野村研(東京都立大学):ペットボトルも古着も、鉄の触媒で「分子」に戻す。化学でプラスチックをほどく研究室

大学の化学の実験室で、白い結晶の入ったガラスの容器を胸の前で持ち、目を見開いて見つめる白衣の女子大学院生。「古着もペットボトルも」「鉄の触媒で 原料に戻す」「ほぼ100%、元の分子へ」の文字。

着なくなった服や、飲み終わったペットボトル。その多くは、ポリエステルというプラスチックでできています。リサイクルと聞くと「溶かして、別の物に作り変える」ことを思い浮かべる人が多いと思います。

でも、化学のやり方はもう一つあります。プラスチックを分子のレベルでほどいて、作る前の原料に戻す方法です。2025年、東京都立大学の野村琴広先生たちのグループは、安くて手に入りやすい鉄の触媒を使って、ペットボトルや服のポリエステルを、ほぼ100%原料に戻すことに成功しました。今回は、この研究室を紹介します。リサイクルや環境の問題が気になる人、化学で何ができるのか知りたい人に読んでほしい記事です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

家の自分の部屋で、着なくなった体操服のジャージを広げて持ち、首をかしげて見つめる館山中の男子。「この服、最後はどこへ?」の文字。

野村研究室の研究をひとことで言うと、化学反応を進める「触媒」を工夫して、プラスチックを作ったり、使い終わったプラスチックを原料に戻したりする研究です。

言葉中学生向けに言うと
触媒自分は変わらないまま、化学反応を速く・起こりやすくする物質
ポリエステル小さな分子が鎖のように長くつながったプラスチックの一種。ペットボトルや服の繊維に使われる
PET(ペット)ポリエステルの代表。ペットボトルの「ペット」はこれ
ケミカルリサイクル使い終わったプラスチックを化学の力で分解し、作る前の原料に戻すリサイクル

出典:東京都立大学 報道発表(2025年11月14日)。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた

野村先生の専門は、触媒の化学です。大学の先生になる前は、化学の会社(住友化学工業、今の住友化学)の研究所で研究員をしていました。会社でも大学でも、ずっと「触媒」を作ってきた先生です。

出典:野村琴広先生の個人ホームページ「プロフィール」

「溶かして形を変える」と「分子に戻す」

図解。左は、ボトルをくだいて溶かし、ベンチなど別の形に作り変えるリサイクル。右は、ポリエステルの鎖をほどいて、作る前の原料に戻すリサイクル。「形を変えるか、分子に戻すか」の文字。

このシリーズで紹介した慶應義塾大学の田中研究室は、くだいたプラスチックを3Dプリンターで溶かして、表彰台など新しい形に作り変える研究でした。

野村研究室のやり方は、それとは違います。プラスチックの「鎖」のつなぎ目を化学反応で外して、鎖になる前の小さな分子(原料)にまで戻します。

溶かして形を変える分子に戻す(ケミカルリサイクル)
やることくだいて溶かし、別の形にする化学反応で鎖をほどき、原料にする
できるもの表彰台など別の物もう一度プラスチックを作れる原料
研究の例慶應 田中研都立大 野村研

出典:東京都立大学 報道発表(2025年11月14日)、慶應義塾大学 SFCニュース(2021年7月26日)

都立大の発表によると、使い終わったプラスチックは今、ほとんどが燃料として使われていて、原料として使い直される割合は低いそうです。また、ペットボトルを集めて使い直すときは、品質が落ちることが心配されています。原料まで戻せれば、高い純度の原料から作り直せるので品質が落ちにくい、というのがこの方法の強みです。どちらのやり方にも得意な場面があり、両方が必要とされています。

予想クイズ:服がまじりものだったら?

