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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
岐阜県飛騨市の山の中、地下1000m。そこに、5万トンの水をためた巨大なタンクがあります。壁には、人の顔より大きな光のセンサーが1万本以上。宇宙から飛んでくる、目に見えないほど小さな粒をつかまえるための装置です。
これが「スーパーカミオカンデ」です。動かしているのは、東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙素粒子研究施設。このコーナーで紹介してきた松尾研やJSKのような1人の先生の研究室ではなく、研究所の附属の「研究施設」です。何人もの先生と研究員、世界中の大学の研究者がここに集まって観測しています。この施設とその前の装置からは、日本人のノーベル賞が2つ生まれました。


ひとことで言うと、宇宙から飛んでくる「ニュートリノ」という小さな粒をつかまえて、宇宙と物質のなりたちを調べる研究です。
ニュートリノは、物をつくっているいちばん小さな部品の1つで、「素粒子」と呼ばれます。とにかく、ほかの物とぶつかりません。太陽から来たニュートリノは、今この瞬間も、私たちの体を1秒間に数百兆個通り抜けています。それでも、だれも気づきません。地球を通り抜けるニュートリノが数百億個あって、やっと1個がぶつかるくらいです。
出典:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設「ニュートリノって何?」(www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp)
ほとんどぶつからないなら、たくさんの水を用意して、まれにぶつかる1個を待てばいい。これがスーパーカミオカンデの考え方です。
| 数字 | スーパーカミオカンデ |
|---|---|
| タンクの大きさ | 直径39.3m・高さ41.4m |
| 水の量 | 5万トン(とてもきれいにした水) |
| 光のセンサー | 内側に1万1129本(直径約50cm)、外側に1885本 |
| 場所 | 岐阜県飛騨市神岡町、山の地下1000m |
| 観測を始めた年 | 1996年4月 |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「スーパーカミオカンデ 検出器について」「研究史」


ニュートリノが水とぶつかると、はじき飛ばされた粒が、水の中でかすかな青い光を出します。これを「チェレンコフ光」と言います。水面をすばやく進むアヒルの後ろに、斜めの波ができるのと似ています。壁のセンサーが、その光がいつ・どこに・どれだけ届いたかを記録します。そこから、ニュートリノがどの方向から来たか、どれくらいの勢いだったかを計算します。
地下1000mに作ったのは、上にある山が「かさ」になるからです。宇宙からは、ニュートリノ以外の粒もたくさん降ってきて、観測のじゃまをします。その多くは山の岩の中で止まり、地上の約10万分の1に減ります。ニュートリノだけは、山をすっと通り抜けてきます。


出典:神岡宇宙素粒子研究施設「スーパーカミオカンデ 検出器について」
調べていることは、大きく分けて次の4つです。
| 研究 | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| 太陽ニュートリノ | 太陽の中心で生まれたニュートリノで、太陽の中を直接のぞく |
| 大気ニュートリノ・ニュートリノ振動 | ニュートリノが飛んでいるうちに別の種類に変身するようすを調べる |
| 超新星ニュートリノ | 星が一生の最後に大爆発したときに出るニュートリノをとらえる |
| 陽子崩壊 | 物をつくる「陽子」が、ものすごく長い時間のうちにこわれるのかを確かめる |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「スーパーカミオカンデ」「施設長よりごあいさつ」。中学生向けの言い方は小池が言い換えた
地下の観測所は、文章より映像のほうがずっと伝わります。まずは施設の公式動画です(4分52秒)。ふだんは入れない実験エリアを案内してくれます。トンネルを抜けて、山の中にこんな場所があることに驚きます。
次は、施設がNHKエンタープライズと作った紹介ビデオです(11分40秒)。ニュートリノとは何か、なぜ地下でなぜ水なのか、ノーベル賞につながった発見までを順に説明しています。この記事の中身を映像でおさらいしたい人に向いています。
3本目は、2026年に観測30周年を迎えたスーパーカミオカンデの歩みをまとめた動画です(15分35秒)。30年の間に何を見つけ、今どんな挑戦をしているのかが分かります。
動画:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設(YouTube 公式チャンネル)。2本目は2019年3月制作(映像提供 NHK)


この施設がいちばん大きく生んだものは、会社ではなく「発見」です。
スーパーカミオカンデの前に、同じ神岡の地下に「カミオカンデ」という一回り小さい装置がありました。1983年に動き始めたものです。
1987年2月、地球から見える大マゼラン雲という銀河で、星が大爆発しました。カミオカンデは、その爆発から飛んできたニュートリノを、わずか10秒の間にとらえました。星の爆発から来たニュートリノを、世界で初めてとらえたのです。これを率いた小柴昌俊さんは、2002年にノーベル物理学賞を受けました。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「研究史」、同「カミオカンデシリーズで生まれた2つのノーベル賞」


