森勢研(明治大学):声を「3種類の数字」に分けて、作り直す。数理の学部で、キャラクターの声や歌声をつくる研究室

大学の音の研究室で、大きなヘッドホンを片手で押さえ、目を見開いて声を聞く女子大学院生。「キャラの声も、歌声も」「声を3つに分けて作り直す」「“数理”の学部で声をつくる」の文字。

アニメのキャラクターの声、ゲームの中のセリフ、コンピュータが歌う歌声。今は、人がしゃべっていない声を聞く機会がとても増えました。では、その声はどうやって作られているのでしょうか。

明治大学 総合数理学部の森勢将雅先生は、声を「数字」に分けて調べ、作り直す研究をしている先生です。先生が中心になって作った「WORLD(ワールド)」という仕組みは、無料で公開され、研究室のホームページによると世界中で使われています。「数理」という名前の学部で、なぜ声や歌の研究なのか。今回はこの研究室を紹介します。歌やアニメ、ゲームが好きな人、数学が何の役に立つのか知りたい人に読んでほしい記事です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

夜の自分の部屋で、イヤホンを指で押さえて歌を聞き、首をかしげる安房高の男子。「この声、どう作るの?」の文字。

森勢研究室の研究をひとことで言うと、人が声をどう聞いているかを調べて、思いどおりの声をコンピュータで作れるようにする研究です。研究室の名前は「CSP Lab」。声や音の分析・知覚ちかく・デザインを研究しています。

これまでと今の研究テーマ中学生向けに言うと
音声の分析と合成声を細かく分けて調べ(分析)、そこから声を作り直す(合成)
歌声のデザイン思いえがいた歌い方を、コンピュータで作れるようにする
ビスポーク音声デザインコンピュータが「声の職人」になって、使う人といっしょに好みの声を仕上げる
声の好感度どんな話し方が「感じがいい」と聞こえるのかを調べる

出典:森勢研究室ホームページ「研究」、KAKEN(科研費データベース)(歌声のデザイン・声の好感度はこれまでのプロジェクト)。中学生向けの言い方は坂本が言い換えた

「ビスポーク」は、洋服などを注文した人に合わせて仕立てるという意味の言葉です。明治大学の研究紹介では、先生は心の中で思いえがいた声を、コンピュータの助けで本物にする技術を目指している、と紹介されています。

出典:Meiji.net「あなた好みの声を作りましょう」(2022年4月)

声を3種類の数字に分けて、作り直す

図解。声を「高さ」「声色」「かすれ具合」の3つに分け、そこから声を作り直す。「声を3つに分けて、作り直す」の文字。

先生の研究のいちばん有名な成果が、WORLDです。WORLDは、録音した声を次の3つに分けます。そして、この3種類の数字だけから、元の声に近い声を作り直せます。

WORLDが取り出すもの専門の言葉声のどこにあたるか
高さ基本周波数しゅうはすう声の高い・低い。歌ならメロディー
声色こわいろスペクトル包絡ほうらく同じ高さでも「だれの声か」が分かる、声の色
かすれ具合非周期性ひしゅうきせい指標息のまじり方。ささやき声やかすれ声

出典:WORLD 公式ページ(GitHub)、JSTサイエンスポータル(2019年12月)、論文:Morise ほか, IEICE Transactions on Information and Systems(2016年)

3つに分けられるということは、1つだけを変えられるということです。たとえば声色はそのままで高さだけを変えれば、同じ人が別のメロディーを歌っているような声になります。声を「数字のかたまり」としてあつかえるから、こういうことができます。

WORLDは、だれでも無料で使える

WORLDのプログラムは、インターネット上で無料で公開されています。計算の方法には特許がなく、会社の製品にも、学生の研究にも使えます。プログラムを公開しているGitHub(ギットハブ)というサイトでは、1,300人以上が「お気に入り」の印を付けています(2026年10月時点)。

出典:WORLD 公式ページ(GitHub)、森勢研究室ホームページ「研究」

坂本

自分の研究を、だれでも使える形で世の中に出す。それが世界中の研究や声のソフトの土台になっていく。研究者の仕事の、いちばんかっこいい形の1つだと思います。

動画で見る

明治大学の公式チャンネルの、森勢先生の研究紹介です(約3分)。動画は、WORLDの仕組みよりも、先生が目指している「あなた好みの声」の話が中心です。

動画:明治大学 Meiji University「あなた好みの声を作りましょう|#19 Expand the World|明治大学 総合数理学部」

予想クイズ:声優さんの「少年の声」は、どう作られている?

放課後の教室で、ノートを持ってペンをあごに当て、片眉を上げ、唇を結んで考えこむ志学館高の男子。

2026年3月、企業の研究所の研究者(筆頭著者)と森勢先生が、声優さんの演技の声を調べた論文を出しました。10人の女性の声優さんに、同じ文章を5つの役(幼い少女・中高生くらいの少女・大人の女性・おばあさん・少年)で読んでもらい、聞いた人の印象と、WORLDで取り出した数字を調べた研究です。

ここで問題です。少年の役は「幼い少女と同じくらいの年の、声変わり前の男の子」です。女性の声優さんが少年を演じるとき、少女の役(幼い少女・中高生くらいの少女)とくらべて、声の「高さ」と「明るさ」はどうなっていたでしょうか。

まず自分で考えてから、下の答えを開いてください。

答えと考え方

3つの役(幼い少女・中高生くらいの少女・少年)の中では、声の高さは少年の役がいちばん低くなっていました。ところが、声の明るさ(声の響きの明るさを表す数字)は、幼い少女と中高生くらいの少女のあいだでした。つまり、ただ全体を低くするのではなく、「高さは下げて、明るさは残す」という声だったのです。

実は、声変わり前の男の子と女の子の声には、もともと大きな差がないことが知られています。論文では、女性の声優さんの少年の声には、実際の男の子の声とは別の「少年らしく聞こえる」独特の表現が使われている可能性がある、とまとめています。

出典:論文:林・森勢「女性声優の演技音声における年齢・性別の表現と関連する音響特徴量」日本音響学会誌 82巻3号(2026年)、同じ論文の公開版(Jxiv)

アニメを見ているときにふだん感じている「この声は少年っぽい」を、数字で説明しようとする研究です。ここで、声を数字に分けるWORLDが道具として使われています。

だれでも使える「読み上げ用の文」も作った

大学の小さな録音室で、マイクの前で紙の原稿を両手で持ち、集中して読み上げる男子大学院生。

コンピュータに声を作らせるには、まず人に文章を読んでもらって、声を集める必要があります。ところが、それまで使われていた読み上げ用の文の多くは、有料だったり、作った声を自由に使えない決まりがあったりしました。

そこで2021年、仙台市の会社(SSS合同会社)が企画し、明治大学の森勢研究室のメンバーと森勢先生、九州工業大学の研究者が協力して「ITA(イタ)コーパス」を作り、公開しました。

ITAコーパス中身
文の数100文+324文の、合わせて424文
作り方著作権の切れた文章や、オリジナルの文章から作った
使える範囲著作権のない「パブリックドメイン」。商品づくりにも自由に使える
工夫日本語の音がまんべんなく入るようにしながら、読みやすさも考えた

出典:小口ほか「ITAコーパス:パブリックドメインの音素バランス文からなる日本語テキストコーパスの構築と基礎評価」情報処理学会研究報告(2021年6月)、ITmedia NEWS(2021年6月18日)

「コーパス」は、研究のために集めた文章や声のデータのことです。声を作る人が、お金や権利の心配をせずに声を集められるようになりました。研究の成果は、新しい仕組みだけではありません。みんなが使える「材料」を作ることも、大事な研究です。

この研究室に入るには

森勢研究室は、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科にあります。総合数理学部は東京の中野キャンパスです。

大学学部・学科偏差値
明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科57.5
明治大学総合数理学部 現象数理統計学科57.5
明治大学総合数理学部 ネットワークデザイン学科57.5

出典:河合塾「2027年度入試難易予想ランキング表」。偏差値は河合塾のボーダー偏差値(合格の可能性が50%になる目安)

「数理」の学部で、なぜ声?

学部の名前だけ見ると、数学ばかりの学部に見えます。でも2019年の記事では、「音は脳に作用する数列である」(数列=数字の並び)が森勢先生の持論だと紹介されています。録音した声は、コンピュータの中では数字の並びです。その数字から高さや声色を取り出すのは、数学の仕事です。声や歌を作る研究は、数理の学部のど真ん中にあるのです。

出典:JSTサイエンスポータル(2019年12月12日)

研究室のメンバー一覧(2026年度)には、大学院生11人と、学部の2年生から4年生までが名前を連ねています。先生は山梨大学などを経て2019年に明治大学に来て、2024年から教授です。

出典:森勢研究室ホームページ「メンバー」、researchmap

「自分で作ったプログラム」で受ける入試もある

先端メディアサイエンス学科には、自分で作ったコンピュータのプログラムを出して受ける自己推薦の入試があります。2027年度入試のエントリーシートでは、作ったプログラムを最大3つまで説明し、学科で学びたいこととのつながりを書きます。人数や日程は、明治大学のホームページで必ず確かめてください。

出典:明治大学「2027年度 総合数理学部 自己推薦特別入学試験 先端メディアサイエンス学科エントリーシート」

中高生のうちにできること

夜の自分の部屋で、ノートパソコンのキーボードに手を置き、唇を結んで画面を見つめる安房高の女子。

自分の声を録音して、くらべてみる

スマホで自分の声を録音して、ふつうの声、ささやき声、だれかのまねをした声をくらべてみてください。どこが変わったのか言葉にできたら、それがこの研究の第一歩です。

数学の「三角関数」と、物理の「波」

音は空気の波です。高校の数学IIで習う三角関数(サイン・コサイン)や、物理基礎の「波」の単元は、声を数字で表すための道具そのものです。今の数学の授業が、そのまま声の研究につながっています。

プログラミングをやってみる

声をあつかう研究は、プログラムを書いて進めます。小さなものでいいので、自分で何かを作ってみてください。上で紹介したように、作ったプログラムが入試につながる学科もあります。

まとめ

夕方の館山の海沿いの道で、低い堤防にひじをのせて海を見ながら、鼻歌まじりに小さくほほえむ館山中の男子。
  • 森勢研究室は、人が声をどう聞いているかを調べ、思いどおりの声をコンピュータで作る研究室
  • 先生が中心になって作ったWORLDは、声を「高さ・声色・かすれ具合」の3つに分けて作り直す仕組み。無料で公開されている
  • 2026年には、声優さんの「少年の声」を数字で調べ、独特の表現が使われている可能性を示した
  • 入口は明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科(偏差値57.5)。声は数字の並びなので、数学がそのまま武器になる

東進館山校 坂本

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