東進館山校の自習室の後ろの壁の前で、白い綿の布と、つやのある青いポリエステルの布を両手に持ち、見比べて考えこむ安房高の女子。

服の多くは、1つの素材だけでできていません。たとえば「ポリエステル65%、綿35%」のように、何種類かの繊維をまぜて織られています。これがリサイクルを難しくしている原因の一つです。

ここでクイズです。まず自分で考えてから、下の答えを開いてください。

坂本

ポリエステルと綿がまざった服を、野村先生たちの鉄の触媒とアルコールでリサイクルすると、どうなったでしょう? ①両方とも分解されて、ドロドロにまざった ②ポリエステルだけが原料に戻り、綿はそのまま残った ③どちらも分解されず、そのまま残った

答えと考え方

答えは②です。ポリエステルだけがほぼ全部分解されて原料に戻り、綿もほぼそのまま回収できました。

ポリエステルの鎖は「エステル結合」というつなぎ目でつながっています。この触媒とアルコールの反応は、そのつなぎ目を外す反応です。綿は別のつなぎ方でできた繊維なので、分解されずに残ります。

つまり、まざった服から、ポリエステルだけを選んでほどけるということです。綿は綿で、別に使い道を考えられます。

出典:東京都立大学 報道発表(2025年11月14日)

鉄の触媒で、ペットボトルも服もほぼ100%原料に

図解。ペットボトルや服のポリエステルの鎖に、鉄の触媒とアルコールを加えて145℃で温めると、鎖がほどけて元の原料に戻る流れ。「鎖のつなぎ目だけを外す」の文字。

これまでのケミカルリサイクルでは、もっと高い温度と、たくさんの酸や塩基(アルカリ)が必要でした。後から取りのぞく手間もかかり、環境への負担も大きいのが問題でした。

野村先生たちは、ポリエステルとアルコールに触媒を加えて温めることで、おだやかな条件で原料に戻せる触媒を研究してきました。2025年11月に発表したのは、鉄を使った触媒です。鉄は安くて手に入りやすい金属です。

鉄の触媒で試したこと結果
使ったものリサイクル工場で使われている、くだいたペットボトル。ポリエステルの服の廃棄物
反応の条件アルコール(メタノール)と鉄の触媒を加えて、145℃で温める(服の例では18時間)
原料に戻った割合ほぼ100%(99.7〜99.9%)
取り出した原料混じりものの少ない、高い純度。触媒の残りかすも混ざっていなかった
量をふやすと実験室の大きさから、工場で使うことを見すえた大きさにしても、性能は落ちなかった

出典:東京都立大学・科学技術振興機構(JST)報道発表(2025年11月14日)、論文:Jiang ほか, ACS Sustainable Resource Management(2025年)

服のポリエステルは、温めたあと冷ますと、原料(テレフタル酸ジメチル。ポリエステルのもとになる分子の一つ)が白い結晶になって出てきます。これをもう一度つなげれば、またポリエステルを作れます。

まだ「基盤技術」の段階

都立大の発表では、この方法は「資源循環型社会(資源をくり返し使う社会)の実現に向けた基盤技術」と書かれています。工場で使うことを見すえて試したところまでで、実際の工場でこの方法が使われ始めた、という段階ではありません。研究は、科学技術振興機構(JST)のCREST(国が研究を支えるしくみの一つ)という大きな研究プロジェクトとして、2027年3月まで続く予定です。

坂本

「ほぼ100%」はすごい数字です。でも研究の世界では、ここから工場で毎日動かせるようになるまでに、また別の長い道のりがあります。

2026年、植物から「強くて、よく伸びて、ほどける」プラスチック

大学の化学の実験室で、うすい透明なフィルムを両手で引っぱって、伸び方を真剣な顔で確かめる男子大学院生。

野村研究室は、原料に戻すだけでなく、最初から植物で作り、使い終わったら原料に戻せるプラスチックも研究しています。

2026年7月、野村先生たちは、大阪産業技術研究所と滋賀県立大学の研究者と共同で、食べられない植物の油とアミノ酸から、新しいプラスチックを作ったと発表しました。

2026年7月の発表中身
原料食べられない植物の油と、アミノ酸など
フィルムの強さポリエチレン(レジ袋などのプラスチック)などより、やわらかくて強く、切れるまでよく伸びた
傷がついたら引っぱって伸びたり、切れたり、傷がついたりしても、自然に元の状態にもどる材料も作れた
使い終わったら独自の触媒で、分解して原料に戻せる

