菅野研(早稲田大学):人の暮らしに入っていくロボットを、世界初の人型ロボットの流れで作る研究室

大学のロボット研究室で、二足歩行ロボットのひざの関節を小さな工具で調整する、刈り上げでえんじ色のパーカーの男子大学生。「早稲田大学の菅野研」「人と暮らすロボット」「世界初の人型の流れ」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

人型のロボット、つまりヒューマノイドの研究で、日本の先頭を50年以上走ってきた大学があります。早稲田大学です。1973年、早稲田は2本の足で歩き、手で物をつかみ、日本語で話すロボット「WABOT-1」を完成させました。世界で初めての本格的な人型ロボットと言われています。

今回紹介するのは、その流れを今も受け継いでいる早稲田大学の菅野(すがの)研究室です。国立大学だけが研究の先頭にいるわけではありません。私立の早稲田の理工は、ロボットでは世界の最前線にいます。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

家の居間で、白い人型ロボットがいすから立ち上がるおばあさんの腕と背中をそっと支えるのを、テーブルにひじをついて夢中で見つめる館山中の女子。「人のすぐそばで働くロボット」の文字。

菅野研の研究をひとことで言うと、家や病院や介護の現場で、人のすぐそばで一緒に働けるロボットを作る研究です。

工場のロボットは、柵の中で、人から離れて働きます。人にぶつかると危ないからです。菅野研が作りたいのは逆で、人の体にさわって支えたり、人に靴下をはかせたりできるロボットです。そのためには、ぶつかってもけがをさせない柔らかい体と、相手の動きを見て力を加減する頭の両方が要ります。

研究室には今、13の班があります。そのうち5つを中学生向けに言い換えると、こうなります。

班の名前中学生向けに言うと
人支援班人を車いすに移したり、靴下をはかせたりする介護のロボット
アーム班ぶつかってもけがをさせない、安全なロボットの腕
ハンド班柔らかい物もこわさずにつかめる、ロボットの手
遠隔操作・災害対応班人が入れない災害の現場で、遠くから動かして作業するロボット
WAMOEBA班「ロボットに心は生まれるのか」を確かめる研究

出典:早稲田大学 菅野研究室「研究紹介」(sugano.mech.waseda.ac.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

先生の考えははっきりしています。菅野先生は、ロボットを人の形にする理由を「親しみやすいから」よりも、家も道具も人の体に合わせて作られているからだと話しています。人の家で働くなら、人と同じ形の体がいちばん動きやすいということです。

出典:早稲田ウィークリー「ロボットは家族になれるか」(2018年7月20日、菅野重樹教授と吉藤健太朗さんの対談)

早稲田は、人型ロボットが生まれた場所

大学の建物の展示コーナーで、古い大きな人型ロボットをガラス越しに見上げ、目を輝かせる眼鏡の男子大学生。「1973年に歩いて話した」の文字。

早稲田のロボット研究は、1970年に始まりました。中心にいたのが、「日本ロボット研究の父」と呼ばれる加藤一郎かとういちろう教授です。学科の垣根をこえて先生たちが集まり、「WABOT(ワボット)」というプロジェクトを立ち上げました。

年できごと
1970年加藤一郎教授のもとでWABOTプロジェクトが始まる
1973年WABOT-1が完成。2本足で歩き、手で物をつかみ、簡単な日本語で話す
1984年WABOT-2を発表。楽譜を読んで、両手両足で電子オルガンをひく
1985年WABOT-2がつくば科学万博で演奏する
2007年菅野研が人間共存ロボットTWENDY-ONEを発表
2020年菅野先生のAIRECの研究が、国の大型研究「ムーンショット」に選ばれる

出典:早稲田大学 次世代ロボット研究機構「早稲田のロボット:ヒューマノイド研究50年の歩み」(2026年6月10日)、早稲田大学「世界をリードするWASEDAのロボット研究の最先端を朝日新聞で紹介」(2013年10月26日)、早稲田大学「ムーンショット型研究開発制度に採択」(2020年10月29日)

眼鏡をかけ、背広にネクタイ姿の年配の男性の肖像写真
WABOTプロジェクトを始めた加藤一郎教授(1992年)
写真:日本学士院ホームページ/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

WABOT-1の力は、1歳半くらいの子どもにたとえられました。今の目で見ると動きはゆっくりです。それでも、歩く・つかむ・話すを1台でやったロボットは、それまで世界のどこにもありませんでした。早稲田大学の公式チャンネルが2026年に出した、英語の紹介動画です(2分)。WABOT-1は今も西早稲田キャンパスの63号館に飾られています。

次がWABOT-2です(2分、英語)。楽譜を自分で読み、両手と両足で電子オルガンをひきます。人の歌声に合わせて伴奏を変えることもできました。

動画:Waseda University 早稲田大学(YouTube 公式チャンネル)

ガラス張りの高い大学の建物の前に、緑の葉をつけた木が立っている
早稲田大学 西早稲田キャンパスの63号館(2010年)。1階にWABOT-1が展示されている
写真:Reputeless/CC BY 3.0(Wikimedia Commons)

