ISSL(東京大学):学生が手作りした人工衛星を、本当に宇宙へ飛ばしている研究室

大学の衛星の実験室で、太陽電池の板を張った手のひらほどの四角い人工衛星を両手で持ち、得意げにほほえむ茶髪の女子大学生。「東京大学のISSL」「学生が作る人工衛星」「1kgで世界初」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

人工衛星は、国や大きな会社が何百億円もかけて作るもの。そう思っていませんか。東京大学には、学生が自分の手で人工衛星を作って、本当に宇宙へ飛ばしている研究室があります。航空宇宙工学専攻の船瀬・五十里研究室です。英語の名前の頭文字をとって「ISSL」と呼ばれています。

2026年3月までは「中須賀・船瀬研究室」という名前でした。長く研究室を率いてきた中須賀真一先生が退官して、今の名前になりました。この研究室が2003年に宇宙へ送った衛星は、1辺10cm、重さ1kgです。手のひらにのる大きさの箱でした。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

夜の家のベランダで、星空をすうっと横切る人工衛星の小さな光を見つけ、手すりから身を乗り出してワクワクする館山中の女子。「手のひらの衛星を自分で作る」の文字。

ISSLの研究をひとことで言うと、小さくて安い人工衛星を自分たちで作り、宇宙で本当に動かして確かめる研究です。

ふつうの人工衛星は、大きいものでは重さが何トンもあり、作るのに何年もかかります。ISSLが作るのは、1kgから50kgくらいの「超小型衛星」です。小さく作れば、早く、安く、何度も宇宙へ送れます。設計から組み立て、打ち上げたあとの運用まで、学生が先生と一緒にやります。

研究室の研究は、4つのグループに分かれています。中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
編隊飛行・GNSS何機もの衛星を、隊列を組んで飛ばす。GPSのような測位衛星のしくみも研究する
システムズエンジニアリング・AI衛星を1つのまとまりとして設計する方法と、AIで衛星に自分で考えさせるしくみ
軌道・軌道決定少ない燃料で目的地へ行く道すじを考え、衛星が今どこにいるかを正確に知る
光通信電波の代わりにレーザーの光で、宇宙から大量のデータを送る

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「研究内容」(space.t.u-tokyo.ac.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

1kgの衛星から、地球の外の探査機まで

夜の大学の衛星の運用室で、ヘッドホンを押さえ、打ち上げた衛星から初めての電波が届いて満面の笑顔で喜ぶ茶髪の男子大学生。窓の外に屋上のパラボラアンテナ。「1kgの衛星が宇宙で動いた」の文字。

手のひらの衛星「XI-IV」

研究室の最初の衛星が、2003年6月30日にロシアから打ち上げられた「XI-IV(サイ・フォー)」です。1辺10cmの立方体で、重さは1kg。この大きさの衛星を「キューブサット」と呼びます。研究室の公式サイトによると、XI-IVは世界で初めて、キューブサットを打ち上げて宇宙で動かすことに成功した衛星です。

その後、研究室は伸び縮みする腕を宇宙で広げて地球を撮る「PRISM」(2009年)、2機を一緒に打ち上げた「ほどよし3号・4号」(2014年)と、衛星を次々に作りました。中須賀先生のもとで打ち上げに成功した超小型衛星は、15機になります。

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「衛星プロジェクト」、立命館大学「着任予定教員紹介 中須賀真一」

宇宙から見下ろした東京と東京湾。左の山地は濃い緑、右の街はむらさき色に写っている
研究室の衛星「ほどよし3号」が宇宙から撮った東京(2015年)。木や草の多いところが緑、街がむらさきに写る色の付け方
写真:The University of Tokyo, Hodoyoshi-3&4 Project/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

ルワンダという国で初めての人工衛星「RWASAT-1」(2019年)も、この研究室がかかわった衛星です。台湾の宇宙機関と一緒に作った「ONGLAISAT」は、2026年8月に小型衛星の世界的な賞(Small Satellite Mission of the Year Award)を受けました。

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「衛星プロジェクト」「ニュース」(2026年8月27日)

地球の外へ出た探査機「PROCYON」

2014年12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」と同じロケットで、研究室とJAXAが作った探査機「PROCYON(プロキオン)」が打ち上げられました。重さは約65kg。地球の引力を振り切って、地球から遠く離れた宇宙(深宇宙)へ向かいました。

PROCYONは、電気・通信・向きの制御・エンジンといった、探査機に必要なしくみが小さな体でも働くことを宇宙で確かめました。イオンエンジンの調子が悪くなり、予定していた小惑星への接近はあきらめました。それでも、小さな探査機のエンジンを作って宇宙で動かしたのは世界で初めてとして、エンジンの論文は国際会議で最優秀論文の賞を受けています。

出典:東京大学・JAXA「超小型深宇宙探査機『PROCYON(プロキオン)』の状況について」(2015年12月)、東京大学大学院工学系研究科「IEPC2015 Best Paper Awardを受賞」(2017年11月16日)

