千葉大学の植物工場(園芸学部):LEDの光で野菜を育て、月の畑まで作る研究

LEDの光に照らされた植物工場で、レタスが何段も並ぶ棚を見上げて目を輝かせる、明るい髪に黄色いTシャツの女子大学生。「地元・千葉の国立大学」「LEDで育てる植物工場」「月の上にも畑を作る」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

外は台風でも猛暑でも、建物の中では毎日同じようにレタスが育つ。太陽の代わりにLEDの光を当て、土の代わりに肥料を溶かした水で育てる。これが「植物工場」です。

その植物工場の研究で、日本の先頭を走ってきた大学があります。千葉大学です。 館山の皆さんから見れば、同じ千葉県にある国立大学。その園芸学部は、日本でただ1つの国立大学の園芸学部です。

この記事は、1つの研究室ではなく、千葉大学の植物工場の研究をまとめて紹介します。中心は、園芸学部の植物環境工学研究室と、千葉県柏市の柏の葉キャンパスに並ぶ植物工場、そして月の上で野菜を育てる研究を進める宇宙園芸研究センターです。

出典:千葉大学園芸学部「園芸学部 概要」(「1909年の創立以来、わが国唯一の国立大学園芸学部」)

目次

ひとことで言うと、何の研究?

大学の研究室の、窓のない栽培室で、棚のLEDの光の色を手元のつまみで変えながら、レタスの葉を夢中でのぞきこむ茶髪の男子大学生。「光も温度も人が決める」の文字。

ひとことで言うと、光・温度・水・空気を自分で決めて、植物をいちばんよく育てる方法を見つける研究です。

畑の野菜は、その年の天気しだいです。植物工場では、光の色と強さ、温度、湿度、二酸化炭素の濃さ、肥料の量を、人が1つずつ決められます。決められるから、比べられます。「青い光を足すと、葉の栄養はどう変わるか」「根を冷やすと、薬になる成分は増えるか」。こうした実験を1つずつ積み重ねるのが、この研究です。

窓のない部屋で、緑のレタスがぎっしり育っている。天井には丸いLEDの照明が並んでいる
LEDの光だけで育てているレタス(韓国・ソウル大学の、閉じた部屋で植物を育てる実験・2012年)
写真:User:Flatengine/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

千葉大学で進んでいる研究を、中学生向けに言い換えるとこうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
閉鎖型へいさがた植物工場の環境制御窓のない部屋で、光・温度・空気を全部決めて、野菜を早く大きく育てる
光で栄養を増やす紫外線や青い光を当てて、葉の体にいい成分を増やす
根の温度で成分を変える肥料の水を冷やして、葉や花のつぼみの薬になる成分を増やす
月面農場空気も水もない月の上に植物工場を建てて、野菜を育てる
植物工場の自動化種まきから収穫まで、ロボットとカメラに任せる

出典:千葉大学 宇宙園芸研究センター「高効率生産技術研究部門」、科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の研究課題「低培養液温度による葉および花蕾の機能性・薬用物質の高濃度化技術」(2025〜2028年、研究代表者 彦坂晶子)、植物工場研究会「千葉大学柏の葉キャンパス植物工場 施設概要」。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

植物工場の中がどうなっているかは、この動画で分かります(2分)。完全に人工の光だけで、300gを超える大きなレタスを育てる工場です。千葉大学の施設かどうかは動画では言っていませんが、植物工場のつくりを知るにはちょうどいい長さです。

動画:TBS NEWS DIG Powered by JNN(YouTube 公式チャンネル、2022年11月)

動画で見る

1本目は、テレビ朝日の「松岡修造のみんながん晴れ」です(6分)。千葉大学の後藤英司先生の、月で野菜を作る研究を取り上げています。目指すのは、地産地消ならぬ「月産月消」。月の上で作って、月の上で食べる、という意味です。

2本目は、千葉大学の公式チャンネルにある園芸学部の紹介です(7分)。松戸キャンパスと柏の葉キャンパスで、どんな研究と授業をしているかを見せてくれます。説明は英語ですが、温室や植物工場、宇宙農業の研究のようすは、映像だけで伝わります。

動画:ANNnewsCH(テレビ朝日系の YouTube 公式チャンネル、2023年5月7日放送)、国立大学法人千葉大学 公式チャンネル(2026年4月)

月の上に畑を作る

月面の基地の中にある植物工場で、ピンク色のLEDの棚から収穫したレタスを両手で持ち上げ、満面の笑顔を見せる若い女性研究者。窓の外には灰色の月面と青い地球。「月で作って月で食べる」の文字。

いま世界の国々は、もう一度月へ人を送ろうとしています。月に人が住めば、食べ物が要ります。地球から全部運ぶのは大変です。だから月の上で育てる。そのための植物工場を考えているのが、千葉大学の宇宙園芸研究センターです。

宇宙園芸研究センターは、2023年に園芸学部の先生たちを中心にできました。工学部の先生も加わっています。センターの説明では、2030年代には100〜1,000人ほどが月に長く住むと考えられています。研究は3つの部門に分かれていて、その1つ「高効率生産技術研究部門」を率いるのが、植物環境工学研究室の彦坂晶子教授です。

月の植物工場で目指していることは、たとえばこうです。

  • 狭い場所と少ない電気で、いちばん多く野菜を育てる
  • 植物の元気さをカメラやセンサーで遠くから見て、水と肥料を自動で調整する
  • 種まき・世話・収穫をロボットに任せる
  • 重力の小さい月で、ハチの代わりに花粉を運ぶドローン型のロボットを作る

出典:千葉大学 宇宙園芸研究センター「背景・目的」「高効率生産技術研究部門」「教員・研究員」、千葉大学園芸学部 トピックス2023(開所式は2023年5月17日)

ピンク色のLEDの光に照らされた小さな栽培装置で、赤紫色の葉のレタスが育っている
国際宇宙ステーションの栽培装置「Veggie」で育った赤いレタス(アメリカ航空宇宙局 NASA・2015年)
写真:NASA/Public domain(Wikimedia Commons)

日本の宇宙機関JAXAも、「月面農場」を考えるワーキンググループを作りました。そのまとめ役(主査)を務めたのが、千葉大学の後藤英司先生です。地上の植物工場の30年分の技術を、月の農場に生かすためです。

出典:JAXA 宇宙探査イノベーションハブ「Lunar Farming Concept Study Working Group」報告書の公開ページ

後藤先生がテレビで研究を説明した動画です(4分)。月の重力は地球の6分の1でも、植物は育つと考えていること。千葉大学には月面を想定した施設があり、レタス、イチゴ、トマト、パプリカを育てていること。月には空気がないので、空気と水をリサイクルしながら使うこと。この3つを短く話しています。

動画:愛知のニュース【テレビ愛知 ニュース・スポーツ公式チャンネル】(2023年6月23日)

2026年9月には、日本宇宙少年団の小中学生が松戸キャンパスの宇宙園芸研究センターを訪ねました。植物環境工学研究室では、月面の環境を想定した閉鎖型植物工場で、光・水・空気を細かく調整して葉物野菜を育てるようすを見学しています。中学生でも、研究の現場を見に行けるということです。

出典:千葉大学 宇宙園芸研究センター「日本宇宙少年団とExedra研究部が宇宙園芸研究センターを訪問しました」(2026年9月14日)

研究から生まれたもの:柏の葉の植物工場

人工の光で育てるイチゴの植物工場で、葉先がしおれた株を見つけ、眉を寄せて口を結び、タブレットのデータと見比べる作業着の若い技術者の男性。「大学と企業で確かめる」の文字。

千葉大学の研究は、大学の中で終わっていません。柏の葉キャンパスの敷地には、企業が自分の技術を持ちこんで試す植物工場が10を超えて並んでいます。大学と企業が一緒に、どうすれば植物工場で野菜をうまく、安く作れるかを確かめる場所です。

CHIBA UNIVERSITY と書かれた低いコンクリートの塀と門。奥に木々と建物が見える
千葉大学 柏の葉キャンパスの正門(千葉県柏市・2011年)。植物工場はこのキャンパスの中にある
写真:Miyuki Meinaka/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
施設の例どんな光何を試しているか
多段式栽培工場(千葉大学・植物工場研究会)人工の光棚を何段も重ねて育て、植物の育ち方をデータで測る
イチゴの周年栽培(ハンモ)人工の光1年中イチゴを実らせる
植物生産の自動化(大林組)人工の光植物を育てる作業を機械で自動にする
トマトとイチゴ(ヤンマーグリーンシステム)太陽の光水やりと温度の管理を工夫して多くとる
植物工場向けの種(リーフ・ラボ)太陽の光植物工場で育てやすいレタスの種を作る

出典:植物工場研究会「千葉大学柏の葉キャンパス植物工場 施設概要」(2026年10月11日に確認。施設の中身は入れ替わることがある)

この施設を支えているのが、NPO法人の植物工場研究会です。2010年に柏の葉キャンパスで生まれた会で、千葉大学名誉教授の古在豊樹こざいとよき先生が会長を務めてきました。企業や団体の会員は約130。見学に来た人は、これまでに約5万3千人です。

出典:農林水産省 第1回フードテックワーキンググループ 資料4-⑥「植物工場研究会 活動概要および植物工場の可能性」(2025年12月25日)、植物工場研究会「植物工場研究会について」

どんな人が研究しているか

大学の実験台で、紫色の小さなランプの下に並ぶ青菜の鉢から葉を1枚とって測りながら、仲間と楽しそうに話す眼鏡の女子大学院生。「光の色で栄養を増やす」の文字。

植物工場と宇宙の研究には、千葉大学の園芸学部(大学院では園芸学研究院)の先生が、分野をこえて集まっています。

  • 彦坂晶子 教授:植物環境工学。光や温度で、野菜の体にいい成分を増やす研究。宇宙園芸研究センターの高効率生産技術研究部門の部門長
  • 後藤英司 特任教授:植物環境工学。植物工場と月面農場の研究を長く引っぱってきた。宇宙園芸研究センターの副センター長
  • 吉田英生 助教:植物環境工学。紫外線を当ててシソの葉の成分を増やす研究
  • 中野明正 教授:作物生産科学。農林水産省と国の研究機関で野菜づくりの技術を研究してきた。月の上で、ごみを出さない植物工場で食料を作る研究
  • 塚越覚 准教授:柏の葉の環境健康フィールド科学センターで、薬草や地方の野菜を育てる研究

出典:千葉大学園芸学部「教員一覧」と各教員のページ、千葉大学 宇宙園芸研究センター「教員・研究員」、科学研究費助成事業データベース(KAKEN)、researchmap(彦坂晶子)。研究室の学生の数・卒業生の進路は公式に出ていないので書いていない

彦坂先生は、千葉大学で博士(農学)を取った研究者です。2022年に日本生物環境工学会の「植物工場普及振興賞」を受け、『施設園芸学』(朝倉書店)という本の執筆者の1人でもあります。千葉大学で学んだ人が、千葉大学で次の研究者を育てています。

出典:researchmap「彦坂 晶子」

この研究室に入るには

学校の図書室で、窓ぎわの机に大学の案内の冊子を開き、自分に行けるかと少し不安そうに考える館山中の制服の女子。「地元の国立で植物を学ぶ」の文字。

道は2つあります。

道流れ
千葉大学に入る(学部から)千葉大学 園芸学部 園芸学科に入る → 2年生で「生物生産環境学プログラム」などを選ぶ → 3年生で専門の分野と先生を決める
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の農学部・理学部・工学部などを卒業する → 千葉大学大学院 園芸学研究科 園芸科学コースの入試に受かる

出典:千葉大学園芸学部「学科案内」「専攻コース案内」、千葉大学園芸学部 入学案内(2025年版)

桜が咲く大学の正門。れんがの門から、木々の間を坂道が奥へ続いている
千葉大学 園芸学部がある松戸キャンパスの正門(千葉県松戸市・2008年)
写真:Hasec/CC0(Wikimedia Commons)

園芸学部には「園芸産業創発学プログラム」もあります。入試のときから選べるコースで、1年生の終わりには専門の分野と先生を決めます。植物工場や農業の会社で6か月間インターンシップをするのが特徴です。植物工場の仕事をしたいと決めている人には、早く現場に出られる道です。

出典:千葉大学園芸学部 入学案内(2025年版)「園芸産業創発学プログラム」

園芸学科を出た先輩の就職先には、農林水産省、千葉県庁、東京都庁、サカタのタネ、カルビー、キリンホールディングス、クボタ、日立製作所、本田技研工業、ソフトバンクなどが並びます。野菜を作る仕事だけではありません。食べ物・機械・ITの会社にも進んでいます。

出典:千葉大学園芸学部「園芸学科」(卒業生の主な就職先)。学科全体の就職先で、植物工場の研究室だけの数字ではない

千葉大学の公式チャンネルにある、園芸学部の紹介動画です(15分)。オープンキャンパスの代わりに作られた動画で、4つの学科で何を学ぶかを順に説明しています。

動画:国立大学法人千葉大学 公式チャンネル(2026年8月)

千葉大学そのもの(学部・キャンパス・入試・安房高校からの合格者)は千葉大学はどんな大学?に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

植物工場の見学で、大きなガラス窓の向こうにピンク色の光で何段も重なるレタスの棚を見て、目を丸くして驚く館山中の制服の男子。「中学生から見学できる」の文字。

植物工場は、本物を見に行けます。柏の葉キャンパスの植物工場は、植物工場研究会が見学を受け付けています。

見に行けるもの対象いつ・どうやって
柏の葉の植物工場「講義付き見学コース」(約2時間)中学生以上開催予定日から選んで予約。学校の生徒は無料(大人は3,000円)。見学の多くは屋外
戸定祭とじょうさい(園芸学部の大学祭)だれでも2026年10月24日(土)・25日(日)、松戸キャンパス
園芸学部の高校生向け講座(園芸学科コース)高校2・3年生2026年は7月31日に松戸キャンパスで開いた(無料、25名程度)。応募は5〜6月。2027年の案内はまだ出ていない

出典:植物工場研究会「見学のご案内」、千葉大学園芸学部「戸定祭(大学祭)」「理数系の若き才能を発掘する『次世代才能スキップアップ』プログラム」(2026年10月11日に確認)

植物工場の研究は、理科と数学のかたまりです。光が葉でどう使われるかは理科の光合成。温度や二酸化炭素の量を変えて結果を比べるのは、中学の比例とグラフ、高校の関数と統計。センサーとロボットを動かすのはプログラムで、世界の論文は英語で書かれています。中学生のうちは、理科の植物の単元と、数学の関数・グラフから逃げないこと。これがいちばん千葉大学の植物工場に近づく勉強です。

塾長 小池

月の上の畑も、最初は「光を強くしたらレタスはどれだけ大きくなるか」という1本のグラフから始まります。グラフを読んで考える力は、数学の問題を1問ずつ解くことで育ちます。

まとめ

夜の自分の部屋で、机の上の小さな水耕栽培のレタスの芽を見ながら、ノートに右上がりのグラフを描き、ひらめきかけて目を輝かせる館山中の制服の男子。「近道は理科と数学」の文字。
  • 千葉大学の園芸学部は、日本でただ1つの国立大学の園芸学部。館山から見れば、地元・千葉の国立大学
  • 植物工場は、光・温度・水・空気を人が決めて、植物をいちばんよく育てる方法を見つける研究
  • 宇宙園芸研究センターでは、月の上で野菜を育てる植物工場の研究が進んでいる
  • 柏の葉キャンパスには、企業と一緒に試す植物工場が10を超えて並び、中学生から見学できる
  • 入る道は、園芸学部の園芸学科から、または大学院から。植物工場の会社でインターンシップをするコースもある
  • 近づく勉強は、理科・数学・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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