大河内研究室(早稲田大学):富士山頂で雲をつかまえ、空飛ぶプラスチックを見つけた研究室

富士山頂の雲海を背に、雲の水を集めた透明なボトルを手に持って笑う、ポニーテールでストライプのシャツの女子大学生。「早稲田大学の大河内研究室」「雲の中にプラスチック」「富士山頂で世界初の発見」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

プラスチックごみと聞くと、海に浮かぶペットボトルや、ウミガメのおなかから出てきたレジ袋を思い浮かべる人が多いはずです。でも、そのプラスチックが細かくくだけて、空を飛び、雲の中に入っているとしたらどうでしょう。

それを世界で初めて確かめたのが、早稲田大学の大河内研究室です。正式な名前は「大気・水圏環境化学研究室」。研究のために、夏は毎週のように富士山のてっぺんまで登ります。ロボットでもAIでもない、地球そのものを相手にする研究室を紹介します。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

大学の研究棟の屋上で、雨を集めるじょうごのついた装置をのぞきこむ、茶髪のボブの女子大学生。「雨と空気で地球の健康診断」の文字。

大河内研究室の研究をひとことで言うと、空気・雨・川の水・森を集めて調べ、地球の「健康診断」をする研究です。

お医者さんは、血液を調べて体のどこが悪いかを見つけます。この研究室は、雨や雲や空気を集めて、中に何がどれだけ入っているかを調べ、地球のどこが悪くなっているかを見つけます。研究室は、こういう人を「アース・ドクター(地球のお医者さん)」と呼んでいます。

研究室のテーマは、公式サイトに8つ載っています。そのうち5つを中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
富士山を使った地球規模の汚染の観測富士山のてっぺんで、外国から飛んでくる汚れた空気を調べる
大気中のマイクロプラスチック空気の中をただよう、目に見えないほど小さなプラスチックを調べる
ゲリラ豪雨のしくみ急に降る激しい雨が、どうやってできるのかを調べる
森林浴の効果と、森が空気をきれいにする力森が空気の汚れをどれだけ吸いとってくれるかを調べる
カンボジアの大気汚染と遺跡汚れた空気が、世界遺産アンコール・ワットの遺跡を傷めていないかを調べる

出典:早稲田大学 大河内研究室 公式サイト(okochi-waseda.com)「TOP」「Research」。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

ほかにも、福島の里山で放射性物質がどう動くかを調べ、自然を壊さずに除染じょせんする方法を考える研究もしています。研究は、雨・霧・空気中のちり・川の水を集めるところから始まります。集める場所は、大学の研究棟の屋上、富士山、神奈川県の丹沢の山です。電気の通っていない山の中でも雨を集められるように、太陽電池で動く集める装置も自分たちで作りました。

出典:早稲田大学 大河内研究室「研究室紹介」「Research」、早稲田大学 研究者データベース「大河内 博」

雲の中にプラスチックがあった

大学の実験室で、顕微鏡のそばのモニターに映る色とりどりの小さなかけらを見て、眉をよせる眼鏡の男子大学生。「雲の水にもプラのかけら」の文字。

マイクロプラスチックとは、直径5ミリより小さいプラスチックのかけらのことです。海の問題として有名になりましたが、大河内先生は「プラスチックは空気の中でも、地球をぐるぐる回っている」と考えました。

そこで研究室は、富士山のてっぺん(3,776メートル)、富士山の南東のふもと(1,300メートル)、神奈川県の丹沢大山のてっぺん(1,252メートル)の3か所で、2021年から2022年にかけて雲そのものを集めました。雲は、空に浮かぶ小さな水のつぶの集まりです。集めた雲の水は44回分。調べると、どの場所の雲にもプラスチックのかけらが入っていました。

山の上から見下ろした一面の白い雲。雲の向こうに、遠くの山なみが青くかすんで見える
富士山の上から見た雲海(2018年7月)。研究室は、この高さの雲を集めて調べた
写真:Alpsdake/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
わかったこと数字
雲の水1リットルに入っていたかけら平均6.7〜13.9個(3か所の平均)
見つかったプラスチックの種類9種類(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)
論文が出た日2023年8月14日(Environmental Chemistry Letters)

