JSK(東京大学):汗をかくロボット「腱悟郎」を生んだ、ロボットの体を作る研究室

研究室で、人工の筋肉とケーブルがむき出しの人型ロボットの大きな手と握手して、目を丸くする茶髪の男子大学生。「東京大学のJSK」「ロボットの体を作る」「汗をかくロボットも」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

アニメに出てくるような、人と同じように動くロボット。日本でそれを本気で作り続けてきた研究室の1つが、東京大学の情報システム工学研究室です。ローマ字の頭文字をとって「JSK」と呼ばれています。

1つ目に紹介した松尾研は、AIの「頭脳」を作る研究室でした。JSKは、その頭脳が入るロボットの「体」を作る研究室です。どちらも本郷キャンパスの工学部2号館にあります。同じ建物の中で、頭脳と体の研究が進んでいます。

れんが色の壁に縦長の窓が並ぶ、古い大学の建物。中央にとがったアーチの入口があり、手前の階段の横に自転車が止まっている
東京大学 本郷キャンパスの工学部2号館(2021年)。JSKはこの建物の7階にある
写真:Tokyo538/CC0(Wikimedia Commons)
目次

ひとことで言うと、何の研究?

家のリビングで、白い人型ロボットが洗濯物のシャツをたたむのを、ソファから身を乗り出して夢中で見る館山中の男子。「家で人と一緒に働くロボット」の文字。

JSKの研究をひとことで言うと、人が暮らす家や街で、人と一緒に働けるロボットの体と頭のしくみを作る研究です。

工場のロボットは、決められた場所で決められた動きをくり返します。でも家の中は、いすの位置も、置いてある物も毎日変わります。そこで動けるロボットには、目で見て考える力と、ぶつかってもこわれない、しなやかな体の両方が要ります。

研究室のテーマは、大学院の案内に7つ載っています。そのうち5つを中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
日常生活支援ロボット家の中のようすを見て、家具や道具を使って人を手伝うロボット
腱で動くロボット人の筋肉のように、ひもを引っぱって動くロボット
全身を素早く動かすヒューマノイド力強く、すばやく、全身で動ける人型ロボット
形が変わる飛行ロボット空を飛びながら体の形を変え、すき間も通り抜けるロボット
ロボットのソフトウェアロボットを動かすプログラムを作り、だれでも使えるように公開する

出典:東京大学大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻「2027年度 入試案内書」の教員研究室紹介(岡田 慧 教授・情報システム工学研究室)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

研究室は、家事を手伝うロボットも作ってきました。東京大学が進めたIRTプロジェクト(ITとロボットの技術で、お年寄りの多い社会を支える研究)のロボットです。

出典:東京大学 情報システム工学研究室「JSKについて」「研究紹介」(jsk.t.u-tokyo.ac.jp)

家の台所のような部屋で、車輪のついた白いロボットが片腕を伸ばし、長い柄の道具を持っている
東京大学のIRTプロジェクトの、家事を手伝うロボット(東京大学のロボットの研究室の見学で・2009年)
写真:Nathalie Kosciusko-Morizet/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

人の体をそのまま作るロボット

研究室の床で、骨と人工の筋肉がむき出しの人型ロボットが汗の粒を光らせて腕立て伏せをするのを、しゃがんで目を見開いて見つめる茶髪の女子大学生。「骨と筋肉までまねて作る」の文字。

JSKがいちばん有名になったのは、人の骨と筋肉のつくりをそのまままねたロボットです。これを「筋骨格きんこっかくヒューマノイド」と呼びます。

ふつうのロボットは、関節ごとにモーターがついていて、それが直接ひじやひざを回します。人の体は違います。骨に腱けんでつながった筋肉が縮んで、骨を引っぱって動かします。JSKは、モーターでひもを巻き取って筋肉の代わりにし、人と同じ形の骨に何十本もつけました。

研究室は、腱太けんた、小太郎(2005年の愛・地球博に出展)、小次郎、腱臓けんぞう、腱志郎けんしろう、腱悟郎けんごろうと、人の名前のようなロボットを何代も作ってきました。最新の腱悟郎は、顔と手を除いても114個の関節を動かせます。人の腕の中にある2本の骨や、5本の指までまねています。

透明な外装の中に配線と部品が見える人型ロボットが、台の上で足を伸ばして座っている
東京大学で作られた筋骨格ヒューマノイド「小太郎」(オーストリアの展示会アルスエレクトロニカで・2008年)
写真:Manfred Werner – Tsui/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

出典:東京大学 情報システム工学研究室「研究紹介」、東京大学大学院情報理工学系研究科 プレスリリース「人体の筋骨格構造を再現した人体模倣ヒューマノイドの開発」(2017年12月21日、論文は Science Robotics)

いちばん驚くのは、腱悟郎は汗をかくことです。ロボットは、たくさん動くとモーターが熱くなります。そこで腱悟郎には、体の温度を下げるための「汗をかくしくみ」が入っています。人が汗で体を冷やすのと同じ考え方です。こうして腱悟郎は腕立て伏せを11分間続け、「ロボットが腕立て伏せを続けた最長時間」としてギネス世界記録に認められました。

出典:東京大学大学院情報理工学系研究科 プレスリリース(2017年12月21日)、ギネスワールドレコーズ公式サイト「Longest time for a robot to perform push-ups」(2016年10月)

腱悟郎が腕立て伏せをする動画です(1分)。字幕は英語ですが、肩と腕の筋肉のひもが一緒に動くようすは、見るだけで分かります。

動画:IEEE Spectrum(IEEE〈アメリカの電気・電子の学会〉の雑誌の YouTube 公式チャンネル)

動画で見る

JSKの公式チャンネルには、昔のロボットの動画がそろっています。まずは小次郎です(1分)。床に座った姿勢から体を起こし、最後は太鼓をたたきます。筋肉のひもで動くロボットが、ここまでなめらかに動くことに驚きます。

次は腱志郎です(6分)。腱志郎がいろいろなポーズをとり、関節がどう動くかを1つずつ見せてくれます。後半には、展示会で人の前で動くようすも出てきます。

3本目は、東京大学の公式チャンネルにある、空を飛ぶロボット「DRAGON」の動画です(3分)。JSKで生まれたロボットで、いくつもの部品をつないだ体が、床の上や空中で竜のようにくねって形を変えます。作った研究者の趙 漠居(Moju Zhao)さん本人が話します。日本語の字幕を選べます。

動画:JSK Robotics Laboratory(YouTube 公式チャンネル)、東京大学 / The University of Tokyo(YouTube 公式チャンネル)。DRAGON の発表は JSK 公式サイトのニュース(2018年6月20日)

研究室から生まれたもの

屋外のロボット大会の会場で、はしごを登るロボットを、負けられないと歯を食いしばって見守る若い技術者の男性。「研究室から世界一のチームへ」の文字。

JSKから生まれた会社でいちばん有名なのが、SCHAFT(シャフト)です。

小次郎や腱志郎を作っていた研究者の中西雄飛さんと浦田順一さんが、東京大学の助教じょきょうをやめて、2012年に作った会社です。2人は研究室で、力が強くすばやく動ける脚のロボットを作っていました。その技術をもとにした会社を、2013年にGoogleが買いました。

研究室の机や棚を背に、白い骨組みに黒いひもや配線がたくさん通った人型ロボットが立っている
SCHAFTをつくった2人も開発にかかわった筋骨格ヒューマノイド「小次郎」(2010年)
写真:Erico Guizzo/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

その直後の2013年12月、アメリカの国防総省の研究機関(DARPA)が開いた災害救助ロボットの大会で、SCHAFTのロボットは16チーム中1位になりました。災害の現場を想定した8つの課題で、32点中27点です。

年できごと
2012年中西雄飛さん・浦田順一さんたちがSCHAFTをつくる
2013年11月Googleが買収を終える
2013年12月DARPAのロボット大会の予選で1位(16チーム中、32点中27点)

出典:IEEE Spectrum「Who Is SCHAFT, the Robot Company Bought by Google and Winner of the DRC?」(2014年2月6日)、文藝春秋(加藤崇、2014年12月17日)、DARPA「Robotics Challenge Trials Conclude」(2013年12月)

大会の前に、DARPAがチームを紹介した動画です(2分)。研究室のような部屋で、メンバーがロボットを組み立て、動かしながら話します。

動画:DARPAtv(DARPA の YouTube 公式チャンネル)

どんな人が研究しているか

研究室の大きな作業台で、仲間とロボットの手の部品を組み立てながら、夢中で話しこむ大学院生の女性。「先生と学生60人をこえる」の文字。

研究室を率いているのは、岡田 慧(おかだ けい)教授です。京都大学の工学部情報工学科を1997年に卒業し、東京大学の大学院に進んで博士(工学)を取りました。2018年に教授になっています。

  • 岡田 慧 教授:人と一緒に暮らすヒューマノイド、ロボットの目、ロボットのソフトウェアが専門
  • 小島 邦生 講師、河原塚 健人 講師
  • 助教・特任助教が5人

出典:東京大学 情報システム工学研究室「研究室メンバーの紹介」、東京大学「UTokyo FOCUS」研究者紹介、東京大学大学院情報学環「教員紹介」

先生の1人、河原塚健人講師は、2025年に「Innovators Under 35 Japan」に選ばれました。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアが、35歳未満の若い研究者・起業家を選ぶ賞です。いま世界で話題の「ロボットにAIの頭脳を入れる」研究をしています。本人が3分で研究を話す動画です(4分)。「かつて日本はヒューマノイド大国だった」という話から始まり、これから日本がどう戦うかを語ります。

出典:東京大学「UTokyo FOCUS」(2025年12月)。動画:MIT テクノロジーレビュー[日本版](YouTube 公式チャンネル)

学生は、博士課程23人、修士課程26人、学部の4年生7人です。長く研究室を率いてきた稲葉 雅幸(いなば まさゆき)教授は、2024年3月に東京大学を退職しました。小太郎や腱悟郎は、稲葉先生のもとで作られたロボットです。

出典:東京大学 情報システム工学研究室「Members」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月11日に数えたもの)、東京大学「令和5年度退職教員の紹介」。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

この研究室に入るには

夕方の海辺の堤防に座り、遠くにかすむ東京の街を見つめ、少し心細そうな館山中の女子。「道は3つ、大学院からも」の文字。

道は3つあります。

道流れ
東大に入る(学部から)東京大学に入る → 2年生の「進学選択」で工学部 機械情報工学科に進む → 4年生で研究室に配属される
高専から入る高専を卒業して東大の工学部に編入する(多くは2年生に入る)。または高専の専攻科から大学院へ
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻の修士課程の入試に受かる

出典:東京大学工学部 機械情報工学科「駒場生の皆さんへ」「高専の皆さんへ」、東京大学大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻「2027年度 入試案内書」

大学院の入試では、出願のときに入りたい先生を第1希望から第10希望まで書きます。希望の先生のところに入れるとは限りません。 人気の研究室だからです。

それでも、大学院から入る道は本物です。研究室を率いる岡田先生自身が、京都大学を卒業してから東京大学の大学院に進んだ人です。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

機械情報工学科では、ほとんどの人が大学院まで進みます。2022〜2024年度の卒業生141人のうち、94%が大学院へ進みました。その先は、Google、ソニー、トヨタ、キーエンスなどに就職しています。

出典:東京大学工学部 機械情報工学科「進路」(2022〜2024年度の実績)。学科全体の数字で、JSKだけの数字ではない

理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、東大そのものは東京大学の紹介にまとめました。

中高生のうちにできること

大学の研究室の見学会で、小さな人型ロボットに手を振り返されて、満面の笑顔になる高校生の男子。「高校生で研究室をのぞく」の文字。

高校生になったら、東京大学の「東大の研究室をのぞいてみよう!」に申し込めます。全国の高校生が、東大のキャンパスで研究室の中を見学できる無料のプログラムです。

プログラム対象いつ
東大の研究室をのぞいてみよう!高校生(1人ずつ申し込む)2025年度は2026年3月26日(キャンパスで)・27日(オンライン)。申し込みは1月15日〜3月11日だった。2026年度の案内はまだ出ていない

出典:東京大学「『東大の研究室をのぞいてみよう!』プログラム」(u-tokyo.ac.jp)。どの研究室を見学できるかは年によって違うので、募集要項で確かめること

ロボットの体を作るには、物理と数学がいります。腕を動かす力の計算は、中学の比例と、高校の三角比・ベクトル・微分でできています。ロボットを動かすのはプログラムで、論文はほとんどが英語です。中学生のうちは、数学の関数と図形、理科の力の単元から逃げないこと。これがいちばんJSKに近づく勉強です。

塾長 小池

汗をかくロボットも、1本の式と1行のプログラムの積み重ねです。数学の問題を1問ずつ解く力が、そのまま「ものを作る力」になります。

まとめ

夜の自分の部屋で、ノートにロボットの腕とてこの図を描きながら、解けそうになってワクワクする館山中の男子。「近道は数学・物理・英語」の文字。
  • JSKは、東京大学の情報システム工学研究室。人と一緒に暮らせるロボットの体と頭のしくみを作っている
  • AIの頭脳を作る松尾研に対して、JSKはロボットの体を作る研究室
  • 骨と筋肉をまねたロボットを何代も作り、腱悟郎は汗をかいて11分間の腕立て伏せでギネス記録
  • 研究室から生まれたSCHAFTは、2013年にGoogleが買い、世界のロボット大会で1位
  • 入る道は、東大の機械情報工学科から、高専からの編入、大学院から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、数学・物理・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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