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2026年4月23日、ニュージーランドから1機のロケットが打ち上がりました。積まれていた8機の小さな衛星の中に、青山学院大学の学生たちが作った「ARICA-2(アリカツー)」がありました。
実はこの衛星、2号機です。5年前に宇宙へ行った1号機は、一度も地上と通信できないまま終わりました。今回は、失敗した衛星を学生たちが作り直し、宇宙で動かすところまでたどり着いた、青山学院大学の坂本貴紀先生の研究室を紹介します(名字は同じですが、私とは別の坂本です)。宇宙が好きな人、そして「失敗したらどうしよう」と思って動けなくなっている人に読んでほしい記事です。


坂本研究室の研究をひとことで言うと、宇宙で一瞬だけ強く光る天体を見つけて、すぐに世界中の望遠鏡に知らせる研究です。
ねらっているのは「ガンマ線バースト」という現象です。遠くの宇宙で、ブラックホールが生まれるときなどに起きる、宇宙で最大級の爆発です。
| 言葉 | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| ガンマ線 | 光の仲間。目には見えず、レントゲンのX線よりさらにエネルギーが高い |
| ガンマ線バースト | ガンマ線が、宇宙のどこかで突然、数秒から数十秒ほど強く光る現象。「ブラックホールの産声」とも呼ばれる |
| 重力波 | ブラックホールや中性子星がぶつかったときに広がる、空間のゆれ。2015年に初めて観測された |
出典:坂本研究室ホームページ、青山学院大学 青学TV「オール青学で作る!! 超小型人工衛星「ARICA」」、academist「超小型衛星「ARICA」で突発天体ガンマ線バースト解明の糸口をつかむ!」(2021年)
ガンマ線バーストは、わずか数十秒の間に、銀河系のすべての星が1年かけて出すのと同じくらいのエネルギーを出すと言われています。ところが、ガンマ線は地球の空気にさえぎられるので、地上からは見えません。だから、宇宙に衛星を飛ばして見張るのです。



研究室の大きなテーマは、重力波を出した天体の「光」を探すことです。重力波と光の両方で同じ天体を見ると、宇宙で何が起きたのかがずっとよく分かります。


ガンマ線バーストは、あっという間に暗くなります。見つけたら、すぐに世界中の望遠鏡に「この方向を見て!」と知らせないと、詳しく調べるチャンスを逃してしまいます。
ところが、ふつうの小さな衛星は、地上の基地の真上を通るときしか通信できません。そこで坂本研究室は、衛星電話などに使われる民間の通信衛星を使うことにしました。これなら、衛星がどこを飛んでいても、すぐ地上にデータを送れます。衛星の名前「ARICA」には、光った天体の「ありか(どこにあるか)」を探る、という意味がこめられています。
研究室は、国際宇宙ステーションに積まれた観測装置のチームにも加わっています。2026年6月17日に起きたガンマ線バーストは、研究室の川久保雄太先生が世界の研究者向けの速報網に報告しました。その報告には、宇宙ステーションからの通信が途切れていたので、すぐには速報を出せなかったと書かれています。
「見つけた瞬間に知らせる」ための衛星が必要な理由が、この一件からよく分かります。
出典:NASA GCN Circular 44989(2026年6月)、坂本研究室ホームページ
動画派は下の動画だけでOK、文章派はこの下で全部わかります。
青山学院大学が作った、坂本研究室の紹介動画です(4分)。1号機がうまく通信できなかったこと、2号機を作っているのが学生たちだったことが、研究室の中の映像で分かります。
動画:青山学院大学 公式チャンネル「青学TV」(2023年3月公開)


1号機の「ARICA」は、10cm角の、手のひらに乗るくらいの衛星です。名前を付けるところから、設計、作る、地上での試験、データを見るためのプログラム、SNSでの発信まで、学生が中心になって進めました。
2021年11月9日、ARICAは鹿児島県の内之浦から、JAXAのイプシロンロケット5号機で打ち上げられました。宇宙への旅は成功しました。ところが、ARICAからの電波は、一度も受け取れませんでした。はっきりした原因は分かっていません。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2012年 | 坂本先生が、アメリカ(NASAなど)での研究を終えて青山学院大学へ |
| 2021年11月 | 1号機ARICAを打ち上げ。通信の費用はクラウドファンディング(インターネットで寄付を集めるしくみ)で163人から集めた |
| 2021年〜 | 1号機とは一度も通信できず |
| 2022年12月 | 改良した2号機ARICA-2が、JAXAの小型衛星の開発を支えるプログラムに選ばれる |
| 2023年2月 | ARICA-2が、JAXAの打ち上げ計画(革新的衛星技術実証4号機)に加わることが決まる |
| 2026年4月 | ARICA-2を打ち上げ。約2週間で、すべての機器が正常に動くことを確認 |
出典:青山学院大学 プレスリリース(2021年)、academist 活動報告(2022年12月)、JAXA プレスリリース(2023年2月8日)、青山学院大学 ニュース(2022年12月16日、2026年5月21日)、researchmap「坂本貴紀」



4年かけて作った衛星から、何の返事もない。それでも次の衛星を作ったところに、この研究室のすごさがあります。


2号機のARICA-2は、1号機の2倍の長さになりました。
| ARICA-2 | 中身 |
|---|---|
| 大きさ・重さ | 20cm×10cm×10cm、2.3kg |
| 積んでいるもの | ガンマ線を見つける検出器、民間の通信衛星とつながる通信機、小さなコンピュータ、向きを変える装置、アマチュア無線の機械、カメラ |
| 打ち上げ | 2026年4月23日、ニュージーランドから(アメリカの会社のロケット) |
| いっしょに作った所 | 京都大学、株式会社IHIジェットサービス |
出典:JAXA 記者説明会資料(2026年4月6日)、JAXA プレスリリース(2026年4月23日)、日本天文学会 2024年秋季年会 講演要旨
本当は日本のイプシロンSロケットで打ち上げる予定でしたが、2024年にロケットのエンジンの試験で問題が起きたため、ニュージーランドから打ち上げるアメリカの会社のロケットに乗り換えました。こういう予定の変更も、宇宙の仕事ではよくあることです。
打ち上げのあと、ARICA-2は地上と正常に通信できました。1号機ではできなかった「宇宙からの返事」が、ついに届いたのです。約2週間ですべての機器が問題なく動くことを確かめ、ふだんの運用が始まりました。大学は、ARICA-2のカメラで撮った地球の写真も公開しています。
2026年9月29日から10月13日までは、世界中のアマチュア無線の愛好家が、ARICA-2を中継してメッセージをやりとりできる企画も行われました。
出典:青山学院大学 ニュース(2026年5月21日)、日本アマチュア衛星通信協会(JAMSAT)



坂本研究室に入るには、青山学院大学 理工学部 物理科学科を受験します。理工学部は学科ごとに募集しているので、入学したときから物理科学科です。キャンパスは神奈川県の相模原キャンパスです。
| 大学 | 学部・学科 | 偏差値 |
|---|---|---|
| 青山学院大学 | 理工学部 物理科学科 | 55.0 |
出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」(2026年10月)。偏差値は河合塾のボーダー偏差値
学科の名前は「物理科学科」で、「宇宙」も「衛星」も入っていません。でも、ここで衛星を作って、宇宙に飛ばしています。2026年度の研究室には、大学院の修士課程の学生が14人、4年生が10人います。JAXAの宇宙科学研究所(相模原にあります)の研究室にも所属して研究している学生もいます。
物理科学科には、女子だけが受けられる「理工系女子特別選抜」もあります(2026年度・2027年度とも募集5人。英語の資格と高校の成績に条件があります)。
出典:坂本研究室ホームページ「メンバー」(2026年度)、青山学院大学 理工学部 入試要項(2026年4月)





青山学院大学の相模原キャンパスでは、毎年夏にオープンキャンパスがあり、理工学部の研究室も公開されます(2026年は7月12日でした)。どの研究室を公開するかは年によって違うので、来年の案内で確かめてください。
今年のARICA-2のように、大学の衛星には、アマチュア無線で電波をやりとりできるものがあります。電波を出して交信するには、アマチュア無線の資格と無線局の免許が要ります。資格には年齢の制限がなく、中学生や小学生でも取れます。聞くだけなら資格は要らないので、宇宙から来る電波を自分の耳で聞くこともできます。
衛星の設計には物理と数学、衛星を動かすにはプログラミング、世界の研究者に速報を出すには英語を使います。坂本先生は、アメリカのNASAなどで8年間研究していた人です。宇宙の研究は、最初から世界が相手です。


東進館山校 坂本







