松尾研(東京大学):AIに「世界のしくみ」を学ばせる研究室。中高生も講座を受けられる

大学の研究室で、小さなロボットアームが積み木をつかむのを、目を丸くして見つめる茶髪の女子大学生。「東京大学の松尾研」「AIを作る研究室」「中高生も講座を受けられる」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

ChatGPT、写真を見て何が写っているかを当てるAI、自分で考えて動くロボット。いま世界を変えているAIの多くは「ディープラーニング(深層学習しんそうがくしゅう)」という技術でできています。日本でこの研究の中心にいるのが、東京大学の松尾・岩澤研究室、通称「松尾研」です。

理系の大学では、4年生になると研究室に入り、1つのテーマに1年以上向き合います。大学名や学部名より、どの研究室で何をやるかで毎日が決まります。だからこのコーナーでは、研究室から大学を見ていきます。1つ目は松尾研です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

大学の研究室で、小さなロボットが転がるボールの行き先を予想するように手を伸ばすのを、首をかしげて夢中で見つめる茶髪の男子大学生。「AIに世界の地図を持たせる」の文字。

松尾研の研究をひとことで言うと、AIに「世界のしくみ」を学ばせて、人間のように見て・考えて・動けるようにする研究です。

いまのAIは、たくさんの例を見せると賢くなります。でも、見たことのない場面にはまだ弱い。人間の子どもは、ボールを投げれば落ちてくることを、何度か遊ぶうちに分かるようになります。松尾研は、AIにもこの「頭の中の世界の地図」を持たせようとしています。

公式サイトに載っている研究は6つです。

研究の名前中学生向けに言うと
世界モデルAIが頭の中に世界のしくみの地図を持ち、やったことのない場面でも先を予想して動けるようにする
次世代ニューラルネットワークAIの「脳の形」そのものを、AIが自分で作り変えながら育つようにする
脳×AI人間の脳がどうやって考えているかを調べて、AIの作り方に生かす
ロボットAIを本物のロボットの体に入れて、見て・考えて・手を動かせるようにする
大規模言語モデル(LLM)ChatGPTのような「ことばのAI」がなぜ賢いのかを調べ、日本で一から作る
社会実証研究したAIを、会社や社会の本物の困りごとに使ってみる

出典:東京大学 松尾・岩澤研究室「基礎研究」(weblab.t.u-tokyo.ac.jp/research/)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

下にゾウ・カンガルー・ペンギンの写真があり、その上に短い線、曲線、ゾウの体の形を描いた段が順に重なり、いちばん上でゾウの札が選ばれている図
ディープラーニングのしくみを表した図。写真から短い線、曲線、体の形と、層を上がるごとに複雑な特徴をつかみ、最後に「ゾウ」と見分ける(ドイツの研究者が2012年に描いた一般の図で、松尾研のものではない)
写真:Sven Behnke/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

ことばのAIは、本当に作っています。2024年には、松尾研の講座を受けた人たちが集まって、日本語の会話や作文でGPT-3.5 Turbo並みの力を持つAI「Tanuki-8×8B」を一から作り、だれでも使えるように公開しました。

出典:東京大学大学院工学系研究科 プレスリリース(2024年8月30日)

動画で見る

文章より、松尾先生本人の話を聞くほうが早く伝わります。まずはこの1本です(15分)。テレビ東京の番組で、中高生でも無料で受けられる東大のAI講座を紹介しています。講座を最後までやり切った番組ディレクターの体験談もあります。

次は、2026年にAIがどう変わるかを松尾先生が話す回です(17分)。ロボットや自動運転の話は、中学生でも面白く見られます。

本物の東大の講義も見られます。松尾研の公式チャンネルにある、ディープラーニング講座の第1回の抜粋です(7分)。少し専門的ですが、「大学の授業ってこんな感じか」が分かります。

動画:テレ東BIZ ダイジェスト(YouTube)、東京大学 松尾・岩澤研究室(YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

小さなオフィスで、できたばかりのアプリを前に満面の笑顔でガッツポーズをする若い起業家の女性。後ろで仲間が拍手している。「研究を会社にして社会へ」の文字。

松尾研のいちばんの特徴は、研究を研究で終わらせず、会社をつくって社会に出すことです。研究室の出身者がつくった会社や、研究室が手伝ってつくった会社を「松尾研発スタートアップ」と呼びます。公式サイトには40社のロゴが並んでいます。

会社どんな会社か
PKSHA TechnologyAIで会社の問い合わせ対応などを自動にする。東証に上場
Gunosyニュースのアプリ「グノシー」をつくった
ELYZA日本語のことばのAIをつくる
READYFORネットでお金を集める「クラウドファンディング」の会社

出典:東京大学 松尾・岩澤研究室「松尾研発スタートアップ」(weblab.t.u-tokyo.ac.jp/startups/)。社数は公式ページに載っているロゴの数(2026年10月10日に数えた)で、公式に発表された数ではない

研究室は「大学発のスタートアップを年に100社」を目標に掲げています。学生向けには、講義からインターン、会社の設立までを順に進む「起業クエスト」というプログラムもあります。

