャンパスにある
写真:軍艦巻き/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

先に、理科大がどんな大学かを押さえておきます。

項目内容
学部8学部33学科。理学部第一部・工学部・薬学部・創域理工学部など、ほぼ理系
キャンパス神楽坂(東京都新宿区)・葛飾(東京都葛飾区)・野田(千葉県野田市)・北海道長万部
実力主義創立以来「真に実力を身につけた学生だけを卒業させる」が方針。進級には厳しい関門がある
研究研究室は430。大学通信のランキング「研究力が高い大学」で私立1位(2016年から11年連続)
大学院卒業生の55.2%が大学院へ進む(2025年度)

出典:東京理科大学「データで見る TUS」「中期計画2026」

理科大は、入るより出るほうが大変な大学です。 学年が上がるときに関門があり、決められた単位がそろわないと進級できません。その代わり、卒業する人はしっかり力をつけています。

電池と理科大の縁は古く、マンガン乾電池を開発した屋井先蔵やいさきぞうも、理科大で学んだ人です。その同じ大学で、いま次の電池が生まれようとしています。

スーツを着た口ひげの男性が、山高帽をのせた小さな机の横のいすに座っている白黒の写真
マンガン乾電池を開発した屋井先蔵(1927年より前)
写真:Unknown authorUnknown author/Public domain(Wikimedia Commons)

出典:東京理科大学 公開講座「電池の現在・過去・未来」(駒場慎一教授、2026年7月11日)の案内

道は2つあります。

道流れ
理科大に入る(学部から)東京理科大学 理学部第一部 応用化学科に入る → 最終学年(4年生)で研究室に所属し、卒業研究をする
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京理科大学大学院 理学研究科 化学専攻の修士課程の入試に受かる

出典:東京理科大学「応用化学科」、東京理科大学大学院「2027年度 大学院学生募集要項 修士課程(一般入試)」(駒場教授は化学専攻の指導教員に載っている。化学専攻の入学定員は120人)

応用化学科には研究室が11あり、光触媒や次世代の電池など、テーマはさまざまです。駒場研は、研究室の見学を随時受け付けていると研究室のサイトに書いています。

研究室は、大学院からもう一度選び直せます。 駒場先生自身、早稲田大学で学び、岩手大学やフランスを経て、理科大で研究室を開いた人です。

理科大そのものは東京理科大学はどんな大学?に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

中学校の理科室で、ビーカーの水溶液に金属の板を2枚入れた電池の実験をして、つないだプロペラが回り出して目を輝かせる館山中の男子。「中3理科の電池が入口」の文字。

理科大は、毎年オープンキャンパスを開いています。2026年度は、8月8日に野田、8月9日に神楽坂、8月9〜10日に葛飾で開かれました。駒場研のある理学部第一部は、10月12日にも神楽坂で開きました。

キャンパス学部2026年度の日にち
野田(千葉県野田市)創域理工学部・創域情報学部8月8日
神楽坂(東京都新宿区)理学部第一部・理学部第二部・経営学部8月9日(理学部第一部は10月12日にも)
葛飾(東京都葛飾区)薬学部・工学部・先進工学部8月9日・10日

出典:東京理科大学「2026年度 夏のオープンキャンパスの開催について」「理学部第一部 オープンキャンパスの開催について(10/12)」。2027年度の日程はまだ出ていないので、大学のサイトで確かめること

野田キャンパスは、館山と同じ千葉県にあります。高校生になったら、夏のオープンキャンパスで理科大の研究室をのぞいてみてください。

春の土手の向こうに、白い大学の建物と桜の並木が見える
千葉県野田市の東京理科大学 野田キャンパス(利根運河の向こう岸から・2012年)
写真:Hasec/CC0(Wikimedia Commons)

電池の研究は化学ですが、中学の理科と数学がそのまま土台になります。中学3年で習う「化学変化とイオン」と「電池」の単元は、駒場研の研究の入口そのものです。周期表を眺めて「となりの元素なら似ているはず」と考えた先生の発想も、中学の理科で追えます。電池にどれだけ電気がたまるかの計算には、比例と割合を使います。論文はほとんどが英語です。

塾長 小池

世界の電池を変えた研究も、出発点は周期表の「となり」でした。理科の教科書を1ページずつ自分のものにすることが、研究者への一番の近道です。

まとめ

春の大学のオープンキャンパスで、桜の並木の向こうの白い校舎を見上げて、うれしそうにほほえむ高校生の女子。「近道は理科・数学・英語」の文字。
  • 駒場研は、東京理科大学 理学部第一部 応用化学科の研究室。海の塩と同じナトリウムで、充電できる電池を作っている
  • 2005年、「ナンセンス」と言われた時代から研究を始め、2009年に世界初の100回以上の安定な充放電、2011年にレアメタルを使わない電池の安定作動を示した
  • 今はナトリウムイオン電池が量産される時代。2026年には国の大きな電池の事業の代表になった
  • 理科大は「実力主義」で進級が厳しく、研究に強い私立の理系大学。キャンパスは神楽坂・葛飾・野田(千葉県)
  • 入る道は、応用化学科から4年生で研究室へ、または大学院(理学研究科 化学専攻)から
  • 近づく勉強は、理科(化学変化とイオン)・数学・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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