森本研(立教大学):光を当てるとヒビが入り、別の光を当てるとヒビが消える。光で動く結晶をつくる化学の研究室

大学の実験室で、ピンセットでつまんだ小さな結晶を目を見開いて見つめる白衣の女子大学院生。後ろに紫の光のランプ。「紫外線で割れても」「光でヒビが消える結晶」「40回くり返せる」の文字。

スマホの画面みたいに、ヒビが入っても光を当てるだけで元に戻る材料があったら。そんな未来を思わせる研究が、2026年4月に論文になり、5月に大学から発表されました。紫外線を当てるとヒビが入り、目に見える光を当てるとヒビが消える結晶です。

この結晶を作ったのは、東京・池袋にある立教大学の森本正和先生の研究室です。今回は、光で色が変わり、曲がり、割れて、治る「光で動く分子」をつくる研究室を紹介します。「化学は試験管を振る科目」と思っている人に、特に読んでほしい記事です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

海の見える高台で、レンズの色が濃くなった眼鏡を両手で持ち、目を丸くする館山中の男子。「光で、色が変わる?」の文字。

森本研究室の研究をひとことで言うと、光を当てると形や性質が変わる分子をつくり、その分子で「光で動く材料」をつくる研究です。

言葉中学生向けに言うと
分子物質をつくる、とても小さな粒のまとまり
結晶分子がきれいに規則正しく並んでできた固体。食塩や氷も結晶
フォトクロミック分子光を当てると色が変わり、別の光や熱で元に戻る分子
紫外線と可視光紫外線は目に見えない光(日焼けのもと)。可視光は目に見える光

出典:立教大学 理学部 化学科 森本研究室ホームページ。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた

外に出ると色が濃くなり、部屋に入ると元に戻る眼鏡を見たことはありますか。あれも、光で色が変わる分子のしくみを使ったものです。森本研究室は、この「光で変わる分子」を自分たちで設計してつくり出し、色を変えるだけでなく、結晶ごと動かしたり、割ったり、治したりしています。

光でヒビが入り、光でヒビが消える

図解。しなやかな結晶に紫外線を当てるとヒビが入り、目に見える光を当てるとヒビが消える。「光で割れて、光で治る」の文字。

2026年5月に大学が発表したのは、「ジアリールエテン」という分子でできた結晶です。この結晶は、ふだんは曲げたりねじったりしても折れにくい、しなやかな結晶です。

ところが紫外線を当てると、分子の形が変わって結晶がもろくなり、ヒビが入ります。そこに目に見える光を当てると、分子が元の形に戻り、しなやかさが戻って、ヒビがふさがります。紫外線でヒビが入るとき、その部分が一時的に溶けたような状態になり、目に見える光で分子が元の形に戻ると、もう一度きれいに並び直してヒビがふさがる、というしくみです。

実験で分かったこと結果
ヒビが入って治るのを、何回くり返せるか40回以上(約25回までは完全に治る)
寒いところでも治るかマイナス50℃でも同じように治る
光を当てずに置いておくと治るか暗いところに3週間置いても治らない

出典:山梨大学・立教大学 プレスリリース「光を当てると柔軟性が変わり、傷も消える結晶を開発」(2026年5月21日)、論文:Nishimura ほか, Journal of the American Chemical Society(2026年)

マイナス50℃でも治り、暗いところに置いておくだけでは治らない。治しているのは熱ではなく光の働きだと分かります。ヒビが本当にふさがったことは、兵庫県にある大型の実験施設「SPring-8(スプリングエイト)」で、結晶にX線(レントゲンと同じなかまの光)を当てて確かめています。

坂本

光で何度でも治せる材料ができれば、傷ついたものを捨てずに使い続けられます。化学で、ものの寿命をのばす研究です。

動画で見る

動画では、光で色が変わる分子と、光で曲がる結晶を見られます。2026年のヒビが治る結晶の話は、上の文章で。

まずは、立教大学 理学部のオープンキャンパスの配信です(約72分)。2分28秒ごろから、森本先生が光で色が変わる分子を実験しながら紹介しています。

動画:立教大学 理学部 SCOLA「【理学部図鑑☆化学】〇〇で色が変わる!?フォトクロミック分子」(2021年公開)

次は、森本先生たちが2010年に発表した「光で曲がる結晶」の8秒の動画です。光で曲がる結晶が重りを持ち上げる様子が映っています。

動画:Chemistry World「Weightlifting crystal (Morimoto and Irie, American Chemical Society)」(2010年公開)

光で曲がり、重りを持ち上げる結晶

夜の大学の実験室で、紫の光を当てながら顕微鏡をのぞきこむ、白衣の男子大学院生。

ヒビが治る結晶の前から、森本先生は「光で動く結晶」を研究してきました。2010年には、光を当てると曲がる結晶をつくり、自分の重さの275倍の鉛の球を持ち上げることを示しています(立教大学 化学科の研究室紹介より)。光のエネルギーを、そのまま「動く力」に変えているわけです。

研究室では、分子の形を少し変えるだけで、黄・赤・青・緑と、光で付く色を変えることもできます。

年できごと
2007年森本先生が立教大学へ(2017年に教授)
2010年光を当てると曲がって重りを持ち上げる結晶を発表
2026年5月光でヒビが入り、光でヒビが消える結晶を発表

出典:立教大学 理学部 化学科 研究室紹介、森本研究室ホームページ「Members」、Morimoto・Irie, Journal of the American Chemical Society(2010年)

ほかにも、光でついたり消えたりする「光るスイッチ」の分子を使って、ふつうの顕微鏡では見えない細かいものを見る研究なども進めています。

この研究室に入るには

森本研究室に入るには、立教大学 理学部 化学科を受験します。理学部は学科ごとに募集しているので、入学したときから化学科です。キャンパスは東京の池袋キャンパスです。

大学学部・学科偏差値
立教大学理学部 化学科57.5

出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」(2026年10月)。偏差値は河合塾のボーダー偏差値

2026年度の一般入試では、化学科に延べ1,177人が出願し、347人が合格しています(出願数は、同じ人が複数の日程に出願した分も含む)。4年生になると研究室に入り、卒業研究に取り組みます。研究室の卒業生は、化学メーカーや、カメラ・計測器などをつくるメーカー、中学校・高校の先生などに進んでいます。

出典:立教大学「2026年度入試結果」、立教大学 理学部 化学科 研究室紹介

中高生のうちにできること

日の差す窓辺で、色が変わったビーズのブレスレットを目の前に持ち、口を丸く開けて見入る安房高の女子。

光で色が変わるものを、自分で試してみる

紫外線に当てると色が変わるビーズ(UVビーズ)は、手芸店や科学の教材として手に入ります。日なたと日かげを行き来させて、色がどれくらいの速さで変わり、戻るのかを観察してみてください。森本研究室が研究しているのと同じ「光で変わる分子」の世界の入口です。

オープンキャンパスと学園祭

立教大学の理学部は、毎年夏にオープンキャンパスを開いています(2026年は8月3日でした)。学園祭は池袋キャンパスで秋に開かれ、2026年は11月2日(月)から4日(水)の予定です(研究室が出展するかは分かりません)。

化学と数学、それに物理

分子の形を考えるには化学、光のエネルギーを考えるには物理、データを読むには数学を使います。「色」も「動き」も、分子の形で説明できるのが化学のおもしろさです。

まとめ

夕方の館山の高台で、海を見下ろして小さくほほえむ志学館高の男子。
  • 森本研究室は、光を当てると形や性質が変わる分子をつくり、光で動く材料をつくる研究室
  • 2026年5月、紫外線でヒビが入り、目に見える光でヒビが消える結晶を発表。40回以上くり返せて(完全に治るのは約25回まで)、マイナス50℃でも治る
  • 2010年には、光で曲がって自分の重さの275倍の鉛の球を持ち上げる結晶も発表
  • 入口は立教大学 理学部 化学科(偏差値57.5)

東進館山校 坂本

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