岡崎研(東京科学大学):日本語が得意なAI「Swallow」を作る、ことばの研究室

大学の研究室で、ノートパソコンの画面と、手に持った文章の束を見比べて考えこむ、長めの前髪でチェックのネルシャツの男子大学生。「東京科学大学の岡崎研」「AIに日本語を教える」「ダウンロード241万回」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

ChatGPTに日本語で質問すると、日本語で答えが返ってきます。でも、最初からそうだったわけではありません。世界のAIは、ほとんど英語で勉強してきたからです。

そのAIに、日本語を教えている研究室があります。東京科学大学の岡崎研究室です。

先に大学の名前を説明しておきます。東京科学大学は、2024年10月に東京工業大学(東工大)と東京医科歯科大学が1つになってできた大学です。「東工大」と聞いたことがある人も多いはず。岡崎研究室は、その旧東工大の側、大岡山キャンパスにある研究室です。

時計塔のある白い建物へ、まっすぐな広い道が続いている。道の両側に高い木が立っている
東京科学大学 大岡山キャンパスの本館(2025年)。旧東工大の時代から、キャンパスの顔になっている建物
写真:日本語版ウィキペディアの03さん/CC0(Wikimedia Commons)

1つ目に紹介した松尾研は、AIそのものの頭脳を作る研究室でした。岡崎研は、AIに「ことば」を教える研究室です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

夕方の家のリビングで、スマホに話しかけた言葉が文字になっていくのを、面白がってのぞきこむ館山中の女子。「人のことばを読み書きするAI」の文字。

岡崎研の研究をひとことで言うと、コンピューターに人のことばを読ませ、書かせる研究です。この分野を「自然言語処理しぜんげんごしょり」と呼びます。「自然言語」は、日本語や英語のように人がふだん使うことばのこと。プログラミング言語と区別して、こう呼びます。

翻訳アプリ、スマホの音声入力、迷惑メールのふり分け、ChatGPT。全部、自然言語処理の技術でできています。

研究室のテーマは4つです。中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
大規模言語モデル大量の文章を読ませて、ChatGPTのように話せるAIを作る
自然言語理解文章から、人の名前や、ものごとの関係、書いた人の気持ちを読み取らせる
自然言語生成翻訳・要約・文法の誤りの直しなど、AIに文章を書かせる
マルチモーダル処理写真を見て、何が写っているかをことばで説明させる

出典:東京科学大学 岡崎研究室「研究」(nlp.comp.isct.ac.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

英語が得意なAIに、日本語を教える

研究室の机で、細かく切れてばらばらになった紙の帯を手に、くやしそうに眉を寄せる茶髪の女子大学生。「日本語はたった0.1%」の文字。

岡崎研がいちばん力を入れているのが、日本語が得意なAI「Swallow(スワロー)」です。英語で「ツバメ」という意味です。同じ大学の横田研究室、産業技術総合研究所(産総研)と一緒に作っています。

始まりは2023年12月。アメリカのMeta(Facebookの会社)が公開したAI「Llama 2」をもとにしました。Llama 2は英語が得意なAIです。勉強に使った文章のおよそ90%が英語で、日本語はわずか0.10%しかありませんでした。

日本語が苦手なAIは、日本語をうまく区切れません。夏目漱石の『吾輩わがはいは猫である』の7文字を、Llama 2は13個のかけらに分けてしまいます。「吾」「輩」「猫」という字を、ひとまとまりの文字として知らないからです。

そこで研究チームは、2つのことをしました。

やったこと中身
日本語の語彙ごいを足す日本語の文字や単語を16,000個、AIの辞書に足した。日本語の文を、前の56.2%の長さで読めるようになった
日本語の文章を大量に読ませるインターネットの約634億ページから日本語だけを抜き出し、約3,121億文字の文章集を作った。商用に使える日本語の文章集で最大の規模

出典:東京工業大学ニュース「日本語に強い大規模言語モデル『Swallow』を公開」(2023年12月19日)

英語が得意な人に、日本語の辞書と大量の日本語の本を渡して、日本語を鍛え直したイメージです。こうしてできたSwallowは、日本語のテストで、もとのLlama 2よりも高い点を取りました。

Swallowは、その後も新しいAIをもとに作り直されています。2026年2月に出したQwen3 Swallowは、答えを出す前にじっくり考える力を強めたAIです。同じ大きさの公開AIの中で、日本語のテストの点が最高の水準でした。

出典:Swallow 公式サイト「Qwen3 Swallow」(2026年2月20日公開)

動画で見る

岡崎先生本人が話す動画を3本選びました。どれも講演なので大人向けですが、研究の最前線の空気が伝わります。

1本目は、国立情報学研究所のシンポジウムでの講演です(10分)。テーマは、写真とことばを一緒に扱うAI「マルチモーダル基盤モデル」。ことばだけでなく、目で見たものも分かるAIを作る話です。

2本目も国立情報学研究所のシンポジウムで、2026年5月の講演です(19分)。画像を見て日本語で答えるAI「LLM-jp-4-VL」を作った話です。岡崎先生は、国立情報学研究所が中心になって進める日本のAI作り「LLM-jp」にも加わっています。