出典:早稲田大学「雲水の野外観測で初めてAMPsを検出」(2023年8月23日)。AMPs は大気中マイクロプラスチックの英語の頭文字

白い服とマスクの研究者が顕微鏡をのぞきこみ、横にはつながったパソコンが置いてある
赤外線を使う顕微鏡で、マイクロプラスチックを調べているところ(フランスの海洋研究所 Ifremer・2020年)。大河内研究室も、赤外線で一つずつプラスチックの種類を見分けた
写真:Stephane Lesbats/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

さらに面白いのは、ここからです。プラスチックは本来、水をはじきます。ところが空の上で強い紫外線を浴びて傷むと、水となじむ性質に変わります。すると、プラスチックのかけらが雲のつぶの「芯」になって、雲を作る手伝いをしてしまうかもしれません。プラスチックが天気や気候にまで関わっている可能性がある、ということです。

出典:早稲田大学「雲水の野外観測で初めてAMPsを検出」(2023年8月23日)

富士山のてっぺんは、地上の空気の影響を受けにくい高さにあります。ここで見つかる汚れは、遠くから空の上を運ばれてきたものです。大河内先生は「東南アジアの地上の空気が上空に上がってきて富士山頂に達すると、高い濃度のマイクロプラスチックが見つかる」と話しています。日本の上空には、偏西風へんせいふうという強い西風が吹いています。プラスチックは、国境を越えて空を旅しているのです。

朝日で赤く染まった富士山頂の小高い岩山。そのてっぺんに小さな建物が建っている。手前は黒い溶岩の斜面
富士山のいちばん高い剣ケ峰と、旧富士山測候所(2018年8月)。研究者たちはここで空気を集める
写真:Sitao Xiang/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

テレビ朝日系のニュースが、大河内先生のチームを取材した動画です(16分)。山頂で空気を集める装置と研究チームが映ります。夏の2か月間、毎週山頂に登って空気を集めていること、北海道や東京にも装置を置いていることが分かります。

動画:ANNnewsCH(テレビ朝日系 ANN の YouTube 公式チャンネル、2025年9月26日)

動画で見る

まずは研究室が自分で作った紹介動画です(1分半)。丹沢の渓流けいりゅうで水をくむ学生、富士山の上に置いた装置、最後は研究室のみんなの人間ピラミッドまで。「アース・ドクター」の毎日が一気に見えます。

次は、研究室が富士山頂での観測のお金を集めるために作った動画です(2分半)。ヘルメットをかぶった学生たちが山頂近くに並び、雨の中、大河内先生が装置の前で研究を説明します。山の上の研究が、思っている以上に体力勝負だと分かります。

3本目は、研究の舞台になっている富士山頂の「旧富士山測候所そっこうじょ」の動画です(6分)。昔は台風を見張るレーダーがあった建物が、今は研究者たちの観測の拠点になっています。ヘルメットと命綱をつけた研究者が、屋根の上に観測の機械を取り付けるようすが出てきます。

動画:Hiroshi okochi(大河内先生の YouTube チャンネル、2016年)、academist(研究のクラウドファンディングのサイト academist の YouTube 公式チャンネル、2017年)、毎日新聞(YouTube 公式チャンネル、2024年8月)

研究室から生まれたもの

雑木林の中で、コナラの枝の葉を虫めがねでのぞき、うれしそうに目を輝かせる、長い茶髪の女子大学生。「木の葉がプラをつかまえる」の文字。

大河内研究室から生まれたのは、会社よりも「世界で初めての発見」です。

年発見
2023年雲の中にマイクロプラスチックがあることを、山で集めた雲で初めて確かめた
2024年森の木の葉が、空気中のマイクロプラスチックをつかまえていることを世界で初めて確かめた(日本女子大学などとの共同研究)

出典:早稲田大学「雲水の野外観測で初めてAMPsを検出」(2023年8月23日)、早稲田大学「森林が大気中マイクロプラスチックを捕捉することを世界で初めて実証」(2024年3月27日)

2つ目の発見は、川崎市の日本女子大学のキャンパスの森で、コナラという木の葉を調べたものです。空気中のプラスチックは、葉の表面のロウのような膜にくっついていました。日本じゅうのコナラの森で計算すると、1年に約420兆個ものかけらを、木の葉がつかまえていることになります。森は、空気のフィルターの役目もしているのです。

出典:早稲田大学「森林が大気中マイクロプラスチックを捕捉することを世界で初めて実証」(2024年3月27日)

こうした研究は、NHKの「サイエンスZERO」(2024年10月)や「クローズアップ現代」(2025年2月)、日本経済新聞などでも取り上げられました。研究の成果が、ニュースとしてみんなに届いています。

出典:早稲田大学 大河内研究室 公式サイト「News」「取材記事」

どんな人が研究しているか

富士山の登山道で、観測の道具を入れた大きなリュックを背負い、楽しそうに話しながら歩く、ヘアバンドをした男子大学生。「山へ行く費用も研究室が出す」の文字。

研究室を率いているのは、大河内 博(おおこうち ひろし)教授です。神奈川県の生まれで、早稲田大学の資源工学科(いまの環境資源工学科)を卒業し、東京工業大学の大学院に進みました。神奈川大学の助手、イギリスのイースト・アングリア大学での研究、東京都立の大学の先生をへて、2006年に早稲田大学に戻り、2008年から教授です。富士山頂の旧測候所を研究に使うNPO(富士山測候所を活用する会)の副理事長もしています。

出典:早稲田大学 研究者データベース「大河内 博」(2025年11月25日更新)、早稲田ウィークリー「地球表層を巡るプラスチック ーアースドクターの診断ー」(2020年8月21日)

研究室のメンバーは、先生2人(大河内 博 教授、王 一澤 助教)、博士課程4人、修士2年6人、修士1年7人、学部4年5人です。助教の王先生は、雲のプラスチックを見つけた研究に、博士課程の学生として加わった人です。

青空の下に建つ、格子もようの窓がびっしり並んだ高い建物。手前に低い校舎と木々がある
早稲田大学 西早稲田キャンパスの51号館(2018年)。大河内研究室はこの建物の12階にある。雨は屋上でも集めている
写真:Kakidai/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

出典:早稲田大学 大河内研究室「Members」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月12日に数えたもの)、早稲田大学「雲水の野外観測で初めてAMPsを検出」(2023年8月23日)

研究室の決まりも公式サイトに書いてあります。決まった出勤時間(コアタイム)はなく、土日は休み。そのかわり、富士山などでは1週間の集中観測を全員でやります。山や森へ調べに行く交通費と宿泊費は、全部研究室が出します。 研究室が求めるのは「学問分野にとらわれない柔軟性と,自ら現場に出向いていく行動力」です。

出典:早稲田大学 大河内研究室「for students」

この研究室を選んだ先輩の声も、学部の公式サイトに載っています。大河内先生の授業で海のプラスチック問題を知り、空気中のプラスチックは世界でも研究している人が少ないと聞いて「世界最先端の研究に携われるのではないか」と考えて入った、という大学院生です。洗濯の柔軟剤に入っている小さなカプセルが空気中に出ていないかを調べ、卒業後は環境省に進みました。

出典:早稲田大学 創造理工学部・研究科「在学生インタビュー 藤川 真智子さん」(2022年度)

研究室の卒業生は、水処理の会社(水ing)、東芝、花王、JAL、JR東海、東京ガス、三井物産、野村総合研究所などの会社のほか、環境省、東京都、JICA、JAXAにも進んでいます。

出典:早稲田大学 大河内研究室「Future path」(年ごとの人数は公式に出ていないので書いていない)

この研究室に入るには

夜の自分の部屋の机で、大学案内の冊子を広げて、どの学科にするか迷って不安そうな顔をする学ランの男子高校生。「受験のときに学科を選ぶ」の文字。

道は2つあります。

道流れ
早稲田に入る(学部から)早稲田大学 創造理工学部 環境資源工学科に入る → 4年生で研究室に入る → 多くは同じ研究室のまま大学院へ
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻の修士課程の入試に受かる(研究指導「大気・水圏環境化学研究」)

出典:早稲田大学 環境資源工学科「受験生の皆さんへ」、早稲田大学 理工学術院「大学院入試 課程・専攻・研究指導」(地球・環境資源理工学専攻の研究指導一覧、2026年3月掲載)、早稲田大学 大河内研究室「Members」「for students」