じつは、このWABOT-2のオルガン演奏を研究していた大学院生が、菅野先生です。 菅野先生は中学生のとき、加藤先生の人型ロボットにあこがれました。早稲田に入って加藤先生の研究室に進み、修士論文も博士論文も、このオルガンをひくロボットで書いています。中学生のときのあこがれが、そのまま一生の仕事になりました。

出典:IEEE History Center「Oral-History: Shigeki Sugano」(2014年9月15日の聞き取り。IEEE〈アメリカの電気・電子の学会〉の歴史センター)、早稲田大学 次世代ロボット研究機構(2026年6月10日)

白い人型ロボットの手を、スーツ姿の男性がかがんで握っている。後ろに作業着の学生たちが立っている
早稲田の次世代ロボット研究機構で、2本足で歩く人型ロボットWABIAN-2R(高西研究室)を見るイギリスの外務大臣(当時)(2017年)
写真:British Embassy TokyoUK in Japan- FCO/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

動画で見る

菅野研の代表作が、2007年に発表したTWENDY-ONE(トゥウェンディ・ワン)です。身長147cm、重さ111kgの人型ロボットで、車輪でどの方向にも動けます。早稲田大学の公式の紹介動画です(1分、英語)。こわれやすい物もあつかえる柔らかい手と、人にやさしくふれるためのセンサーを紹介しています。

TWENDY-ONEは、柔らかいトーストをトングでつまむことも、人の体を支えることもできます。強い力と、こわさない柔らかさを1台の中で両立させたのが、すごいところです。体のあちこちに、外からの力を受け流すしくみを入れてあります。

出典:早稲田ウィークリー(2018年7月20日)、ITmedia NEWS(2007年11月27日)、AFPBB News(2007年11月28日)

次は、今いちばん力を入れている人型ロボットAIRECの紹介動画です(7分、日本語と英語を並べて表示)。AIRECは「AI-driven Robot for Embrace and Care」の頭文字で、日本語では「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」です。研究の目標と、ロボットの動きをまとめて見られます。

最後は、AIRECが人に靴下をはかせる動画です(30秒)。人の足の向きを見て、手にかかる力を加減しながらはかせます。人の体に直接ふれる作業は、ロボットにとっていちばん難しい仕事の1つです。

動画:AIREC Waseda(菅野研などのAIRECプロジェクトの YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

介護の練習用の部屋で、大きな人型ロボットがベッドに座る人の体を支える実験を、歯を食いしばって見守る女子大学院生。「介護を手伝う国の大型研究」の文字。

国の大型研究「ムーンショット」のロボット AIREC

国は、2050年の社会を大きく変える研究に大きなお金を出す「ムーンショット型研究開発制度」を進めています。2020年、その公募で、全体で164件の応募から29件が選ばれました。その1つが、菅野先生がリーダーを務める「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」です。

目標は、2050年に、家事や接客、人手が足りなくなる介護や医療の現場で、人と一緒に働けるAIロボットを作ることです。2023年度の国の評価では、総合評価「A」がつきました。

出典:早稲田大学「ムーンショット型研究開発制度に採択」(2020年10月29日)、科学技術振興機構(JST)「ムーンショット目標3 令和5年度 外部評価」

研究室で作ったロボット「Dry-AIREC」は、人を車いすに移す、立ち上がりを支える、靴下をはかせる、ベッドの上で体の向きを変える、といった介護の動きを練習しています。人のやり方をロボットに見せて覚えさせ、AIで動きを作ります。車いすへの移動を手伝う動画です(1分)。

出典:早稲田大学 菅野研究室「人支援班」、AIREC 公式サイト(airec-waseda.jp)。動画:AIREC Waseda(YouTube 公式チャンネル)

2026年5月の発表で、AIRECの研究のリーダーは、同じ早稲田の尾形哲也教授に引きつがれました。尾形先生はAIでロボットの動きを作る研究者で、菅野研の論文にも名前を連ねています。

出典:科学技術振興機構(JST)報道資料 第1850号(2026年5月15日)、早稲田大学 菅野研究室「人支援班」

畑や災害の現場で働くロボット

菅野研のロボットは、家の中だけではありません。

  • いちごを夜にとるロボット:レールの上を走りながら、カメラで赤く熟した実を見つけます。柔らかい実はつかまず、実のついた柄をつかんで切ります。機械メーカーの前川製作所との共同研究です
  • 災害の現場で働くロボット「OCTOPUS」:4本の腕と4つのひれのような足を持ち、腕を使って段差を登ります。人が入ると危ない現場で、人の代わりに作業します
  • 心を持つロボット「WAMOEBA」:電池の残りやモーターの熱をはかり、熱くなると動きを止めてファンを回します。人が疲れて汗をかくのに似た動きが、ロボットの体から生まれるかを調べています