3本目は、豊田工業大学のシンポジウムでの講演「生成AIの現状と展望」です(48分)。2024年3月の講演で、テーマは「生成AIの時代に、人と社会はどうなるのか」。長いので、高校生になってから、興味のあるところだけ見てください。

動画:国立情報学研究所 – National Institute of Informatics(YouTube 公式チャンネル)、豊田工業大学(YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

青い光が並ぶスーパーコンピューターの部屋で、ノートパソコンを抱えて満面の笑顔でガッツポーズをする若い男性の研究者。「だれでも使えるAIを公開」の文字。

だれでも使えるAI「Swallow」

Swallowの大きな特徴は、作ったAIも、勉強に使った文章のデータも、できるだけ公開していることです。会社が作るAIの多くは、中身を見せません。Swallowは、だれでもダウンロードして使えます。

数字(2026年3月時点)
公開したAIの数132
AIのダウンロード数241万回
公開したデータの数19
データのダウンロード数55万回

出典:Swallow 公式サイト(swallow-llm.github.io)

大学の研究室が作ったAIが、241万回もダウンロードされています。 会社や研究者が、自分たちのサービスや研究の土台に使っているということです。2025年には、Swallowとして「言語資源賞」も受けました。

出典:岡崎直観 本人のページ(chokkan.org)の受賞一覧

言語処理100本ノック

もう1つ、岡崎先生が作って公開しているのが「言語処理100本ノック」です。プログラミングで文章を扱う問題が100問並んだ、無料の問題集です。第1章の「準備運動」から始まり、最後の第10章ではChatGPTと同じ型のAIまで扱います。2012年から作り直しを重ね、今は2025年版が無料で公開されています。

出典:言語処理100本ノック 2025(nlp100.github.io)。著作権表示は岡崎直観(2012〜2025年)

スパコン「TSUBAME4.0」

AIを作るには、ものすごい量の計算が要ります。東京科学大学には、自前のスーパーコンピューター「TSUBAME(ツバメ)4.0」があります。2024年4月に動き始め、日本の大学や研究所のスパコンの中で「富岳」に次ぐ2番目の性能です。Qwen3 Swallowを作るときにも使いました。

展示台の上に置かれた、透明なふたの平たい機械の箱。中に部品や配線がぎっしり詰まっている
一般公開で展示されたTSUBAME4.0の計算ノード1台(HPE Cray XD665)。この箱が240台並んで動いている
写真:Fukumoto/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
TSUBAME4.0
動き始めた日2024年4月1日
AIの計算の速さ1秒間に約95京回(前のTSUBAME3.0の20倍)
場所横浜キャンパス(旧すずかけ台キャンパス)

出典:東京工業大学ニュース「東工大のスパコンTSUBAME4.0の運用を開始」(2024年6月6日)、Swallow 公式サイト「Qwen3 Swallow」。「京」は1兆の1万倍。半精度で952ペタフロップス(1秒間に95.2京回)を言い換えた

TSUBAMEは2006年の1号機から、学外の研究者や会社も使える「みんなのスパコン」として運用されてきました。大学の公式の紹介動画です(12分)。スパコンとは何か、TSUBAME4.0の中身、どんな研究に使われているかの4つのパートで、一般向けに説明しています。

動画:Science Tokyo (東京科学大学)(YouTube 公式チャンネル)

どんな人が研究しているか

大学のゼミ室で、仲間の発表を聞きながら、手を挙げて質問しようと目を輝かせる大学院生の男性。「先生は4人、学生は16人」の文字。

研究室を率いているのは、岡崎 直観(おかざき なおあき)教授です。東京大学の工学部を2001年に卒業し、東京大学の大学院で博士を取りました。東北大学の准教授を経て、2017年に東工大の教授になりました。

  • 岡崎 直観 教授:自然言語処理、大規模言語モデル、写真とことばを一緒に扱うAIが専門
  • 2016年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
  • 教科書『自然言語処理の基礎』(オーム社)の著者

出典:岡崎直観 本人のページ(chokkan.org)、東京科学大学 情報理工学院 2026年度 大学院説明会の教員一覧

2023年5月には、首相官邸に招かれ、当時の岸田首相とAIについて話し合いました。AIの次世代リーダーとの「車座対話」という会です。

出典:首相官邸「AIに関する次世代リーダーとの車座対話」(2023年5月9日)

白い壁の部屋で、いすに座ったスーツ姿の男性3人が、それぞれ小さな机のマイクの前で話している
首相官邸で開かれた「AIに関する次世代リーダーとの車座対話」。左から岸田首相、村井英樹 首相補佐官(どちらも当時)、岡崎先生(2023年5月9日)
写真:首相官邸ホームページ/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

研究室には、先生が4人(教授1人・准教授1人・助教2人)、研究員が3人います。学生は、博士課程7人、修士課程6人、学部の4年生3人です。博士課程の3人は、会社で働きながら研究している社会人です。

出典:東京科学大学 岡崎研究室「メンバー」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月12日に数えたもの)。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

この研究室に入るには

学校の図書室で、分かれ道の描かれた大きな案内図を広げ、どちらに進めばいいか少し不安そうに考えこむ館山中の男子。「2年目に系を選ぶ」の文字。

まず、東京科学大学の理工系のしくみを知っておきます。入試は「学部」ではなく「学院」ごとです。岡崎研があるのは情報理工学院。1年目はどの「系」にも入らず、いろいろな分野を学んでから、2年目に系を選びます。 情報理工学院の系は、数理・計算科学系と情報工学系の2つ。岡崎研は情報工学系です。

道流れ
学部から入る東京科学大学の情報理工学院に入る → 1年目は系を選ぶ前で、幅広く学ぶ → 2年目に情報工学系を選ぶ → 3年目に「研究プロジェクト」でいくつかの研究室の研究を体験する → 4年目に研究室に入って卒業論文を書く
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京科学大学の大学院 情報工学系の修士課程の入試に受かる

出典:東京科学大学「学院、学部・研究科」「教育の特長」、東京科学大学 岡崎研究室「配属」

岡崎研の案内には、学部4年生の配属も、大学院の一般入試も、先生の事前の許可は要らないと書いてあります。学内・学外を問わず学生を募集しています。2027年4月に大学院に入る人向けの説明会(2026年4月)でも、岡崎先生は人工知能の分野の教員として名前が載っています。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

出典:東京科学大学 岡崎研究室「配属」、東京科学大学 情報理工学院「2026年度 大学院説明会」(2026年4月18日・大岡山キャンパス)

情報理工学院がどんなところかは、大学の公式動画で見られます(5分)。

動画:Science Tokyo (東京科学大学)(YouTube 公式チャンネル)

大学の公式の受験生向けの質問コーナーには「プログラミングの経験を前提としないカリキュラム」とあります。入ってから一から学べます。また「情報理工学院の多くの学生は大学院修士課程に進学します」ともあります。

出典:東京科学大学 受験生サイト「受験生から学院へのよくある質問」

東京科学大学そのものは東京科学大学の紹介に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

プログラミングの大会の会場で、チームの仲間の横で、歯を食いしばってノートパソコンのキーボードを打つ学ランの男子高校生。「高校生でスパコンに挑む」の文字。

東京科学大学は、中学生でも行けるイベントを開いています。

イベント対象いつ
すずかけサイエンスデイ子どもから大人まで(無料)2026年は5月16日・17日。横浜キャンパスで研究室の公開や実験教室があり、TSUBAME4.0の一般公開もあった
理工学系オープンキャンパス高校生・受験生・保護者2026年は8月7日(オンライン)。情報理工学院の説明や模擬講義があった
スーパーコンピューティングコンテスト(SuperCon)高校生・高専生のチーム2026年は予選の締め切りが6月12日、本選が8月17〜21日。2025年の本選はTSUBAME4.0、2026年は富岳を使った

出典:東京科学大学「すずかけサイエンスデイ2026」「高校生・受験生のための東京科学大学 理工学系オープンキャンパス2026」、スーパーコンピューティングコンテスト公式サイト「SuperCon2026」、東京科学大学「SuperCon 2025」。2027年の日程はまだ出ていないので、各ページで確かめること

白い床の部屋に、青い模様の入った黒い背の高い計算機の棚がずらりと並んでいる
TSUBAME4.0の計算機の列(2026年5月16日。この日はすずかけサイエンスデイの一般公開だった)
写真:Fukumoto/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

SuperConは1995年から毎年夏に続く、高校生・高専生のためのプログラミングの大会で「夏の電脳甲子園」とも呼ばれます。高校生になったら、プログラミングの好きな友だちとチームを組んで、予選の問題に挑戦してみてください。

ことばのAIを作るには、3つの力が要ります。1つ目は数学。AIは、ことばを数字の並びに置きかえて計算します。中学の関数や確率が、その入口です。2つ目はプログラミング。高校の「情報」の授業から始まります。3つ目は英語。研究の論文は、ほとんど英語で書かれています。そして、国語の力も役に立ちます。「この文はどこで区切るか」「この言葉はどういう意味か」を考えることが、そのまま研究のテーマになるからです。

塾長 小池

AIに日本語を教える研究は、人が日本語をどう読んでいるかを考える研究でもあります。数学と英語と国語、全部が武器になります。

まとめ

夜の自分の部屋で、古い小説の文を指でなぞりながら、ノートに区切りの線を引いてワクワクする館山中の女子。「数学・英語、そして国語」の文字。
  • 東京科学大学は、2024年10月に東工大と東京医科歯科大学が1つになった大学。岡崎研は旧東工大の大岡山キャンパスにある
  • 岡崎研は、コンピューターに人のことばを読ませ、書かせる研究室(自然言語処理)
  • 英語が得意なAIに日本語を教えた「Swallow」は、だれでも使えるように公開され、ダウンロードは241万回
  • 大学のスパコンTSUBAME4.0も、AI作りに使っている
  • 入る道は、情報理工学院(2年目に情報工学系を選ぶ)から、または大学院から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、数学・英語・プログラミング、そして国語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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