宮下研究室(明治大学):なめると味がするテレビと、電気で塩味を強める食器を作る研究室

味の液体が入った小瓶とチューブが並ぶ研究室で、ふしぎな形の立体模型を手のひらにのせて見つめる、ゆるいパーマで紫のトレーナーの男子大学生。「明治大学の宮下研究室」「なめると味がするテレビ」「イグ・ノーベル賞の研究」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

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テレビの画面に映ったケーキをなめると、ちゃんとケーキの味がする。塩を減らしたスープなのに、スプーンを替えるだけでしょっぱく感じる。どちらも、マンガの話ではありません。東京の明治大学の、宮下研究室が本当に作ったものです。

宮下研究室は、味をコンピュータで記録して、別の場所で再生する研究をしています。この研究のはじまりの論文で、宮下芳明先生は2023年に「イグ・ノーベル賞」を受けました。今回は、明治大学の理系から、この研究室を紹介します。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

研究室の作業台で、スープの器に細い棒の形の味センサを差し、横の装置のランプを身を乗り出して夢中で見るショートボブの女子大学生。「味を記録して別の場所で再生」の文字。

宮下研究室の研究をひとことで言うと、だれでも思いどおりの「表現」ができる道具を、コンピュータで作る研究です。

音はマイクで録音して、スピーカーで流せます。景色はカメラで撮って、テレビで見られます。でも、味はまだ記録も再生もできません。宮下研究室は、この「味のマイク」と「味のスピーカー」を作ろうとしています。これを「味覚メディア」と呼びます。

研究室のテーマは、公式サイトに4つ載っています。中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
表現の民主化絵・音楽・料理など、プロにしかできなかった表現を、だれでもできるようにする道具を作る
味覚・嗅覚きゅうかくメディア味やにおいを、写真や音楽のように記録して、別の場所で再生する
AIの活用ChatGPTのようなAIと話しながら、新しい味や作品を生み出す
次世代インタフェースマウスやタッチパネルより使いやすい入力(目の動き・脳波・3次元の入力)を作る

出典:明治大学 宮下研究室「About」(miyashita.com)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

研究室がいちばん有名になったのは、電気で味を変える研究です。食器に、体に害のない、ごく弱い電気を流します。すると、口に入れた食べ物の味の感じ方が変わります。これを「電気味覚」と呼びます。

この考えを最初に示した2011年の論文「Augmented Gustation using Electricity(電気で味覚を広げる)」が、2023年9月にイグ・ノーベル賞の栄養学賞を受けました。イグ・ノーベル賞は、「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる賞です。論文を一緒に書いた中村裕美さんは、そのとき宮下研究室の大学院生でした。

出典:明治大学 プレスリリース「明治大学 総合数理学部 宮下芳明教授らがイグ・ノーベル賞(栄養学)を受賞」(2023年9月15日)

暗い舞台で、シルクハットをかぶった男性が「Ig」と書かれた演台の前に立ち、紙を読み上げている
イグ・ノーベル賞の授賞式(2026年、スイス・チューリッヒ)。宮下先生が受賞した2023年の授賞式はオンラインで開かれた
写真:Albinfo/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

受賞を伝えたニュースです(2分)。電気が流れる箸の研究と、宮下先生の話が出てきます。

動画:日テレNEWS(日本テレビの YouTube 公式チャンネル)

画面をなめると味がするテレビ

研究室の展示コーナーで、小型のテレビの前に顔を近づけ、味見をして満面の笑顔になる大学生の男性。吹き出しの中にいちごのケーキ。「画面の料理を味見できる」の文字。

宮下研究室の代表作が、「味わうテレビ」TTTV(ティー・ティー・ティー・ブイ)です。2021年に発表されました。

しくみは、こうです。まず、料理の味を「味センサ」という機械で測って、数字にします。テレビの中には、甘い・しょっぱい・すっぱいなどの味のもとになる液体が入っています。数字のとおりに液体を混ぜて、画面の上の透明なシートに噴霧ふんむします。そのシートをなめると、画面に映っている料理と同じ味がします。シートは巻き取られて、毎回新しい面が出てきます。

出典:明治大学 宮下研究室「TTTV: 味わうテレビ、誕生。」(YouTube 公式チャンネルの説明欄)

研究は、そこで止まりません。新しいTTTV3は、20種類の液体を0.02ミリリットル単位で混ぜて、目の前の飲み物や食べ物の味を変える調味の機械です。料理の名前をマイクに向かって言うか、写真をカメラに見せると、AIが味を考えて出してくれます。

できること例
産地の違いまで再現するいろいろな産地のチョコレートの味
飲み物の味を変えるソムリエの練習に使える精度で、ワインの味を変える
AIと話して味を作る思い出の味や、まだだれも食べたことのない味

出典:明治大学 総合数理学部「学部ガイドブック2027」の研究室紹介(宮下研究室)、明治大学 宮下研究室「TTTV3」(YouTube 公式チャンネルの説明欄)

食べられないものの味を、安全に味わえるのも、味覚メディアの強みです。研究室は、毒キノコの味を安全に体験する方法や、カニのアレルギーがある人がカニの味を楽しむ方法も発表しています。

出典:明治大学 プレスリリース(2023年9月15日)

動画で見る

宮下研究室の公式チャンネルには、研究のたびに短い動画が上がっています。まずはTTTVです(2分)。画面をなめると味がする、という体験そのものが分かります。「味見できるメニュー」「味覚ガチャ」「味覚ピアノ」など、遊び方の例も出てきます。

次はTTTV3です(1分)。たくさんの液体を少しずつ混ぜて、目の前の食べ物の味を変えていくようすが見られます。

3本目は、明治大学の公式チャンネルの動画です(15分)。お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さんが研究室を訪ねて、電気味覚のラーメン、白ワインの味を変える機械、ゆでただけのパスタを体験します。最後に、宮下先生が「なぜこの研究をしているのか」を話します。

動画:明治大学 宮下研究室(YouTube 公式チャンネル)、明治大学 Meiji University(YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

家の食卓で、塩を減らしたみそ汁を前に少ししょんぼりしながら、細いコードのついたスプーンを手に取る白髪まじりの男性。「減塩でもしょっぱく感じる」の文字。

研究室から生まれた商品でいちばん有名なのが、キリンの「エレキソルト」です。

宮下研究室とキリンホールディングスは、2019年から一緒に研究してきました。塩を減らした食事は、どうしても味が薄く感じます。そこで、食器から0.1〜0.5ミリアンペアのごく弱い電気を流して、塩味を強く感じさせる電気の流し方を作りました。40〜65歳の31人で試すと、塩を30%減らした食べ物の塩味が、約1.5倍に感じられました。 31人のうち29人が「塩味が増した」と答えています。

年できごと
2019年宮下研究室とキリンが共同研究を始める
2022年9月塩味を約1.5倍に感じさせるスプーンとお椀を発表
2024年5月「エレキソルト スプーン」を発売(最初は200台。約7か月で予定の7倍を超える注文)
2025年9月「エレキソルト カップ」と新しいスプーンを発売
2025年10月グッドデザイン賞の金賞

出典:キリンホールディングス ニュースリリース(2022年9月7日、2024年5月20日、2025年9月9日)、明治大学 宮下研究室「宮下研2025年度実績」

キリンの公式チャンネルにある、エレキソルトが生まれるまでの動画です(3分)。

動画:KIRIN公式チャンネル(YouTube)

研究室は、ほかの会社とも組んでいます。2025年には、アサヒグループと、香りや食感を再現する研究を始めると発表しました。2025年度の1年間で、研究室は16件の賞を受け、新聞・テレビ・ネットで51回取り上げられています。

出典:明治大学 宮下研究室「宮下研2025年度実績」(miyashita.com)

どんな人が研究しているか

夜の研究室で、液体を混ぜる試作の機械からしずくがこぼれて失敗し、くやしくて歯を食いしばる、黒髪を後ろで結んだ大学院生の女性。「失敗していい場所が大学」の文字。

研究室を率いるのは、宮下芳明(みやした ほめい)教授です。1976年生まれで、北陸先端科学技術大学院大学で博士(知識科学)を取りました。味の研究に取り組む前は、音楽づくりを手伝うソフトや、3Dプリンタの研究をしていました。

  • 宮下 芳明 教授:大学では「コンテンツ・エンタテインメント概論」「表現とインタフェースの研究」を教える
  • 2025年からは千葉大学の客員教授も務める
  • 中学生向けの本も書いている(下の「中高生のうちにできること」)

出典:明治大学出版会『コンテンツは民主化をめざす』著者紹介、明治大学 総合数理学部「学部ガイドブック2027」、明治大学 宮下研究室「宮下研2025年度実績」、Meiji.net「百聞は一食にしかず!」(2023年9月27日)

学生は、大学院の修士2年が5人、修士1年が3人、学部の4年生が8人、3年生が8人です。宮下先生は、学生を「自分と対等な研究者」として扱っています。論文にも、だれが先生でだれが学生かは書きません。学生には「大学はたくさん失敗していい場所」と伝えているそうです。

出典:明治大学 宮下研究室「Members」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月12日に数えたもの)、Meiji.net「百聞は一食にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの最前線」(2023年9月27日)。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

