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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
フラスコの中で2種類の液を混ぜる。それだけで、目に見えないほど小さな分子が勝手に集まり、サッカーボールのような「かご」の形に組み上がる。そんな化学を30年以上続けてきたのが、東京大学の藤田研究室です。
研究室を率いる藤田 誠(ふじた まこと)先生は、千葉大学の工学部を卒業した人です。いまの研究室も、千葉県柏市の柏の葉にあります。館山と同じ千葉県の中で、世界の化学の最先端の研究が進んでいます。
これまでの松尾研やJSKは、AIやロボットの研究室でした。藤田研は、中学の理科で習う「原子・分子」の先にある化学の研究室です。


藤田研の研究をひとことで言うと、バラバラの分子が勝手に集まって、決まった形の「かご」を作るしくみを使う化学の研究です。
これを「自己組織化」と呼びます。人の手で1つずつ組み立てるのではなく、部品のほうが「自分で」組み上がるという意味です。
実は、私たちの体の中でも同じことが起きています。DNAの二重らせんや、タンパク質の複雑な形は、だれかが組み立てているわけではありません。分子どうしが弱い力で引き合って、自然にできあがります。藤田研は、このしくみをフラスコの中でまねしています。
研究室のテーマを中学生向けに言い換えると、こうなります。
| 研究の名前 | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| 金属を使った自己組織化 | 金属と有機分子を混ぜるだけで、輪・かご・筒の形の大きな分子を作る |
| 分子パネリング | 平たい三角形の分子をパネルにして、金属でつなぎ合わせて箱を作る |
| 孤立空間の化学 | できた「かご」の中に別の分子を閉じこめて、外ではできない反応を起こす |
| 結晶スポンジ法 | 穴だらけの結晶に分子をしみこませて、その分子の形を調べる |
出典:東京大学 藤田研究室「教授プロフィール」「研究内容」(fujitalab.t.u-tokyo.ac.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた


中学2年の理科で、物質は原子という小さな粒でできていて、原子がいくつか結びついたものを分子と呼ぶ、と習います。理科室の球と棒の分子模型で、水やアンモニアの形を作った人もいるはずです。
ふつう、化学者が大きな分子を作るときは、この模型を組み立てるように、原子を1つずつ順番につなげていきます。大きな分子ほど手間がかかり、途中で失敗もします。
藤田先生が使ったのは、別の方法です。部品は2種類だけです。
この2つを水の中で混ぜると、金属と有機分子がくっついたり離れたりをくり返します。そのうちに、いちばん安定な形にたどり着いて止まります。つなぎ目の角度が決まっているので、できあがる形も1つに決まります。
研究の始まりは1990年です。フラスコの中で、金属と棒の分子が組み合わさった正方形の分子ができました。藤田先生は、組み上がるまでに苦労を重ね、最後は夢の中にもその分子の形が浮かんだそうです。
出典:東京大学 藤田研究室「研究内容:コンセプト」(論文は J. Am. Chem. Soc. 1990年)
正方形の次は、立体です。平たい三角形の分子4個と、パラジウムを含む部品6個、合わせて10個を混ぜるだけで、対角線が2ナノメートル(1ミリの50万分の1)を超えるかごがすぐにできます。研究室は、これを100グラム作ってもきれいにできることを確かめ、試薬として売られるまでになりました。平たい分子をパネルに見立てて箱を作るので、「分子パネリング」と呼ばれます。


出典:東京大学 藤田研究室「研究内容:多面体構造の自己組織化」(論文は Nature 1995年)
さらに大きなものもあります。曲がった棒の分子24個と金属12個、合わせて36個の部品から、外の直径が3.5ナノメートルの球ができました。サッカーボールの形をした炭素の分子(フラーレン)が直径1ナノメートルなので、その3倍以上です。
| かご・球の名前 | 部品の数 | 大きさ |
|---|---|---|
| 正方形の分子(1990年) | 金属4個+棒4個 | 平たい正方形 |
| かご(M6L4) | 金属6個+三角形の分子4個=10個 | 対角線が2ナノメートルを超える |
| 球(M12L24) | 金属12個+曲がった棒24個=36個 | 外の直径3.5ナノメートル |
出典:東京大学 藤田研究室「研究内容」(コンセプト・多面体構造の自己組織化・球状構造の自己組織化)