出典:早稲田大学 菅野研究室「いちご収穫ロボット」「遠隔操作・災害対応班」「WAMOEBA班」

どんな人が研究しているか

研究室の作業台で、柔らかいロボットの手に卵をそっと持たせながら、仲間と夢中で話しこむ眼鏡で長めの髪を結んだ男子大学院生。「学生だけで44人」の文字。

研究室を率いているのは、菅野重樹(すがの しげき)教授です。1958年に東京で生まれ、1981年に早稲田大学 理工学部 機械工学科を卒業しました。大学院でWABOT-2の研究をして工学博士になり、1998年に教授になっています。

  • 1981年:早稲田大学 理工学部 機械工学科を卒業、大学院へ
  • 1986年:早稲田大学 理工学部の助手じょしゅになる
  • 1998年:教授になる
  • 2007年:創造理工学部 総合機械工学科の教授になる
  • 2014年:創造理工学部の学部長になる
  • 2017年:文部科学大臣表彰 科学技術賞を受ける

出典:早稲田ウィークリー(2018年7月20日)、IEEE History Center「Oral-History: Shigeki Sugano」

研究室には、講師2人と多くの研究員、そして博士課程13人、修士課程19人、学部生12人がいます。13の班に分かれ、それぞれの班が1つのロボットや技術を受け持ちます。

出典:早稲田大学 菅野研究室「メンバー」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月12日に数えたもの)。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

塾長 小池

中学生のときにあこがれたロボットを、大学で自分の手で作り、50年近くたった今も作り続けている。こんな人生があることを、中学生のうちに知っておいてほしいです。

この研究室に入るには

夕方の大学図書館の窓ぎわで、大学院の願書を前に、少し不安そうに窓の外を見る女子大学生。「学部からも大学院からも」の文字。

道は2つあります。

道流れ
早稲田に入る(学部から)早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科に入る → 学部のうちに研究室に入り、卒業研究をする → 多くは大学院へ
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻の修士課程の入試に受かる

出典:早稲田大学 理工学術院「課程・専攻・研究指導」(総合機械工学専攻の研究指導一覧。菅野教授の「知能機械学研究」は修士・博士とも受け入れ)、早稲田大学 菅野研究室「メンバー」

総合機械工学科は、1年生から機械の専門の授業があります。「メカトロニクスラボ」という授業では、線の上を走るロボットを作ったり、ロボットコンテストに挑んだりします。研究室に入る前から、手を動かしてロボットを作る学科です。

出典:早稲田大学 総合機械工学科「高校生の皆さんへ」(mmech.waseda.ac.jp)

打ちっぱなしのコンクリートの壁に「早稲田大学西早稲田キャンパス」の文字がある、大学の門
早稲田大学 西早稲田キャンパスの東門(2019年)。理工の3つの学部がこのキャンパスにある
写真:Theodore Xu/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

早稲田の理工の3つの学部(基幹・創造・先進理工)では、約7割の学生が大学院に進みます。 ロボットの研究は、学部の4年間だけでは終わらないからです。大学院では、入りたい研究室の先生に出願の前に連絡するよう、大学がすすめています。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

出典:早稲田大学 理工学術院「進路」(2026年3月卒業・修了生のページ)、「課程・専攻・研究指導」

早稲田大学そのものは早稲田大学の紹介に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

夏のオープンキャンパスの研究室の展示で、ロボットの腕から紙コップを手渡されて、満面の笑顔になる高校生の女子。「夏の西早稲田で研究室をのぞく」の文字。

早稲田の理工のオープンキャンパスは、毎年夏に西早稲田キャンパスで開かれます。予約なしで入れて、研究室の展示も見られます。

イベント対象いつ
早稲田大学 オープンキャンパス(西早稲田キャンパス)基幹・創造・先進理工学部に興味のある人2026年は8月1日・2日に開かれた。予約は要らない(一部のプログラムだけ予約制)。2027年の案内はまだ出ていない

出典:早稲田大学 入学センター「オープンキャンパス」(waseda.jp/inst/admission)。どの研究室が展示を出すかは年によって違うので、タイムテーブルで確かめること

人と一緒に働くロボットを作るには、物理と数学と情報がいります。人の体を支える力の計算は、中学の比例と、高校の三角比・ベクトル・微分でできています。ロボットにAIで動きを覚えさせるにはプログラムを書き、論文はほとんどが英語です。中学生のうちは、数学の関数と図形、理科の力の単元から逃げないこと。これがいちばん菅野研に近づく勉強です。

塾長 小池

菅野先生も、最初は中学生のあこがれから始まりました。あこがれを本物にするのは、毎日1問ずつ解く数学の力です。

まとめ

夕方の自分の部屋の机で、人を支えるロボットの腕と力の矢印の図をノートに描きながら、分かってきてワクワクする館山中の男子。「近道は数学と物理」の文字。
  • 菅野研は、早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科の研究室。人のすぐそばで一緒に働けるロボットを作っている
  • 早稲田は1973年に、世界初の本格的な人型ロボットWABOT-1を作った大学。菅野先生はWABOT-2の研究をした加藤一郎先生の教え子
  • トーストをつまみ、人を支えるTWENDY-ONEを2007年に発表
  • 国の大型研究「ムーンショット」に選ばれ、介護を手伝うAIRECを作っている
  • 入る道は、総合機械工学科からと、大学院から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、数学・物理・情報・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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