もう1つは講座です。松尾研はAIの講座をネットで開いていて、2025年度は7万57人が受けました。ほとんどが無料です。

出典:東京大学 松尾・岩澤研究室「講座の概要」(weblab.t.u-tokyo.ac.jp/lecture/overview/)

どんな人が研究しているか

大学の講義室で、先生がホワイトボードに描いたつながった丸の図の説明を、真剣な顔で夢中でメモしながら聞く大学生の男子。「日本のAI研究の中心」の文字。

先生は2人です。

グレーのスーツに紫のネクタイ、胸に紅白の記章をつけた男性が、木の壁の部屋で椅子に座っている
政府のAI戦略会議に座長として出席した松尾豊さん(首相官邸・2023年)
写真:首相官邸ホームページ/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)
  • 松尾 豊(まつお ゆたか)教授:東京大学で博士(工学)を取り、ディープラーニングの研究を日本で引っぱってきた人です。2017年に日本ディープラーニング協会をつくり、理事長を務めています
  • 岩澤 有祐(いわさわ ゆうすけ)准教授じゅんきょうじゅ:松尾先生と一緒に研究室を率いています

研究室があるのは、東京大学の本郷キャンパスにある工学部2号館です。先生のほかに、研究員やスタッフ、学生がここで研究しています。

れんが色の壁に縦長の窓が並ぶ、古い大学の建物。中央にとがったアーチの入口があり、手前の階段の横に自転車が止まっている
東京大学 本郷キャンパスの工学部2号館(2021年)。松尾研はこの建物の中にある
写真:Tokyo538/CC0(Wikimedia Commons)

出典:東京大学 松尾・岩澤研究室「メンバー」「お問い合わせ」、東京大学「UTokyo FOCUS」、日本記者クラブ(YouTube 公式チャンネルの説明)。卒業生の進路は公式に出ていないので書いていない

この研究室に入るには

夕方、遠くに見える大学の赤い門と古い校舎を見上げて、少ししょんぼりする館山中の女子。足元から門へ、道が2本に分かれてのびている。「大学院から選び直せる」の文字。

道は2つあります。

道流れ
東大に入る(学部から)東京大学に入る → 2年生の「進学選択」で工学部 システム創成学科 知能社会システムコース(PSI)に進む → 研究室を選ぶときの面談に受かる
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻(TMI)の入試に受かる → 入ってからの面談で松尾研に決まる

出典:東京大学 松尾・岩澤研究室「研究室への配属を希望する学生の方へ」(weblab.t.u-tokyo.ac.jp/joinus/students/)

青空の下、両側を緑の木に囲まれた、瓦屋根の赤い門。門の前に白い車止めが並んでいる
東京大学 本郷キャンパスの赤門(2019年)。工学部2号館も同じキャンパスにある
写真:Kakidai/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

どちらの道でも、面談があり、必ず松尾研に入れるとは限りません。人気の研究室だからです。

大事なのは2つ目の道です。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。 大学受験で東大に届かなくても、ほかの大学で4年間しっかり勉強し、大学院の入試で東大の研究室に入る人は少なくありません。理系の学部と研究室の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、東大そのものは東京大学の紹介にまとめました。

中高生のうちにできること

夜の自分の部屋の机で、関数のグラフの問題が解けずに悔しくて歯を食いしばり、鉛筆を握り直す館山中の男子。机には英語の長文のプリントもある。「近道は数学と英語」の文字。

いちばんのおすすめは、松尾研の講座を実際に受けてみることです。中学生・高校生でも受けられる講座があり、ほとんどが無料・オンラインです。

講座対象いつ
世界モデル2026高校生から(中学生は対象外)2026年11月〜2027年2月。申し込みは2026年10月20日まで
ディープラーニング基礎講座中学生・高校生も年2回。2026年秋の回は締め切った。次の回を待つ
AXエバンジェリスト講座中学生・高校生も2026年秋の回は締め切った

出典:東京大学「UTokyo FOCUS」イベント情報(各講座のページ)。講座によって対象や選考があるので、申し込む前に最新の募集要項を確かめること

講座を受けると分かりますが、AIの中身は数学と英語です。AIが賢くなるしくみは、中学の関数、高校の微分・ベクトル・確率でできています。説明や論文の多くは英語です。中学生のうちは、関数と英語の長文から逃げないこと。これがいちばん松尾研に近づく勉強です。

塾長 小池

AIは「使う人」と「作る人」に分かれます。作る側に行きたいなら、数学と英語です。まずは講座の動画を1本見てみてください。

まとめ

休日のリビングで、ノートパソコンでAIの講義の動画を見ながら、目を輝かせて身を乗り出す館山中の女子。「まず動画を1本見てみる」の文字。
  • 松尾研は、東京大学の松尾・岩澤研究室。AIに世界のしくみを学ばせて、見て・考えて・動けるようにする研究をしている
  • 研究を会社にして社会に出すのが特徴。40社を超える「松尾研発スタートアップ」がある
  • 年に7万人が受ける講座があり、中学生・高校生でも受けられるものがある
  • 入る道は、東大の工学部PSIから、または大学院(TMI)から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、数学と英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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