中村研(中央大学):ミミズのように進むロボットで、月の地下や細い配管を調べる研究室

研究室のホワイトボードの前で、ミミズの体の節を表した図を指さす、黒髪ロングにカチューシャの女子大学生。手前の透明な管の中を、節の分かれたミミズ型ロボットが進んでいる。「中央大学の中村研」「ミミズ型のロボット」「月の地下までほり進む」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

ロボットと聞くと、かたい金属の体を思いうかべる人が多いはずです。中央大学の中村研究室は逆です。ゴムでできた柔らかい体で、ミミズのようにくねくね進むロボットを作っています。

研究室の正式な名前は「バイオメカトロニクス研究室」です。バイオは生き物、メカトロニクスは機械と電子をあわせた技術のことです。生き物の体のしくみをまねて、人が入れない場所で働くロボットを作る研究室です。場所は東京の文京区、後楽園駅のそばにある中央大学の後楽園キャンパスです。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

研究室の作業台で、ゴムの節がつながった柔らかいロボットが積んだ箱の細いすき間をくねって通り抜けるのを、身を乗り出して夢中で見る茶髪の男子大学生。「柔らかい体ですき間を進む」の文字。

中村研の研究をひとことで言うと、ミミズや腸のような「柔らかい生き物」の動きをまねて、月の地下や細い管の中で働くロボットを作る研究です。

かたいロボットは、せまい場所でぶつかるとこわれます。柔らかいロボットは、ぶつかってもこわれにくく、すき間に体を合わせて進めます。研究室のサイトには、ミミズ・シャコ・テッポウエビ・バクテリアなど、手本にした生き物の名前がずらりと並んでいます。

研究のテーマを中学生向けに言い換えると、こうなります。

研究の名前中学生向けに言うと
人工筋肉空気を入れると縮む、ゴムでできた筋肉
ミミズロボット月の地下・海の底・細い配管の中を、ミミズのように進むロボット
蠕動ぜんどう運動型ポンプ腸が食べ物を送るように、中身を混ぜながら送る管
シャコロボットエビの仲間のシャコがパンチする速さのしくみをまねたロボット
体につける装置お年寄りや宇宙飛行士の体の動きを助けたり、きたえたりする装置

出典:中央大学 中村研究室(バイオメカトロニクス研究室)公式サイト「研究内容」「高校生の皆様へ」。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

研究室は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や海洋研究開発機構、たくさんのメーカーと一緒に研究しています。2021年の大学の取材記事では、企業などとの共同研究はそれまでに70〜80件、そのときも約20件が進んでいました。

出典:中村研究室「高校生の皆様へ」、中央大学「+C」研究者インタビュー(2021年12月6日)

ミミズと腸をまねたロボット

月の砂をまねた灰色の砂を入れた大きな実験の箱に、節の分かれたミミズ型ロボットがもぐっていくのを、目を輝かせて見つめる研究者の男性。「月の砂をほって進む」の文字。

中村研を有名にしたのが、ミミズロボットです。

ミミズの体は、約150の節に分かれています。ミミズは2種類の筋肉を使い、節を「細く長く」したり「太く短く」したりします。太く短くなった節が、まわりの土をつかみます。そのあいだに、ほかの節が前へ伸びます。これを波のように後ろへ送ると、体が前に進みます。

落ち葉の上で体を曲げている、赤茶色のミミズ。体に細かい輪の節がたくさん並んでいる
ロボットの手本になったミミズ。体が細かい節に分かれている
写真:Donald Hobern/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

ロボットも同じです。空気を入れると太く短くなるゴムの人工筋肉を、何個もつなげます。前から順番に空気を入れたり抜いたりすると、ミミズと同じように進みます。体の横を壁にこすらずに進めるので、細い管の中や土の中でも止まりにくいのです。

研究室が挙げている使い道は、こうです。

どこで何をする
月の地下まだだれも調べていない月の地面の下をほって、月のなりたちや資源を調べる
北極の海の氷厚い氷に穴をあけて、氷の下を調べる
深い海の底海底の土をほって運び、レアアースなどの資源を調べる
下水管・工場の配管内側の直径が約16〜28mmの細い管の中まで入って、中を点検する

出典:中村研究室「ミミズロボット」「高校生の皆様へ」

2021年の取材では、ミミズロボットは約50kgの物を引っぱれると紹介されています。月の地下の研究は、JAXAとの共同研究です。

出典:中央大学「+C」研究者インタビュー(2021年12月6日)