水で進む探査機「EQUULEUS」

2022年11月16日には、アメリカのNASAの大型ロケットで、研究室とJAXAの探査機「EQUULEUS(エクレウス)」が打ち上げられました。人を月へ送る「アルテミス計画」の最初のロケットに、相乗りしたのです。

金色の膜で包まれた箱形の本体から、左右に太陽電池の細長い板が2枚ずつ伸びている探査機の図
探査機EQUULEUSの図。真ん中の箱が本体で、両側に太陽電池の板を広げる(EQUULEUSのプロジェクトチーム)
写真:EQUULEUS Project Team, JAXA, University of Tokyo/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

EQUULEUSのエンジンの燃料は、水です。水を温めて水蒸気にし、それを吹き出して進みます。打ち上げから6日後の11月22日、EQUULEUSは月のそばを通って、目的地へ向かう道に入りました。JAXAは「水を燃料にしたエンジンで、地球のまわりより遠くで道すじを変えたのは世界で初めて」と発表しています。

出典:JAXA プレスリリース「JAXA超小型探査機EQUULEUSの初期運用期間終了について」(2022年11月26日)

動画で見る

まずは、東京大学の公式チャンネルにある研究室の紹介です(3分)。東京大学の大学院生が授業で作った動画で、中須賀先生と、衛星を作る学生たちが出てきます。

次は、中須賀先生が高校生のために開いた模擬講義です(18分)。東京大学のオープンキャンパスで行われました。ロケットや衛星を宇宙へ飛ばすには、空気の流れ・材料の強さ・燃料のエネルギーなど、いろいろな分野の研究が要ります。それを1つにまとめる「工学」の面白さを話します。

3本目は、JAXAの公式チャンネルにあるEQUULEUSの動画です(20分)。打ち上げ直後の、いちばん失敗できない数日間の運用を、チームが振り返ります。JAXA相模原キャンパスの特別公開(2023年)で配信されたものです。

動画:東京大学 / The University of Tokyo、UTokyo Channel(東大TV)、JAXA相模原チャンネル(いずれも YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

衛星の会社のクリーンルームで、白い作業着とマスク姿で、打ち上げ前の小型衛星を眉を寄せて真剣ににらんで点検する若い技術者の女性。「学生の技術が会社になる」の文字。

この研究室からは、人工衛星の会社が生まれています。

会社できた年どんな会社か
アクセルスペース2008年研究室で衛星を作っていた中村友哉さんたちがつくった会社。小型の地球観測衛星を作る。メンバーは200人を超える
アークエッジ・スペース2018年研究室と組んで、超小型衛星を仕事にするためにできた会社。社員は181人(2025年9月)

出典:アクセルスペース「会社概要」「経営体制変更のお知らせ」(2023年6月1日)、アークエッジ・スペース「会社概要」、同社の会社概要資料(2022年1月27日、JAXA の会議資料として公開)

アクセルスペースの社長、中村友哉さんは、大学院の学生だったころにキューブサットを含む3機の衛星づくりにかかわりました。博士課程を終えたあと、2008年に会社をつくりました。一緒に会社をつくった永島隆さんも、研究室で世界初のキューブサットを作った1人です。学生のときに作った衛星の技術が、そのまま会社の仕事になりました。

出典:アクセルスペース「代表取締役 中村友哉 インタビュー」「経営体制変更のお知らせ」(2023年6月1日)

宇宙から見下ろした、頂上に雪の残る富士山。まわりに森と畑が広がり、右下に雲がかかっている
アクセルスペースが公開した、超小型衛星「ほどよし1号」から撮った富士山(2015年)
写真:Axelspace Corporation/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

アクセルスペースの公式チャンネルの動画です(4分)。7機の小型衛星で地球を何度も撮る「GRUS-3」の紹介で、作っているメンバーが思いを話します。

動画:Axelspace(YouTube 公式チャンネル)

どんな人が研究しているか

大学の研究室で、地球のまわりを回る軌道の図を描いたホワイトボードの前に立ち、仲間と夢中で話しこむ黒髪の女子大学院生。「博士16人、修士13人」の文字。

今の研究室を率いるのは、船瀬 龍(ふなせ りゅう)准教授と、五十里 哲(いかり さとし)准教授です。

  • 船瀬 龍 准教授:JAXA宇宙科学研究所の教授も兼ねる。PROCYONやEQUULEUSなど、地球の外へ行く小さな探査機が専門
  • 五十里 哲 准教授:2024年4月に着任。代表を務める研究が、国の「宇宙戦略基金」に選ばれた
  • 宮下 直己 特任准教授(アクセルスペースを一緒につくった1人)、森合 勲武 特任助教

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「メンバー」「ニュース」(2024年4月1日、2025年3月25日)、JAXA プレスリリース(2022年11月26日)、アクセルスペース「経営体制変更のお知らせ」(2023年6月1日)

船瀬先生が、東京大学の駒場祭の公開講座で話した動画です(58分)。小さな衛星が月や惑星の探査にまで乗り出していく、これからの太陽系探査の話です。

動画:UTokyo Channel(東大TV、YouTube 公式チャンネル)

学生は、博士課程16人、修士課程13人、学部の4年生6人です。研究室をつくってきた中須賀真一先生は、東京大学の航空学科を卒業し、会社で人工知能の研究をしてから大学に戻った人です。2026年3月に東京大学を退職し、4月から立命館大学の教授になりました。

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「メンバー」(人数は公式サイトのメンバー一覧を2026年10月11日に数えたもの)「ニュース」(2026年4月1日)、立命館大学「着任予定教員紹介 中須賀真一」。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

眼鏡をかけたスーツ姿の男性が、マイクを持って話している
研究室をつくってきた中須賀真一先生(2024年)
写真:みちびきウェブサイト/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

この研究室に入るには

夕方の小さな駅のホームで、東京へ向かう線路の先を見つめ、少し不安そうな館山中の男子。「1研究室、1学年3人ほど」の文字。

道は3つあります。

道流れ
東大に入る(学部から)東京大学に入る → 2年生の「進学選択」で工学部 航空宇宙工学科に進む → 4年生の初めの研究室選択で選ぶ
高専から入る高専を卒業して、東京大学工学部の編入学試験を受ける
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻の修士課程の入試に受かる → 研究室を見学して、希望を出す

出典:東京大学 船瀬・五十里研究室「配属希望の方へ」、東京大学 航空宇宙工学専攻「学部進学Q&A」「大学院入試Q&A」

大学院の研究室は、入試に受かったあとの9月に希望を出し、11月までに決まります。1つの研究室に入れるのは、1学年およそ3人です。希望の研究室に入れるとは限りません。

それでも、この専攻には、ほかの学科・ほかの大学から入ってきた人がたくさんいます。研究室は、学部のときの研究室に関係なく決まります。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

航空宇宙工学科の卒業生は、多くが大学院へ進みます。大学院を出たあとは、飛行機やロケットを作る会社を中心に、自動車の会社、航空会社、JAXAのような研究機関、国の役所で働いています。

出典:東京大学 航空宇宙工学専攻「学部進学Q&A」「大学院入試Q&A」。学科全体の話で、この研究室だけの数字ではない

理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、東大そのものは東京大学の紹介にまとめました。

中高生のうちにできること

宇宙の研究所の特別公開の展示ホールで、太陽電池の板を広げた探査機の模型を見上げ、目を輝かせて感激する学ラン姿の男子高校生。「JAXAの特別公開へ」の文字。

本物の探査機を作っている場所を、見に行けます。

イベント対象いつ
JAXA相模原キャンパス特別公開 2026だれでも(無料)2026年11月7日(土)神奈川県相模原市のキャンパスで、10〜16時。WEB予約制・先着6000人、14時からは予約なしで入れる。11月8日(日)はYouTubeでオンライン配信
東大の研究室をのぞいてみよう!高校生(1人ずつ申し込む)2025年度は2026年3月26日(キャンパスで)・27日(オンライン)。申し込みは1月15日〜3月11日だった。2026年度の案内はまだ出ていない

出典:JAXA宇宙科学研究所「JAXA相模原キャンパス特別公開 2026」、東京大学「『東大の研究室をのぞいてみよう!』プログラム」(u-tokyo.ac.jp)。どの研究室を見学できるかは年によって違うので、募集要項で確かめること

衛星を宇宙で動かすには、数学と物理がいります。衛星がどんな道すじで地球のまわりを回るかは、中学の比例と図形、高校の三角比・ベクトル・微分で計算します。衛星を動かすのはプログラムで、論文や海外とのやりとりはほとんどが英語です。中学生のうちは、数学の関数と図形、理科の力と運動から逃げないこと。これがいちばんISSLに近づく勉強です。

塾長 小池

1kgの衛星も、1本の式と1行のプログラムの積み重ねです。数学の問題を1問ずつ解く力が、宇宙へ届く力になります。

まとめ

夜の自分の部屋の机で、ノートに地球と衛星の軌道の図をコンパスで描きながら、解けそうになってワクワクする館山中の女子。「近道は数学・物理・英語」の文字。
  • ISSLは、東京大学の船瀬・五十里研究室(2026年3月までは中須賀・船瀬研究室)。学生が人工衛星を作り、本当に宇宙へ飛ばしている
  • 2003年のXI-IVは、世界で初めて宇宙で動いた1kgのキューブサット
  • 探査機PROCYONは地球の外へ、EQUULEUSは水を燃料にして月のそばへ
  • 研究室からアクセルスペースなどの会社が生まれた
  • 入る道は、東大の航空宇宙工学科から、高専からの編入、大学院から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、数学・物理・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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