出典:東京都立大学 報道発表(2026年7月6日)、論文:Miyamoto ほか, JACS Au(2026年)

ふつう、プラスチックは「強い」と「よく伸びる」を両立させるのが難しい、とされています。この2つを両立させたうえで、使い終わったら原料に戻せる。プラスチックを作るところから戻すところまで、触媒の化学で一周させるのが、この研究室の目指す形です。発表では、資源を循環させる材料として有望だと「示唆した」段階で、製品になったわけではありません。

この研究室に入るには

野村先生がいるのは、東京都立大学の理学部 化学科と、大学院の理学研究科 化学専攻です。キャンパスは東京都八王子市の南大沢キャンパスです。

大学学部・学科偏差値
東京都立大学理学部 化学科57.5

出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」。偏差値は河合塾のボーダー偏差値

いちばん近い入口は、理学部 化学科です。2027年度の入試では、化学科の入学定員は48人。一般選抜(前期日程28人・後期日程10人)のほか、学校推薦型選抜(10人)や、総合型選抜の「科学オリンピック入試」(若干名)もあります。

出典:東京都立大学「2027年度 募集人員」

公立大学で、前期と後期の2回チャンスがあるのは大きいです。くわしい科目や出願の条件は、必ずその年の募集要項で確かめてください。

研究室は、世界とつながっている

研究室のホームページを見ると、メンバーには海外からの留学生や研究者が多くいます。2026年9月には、研究室の学生2人が、ドイツとベルギーの大学へ共同研究のために留学しました。化学の研究室は、英語で世界とやりとりする場所でもあります。

出典:東京都立大学 有機化学研究室(野村研究室)ホームページ「メンバー」「ニュース」

中高生のうちにできること

東進館山校の自習ブースで、化学の参考書を胸の高さで持ち、眉を寄せて集中して読む安房高の男子。

自分の服のタグを見てみる

家にある服のタグを5枚見て、「ポリエステル」「綿」が何%ずつか書き出してみてください。100%の服もあれば、2〜3種類がまざった服もあるはずです。まざった服はリサイクルしにくいので、「まざった服からポリエステルだけをほどく」技術が役に立ちます。

中学理科の「化学変化」を大事に

物質が別の物質に変わる化学変化と、原子や分子の考え方は、中学2年の理科で習います。この研究の入口は、中学の化学変化の単元です。高校の化学では、「エステル」や「高分子」という言葉で、この記事の中身をもっとくわしく学びます。

大学の発表を、自分で読んでみる

大学は研究の成果を「報道発表」としてホームページにのせています。都立大のホームページで「野村琴広」と調べると、この記事のもとになった発表が読めます。むずかしい言葉は、高校の化学の教科書でわかる範囲から少しずつ。オープンキャンパスなどの予定も、大学のホームページで確かめてください。

まとめ

秋の夕方の高校の中庭で、くり返し使える水筒を持ち、空を見上げて小さくほほえむ翔凜高の女子。
  • 野村研究室は、触媒の化学で、プラスチックを作ったり、使い終わったプラスチックを原料に戻したりする研究室
  • 2025年11月、安い鉄の触媒で、ペットボトルや服のポリエステルを、ほぼ100%(99.7〜99.9%)原料に戻した。まざった服から、ポリエステルだけを選んでほどける
  • 2026年7月には、共同研究で、植物の油とアミノ酸から、強くてよく伸び、原料に戻せるプラスチックを作った
  • どちらも、まだ製品や工場で使われる前の研究段階
  • 入口は東京都立大学 理学部 化学科(偏差値57.5)。前期・後期のほか、推薦や総合型選抜もある

東進館山校 坂本

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