空気に宇宙線が当たると、ニュートリノが生まれます。梶田隆章さんたちは、そのニュートリノを数えていて、おかしなことに気づきました。地球の裏側から地球を通り抜けてきたニュートリノが、真上から来たものの約半分しかないのです。
理由は、ニュートリノが飛んでいる間に、別の種類のニュートリノに変身していたからでした。これを「ニュートリノ振動」と言います。変身できるのは、ニュートリノに重さ(質量)があるときだけです。それまでの物理学では、ニュートリノの重さはゼロだと考えられていました。教科書の考え方を書きかえる発見でした。スーパーカミオカンデで確かめた結果を1998年に発表し、梶田さんは2015年にノーベル物理学賞を受けました。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「研究史」「梶田隆章先生ノーベル賞受賞内容」「東京大学宇宙線研究所 梶田隆章教授ノーベル物理学賞受賞決定」


順調なことばかりではありません。2001年11月、タンクに水を入れていたときに光のセンサーが1本割れ、その衝撃で次々と割れて、約7900本がこわれました。施設は、残ったセンサーを並べ直して2002年10月に観測を再開し、2006年6月に元の姿に戻しています。
2020年8月からは、水に「ガドリニウム」という物質をとかし、ニュートリノをもっと見分けやすくする観測を始めました。宇宙の昔から積もっている、星の爆発のニュートリノを世界で初めてとらえるのがねらいです。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「研究史」「スーパーカミオカンデ」


スーパーカミオカンデの次の装置、ハイパーカミオカンデが、同じ飛騨市神岡町の地下で作られています。2020年に工事が始まり、2028年に観測を始める予定です。
| 数字 | スーパーカミオカンデ | ハイパーカミオカンデ |
|---|---|---|
| タンクの大きさ | 直径39.3m・高さ41.4m | 直径68m・高さ72m(体積は約10倍) |
| 水の量 | 5万トン | 約26万トン |
| 観測 | 1996年から | 2028年から(予定) |
| 参加している国 | 約40の大学・研究機関(共同研究) | 世界23か国 |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「ハイパーカミオカンデ概要」「施設長よりごあいさつ」、同ニュース「チェコとハイパーカミオカンデ実験についての覚書を締結」(2026年8月4日)
工事は、ちょうど大きな山場をこえたところです。2025年7月末に、岩の中に直径69m・高さ73mの円筒の空洞を掘り終えました。2026年7月31日には、その壁にステンレスの板を3830枚張る工事が終わりました。溶接した長さは全部で14.4kmです。2027年の初めから光のセンサーを取り付け、2028年の観測開始をめざします。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設 ニュース「ハイパーカミオカンデ 水槽ライニング工事が完了」(2026年8月4日、2026年10月11日に確認)


掘り終える直前の空洞を、報道に公開したときの映像です(3分13秒)。人や重機が、とても小さく見えます。
動画:中日新聞(YouTube 公式チャンネル)、2025年6月の公開
ハイパーカミオカンデで調べたいことの1つは、ニュートリノと、その反対の性質を持つ「反ニュートリノ」の違いです。宇宙が生まれたとき、物と反対の物(反物質)は同じだけできたはずなのに、今の宇宙には物しか残っていません。その理由の手がかりが、ここにあるかもしれません。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「ハイパーカミオカンデ概要」


施設を率いるのは、施設長の塩澤 真人(しおざわ まさと)教授です。2022年4月から施設長を務め、ハイパーカミオカンデの日本側の共同代表でもあります。
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「施設長よりごあいさつ」「学生受入れ教員の紹介」、塩澤真人「プロフィール」(www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/~masato_s/)
2015年にノーベル賞を受けた梶田隆章さんも、埼玉県の県立川越高校から埼玉大学の理学部物理学科に進み、1981年に卒業してから東京大学の大学院に入った人です。大学院で小柴さんの研究室に入り、カミオカンデの実験に加わりました。
出典:埼玉大学「梶田隆章先生2015年ノーベル物理学賞受賞」(saitama-u.ac.jp)、神岡宇宙素粒子研究施設「梶田隆章先生ノーベル賞受賞内容」
施設のサイトには、大学院生の先輩6人の声が載っています。研究のテーマも、暮らし方もさまざまです。
| 先輩(学年は掲載時) | 研究 | 暮らし |
|---|---|---|
| 博士3年 | スーパーカミオカンデで陽子崩壊をさがす。解析に機械学習も使う | 議論のために神岡に泊まりこむこともある |
| 修士2年 | ハイパーカミオカンデの光のセンサーの試験 | 神岡に約1か月泊まって作業する |
| 博士2年 | イタリアの実験で、見えない物質「暗黒物質」をさがす | 富山で一人暮らし、年に数回は海外などへ出張 |
| 博士1年 | ハイパーカミオカンデのセンサーの試験と、大気ニュートリノの解析 | 研究所から車で約20分のアパートに住む |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「先輩からの声」(6人のうち4人を小池が選んだ)。施設の学生の人数・卒業生の進路は公式にまとまった数字が無いので書いていない



梶田さんも塩澤さんも、大学は東大ではありません。大学院からここに来ています。ノーベル賞の研究の入口は、大学院にも開いています。


神岡の施設は研究室ではないので、「神岡研究室に入る入試」はありません。ここで研究する入口は、東京大学の大学院 理学系研究科 物理学専攻です。施設の先生たちは、この専攻の先生でもあります。
| 道 | 流れ |
|---|---|
| 東大に入る(学部から) | 東京大学に入る → 2年生の「進学選択」で理学部 物理学科に進む → 大学院 理学系研究科 物理学専攻に進み、施設の先生のもとで研究する |
| ほかの大学から入る(大学院から) | ほかの大学の理学部などで物理を学ぶ → 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻の修士課程の入試に受かる → 施設の先生のもとで研究する |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設「大学院入学について」(施設の教員は理学系研究科物理学専攻の教員。国内外のさまざまな大学から学生が来ている。大学院生は毎年募集)、東京大学理学部物理学科・大学院理学系研究科物理学専攻「大学院受験生へ」
施設は、毎年大学院生を募集しています。興味がある人は先生に直接問い合わせてほしい、と書いています。宇宙線研究所は毎年、大学院に進みたい人向けの説明会(大学院進学ガイダンス)を柏キャンパスで開いています。
梶田さんと塩澤さんの例のとおり、研究する場所は大学院からもう一度選び直せます。どこの大学でも、理学部の物理学科で4年間しっかり物理を学べば、神岡への道はつながっています。
理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?に、東大そのものは東京大学の紹介にまとめました。






神岡の施設は、中高生や一般の人が地下の装置を見られる機会を毎年つくっています。どれも人気で、抽選になります。
| 見る・参加する | いつ・どこで(2026年の例) |
|---|---|
| スーパーカミオカンデ1日体験 | 2026年8月7日、中高生が対象で抽選25人。研究者の講義、霧箱を作って粒の通った跡を見る、スーパーカミオカンデの見学 |
| スーパーカミオカンデ一般公開 | 2026年9月19日。約1万1000人の応募から抽選300人が地下を見学。VR体験、研究者・大学院生への質問コーナー、講演会 |
| 東京大学オープンキャンパス | 2026年8月3日、オンラインで施設の先生がハイパーカミオカンデの講演 |
| ひだ宇宙科学館 カミオカラボ | いつでも行ける。道の駅「スカイドーム神岡」の中、9:00〜17:00(最終入館16:30)、入館無料。水曜休み(祝日なら翌日) |
| 東京大学 柏キャンパス一般公開 | 2026年10月23日・24日、宇宙線研究所も参加(千葉県柏市) |
出典:神岡宇宙素粒子研究施設 ニュース「【開催報告】スーパーカミオカンデ1日体験」(2026年9月1日)、「【開催報告】スーパーカミオカンデ一般公開2026」(2026年10月1日)、「【開催報告】東京大学オープンキャンパス」(2026年8月19日)、飛騨市「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」、岐阜県観光連盟「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」(休館日・料金)、東京大学宇宙線研究所「東京大学柏キャンパス一般公開2026」。2027年の日程はまだ出ていないので、施設のサイトのニュースを見ておくこと
カミオカラボは、スーパーカミオカンデを映像やゲームで体験できる、飛騨市の科学館です。公式の YouTube チャンネルでは、来館者の質問に答える短い動画を出しています。スーパーカミオカンデのしくみを3分で説明する回です(2分59秒)。
動画:ひだ宇宙科学館カミオカラボ(YouTube 公式チャンネル)
ニュートリノの研究は、物理と数学そのものです。光のセンサーに届いた時間の差から、粒が来た方向を計算する。これは中学の数学の速さ・時間・距離と、高校の三角比・ベクトルでできています。何万本ものセンサーのデータを読むのはプログラム(情報)で、世界23か国の研究者と話すのは英語です。中学生のうちは、理科の光と力、数学の関数と図形から逃げないこと。これが神岡にいちばん近づく勉強です。



1秒に数百兆個も体を通り抜けているのに、だれも気づかない粒があります。それを数えて、宇宙のなりたちを知る。数学の1問は、その計算の練習です。








ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて