和田研究室・マリンIT(公立はこだて未来大学):海の上をデータで「見える化」して、漁師さんの仕事を変える研究室

雪の降る港町の岸壁で、ニット帽とマフラーの男子大学生がタブレットの海の地図を見つめている。後ろに漁船と海に浮かぶ観測ブイ。「はこだて未来大学の」「海と漁業をITで解く」「館山の海でも使える」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

AIやロボットの研究というと、東京の大きな大学を思い浮かべるかもしれません。でも、地方の町の困りごとを情報の力で解く研究もあります。北海道の函館にある公立はこだて未来大学の「マリンIT」は、その代表です。

マリンITは、海(マリン)と情報技術(IT)をかけ合わせた研究です。率いているのは和田雅昭(わだ まさあき)教授。海に浮かべたブイで水温を測り、漁師さんのスマートフォンに届ける。漁の記録を紙からタブレットに移して、みんなで分け合う。函館の海で生まれたこのしくみは、全国に広がりました。

館山も、海に囲まれた漁業の町です。この記事を読むと、地方の町に住んでいることが、そのまま研究のテーマになることが分かります。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

夜明けの海に出た小さな漁船の上で、タブレットに映る海の地図を見て、なるほどと口元をゆるめる日焼けしたベテランの漁師。「勘と経験にデータを足す」の文字。

和田研究室の研究をひとことで言うと、見えない海の中をデータで見えるようにして、漁師さんが勘と経験だけに頼らずに漁ができるようにする研究です。

漁師さんは、船を出す前に「今日はどこに魚がいるか」「海の水は冷たすぎないか」を、長年の勘で判断してきました。でも、海の温度は年々変わり、魚の取れる場所も変わっています。そこで、海の中の温度や流れ、取れた魚の量をデータにして、漁師さんの手元に届けます。

研究室の学生が卒業研究で取り組んだテーマを、中学生向けに言い換えると、こうなります。

卒業研究のテーマ中学生向けに言うと
カメラを用いたホタテ養殖施設の海況モニタリングホタテを育てている海にカメラを沈め、船を出さなくてもスマホで海の中を見られるようにする
さけ定置網漁業における漁獲量予測天気のデータから、明日サケがどれくらい網に入るかを予想する
溶存酸素低下に伴うマダイの活動量分析海の中の酸素が減ると、育てているマダイの動きがどう変わるかを調べる
沿岸漁業と洋上風力発電の共存に向けた海域利用の可視化海に風車を建てるとき、漁場とぶつからない場所を地図で見えるようにする
音響画像を用いた魚種判別モデルの提案魚群探知機の画面から、AIで魚の種類を見分ける

出典:公立はこだて未来大学 教員一覧「和田 雅昭」の「学士論文のテーマ」(2023〜2025年度)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

未来大は、地域の課題を情報の力で解く研究を、大学の柱にしています。最初の10年で「モバイルIT」「マリンIT」「メディカルIT」の3つを重点の研究領域にしました。モバイルITでは、コンピューターが乗り合いの車を全自動で配車する「SAVS」を作り、2013年秋に函館市で、呼べば来る公共交通の運用実験に世界で初めて成功しています。マリンITは、未来大が「世界で唯一」と名乗る研究領域です。

出典:公立はこだて未来大学「社会と共創する研究領域」(fun.ac.jp)

海の中を見えるようにする3つの道具

曇り空の港の岸壁で、引き上げた養殖のかごに残った空っぽのホタテの貝がらを見つめ、眉を下げて肩を落とす中年の女性の漁師。「ホタテの大量死から始まった」の文字。

マリンITの研究は、2004年から続いています。中心になる道具は3つです。

道具何をするか
ユビキタスブイ海に浮かべたブイが、深さごとの水温や潮の流れを自動で測り、漁師さんのスマホやタブレットにすぐ届ける
デジタル操業そうぎょう日誌船の黒板や紙の海図、無線でやりとりしていた漁の記録を、タブレットとGPSで記録して仲間と分け合う
資源管理システム船の位置と魚の群れの情報を漁船どうしで共有し、取りすぎないように漁の量を調整する

出典:公立はこだて未来大学「社会と共創する研究領域」、同「スマート水産業 マリンIT プロジェクト」(2025年12月15日)

研究は、ホタテの大量死から始まりました。原因を知るには、海の水温を毎日知る必要があります。そこで、水温をリアルタイムで漁師さんに届けることから研究がスタートしました。今は水温だけでなく、海の流れや、魚や貝がどれだけいるかまで見えるようにしています。

出典:公立はこだて未来大学 教員一覧「和田 雅昭」の「研究の魅力」

データがたまると、これまで水産試験場(県や道の研究所)でしかできなかった分析を、漁師さん自身ができるようになります。勘と経験に、データという武器が加わります。

水槽の中で、浮きからつるしたロープに貝がすだれのように連なり、網のかごが並んでいる。上を魚の群れが泳いでいる
ホタテの養殖のしかたを見せる展示(青森県 浅虫水族館の陸奥湾のコーナー・2017年)
写真:KQuhen/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

網を上げる前に、どんな魚がどれくらい入っているかを予想するシステムも作っています。テレビ北海道のニュース番組が、酪農と漁業のIT化を取材した回です(6分)。後半で、はこだて未来大学のマリンIT・ラボが登場します。

動画:TVh北海道ニュース(テレビ北海道の YouTube 公式チャンネル、2017年8月5日放送)

動画で見る

まずは、大学の公式チャンネルの紹介動画です(5分)。マリンITのプロジェクトが、何を目指して、どんな道具を作ってきたかがまとまっています。

次は、総務省の公式チャンネルの動画です(7分)。地域の課題をITで解いた例として表彰されたときに作られました。海の上の現場と、データを使う漁師さんの姿が出てきます。

3本目は、和田先生本人が話す動画です(4分)。水温を測ることから始まった研究が、海の流れやナマコの分布を見える化するところまで広がったこと、ブイの仕様をすべて公開して、ほかの地域でも使えるようにしたことを語ります。

動画:公立はこだて未来大学(YouTube 公式チャンネル、2020年)、総務省動画チャンネル(2016年)、Innovation Nippon(2016年)。3本とも和田教授の教員ページの「研究紹介」に載っている動画

研究室から生まれたもの

南の国の明るい海に浮かぶ魚のいけすの上で、タブレットを手に、現地の漁師と一緒に満面の笑顔で喜ぶ日本人の研究者の男性。「函館から全国と海外へ」の文字。

マリンITのしくみは、函館の外へ広がりました。2016年、総務省の「地域情報化大賞2015」で、応募85件の中から大賞と総務大臣賞に選ばれています。

年できごと
2004年マリンITの研究が始まる
2016年1月「IT漁業による地方創生」が総務省の地域情報化大賞2015の大賞・総務大臣賞(応募85件)
2016年度〜インドネシアで、養殖と漁業をデータで支える国際共同研究(5年間)。和田先生が研究代表者
2025年11月ホタテ養殖をカメラで見守る学生の研究が、学会の若手優秀論文発表賞

出典:総務省 北海道総合通信局 報道資料(2016年1月22日)、科学技術振興機構(JST)SATREPS「マリカルチャビッグデータの生成・分析による水産資源の持続可能な生産と安定供給の実現」、公立はこだて未来大学 教員一覧「和田 雅昭」

総務省の発表によると、このしくみは全国の漁業協同組合など30団体に技術が移され、これまでの海洋観測ブイなどにかかるお金も大きく減らしました。北海道の留萌市や福島町をはじめ日本各地へ、海外では韓国やインドネシアのバリ島へ広がっています。

出典:総務省 北海道総合通信局 報道資料(2016年1月22日)、公立はこだて未来大学「社会と共創する研究領域」

館山の海にもつながる研究

漁業の困りごとは、北海道だけの話ではありません。海の温度が変わる、燃料代が上がる、漁師さんが減る。どれも海の町に共通する悩みです。

大学が2025年12月に紹介した研究では、ホタテを育てる海のブイにカメラを付け、海の中をスマホで見られるようにしました。港から船を出して見に行く回数が減れば、燃料代と働く時間が減ります。漁師さんの仕事が楽になれば、人手不足の解決にもつながります。

出典:公立はこだて未来大学「ホタテ養殖施設をITで管理 マリンIT プロジェクト」(2025年12月15日)

館山にも漁港があります。函館で生まれた考え方は、館山の海でもそのまま使えます。地方の町に住んでいる人ほど、こういう研究のテーマを身近に見つけられます。

海の上で、白い漁船がクレーンを使って、海に仕掛けた網を引き上げている
定置網の漁のようす(神奈川県 江の島の沖・2018年)
写真:Miyuki Meinaka/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

どんな人が研究しているか

電球がずらりと並ぶ夜のイカ釣り漁船の甲板で、止まった機械の前に工具を持ってしゃがみ、歯を食いしばって眉をつり上げる若い技術者の男性。「漁の機械から研究者へ」の文字。

研究室を率いる和田雅昭教授は、1971年に静岡県の焼津市で生まれました。港町の生まれです。

港の岸壁に、たくさんの電球を張った白いイカ釣り漁船が何そうも並んでとまっている
函館の港に並ぶイカ釣り漁船。船の上に、イカを集める電球がずらりと並ぶ(2012年)
写真:Chi King/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)
年経歴
1993年北海道大学 水産学部 漁業学科を卒業。漁業の機械を作る会社(東和電機製作所)に入る
2004年会社で働きながら北海道大学の大学院で学び、博士(水産科学)を取る
2005年公立はこだて未来大学に移る
2012年教授になる
2023年大学の副理事長・副学長になる

出典:公立はこだて未来大学 教員一覧「和田 雅昭」(プロフィール・学位)

和田先生は、最初から情報の研究者だったわけではありません。大学では漁業を学び、会社で漁業の機械を作っていました。漁の現場を知っている人が、情報の力を使って漁業を変えようとしているのが、この研究室の強みです。

マリンITは、未来大の中で情報・デザイン・環境と専門の違う先生が力を合わせ、水産試験場や漁師さんと一緒に進めてきた研究です。和田先生は、学部の授業では「プログラミング基礎」「センサ工学」を教えています。

出典:公立はこだて未来大学「スマート水産業 マリンIT プロジェクト」(2025年12月15日)、同 教員一覧「和田 雅昭」(研究内容・担当科目)

教員ページの学生へのメッセージ(英語版)には、「現場に出て、漁師さんが本当に困っていることを見つけよう。それは情報技術で解決できる」という意味の言葉が書かれています。研究室の学生の人数や、研究室だけの進路は公式に出ていないので、ここでは書きません。

塾長 小池

研究のテーマは、教科書の中ではなく、港や海の上に落ちています。館山の海を見て「これは困るだろうな」と思えることが、研究の第一歩です。

この研究室に入るには

ガラス張りの吹き抜けの明るい大学の中で、ノートパソコンを開いて、のびのびと穏やかにほほえむ茶髪の女子大学生。「大学院からも選び直せる」の文字。

道は3つあります。

道流れ
未来大に入る(学部から)公立はこだて未来大学 システム情報科学部に入る → 2年生でコースを選び、学科が決まる(和田先生は情報アーキテクチャ学科)→ 3年生でプロジェクト学習 → 4年生で卒業研究
高専・短大などから入る編入学試験を受け、原則3年生に入る(2027年度入学の試験は2026年6月13日)
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の学部を卒業する → 未来大の大学院 システム情報科学研究科 博士(前期)課程の入試に受かる

出典:公立はこだて未来大学「カリキュラム概要」「編入学試験(一般選抜・特別選抜)概要」「【A日程】博士(前期)課程募集概要」

青空の下、ガラス張りの大きな四角い校舎が建ち、手前にカーブした道と木が並んでいる
公立はこだて未来大学のキャンパス(北海道函館市・2024年)
写真:掬茶/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

未来大は、システム情報科学部だけの大学です。入ってすぐに専門を決めず、1年生のうちは広く学び、2年生でコースを選びます。和田先生は、2027年4月入学の大学院の指導教員一覧にも「IoT、水産情報学、マリンIT」の先生として載っています。今も新しい学生を受け入れている研究室です。

出典:公立はこだて未来大学「2027年度 博士(前期)課程 学生募集要項(A日程)」の指導教員一覧(2026年4月1日現在)

大学院の入試では、出願のときに研究計画書を出します。出願の前に、入りたい先生に相談できる制度もあります。和田先生自身も、会社で働いたあとに大学院で学び直した人です。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

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中高生のうちにできること

晴れた日の小さな漁港の岸壁で、漁船から魚の箱が上がるのを見て、目をきらきらさせて身を乗り出す制服の中学生の女子。「港を見に行ってみよう」の文字。

未来大のオープンキャンパスは、毎年夏に函館のキャンパスで開かれます。2026年度は8月1日(土)でした。模擬授業や展示で、未来大の研究に触れられます。

行事対象いつ
公立はこだて未来大学 オープンキャンパス受験生・高校生2026年度は8月1日(土)11時〜15時(申し込みは6月15日〜7月27日だった)。2027年度の案内はまだ出ていない

出典:公立はこだて未来大学「オープンキャンパス」(fun.ac.jp)

マリンITに近づく勉強は、3つです。

  • 数学:水温のグラフ、漁の量の予想は、中学の関数と、高校の統計・微分でできている
  • 情報:海のデータを集めて見せるのはプログラム。未来大では1年生の最初からプログラミングを学ぶ
  • 理科と社会:海の温度や酸素は理科、漁業や地域の産業は社会。両方を知っている人が、現場の困りごとに気づける

館山に住んでいる人は、港に行ってみてください。漁船がどう動き、何を運んでいるのかを見るだけで、研究のテーマが見えてきます。

まとめ

夜の自分の部屋の机で、数学のノートにグラフをかきながら、窓の外の港の明かりを見て穏やかにほほえむ制服の中学生の男子。「住む町がそのまま研究に」の文字。
  • 和田研究室は、公立はこだて未来大学で海と漁業の困りごとを情報の力で解く「マリンIT」の研究室
  • ブイで海の水温を測ってスマホに届け、漁の記録をタブレットで分け合い、勘と経験にデータを加える
  • しくみは総務省の地域情報化大賞2015の大賞を取り、全国30団体とインドネシアへ広がった
  • 率いる和田先生は、北海道大学で漁業を学び、漁業の機械の会社を経て研究者になった
  • 入る道は、未来大の学部から、高専などからの編入、ほかの大学から大学院へ。今も新しい学生を受け入れている
  • 館山のような海の町に住んでいることが、そのまま研究のテーマになる

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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