研究室の公式チャンネルにある、月や惑星の地下をほるミミズロボットの実験動画です(2分)。

同じ考え方で、腸のまねもしています。腸は、輪の形の筋肉が順番に縮んで、食べ物を少しずつ先へ送ります。これを蠕動運動と言います。中村研は、この動きをまねた管を作りました。人の息くらいの弱い空気の力で、中身を混ぜながら送れます。使い道は、ロケットの固体燃料づくり、宇宙ステーションのトイレ、発酵食品づくり、工事で出る土砂の運搬です。2026年6月には、この技術を使った混ぜて運ぶ装置が、食品の機械の展示会「FOOMA JAPAN 2026」で賞を受けました。

出典:中村研究室「蠕動運動型ポンプ」「新着トピックス」(2026年6月4日)

腸のまねをしたポンプで、パンケーキの生地を混ぜて焼く動画です(45秒)。

動画:Nakamura Laboratory, Chuo University(中村研究室の YouTube 公式チャンネル)

動画で見る

まずは、中央大学の公式チャンネルにある研究室紹介です(8分)。2021年に作られた動画で、中村先生と学生が、自分たちの研究を1つずつ紹介します。

次は、研究室のミミズロボット「Pew-RO」の紹介動画です(2分)。

3本目は、2026年3月に公開された、シャコの打撃のしくみをまねたロボットの動画です(1分)。シャコは、筋肉が縮む速さよりずっと速いパンチを水の中でくり出します。研究室は、そのしくみを人工筋肉の関節に取り入れようとしています。

動画:中央大学公式YouTube、Nakamura Laboratory, Chuo University(中村研究室の YouTube 公式チャンネル)。シャコの研究は中村研究室「シャコロボット」

正面から見たシャコ。丸く大きな2つの目の下に、緑や赤のあざやかな脚が並び、顔の下で太い脚を折りたたんでいる
研究室が手本にしたシャコの仲間(モンハナシャコ)
写真:prilfish/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

研究室から生まれたもの

工場の太い配管が並ぶ通路で、開けた配管の口にミミズ型ロボットを入れながら、失敗できないと口を結んで真剣ににらむ作業服の若い女性技術者。「工場の配管を中から点検」の文字。

中村研から生まれた会社が、ソラリスです。2017年に中村先生たちが作った、中央大学で初めての大学発ベンチャーです。中村先生は、教授を続けながらこの会社を立ち上げ、研究室で育てた技術を世の中で使える製品にしています。

ソラリスのミミズ型ロボット「Sooha(スーハ)」は、空気で動く人工筋肉で、細い配管の中を自分で進みます。工場や水道の配管の中を点検するロボットです。2025年には、このSoohaがMM総研大賞2025の「次世代ロボット分野」で最優秀賞に選ばれました。

年できごと
2017年中村先生たちがソラリスをつくる(中央大学で初めての大学発ベンチャー)
2023年三菱HCキャピタルと組み、水道や工場の配管をSoohaで点検するサービスを試す
2025年Soohaが「MM総研大賞2025」次世代ロボット分野の最優秀賞

出典:中央大学 プレスリリース(2020年1月30日)、三菱HCキャピタル・ソラリス 発表(2023年12月18日)、中央大学 研究ニュース(2025年7月2日)

ソラリスは、JAXAなどと一緒に、腸のまねをしたポンプでロケットの燃料を安く作る技術にも取り組んでいます。中央大学の公式チャンネルで、ソラリスのことを中村先生たちに聞いた番組です(24分)。腕を上げる作業を助ける装置「TasKi」ができるまでや、ミミズ型ロボット、ロケットの技術が出てきます。

出典:中央大学 プレスリリース(2020年1月30日)。動画:中央大学公式YouTube「知の回廊 第136回」(2020年度制作)

2025年10月には、飲食店の厨房のダクトを掃除・点検するロボットを、東京ビッグサイトの「危機管理産業展」の総務省消防庁のブースで展示しました。

出典:中央大学 研究ニュース(2025年10月)

どんな人が研究しているか

夕方の研究室の作業台で、ゴムの人工筋肉と3Dプリンターで作った部品を組み立てながら、仲間に楽しそうに話しかける女子大学院生。「学生36人が自分で作る」の文字。

研究室を率いているのは、中村太郎(なかむら たろう)教授です。1975年生まれで、信州大学の大学院で博士課程を終えたあと、秋田県立大学の助手をへて、2004年に中央大学に来ました。2013年から教授です。2012〜2013年には、スイス連邦工科大学ローザンヌ校で客員教授として研究しました。

  • 2011年:文部科学大臣表彰 若手科学者賞
  • 2026年2月:日本機械学会フェロー
  • 2026年4月:日本機械学会賞(技術)(伊藤文臣 助教と一緒に)
  • 2026年9月:永守財団「第十二回永守賞大賞」

出典:中央大学「+C」研究者紹介、中村研究室「教授 中村太郎」「新着トピックス」

先生は、中村教授のほかに助教と准教授が1人ずつです。学生は、修士課程2年が11人、修士課程1年が12人、学部4年生が13人です。学生も、学会でたくさん賞を受けています。

出典:中村研究室「メンバー」(人数は2026年10月12日に公式サイトのメンバー一覧を数えたもの)。研究室の卒業生だけの進路は公式に出ていないので書いていない

研究室のサイトは、配属を考える学生に向けて「ロボットを自分で設計して、作って、制御する」と書いています。自分で作ったロボットが思いどおりに動いたときのワクワクが、研究の中心です。2021年の取材で中村先生は、ミミズロボットも最初は「役に立てよう」ではなく「作ってみよう」から生まれたと話しています。

塾長 小池

「作ってみよう」から始まったミミズロボットが、いまは工場の配管の中を走っています。役に立つ研究は、おもしろがるところから始まります。

出典:中村研究室「研究室紹介」「配属希望の皆様へ」、中央大学「+C」研究者インタビュー(2021年12月6日)

この研究室に入るには

夕方の小さな駅のホームで、東京方面へ走っていく電車を見送りながら、少し心細そうな顔をする館山中の男子。「学部からも大学院からも」の文字。

中央大学の理工学部は、2026年4月に3つの学部に分かれました。中村研のある精密機械工学科は、いまは先進理工学部 精密機械工学科です。キャンパスは東京の後楽園キャンパスです。

高いビルが並ぶ街の中に建つ大学のキャンパスを上から見た写真。茶色の高い建物の上に「中央大学」の文字があり、右の建物には「中央大学理工学部」と書かれている
中央大学 後楽園キャンパス(2012年)。精密機械工学科もこのキャンパスにある
写真:Dick Thomas Johnson/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)
道流れ
中央大学に入る(学部から)先進理工学部 精密機械工学科に入る(定員145人)→ 3年生の後期に研究室が決まる → 4年生で卒業研究
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 中央大学大学院 理工学研究科 精密工学専攻の入試に受かる

出典:中央大学「先進理工学部 精密機械工学科」、精密機械工学科「学部教育」、中央大学大学院 理工学研究科「教育スタッフ」「入試情報」

2年生では、3〜5人のグループで装置を考え、設計し、実際に作る授業があります。研究室に入る前から、ものづくりを体で覚えます。

学科の学部生の約6割が、大学院の修士課程に進みます。学部の卒業研究は4年生の1年間です。研究を続けたい人は、大学院でさらに2年取り組みます。大学院の入試の種類と日程は、中央大学大学院の入試要項で確かめてください。

出典:中央大学 精密機械工学科「学部教育」「大学院」

中央大学そのものは中央大学の紹介に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。

中高生のうちにできること

大学祭の研究室の展示で、透明な管の中を自分の手のそばまで進んできたミミズ型ロボットに、満面の笑顔になる高校生の女子。「大学祭で研究室をのぞく」の文字。

中村研の研究室は、オープンキャンパスと大学祭の日に公開されます。ほかの日は、研究室の中には入れません。

行事いつ
理工白門祭(後楽園キャンパスの大学祭)2026年10月31日(土)・11月1日(日)10時〜17時
オープンキャンパス(後楽園キャンパス)2026年は8月1日・2日に終わった。2027年の日程はまだ出ていない
キャンパスの見学予約なしで見られる(9時30分〜16時30分。入試の期間と卒業式の日はだめ)。研究室には入れない

出典:中央大学「キャンパス見学」、中央大学学生部「2026年度後楽園大学祭開催要領」、中央大学「オープンキャンパス2026」。どの研究室が出展するかは年によって違うので、当日の案内で確かめること

ミミズロボットの研究は、中学の理科とつながっています。ミミズの体のつくりと、腸が食べ物を送るしくみは生物の単元です。人工筋肉は空気の力で動くので、圧力の単元そのものです。高校に入ると、物理と数学(三角比・ベクトル・微分)で、ロボットの動きを計算します。論文はほとんどが英語です。

中学生のうちは、理科の「生物のからだ」と「圧力」、数学の関数から逃げないこと。これがいちばん中村研に近づく勉強です。

まとめ

夜の自分の部屋の机で、理科のノートにミミズの体の節と矢印の図を描きながら、しくみが分かりかけてワクワクする館山中の男子。「理科と数学が近道になる」の文字。
  • 中村研は、中央大学の精密機械工学科の研究室。ミミズや腸のような柔らかい生き物の動きをまねたロボットを作っている
  • ミミズロボットは、月の地下・海の底・細い配管の中を進む。腸をまねたポンプは、ロケットの燃料や宇宙のトイレに使う
  • 研究室から生まれたソラリスは、中央大学で初めての大学発ベンチャー。ミミズ型ロボット「Sooha」で最優秀賞
  • 入る道は、先進理工学部 精密機械工学科から(3年生の後期に配属)、または大学院から
  • 近づく勉強は、理科(生物・圧力)・数学・物理・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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