早稲田の理工は、入試のときから学科ごとに分かれています。環境資源工学科に入りたいなら、受験の時点で環境資源工学科を選ぶことになります。同じ日に試験があるので、ほかの学科・学部との併願へいがんはできません。

大学院から入る道もあります。大学院の入試では、出願の1か月前までを目安に、指導してほしい先生に連絡することが強くすすめられています。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

出典:早稲田大学 環境資源工学科「受験生の皆さんへ」、早稲田大学 理工学術院「大学院入試 課程・専攻・研究指導」

環境資源工学科は、卒業生の約7割が大学院に進みます。就職率は100%で、学科の卒業生はJX金属、ENEOS、東京ガス、三菱商事、日本製鉄など、資源とエネルギーの会社に多く進んでいます。

出典:早稲田大学 環境資源工学科「受験生の皆さんへ」「卒業後の進路」(主な就職先は2021〜2023年度)。学科全体の数字で、大河内研究室だけの数字ではない

学科がどんなところかは、早稲田の受験生向けの公式チャンネルの学科紹介で見られます(23分)。新入生の合宿、オープンキャンパス、研究室の紹介をスライドで説明しています。

動画:DISCOVER WASEDA(早稲田大学の受験生応援サイトの YouTube 公式チャンネル、2024年)

理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、早稲田そのものは早稲田大学の紹介にまとめました。

中高生のうちにできること

学校の図書室で、雲のでき方の図が載った理科の本を広げ、ひらめいて目を輝かせる館山中の女子。「理科の天気と数学の割合」の文字。

早稲田の西早稲田キャンパス(理工の3学部があるキャンパス)は、キャンパスツアーに申し込めば、だれでも見学できます。夏のオープンキャンパスでは、研究室や実験室の見学もあります。

プログラム対象いつ
西早稲田キャンパスツアーだれでも(予約制、各回50人)12月と3月に予定。日にちは決まりしだい公式サイトに出る
理工のオープンキャンパス受験生・保護者など2026年は8月1日・2日に終わった。2027年の日程はまだ出ていない

出典:早稲田大学 理工学術院「キャンパスツアー・見学のご案内」「2026年度理工オープンキャンパス」。2027年2月13〜20日は入試のためキャンパスに入れない

家にいながら、大学の授業をのぞくこともできます。早稲田の受験生向けの公式チャンネルにある、環境資源工学科の模擬講義もぎこうぎ「空飛ぶマイクロプラスチックをつかまえる」です(32分)。日本で捨てられるプラスチックの内訳から始まり、プラスチックが地球の表面をめぐる図まで、スライドで順に説明しています。

動画:DISCOVER WASEDA(早稲田大学の受験生応援サイトの YouTube 公式チャンネル、2024年)

この研究室の中心は化学です。雲の水にプラスチックが何個あるかを数えるには、化学で物質の性質を知り、数学で濃さや平均を計算します。雲や雨のしくみは理科の天気の単元、論文はほとんどが英語です。中学生のうちは、理科の「水溶液」「天気」の単元と、数学の比例・割合を、言葉で説明できるまで理解しておくこと。これがアース・ドクターへのいちばんの近道です。

塾長 小池

「雲1リットルに平均6.7〜13.9個」という数字も、集めて、数えて、割り算した結果です。数学の1問を正確に解く力が、地球の診断の力になります。

まとめ

富士山頂で、雲海から昇る朝日を背に、観測ノートを書きながら穏やかにほほえむ、オレンジのウインドブレーカーの男子大学生。「地球のお医者さんになる」の文字。
  • 大河内研究室は、早稲田大学の大気・水圏環境化学研究室。空気・雨・川・森を調べて、地球の健康診断をする
  • 富士山のてっぺんで雲を集め、雲の中にマイクロプラスチックがあることを初めて確かめた(2023年)
  • 森の木の葉が空気中のプラスチックをつかまえていることも、世界で初めて確かめた(2024年)
  • 山や森へ行く研究が多く、交通費と宿泊費は研究室が出す
  • 入る道は、早稲田の環境資源工学科から、またはほかの大学から大学院で
  • 近づく勉強は、化学・数学・理科の天気・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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