筆を選ばず、でも筆を誤る。空海と漢字

空海が、唐から届いた巻物を脇に、筆を紙に走らせている

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

まなぶ君の漢検のページで、筆を走らせているお坊さん。空海です。「弘法大師(こうぼうだいし)」とも呼ばれます。

この人には、正反対に聞こえることわざが2つあります。今日はその話から。

目次

ことわざが2つある人

ことわざ意味
弘法筆を選ばず名人は、道具のよしあしを言いわけにしない
弘法も筆の誤り名人でも、ときには失敗する

どちらも「弘法」=空海のことです。筆を選ばないほどの名人で、しかも筆を誤ったこともある。いったいどんな人だったのでしょう。

20年の留学を、2年で終えた

唐の都の大通りで、空海が巻物の束を背負い、大きな塔を見上げて目を輝かせている。「20年の予定を どうする?」の文字。

空海は774年、讃岐(今の香川県)に生まれました。都の学校で学んだあと、お坊さんの道に進みます。

804年、30歳のとき、遣唐使の船で唐(今の中国)へわたりました。船は嵐にあい、予定とちがう場所に流れ着くほどの旅でした。

予想してみよう:20年の予定の留学を、何年で終えた?

塾長 小池

国から「20年学んでこい」と言われて送り出された留学です。

答えを見る

答えは、約2年。唐の都・長安で、恵果(けいか)という先生から、密教の教えを短いあいだに受けつぎ、806年に日本へ帰ってきました。

中国語で書かれたお経や書の手本、道具を、たくさん持ち帰っています。漢字の本場で、漢字を自分のものにして帰ってきた人です。

書の名人、三筆のひとり

平安時代の宮廷の広間で、空海と、冠をかぶった天皇と、貴族の3人が並んで筆を持ち、得意げに笑っている。「字がうまい 3人組」の文字。

空海の字は、とにかくうまかった。平安時代の初めに字がうまかった3人を三筆(さんぴつ)と呼びます。空海・嵯峨天皇・橘逸勢(たちばなのはやなり)。歴史の教科書にも出てきます。

だから「弘法筆を選ばず」。どんな筆でも、うまい人はうまく書く、というわけです。

それでも、点を忘れた

大きな門の下で、空海が高い扁額に向かって筆を投げ上げている。役人たちが口をあけて見上げている。「点が 足りない!」の文字。

こんな言い伝えがあります。天皇にたのまれて、都の門にかける額に「應天門(おうてんもん)」と書いたときのこと。

かけてから見ると、「應」の字の点が1つ足りない。空海は下から筆を投げて、みごとに点を打ったといいます。

これが「弘法も筆の誤り」。そして、失敗のあとの直し方まで名人だった、という話でもあります。

塾長 小池

名人でも点を忘れる。だから漢字は、点1つ、はね1つまで見るんです。

やってみよう:点のある字、ない字

学校の書道室で、男子中学生が紙に字を書いてみて首をかしげ、その横で空海が筆を持ってにやにや見守っている。「点はある? ない?」の文字。

空海が忘れたのは点でした。漢検でも、点やはらいのちがいでまちがえる字がたくさんあります。紙に書いて、たしかめてみてください。

  1. 「博」を書く。右上に点はある?
  2. 「専」を書く。右上に点はある?
  3. 「染」を書く。右上は「九」? それとも「丸」?

答え
博:点がある(博士の博)
専:点はない(専門の専)
染:右上は九。「丸」にしない

博と専は形がよく似ているのに、点があるのは博だけ。ここでまちがえる人はとても多いです。

もっと深く:コテンラジオで聞く

夕方、車の後部座席で館山中の制服を着た中学生がイヤホンで歴史のポッドキャストを聞き、頭の上に鎧の武士や着物の女性、城の場面が浮かんで、目を輝かせている挿絵

コテンラジオ(COTEN RADIO)は、歴史が大好きな深井龍之介ふかいりゅうのすけさん・ヤンヤンさんと、歴史が苦手な樋口さんの3人が、1人の人物を何回にも分けてじっくり語る歴史のポッドキャストです。教科書では1行で終わる出来事の裏にある、人間くさい話が聞けます。

この記事の人物には「最澄と空海編」(全10回)があります。同じころ唐へ渡った空海と最澄の2人を並べて語るシリーズで、空海が中心になるのは5回目(子どものころ)、6回目(密教)、8回目(唐での話)、10回目(晩年)です。この記事の「20年の留学を2年で終えた」話にあたるのは、8回目「天才・空海、唐で大出世!」。5回目のタイトルは「言語センス抜群!」です。漢字の名人になる前の空海がどんな子どもだったのか、ここで分かります。

まずは1回目だけ聞いてみてください。おもしろければ、次の回が勝手に聞きたくなります。

聞くなら Voicy(アプリでもブラウザでも聞けます)がおすすめです。YouTube のように次のおすすめ動画が画面に出てこないので、気が散らずに話だけを追えます。ほかのアプリで聞くなら、Apple Podcasts/Spotifyでも聞けます。

音だけなので、通学の車の中や、寝る前の時間にそのまま聞けます。画面を見なくていいのが、ラジオのいいところです。

漢字を、みんなのものに

空海は、書がうまいだけの人ではありませんでした。故郷の讃岐では、大きなため池(満濃池)の修理を指揮し、都には身分に関係なく学べる学校(綜芸種智院)を開いています。

海の向こうの文字と学問を、自分のものにして、みんなが使えるようにした人。漢検で1字ずつ覚えることも、その続きです。

筆は選ばなくていい。でも、点1つは見のがさない。

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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