塾長 小池

イグ・ノーベル賞の論文を一緒に書いたのは、当時の大学院生です。先生と学生が同じ研究者として並ぶ研究室だから、学生のアイデアが世界に届きます。

この研究室に入るには

高い校舎の前の石畳の広場で、ノートパソコンを抱えて校舎を見上げ、わくわくした顔の大学生の男性。「3年生から研究室へ」の文字。

宮下研究室は、明治大学 総合数理学部の先端メディアサイエンス学科にあります。場所は、東京の中野駅の近くにある中野キャンパスです。明治大学の理系というと、理工学部と農学部がある生田キャンパス(神奈川県川崎市)が有名ですが、総合数理学部は中野です。

青空の下に建つ、茶色の格子模様の高い校舎。右側に低い建物と木が並んでいる
明治大学 中野キャンパスの高層棟(東京都中野区・2013年)。総合数理学部はこのキャンパスにある
写真:Kakidai/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
道流れ
明治大学に入る(学部から)総合数理学部 先端メディアサイエンス学科に入る → 1・2年生でプログラミングや数学を学ぶ → 3年生から研究室に入る
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の学部を卒業する → 明治大学大学院 先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス専攻の修士課程の入試に受かる

出典:明治大学 総合数理学部「学部ガイドブック2027」「先端メディアサイエンス学科 学科案内」、明治大学 宮下研究室「研究室説明会」(2025年1月)、明治大学大学院 先端数理科学研究科「2027年度 大学院学生募集要項」

先端メディアサイエンス学科は、1学年120人です。卒業すると「学士(理学)」になります。3年生からは講義が減り、研究室で過ごす時間が増えます。2024年度の卒業生は、約半分(46.8%)が大学院へ進みました。 就職先には、楽天グループ、富士通、NEC、アクセンチュア、野村総合研究所、コナミグループなどがあります。

出典:明治大学 総合数理学部「学部ガイドブック2027」(進路は2024年度の学科全体の数字で、宮下研究室だけの数字ではない)

石畳の広場に細い木が並び、奥に高い校舎と、ガラス張りの低い建物が見える
中野キャンパスの広場と校舎(2013年)
写真:掬茶/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

大学院の入試は、年に2回あります。出願のときに、指導を受けたい先生を書きます。研究室は大学院からもう一度選び直せます。ほかの大学を卒業した人も、ここから入れます。

学科のことは、明治大学の公式チャンネルの学科ガイダンスで見られます(4分)。

動画:Meiji University(明治大学の YouTube 公式チャンネル)

明治大学そのものは明治大学の紹介に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

家の勉強机で、数学のノートと英単語カードを前に、方程式が解けて得意げにうなずく館山中の制服の女子。「まずは方程式と英単語」の文字。

高校生になったら、明治大学のオープンキャンパスに行けます。総合数理学部は、中野キャンパスと生田キャンパスの両方で参加しています。

イベント対象いつ
明治大学 オープンキャンパス高校生など(事前にLINEで参加登録)2026年は中野キャンパスが8月6日・7日、生田キャンパスが8月2日・3日だった。2027年の日程はまだ出ていない

出典:明治大学 入試総合サイト「オープンキャンパス」(meiji.ac.jp)。研究室を見学できるかは年によって違うので、案内で確かめること

中学生のうちに読めるのが、宮下先生の本『13歳から挑むフロンティア思考』(日経BP、2025年)です。イグ・ノーベル賞の研究が生まれた考え方を、13歳に向けて書いた本です。「若い人に贈る読書のすすめ2026」にも選ばれました。

出典:明治大学 宮下研究室「宮下研2025年度実績」

味の研究も、中身は数学とプログラミングです。味センサの数字を「どの液体を何ミリリットル混ぜるか」に直すのは、中学の方程式と比例の考え方です。AIに味を考えさせるのはプログラムで、論文はほとんどが英語です。中学生のうちは、数学の文字式と方程式、そして英語の単語から逃げないこと。これが、いちばん宮下研究室に近づく勉強です。

塾長 小池

「こんな物があったら面白い」を、本当に作ってみせるのが研究室です。作るための道具が、数学とプログラミングです。

まとめ

大学の展示会場で、色とりどりの液体の小瓶が並ぶ展示台に顔を近づけ、目を輝かせるブレザーの制服の男子高校生。「味の研究も中身は数学」の文字。
  • 宮下研究室は、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科の研究室。味をコンピュータで記録して再生する「味覚メディア」を作っている
  • 画面をなめると料理の味がする「味わうテレビ」TTTVを作り、AIと話して味を作るTTTV3まで進めている
  • 電気で味を変える研究で、2023年にイグ・ノーベル賞。キリンと作ったエレキソルトは、塩を減らした食べ物の塩味を約1.5倍に感じさせる
  • 学生は先生と対等な研究者。イグ・ノーベル賞の論文も、先生と大学院生が一緒に書いた
  • 入る道は、総合数理学部(中野キャンパス)から3年生で研究室へ、または大学院から
  • 近づく勉強は、数学・プログラミング・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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