北川進先生(京都大学):すき間だらけの結晶で気体をつかまえる、ノーベル化学賞のMOF研究

化学の実験室で、ジャングルジムのような結晶の模型を手に持ち、すき間に入る小さな気体の粒を見つめて目を輝かせる、白衣に丸メガネの黒髪ショートの女子大学生。「2025年ノーベル化学賞」「すき間で気体をつかむ」「京大・北川進先生のMOF」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

2025年のノーベル化学賞は、京都大学の北川進(きたがわ すすむ)先生たち3人に贈られました。受賞の理由は「MOF(モフ)」と呼ばれる材料を作ったことです。

MOFは、目に見えないほど小さなすき間が、規則正しくびっしり並んだ結晶です。そのすき間に、空気の中の狙った気体だけをつかまえます。理系の研究は、だれも使い道を思いつかないところから始まることがあります。北川先生の研究は、その一番いい例です。

この記事では、北川先生の研究グループを紹介します。北川先生は京都大学の高等研究院こうとうけんきゅういんの特別教授で、研究グループは吉田キャンパスにある研究拠点「iCeMS(アイセムス)」にあります。学生が入る「研究室」ではなく、研究者が集まる「研究グループ」です。そこで最後の節では、京大でMOFを研究する学生になる道を紹介します。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

公園のジャングルジムの四角いすき間を、身を乗り出して夢中でのぞきこむ館山中の女子。すき間には光る小さな玉がふわりと入っていく。「すき間の形を設計して作る」の文字。

北川先生の研究をひとことで言うと、分子を組み立てて、すき間だらけの結晶を作り、そのすき間に気体を出し入れする研究です。

MOFは、金属の粒(金属イオン)と、炭素でできた細長い分子を、ジャングルジムのように交互につないで作ります。ジャングルジムの棒の長さや形を変えると、すき間の大きさや形が変わります。すき間の形を、つかまえたい気体の分子の形に合わせておけば、その気体だけが入ってきます。

炭の一種の活性炭も、すき間でにおいを吸い取ります。ただ活性炭のすき間は、大きさがバラバラです。MOFは、すき間の大きさを設計して作れるところが違います。

黒い背景に、緑の四角すいと、黒と青の玉でできた分子が交互につながり、あちこちに大きなすき間がある結晶の図
MOFのなかま「ZIF-8」の結晶のつくりを表した図。金属(亜鉛)と炭素の分子がつながり、真ん中に大きなすき間ができる
写真:François-Xavier Coudert/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)
研究の言葉中学生向けに言うと
金属有機構造体(MOF)金属と炭素の分子でできた、すき間だらけの結晶
多孔性小さな穴がたくさんあること
やわらかい結晶気体が入ると形が変わり、出ていくと元に戻る結晶
気体の分離空気のようにまざった気体から、1種類だけを取り出す
気体の貯蔵気体をすき間にためて、必要なときに出す

出典:ノーベル財団「Popular information:Nobel Prize in Chemistry 2025」、TBS NEWS DIG「Nスタ解説」(2025年10月9日)、京都大学 広報誌『紅萠』2026年春号「京都大学とノーベル賞」。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

ノーベル財団の解説によると、MOFは、砂漠の空気から水を取り出す、水から汚れを取り除く、二酸化炭素をつかまえる、水素をためる、といった研究に使われています。

「役に立たない」から始まった研究

夜の古い大学の小さな実験室で、白衣の若い研究者の男性が、通らなかった申請の知らせの紙を手に肩を落としている。机の上には小さな結晶の入ったガラス瓶。「役に立たないと言われても」の文字。

北川先生が大事にしている言葉があります。中国の昔の思想家・荘子そうしの「無用の用むようのよう」です。役に立たないように見えるものにこそ、本当の値打ちがある、という意味です。北川先生は学生のころ、日本で初めてノーベル賞を受けた湯川秀樹の本でこの言葉に出会いました。

北川先生が最初のすき間のある構造を発表したのは1992年、近畿大学にいたころです。すき間にアセトンという分子が入るだけの、平らな材料でした。役に立つものではありません。研究費を申し込んでも、何度も通りませんでした。

それでも北川先生はやめませんでした。1997年、コバルト・ニッケル・亜鉛と、細長い分子を組み合わせて、すき間がトンネルのように通った立体の結晶を作ります。水を抜いて乾かしても壊れず、メタン・窒素・酸素を出し入れできました。 ここからMOFの研究が一気に動き出します。

1998年には、MOFは「やわらかく」作れると論文に書きました。その後、北川先生は、水やメタンが入ると形が変わり、出ていくと元に戻る結晶を実際に作りました。ノーベル財団は、これを「息をする肺のよう」と説明しています。石のようにかたい材料しかなかったところに、やわらかい結晶という新しい考えを持ちこんだことが、北川先生の大きな仕事です。

同じ結晶の図を3つ横に並べたもの。左は中に分子が入った形、まん中はひし形のすき間が大きく開いた形、右はすき間が細くつぶれた形
やわらかいMOFの例(MIL-53)。左から、作った直後・水を抜いてすき間が開いた形・水が入ってすき間がつぶれた形
写真:J. Hou, C. W. Ashling, S. M. Collins, A. Krajnc, C. Zhou, L. Longley, D. N. Johnstone, P. A. Chater, S. Li, M.-V. Coulet, P. L. Llewellyn, F.-X. Coudert, D. A. Keen, P. A. Midgley, G. Mali, V. Chen, T. D. Bennett/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

出典:ノーベル財団「Popular information:Nobel Prize in Chemistry 2025」、京都大学 広報誌『紅萠』2026年春号「京都大学とノーベル賞」

放送大学の公式チャンネルにある、北川先生本人へのインタビューです(10分)。当時だれも注目していなかった「銅」という材料との出会いと、「無用の用」の話をしています。

動画:放送大学YouTubeチャンネル(放送大学の公式チャンネル)

動画で見る

まずは北川先生本人の説明です(9分)。放送大学の公式チャンネルで、北川先生が自分で作った資料を見せながら、MOFとは何かを話します。

次は、受賞が決まった翌日のニュースの解説です(14分)。北川先生の研究室に5年いた教え子で、いまは大阪大学の教授の正岡重行さんが、MOFのすごさを説明します。「砂漠の空気から飲み水」「宇宙船で酸素を作り直す」といった使い道の話も出てきます。

3本目もニュースの解説です(8分)。ジャングルジムにたとえて、活性炭との違いと、果物の鮮度を保つ使い方を説明します。

動画:放送大学YouTubeチャンネル、MBS NEWS(毎日放送の YouTube 公式チャンネル、2025年10月9日)、TBS NEWS DIG Powered by JNN(2025年10月9日)

研究から生まれたもの

明るい会社の作業場で、手のひらほどの小さな四角いガス容器を片手で軽々と持ち上げ、満面の笑顔になる茶髪の女子大学生。横の台には新鮮なバナナとリンゴ、奥には大きな鉄のボンベ。「果物の鮮度からガスのボンベまで」の文字。

MOFは、すでに私たちの身の回りで使われ始めています。

使い道どう使うか
果物の鮮度果物から出るエチレンという気体をつかまえて、熟しすぎるのを遅らせる
半導体の工場半導体を作るのに使う、毒のある気体をすき間に入れて安全にためる
地球温暖化工場や発電所から出る二酸化炭素をつかまえる(多くの会社が試している)
ガスのボンベすき間に気体をためて、小さく軽いボンベにする

出典:ノーベル財団「Popular information:Nobel Prize in Chemistry 2025」、京都大学 広報誌『紅萠』2026年春号「MOFが切り拓く気体の時代」

最後のガスのボンベを作っているのが、京都大学から生まれた会社Atomis(アトミス)です。2015年に、京大の研究者の樋口雅一さんが中心になって作りました。MOFを使った新しいガス容器「CubiTan(キュビタン)」は、たくさんのガスをためられて、軽く、場所をとりません。MOFを使ったにおい取りのフィルターも、京都の会社と一緒に実用化されました。

北川先生が見ているのは、もっと先の未来です。空気は、窒素・酸素・二酸化炭素・水でできています。私たちの体を作るタンパク質も、同じ元素からできています。空気から必要な気体を取り出せれば、空気そのものが資源になります。 京大の広報誌は、これを「気体の錬金術れんきんじゅつ」と呼んでいます。

出典:京都大学 広報誌『紅萠』2026年春号「MOFが切り拓く気体の時代」、近畿経済産業局「スタートアップ関西レポート」(Atomis)

北川先生がこの未来を語る動画です(10分)。研究が花開くまでには長い「伏流ふくりゅう期間」(地下を流れる水のように、外から見えない時期)がある、という話も出てきます。

動画:放送大学YouTubeチャンネル

どんな人が研究しているか

新しい研究所の実験室で、海外から来た研究者の仲間と結晶の模型を囲み、身ぶりを交えて楽しそうに議論する若い女性研究者。「海外からも研究者が集まる」の文字。

北川先生は1951年、京都の生まれです。京都大学の工学部石油化学科を1974年に卒業し、同じ大学の大学院で博士になりました。

年できごと
1979年近畿大学 理工学部の助手じょしゅになる(このあと13年間、近畿大学で研究)
1992年東京都立大学 理学部の教授になる
1998年京都大学 大学院工学研究科の教授になる
2017年京都大学 高等研究院の特別教授になる
2025年ノーベル化学賞。同じ年に文化勲章

出典:ノーベル財団「Susumu Kitagawa:Facts」、科学技術振興機構(JST)「2025年ノーベル化学賞 北川進博士」、京都大学 教育研究活動データベース(2026年10月2日更新)、北川グループ公式サイト「お知らせ」

いまは京都大学の理事・副学長も務めています。受賞が決まった夜の記者会見では、「退職年齢を過ぎてもまだ研究をしています」と話しました。

スウェーデン王立科学アカデミーの青い札がついた演台で、黒いスーツ姿の北川先生が話している
ノーベル賞の受賞記念講演をする北川進先生(スウェーデン・ストックホルム大学、2025年12月)
写真:Karen Zhou/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

研究グループの公式サイトのメンバー一覧には、北川先生のほかに、准教授・講師・助教が4人、研究員が8人載っています。海外から来た研究者も多くいます。

出典:京都大学「北川進 理事・副学長、高等研究院特別教授が記者会見を行いました」(2025年10月9日)、北川グループ公式サイト「メンバー」(2026年10月11日に確かめた)。学生の人数・卒業生の進路は公式に出ていないので書いていない

京都大学でMOFを研究するには

放課後の学校の図書室で、化学の問題集に向かい、絶対に解いてやると歯を食いしばる学ランの高校生の男子。「工学部・理学部、大学院からも」の文字。

北川先生の研究グループのメンバー一覧には、学生の名前は載っていません。北川先生は2017年に工学研究科の教授を終えて、いまは研究者を率いる立場です。

それでも、京都大学でMOFを研究する道はあります。北川先生の研究プロジェクトや、北川先生がいた専攻で研究してきた先生たちが、いま京大で研究室を率いているからです。

道流れ
工学部から京都大学 工学部 理工化学科に入る → 4年生で研究室に入る(特別研究=卒業研究)→ 大学院 工学研究科 化学理工学専攻へ。すき間のある材料を研究する古川修平教授の研究室(iCeMS)は、この専攻で学生を受け入れている
理学部から京都大学 理学部に入る → 大学院 理学研究科 化学専攻へ。MOFを研究する堀毛悟史教授の研究室がある
ほかの大学から(大学院から)ほかの大学の化学系の学部を卒業する → 京都大学の大学院の入試に受かる

出典:京都大学工学部 理工化学科「令和9年度入学者よりコース統合」(2026年3月24日)、京都大学 教育研究活動データベース(古川修平 教授 2026年10月6日更新、堀毛悟史 教授 2026年10月2日更新)。古川教授は北川先生の研究プロジェクト(JST ERATO 北川統合細孔プロジェクト)のグループリーダー、堀毛教授は北川先生のいた合成・生物化学専攻の助教を務めた

理工化学科は、2027年4月に入学する人から、学科の中のコース分けをなくします。4年生で入る研究室を、理工化学科のすべての研究室から選べるようになります。 大学院も2026年度から、化学の6つの専攻が1つの「化学理工学専攻」にまとまりました。

桜の枝の向こうに、ガラス張りの建物と、時計のついたれんが色の塔が見える
京都大学 吉田キャンパスの百周年時計台記念館(2010年)。ノーベル賞の受賞が決まった夜の記者会見も、ここで開かれた
写真:KATSURA Roen/CC BY 3.0(Wikimedia Commons)

北川先生自身も、京都大学を出たあと、近畿大学で13年間研究を続けてから戻ってきた人です。どの大学から始めても、大学院で研究の場所をもう一度選べます。

理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。同じ京都大学の研究所の記事もあります。

中高生のうちにできること

大学の博物館の展示室で、ガラスケースの中に並んだ小さな結晶のサンプルの瓶と金色のメダルに、顔を近づけて見入る館山中の女子。「中高生は博物館が無料」の文字。

京都大学総合博物館に、2026年6月、北川先生のノーベル化学賞の特別展示コーナーができました。MOFのサンプルや研究の成果、ノーベル賞メダルのレプリカを見られます。

白い壁と青緑のガラスの横長の建物。手前に道路と街路樹がある
京都大学総合博物館(吉田キャンパス、2012年)。2026年6月に北川先生の特別展示コーナーができた
写真:J o/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
見られる場所内容いつ・いくら
京都大学総合博物館(吉田キャンパス)北川進特別教授ノーベル化学賞受賞特別展示コーナー9時30分〜16時30分(入館は16時まで)、月曜・火曜は休館。小学生・中学生・高校生は無料

出典:京都大学総合博物館 公式サイト(2026年6月22日の「最新情報」、ご利用案内)。共同通信の配信記事(2026年6月19日)によると、展示は当面の間置かれる。行く前に休館日カレンダーを確かめること

MOFの研究は化学です。中学の理科で習う原子・分子、高校の化学で習う「結合」の続きにあります。すき間の大きさや形を考えるには、数学の図形と空間の力がいります。論文はほとんどが英語です。中学生のうちは、理科の化学の単元と、数学の空間図形から逃げないこと。これがいちばんMOFに近づく勉強です。

北川先生が、文部科学省で子どもたちへの思いを話した動画です(1分)。

動画:文部科学省/mextchannel(YouTube 公式チャンネル、2025年10月30日の懇談)

塾長 小池

「役に立たない」と言われた結晶が、30年かけてノーベル賞になりました。今日の1問がすぐ役に立たなくても、積み重ねた力は、いつか思いもよらないところで生きます。

まとめ

夜の自分の部屋の机で、グミとつまようじで組み立てた立方体の結晶の模型を完成させ、うれしそうに掲げる館山中の男子。机には理科のノートと英単語帳。「近道は理科・数学・英語」の文字。
  • 北川進先生は、京都大学の特別教授。すき間だらけの結晶「MOF」を作り、2025年のノーベル化学賞を受けた
  • MOFは、金属と炭素の分子をジャングルジムのようにつないだ結晶。すき間の大きさを設計して、狙った気体だけをつかまえる
  • 始まりは「役に立たない」と言われた材料。「無用の用」を信じて続け、やわらかく形が変わる結晶まで作った
  • 果物の鮮度、半導体の工場、二酸化炭素の回収、ガスのボンベに使われ始めている
  • 京大でMOFを研究する道は、工学部 理工化学科、理学部、ほかの大学から大学院へ
  • 近づく勉強は、理科(化学)・数学(空間図形)・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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