1994年には、2つの輪が知恵の輪のようにつながった分子も、混ぜるだけで作りました。どちらの輪も壊さずに、つないだり外したりできるので、手品にたとえて「分子マジックリング」と呼ばれています。
出典:東京大学 藤田研究室「研究内容:インターロック化合物」(論文は Nature 1994年)
まずは、東大工学部の化学系の学科が作った、藤田研究室の紹介動画です(1分)。研究室の部屋で、藤田先生本人が研究について話します。
次は、藤田先生が京都大学で話した講演「ひとりでに組み上がる分子」の第1章「分子の自己組織化」です(11分)。DNAの二重らせんの話から始まり、分子が自分で集まるとはどういうことかを説明します。大学生向けの講演ですが、スライドの図を見るだけでも、形がどう組み上がるかが分かります。
同じ講演の第5章「6個目の多面体」です(8分)。正多面体が5種類しかないことは、中学の数学の空間図形で習います。章の名前のとおり、分子で多面体を作っていく話で、スライドには多面体の線の図が並びます。
動画:東大工学部化生系三学科(東京大学工学部の化学・生命系三学科の YouTube 公式チャンネル)、Kyoto-U OCW(京都大学オープンコースウェアの YouTube 公式チャンネル。講演は2019年7月12日)


藤田研から生まれた技術でいちばん有名なのが、2013年に発表した「結晶スポンジ法」です。
中学1年の理科で、水にとかした物質を、水を蒸発させたり冷やしたりして結晶として取り出す「再結晶」を習います。硫酸銅の青い結晶を作った人もいるかもしれません。結晶の中では、分子や粒がきれいに並んでいます。


この結晶にX線を当てると、中の分子の形が正確に分かります。薬や食品の研究では欠かせない調べ方です。ところが、この方法には大きな弱点がありました。調べたい物質を、まず結晶にしなければならないのです。油のような物質や、ほんの少ししか取れない物質は結晶にできず、形を調べられませんでした。
そこで藤田先生たちは、自己組織化で作った、穴がたくさんあいた結晶を用意しました。穴の直径は0.5〜1ナノメートルです。この結晶に、調べたい物質をスポンジのようにしみこませます。すると、その分子が穴の中できれいに並ぶので、調べたい物質を結晶にしなくても、分子の形が分かるようになりました。
| 結晶スポンジ法でできたこと | 数字 |
|---|---|
| いちばん少ない試料で形が分かった量 | 80ナノグラム(1グラムの1000万分の1より少ない) |
| 1回に使う結晶スポンジ | 100マイクロメートル(0.1ミリ)角の結晶1粒 |
| 形を決めた物質の例 | ミカンの皮にわずかに含まれる成分、深さ400メートルの海の海綿から取った希少な成分 |
出典:東京大学大学院工学系研究科 プレスリリース「結晶スポンジ法による極小量化合物のX線結晶構造解析」(2013年3月28日、論文は Nature)
藤田先生が京都大学の講演で、結晶スポンジ法を説明する章です(10分)。正方形の分子から格子のような結晶を作り、それがスポンジになるまでの流れが、スライドで追えます。
この方法は、薬・食品・香料・科学捜査など、分子の形を知りたいあらゆる分野で使えます。国の研究費の大きなプログラムにも選ばれ、企業と一緒に実用化を進めてきました。JST(科学技術振興機構)の紹介動画です(2分)。大きな分子のかごの模型と、結晶スポンジ法のしくみの図が出てきます。
動画:Kyoto-U OCW(京都大学オープンコースウェアの YouTube 公式チャンネル)、JST Channel(科学技術振興機構の YouTube 公式チャンネル)
2025年には「第二世代の結晶スポンジ法」も発表しました。それまでは、小さくて油になじむ分子しか調べられませんでした。新しい方法では、かご形の分子を結晶の中に埋めこむことで、水になじむ分子や、薬の候補になる大きめの分子も調べられるようになりました。すでに100を超える物質で試されています。
出典:東京大学・分子科学研究所 プレスリリース「第二世代結晶スポンジ法」(2025年3月6日)
研究室がいまある場所も、この技術から生まれました。2022年4月、東京大学と三井不動産は、柏の葉の研究所の建物「三井リンクラボ柏の葉1」の最上階に、分子の形を調べる研究の拠点「FS CREATION」を開きました。藤田先生たちの大学のグループと、分析装置を作る会社が、同じフロアで一緒に研究しています。
出典:東京大学・三井不動産「東京大学 藤田誠卓越教授ら 新研究拠点『FS CREATION』を『三井リンクラボ柏の葉1』に開設」(2022年2月17日)、東京大学工学部 応用化学科「藤田研究室」


研究室を率いているのは、藤田 誠 先生です。1980年に千葉大学の工学部を卒業し、会社の研究所で働いたあと、千葉大学・分子科学研究所・名古屋大学を経て、2002年に東京大学の教授になりました。いまは東京大学の卓越教授で、愛知県岡崎市にある分子科学研究所の卓越教授も兼ねています。
主な受賞は、次のとおりです。
| 年 | 賞 |
|---|---|
| 2014年 | 紫綬褒章 |
| 2018年 | ウルフ賞 化学部門(イスラエルのウルフ財団の賞。カリフォルニア大学バークレー校のヤギー教授と共同受賞) |
| 2019年 | 恩賜賞・日本学士院賞 |
| 2023年 | 朝日賞 |
| 2026年 | フンボルト賞(ドイツのフンボルト財団の賞) |
出典:東京大学 藤田研究室「教授プロフィール」「お知らせ」、東京大学「Professor Makoto Fujita awarded 2018 Wolf Prize in Chemistry」(2018年2月16日)
ウルフ賞の受賞理由は、金属を使って、穴の大きな分子を組み上げるしくみを考え出したことです。2019年の恩賜賞・日本学士院賞の授賞式は天皇・皇后両陛下の前で行われ、藤田先生は両陛下に研究を説明しました。
出典:東京大学「Professor Makoto Fujita awarded 2018 Wolf Prize in Chemistry」の受賞理由(小池が訳した)、日本学士院(2019年6月17日の授賞式とご説明の記録写真)


先生のほかに、竹澤 浩気 准教授、三橋 隆章 特任講師、分子科学研究所の特任助教が1人います。学生は、博士課程2人、修士課程9人、学部の4年生2人です。博士号を取ったあとの研究員(ポスドク)も4人います。
出典:東京大学 藤田研究室「研究室メンバー」(2026年10月11日に数えた)、東京大学工学部 応用化学科「藤田研究室」。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない


藤田研は、東京大学の工学部 応用化学科と、大学院の工学系研究科 応用化学専攻の研究室です。道は2つあります。
| 道 | 流れ |
|---|---|
| 東大に入る(学部から) | 東京大学に入る → 2年生の「進学選択」で工学部 応用化学科に進む → 2〜3年生で化学の基礎を学ぶ → 4年生で研究室に入る |
| ほかの大学から入る(大学院から) | ほかの大学の化学系の学部を卒業する → 東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻の修士課程の入試に受かる |
出典:東京大学工学部 応用化学科「駒場生へのメッセージ」、東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻「大学院入試」「2027年度 入試案内書」
大学院の入試は、英語(TOEFLという英語の試験のスコアを出す)、化学(物理化学・無機化学・有機化学の3問)、面接にあたる口述試験です。入りたい研究室には順位をつけて出し、研究室は希望と成績の順で決まります。 希望の研究室に入れるとは限りません。
それでも、大学院から入る道は本物です。藤田先生自身が、千葉大学で学び、千葉大学の大学院を出た人です。東大の学生ではありませんでした。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。
応用化学科では、例年、卒業生の9割以上が大学院に進みます。修士を終えた人の3割弱は、さらに博士課程へ進みます。就職先は、会社の研究開発や、ものを作る技術の仕事が中心です。
出典:東京大学工学部 応用化学科「進路情報」。学科全体の数字で、藤田研だけの数字ではない
理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、東大そのものは東京大学の紹介に、藤田先生が学んだ千葉大学は千葉大学の紹介にまとめました。








高校生になったら、東京大学の「東大の研究室をのぞいてみよう!」に申し込めます。全国の高校生が、東大のキャンパスで研究室の中を見学できる無料のプログラムです。
| プログラム | 対象 | いつ |
|---|---|---|
| 東大の研究室をのぞいてみよう! | 高校生(1人ずつ申し込む) | 2025年度は2026年3月26日(キャンパスで)・27日(オンライン)。申し込みは1月15日〜3月11日だった。2026年度の案内はまだ出ていない |
出典:東京大学「『東大の研究室をのぞいてみよう!』プログラム」(u-tokyo.ac.jp)。どの研究室を見学できるかは年によって違うので、募集要項で確かめること
分子科学研究所の公式チャンネルには、藤田先生と、青色LEDでノーベル物理学賞を受けた天野 浩 先生の対談があります(79分)。説明欄の目次には「どんな高校生だったか?」「大学の学部をどうやって選んだか?」「英語力をあげる方法とは?」が並び、最後は高校生からの質問に答えています。進路を考えている高校生に、まるごと見てほしい動画です。
動画:Institute for Molecular Science 分子科学研究所(YouTube 公式チャンネル、2024年12月)
化学の研究者になるには、化学だけでは足りません。分子の形を考えるには、図形と空間の見方がいります。正多面体やサッカーボールの形は、数学の空間図形そのものです。X線で形を調べる方法は、物理と数学でできています。そして、論文も、大学院の入試の英語も、英語です。
中学生のうちは、理科の「原子・分子」と「化学変化」、数学の空間図形から逃げないこと。化学式を丸暗記で終わらせず、分子の形を頭の中で組み立ててみること。これがいちばん藤田研に近づく勉強です。


混ぜるだけで分子が組み上がるのは、つなぎ目の角度が決まっているからです。数学の図形の問題で「なぜこの角度になるのか」を考える力が、そのまま化学の発見につながります。










ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて