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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
お寿司屋さんのマグロは、ほとんどが海でとった魚か、海でとった子どものマグロを大きくした魚です。どちらも、もとは天然のマグロ。その「もと」まで人の手で育てることに、世界で初めて成功したのが近畿大学水産研究所です。2002年のことで、ここで育ったマグロは「近大マグロ」と呼ばれています。
近畿大学水産研究所は、ふつうの研究室とは少し違います。大学の中にある「研究所」で、和歌山県・富山県・鹿児島県の海辺や川辺に6つの実験場を持ち、魚を実際に育てながら研究しています。館山も海の町です。海や魚の仕事に少しでも興味がある人に、いちばん先に知ってほしい研究所として紹介します。


近畿大学水産研究所の研究をひとことで言うと、海の魚を、卵から親まで人の手で育てて、ずっと続けられる養殖にする研究です。
始まりは戦争が終わった直後です。初代総長の世耕弘一さんは「日本人の食べ物を守るには、陸の畑だけでは足りない。海を耕して、海の幸を生み出さなければならない」と考えました。こうして1948年、和歌山県白浜町に研究所の前身ができました。今も合い言葉は「海を耕す」です。
研究と言っても、実験室の中で終わりません。海に浮かべた生簀と陸の水槽で本物の魚を育て、えさを工夫し、病気を防ぎ、育ちのよい魚どうしをかけ合わせます。6つの実験場は、それぞれ得意な魚が違います。
| 実験場(場所) | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| 白浜(和歌山県白浜町。本部) | マダイなどを育てる。病気の予防や、育ちのよい魚を選んで次の世代を作る品種改良 |
| 大島(和歌山県串本町) | クロマグロの完全養殖を成しとげた場所。マグロやシマアジの赤ちゃんの育て方 |
| 浦神(和歌山県那智勝浦町) | 魚のえさの研究。生のえさしか食べなかったマグロの赤ちゃん用に、人が作るえさを開発した |
| 新宮(和歌山県新宮市) | ただ1つの川の水の実験場。チョウザメ(キャビア)・アユ・ナマズなど |
| 富山(富山県射水市) | 日本海側ただ1つの実験場。サクラマスやノドグロを陸の水槽で育てる |
| 奄美(鹿児島県瀬戸内町) | 1年中あたたかい海。マグロの卵を各地の実験場へ送る基地 |
出典:近畿大学水産研究所「所長あいさつ」「開設と歩み・実験場の歴史」「研究所のご案内」(kindai.ac.jp、2026年10月11日に確認)。中学生向けの言い方は小池がまとめた
まずは近畿大学の公式動画です(3分16秒)。「海を耕せ」の始まりから、クロマグロの完全養殖までを短くまとめています。
次は、クロマグロの完全養殖を成しとげた大島実験場を、ドローンで空から撮った映像です(2分27秒)。海に丸い生簀がいくつも浮かんでいます。この中で、マグロが泳ぎ続けています。
最後は関西テレビのニュースです(5分52秒)。完全養殖のマグロを初めて出荷してから20年がたった2024年に、研究所が今どんな「養殖の未来」を考えているかを取材しています。
動画:KINDAI UNIVERSITY(近畿大学の YouTube 公式チャンネル)、カンテレNEWS(関西テレビの YouTube 公式チャンネル。2024年10月10日放送)


クロマグロの研究が始まったのは1970年です。国(水産庁)の研究に加わり、和歌山県串本町の紀伊大島に、今の大島実験場を開きました。
マグロはとても育てにくい魚です。海でとった子どものマグロ(ヨコワ)を生簀に入れても、ほとんどが1年以内に死んでしまいました。1年以上育てられたのは、たった1例です。肌が傷つきやすく、口を少し開けたまま泳ぎ続けないと息ができないので、止まることもできません。
出典:近畿大学水産研究所「クロマグロ養殖研究のはじまり」、アーマリン近大「近大マグロ」(a-marine.co.jp)


国の研究は3年で終わりました。それでも研究所は、魚を育てて売ったお金で、自分たちだけで研究を続けます。1979年、5年育てたマグロが生簀の中で卵を産みました。世界で初めて、育てたクロマグロから卵がとれた瞬間です。ところが産卵は1982年を最後に止まり、次に卵がとれたのは12年後の1994年でした。
1995年と1996年にとった卵は、およそ320万粒。そこから育って生き残ったのは20尾だけでした。この20尾が大人になり、2002年に卵を産みます。人が育てた親から生まれた卵を、また人が育てる。これを完全養殖と言います。天然のマグロに頼らなくても、マグロを育て続けられるようになりました。
卵から親になるまで生き残ったのは、0.0006%です。研究を始めてから32年がたっていました。2004年には、完全養殖のマグロ(2歳・約20kg)を世界で初めて出荷しました。
出典:近畿大学水産研究所「独立採算制による研究の継続と産卵の成功」「完全養殖の成功」(kindai.ac.jp)
マグロの卵は直径1mmほどで、ふ化した赤ちゃんは3mmほどです。陸の水槽でプランクトンを食べて育ち、1か月で5〜6cmになると、海の生簀(直径30m・深さ8〜10m)へ移ります。そこからの育ち方はものすごく、1年で8〜10kg、3年で80kg、5年育てると150kgにもなります。


出典:アーマリン近大「近大マグロ」(a-marine.co.jp)。育てている場所は和歌山県串本町・鹿児島県瀬戸内町と、豊田通商の子会社が育てる長崎県五島市


マグロだけではありません。近畿大学水産研究所は、日本の養殖そのものを形づくってきました。
1950年代、第2代所長の原田輝雄さんが、化学繊維の網で作った小さな生簀でブリ(ハマチ)を育てる方法を作りました。それまでは湾を仕切って魚を放し飼いにしていました。小さく区切って育てるこのやり方は今も世界の養殖の中心で、国内で15万トンにのぼるブリの養殖のきっかけになりました。
マダイは、育ちのよい魚を選んで親にすることを50年以上、10世代をこえて続け、育つ速さを約2倍にしました。ちがう種類の魚をかけ合わせる研究もあり、イシダイとイシガキダイの「キンダイ」、ブリとヒラマサの「ブリヒラ」、クエとタマカイの「クエタマ」などが生まれています。
出典:近畿大学水産研究所「開設と歩み・実験場の歴史」「白浜実験場」「所長あいさつ」、アーマリン近大「ブリヒラ」「クエタマ」
「白身のトロ」と呼ばれる高級魚ノドグロ(正式な名前はアカムツ)は、深い海にすむので育てるのがとても難しい魚です。富山実験場は2015年から研究を続け、2025年10月に、人が育てた親から生まれた卵をふ化させて完全養殖を達成しました。ノドグロの完全養殖は世界で初めてです。ただ、生まれたノドグロのほとんどが雄で、雌は3%ほど。次の課題はもう見えています。
出典:近畿大学 プレスリリース「世界初!近畿大学がノドグロの完全養殖に成功」(2026年2月12日)
所長の家戸敬太郎さんが、ノドグロの研究と「なぜ世界初を何度も出せるのか」を話しているニュースです(14分33秒)。
川の水の新宮実験場では、キャビアをとるチョウザメを研究しています。キャビアは雌からしかとれません。そこで、生まれる魚を雌にそろえる研究を進め、雌の印だけを持つ「超メス」を世界で初めて見つけました。その取り組みを取材した日本テレビのニュースです(4分41秒)。
出典:近畿大学水産研究所「新宮実験場」。動画:ABCテレビニュース、日テレNEWS(どちらも YouTube 公式チャンネル。日テレNEWS は2021年11月15日放送)
研究で育てた魚を世の中に届けるために、2003年に大学発の会社「アーマリン近大」が生まれました。2004年に完全養殖のマグロを初めて出荷し、2006年に「近大マグロ」の名前を商標にしています。
2013年には、大阪のグランフロント大阪に、日本で初めての養殖魚だけの料理店「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」を開きました。今は大阪店・銀座店・東京駅の「はなれ グランスタ東京店」の3店があります。お店で聞いたお客さんの声は、研究所に戻されて次の研究に使われます。研究・生産・お店が1つの輪になっていることが、この研究所のいちばんの強みです。


出典:アーマリン近大「沿革」、近畿大学水産研究所「水産研究所の概要」、近大卒の魚と紀州のめぐみ(kindaifish.com、2026年10月11日に確認)
グランフロント大阪店で、朝から養殖魚をさばく職人さんに密着した近畿大学の公式動画です(19分37秒)。研究所で育った魚が、お皿にのるまでの最後の場面です。
動画:KINDAI UNIVERSITY(近畿大学の YouTube 公式チャンネル)


近畿大学水産研究所を率いるのは、所長の家戸 敬太郎さんです。
研究所の教員は、所長をふくめて12人。6つの実験場に分かれ、技術スタッフや学生と一緒に、毎日魚の世話をしながら研究しています。
出典:近畿大学水産研究所「新所長の就任について」(2025年4月)「スタッフ」「歴代所長」、近畿大学 プレスリリース(2026年10月7日)。教員の人数はスタッフのページを2026年10月11日に数えたもの。所属する学生の数は公式に出ていないので書いていない
ふつうの研究室は、教授1人と学生で作ります。近畿大学水産研究所は、大学が持つ研究所で、海辺の実験場に研究者と技術スタッフがいて、そこへ学生が来て研究する組織です。fuRo と同じく、松尾研のような研究室とはここが違います。


水産研究所は研究室ではないので、「水産研究所に入る」という入試はありません。学生として近づく入口は、近畿大学 農学部 水産学科です。
| 道 | 流れ |
|---|---|
| 近畿大学に入る(学部から) | 農学部 水産学科(奈良キャンパス)に入る → 魚・海・えさ・病気・食品を幅広く学び、船の操縦や潜水の授業も → 研究所の実験場に住みこんで卒業研究をする道がある |
| ほかの大学から入る(大学院から) | 理系の大学を卒業する → 近畿大学大学院 農学研究科 水産学専攻(博士前期課程)の入試に受かる |
出典:近畿大学 農学部 水産学科「カリキュラム」(2026年度)「進路」、近畿大学「大学院 教育方針(農学研究科)」。大学院の入試日程は公式サイトで確かめること
水産研究所は、水産学科の学部生と大学院生の研究を指導しています。研究所に配属された学生は、研究所に住みこみ、本物の養殖の現場で魚を育てながら、自分の研究テーマに取り組みます。たとえば奄美実験場では、学生が3年生の半期と4年生の後期、あわせて1年間住んで卒業研究をし、マグロが卵を産む季節には夜の採卵作業も手伝います。
出典:近畿大学水産研究所「水産研究所の概要」「奄美実験場」
水産学科の卒業生は、養殖の会社、食品・製薬の会社、水族館や博物館、環境の調査の会社などで働いています。毎年2割ほどが大学院へ進みます。潜水士や小型船舶の免許、理科の教員免許、学芸員の資格も取れます。研究所は大学院からもう一度選び直せるので、ほかの大学の水産や生物の学部で4年間学び、大学院で近畿大学に来る道もあります。
出典:近畿大学 農学部 水産学科「進路」






いちばん身近なのは、近大マグロを実際に食べてみることです。東京の銀座店と、東京駅の「はなれ グランスタ東京店」なら、館山からでも行けます。食べたら、それが1mmの卵から育った魚だと思い出してください。
| 見る・聞く・食べる | いつ・どこで |
|---|---|
| 近畿大学水産研究所の料理店 | 銀座店(東京都中央区銀座6丁目、銀座コリドー街)、はなれ グランスタ東京店(東京駅の中)、大阪店(グランフロント大阪) |
| 近畿大学水産研究所 公開講座 | 毎年1回。2025年は11月29日に和歌山県串本町で開かれ、オンラインでも聞けた。講座の録画は近畿大学の YouTube 公式チャンネルで見られる |
| 特別展「近大マグロ」誕生ストーリー | 2026年10月29日(木)まで、近畿大学 東大阪キャンパス(大阪府)。平日10:00〜16:00、入場無料・予約不要。23年育てたマグロ(253cm・214kg)のはく製を展示 |
出典:近大卒の魚と紀州のめぐみ(kindaifish.com)、アーマリン近大「大阪店・銀座店」、近畿大学水産研究所「令和7年度 近畿大学水産研究所公開講座」、近畿大学 プレスリリース(2026年10月7日)。研究所の実験場は研究のため、一般の見学は原則受けていない。日程は変わることがあるので、行く前に公式サイトを確かめること


館山の海も、魚の仕事の場です。館山をふくむ房総半島の南端(富津市から鴨川市まで)には漁港が45あり、1,527隻の漁船があります。まき網や定置網の漁のほか、いろいろな養殖も行われています。近畿大学がマグロで見せたように、「とる漁業」に「育てる漁業」を足すことは、海の町の未来そのものです。
出典:千葉県 館山水産事務所「館山水産事務所管内概要」(2025年12月1日更新。漁船の数は2025年4月1日現在)
魚を育てる研究には、教科が全部つながっています。320万粒から20尾が生き残る割合を出すのは数学、水温や海水にとける酸素は理科(化学・生物)、育ち方をグラフにして次の手を考えるのも数学です。今の水産学科では AI の授業もあり、世界の研究を読むには英語が要ります。中学生のうちは、数学の割合と関数、理科の生物から逃げないこと。これが水産研究所にいちばん近づく勉強です。


0.0006%しか生き残らなくても、32年続けたから世界初になりました。1問ずつ解き続ける力は、そのまま研究の力になります。








ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて