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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
目をつぶって、机の上の卵をつかんでみてください。割らずにつかめます。指が卵に触れた瞬間と、どれくらいの力で押しているかが、手に伝わってくるからです。
ロボットは、この「手に伝わる感覚」を持っていません。だから力の加減ができず、やわらかい物をつぶしてしまいます。その感覚をロボットに持たせ、さらに遠くにいる人の手にまで送り届けようとしているのが、慶應義塾大学 理工学部の野崎研究室です。
これまでに紹介したJSKはロボットの「体」を作る研究室でした。野崎研は、ロボットに「さわった感じ」を持たせる研究室です。




野崎研の研究をひとことで言うと、ロボットが触ったものの硬さ・柔らかさを、人の手に返す研究です。この技術を「リアルハプティクス」と呼びます。ハプティクスは「さわる感覚の技術」という意味です。
しくみは、2台の装置を電気の信号でつなぐことです。人が手元の装置を動かすと、離れた所のロボットが同じように動きます。ロボットが何かに当たると、その押し返す力が手元の装置に戻ってきます。スポンジならポヨンとやわらかく、金属のかたまりならカツンと硬く感じます。
スマートフォンの「ブルッ」とふるえる振動も、さわる感覚の技術の1つです。でも、振動だけでは物をつかめません。野崎研が扱うのは、物を押したり、つかんだりするときの力そのものです。


| 研究のテーマ | 中学生向けに言うと |
|---|---|
| 接触力の制御 | 人とぶつかっても、人を傷つけないように力を加減するロボット |
| 医療用ロボット | 狭い所で細かい手術を助ける、遠くから動かすロボット |
| 歯科ドリルの制御 | 歯の治療で骨を削るとき、突き抜けそうになったら自動で止まるドリル |
| AIによる動作づくり | 人の動きを手本に、ロボットが自分で動き方を作る |
| 電気で飛ぶ乗り物 | プロペラを使わず、電気の力で浮く「空飛ぶクルマ」 |
出典:慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 野崎研究室「Research」(nozaki-lab.jp)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた
野崎先生は、この感覚を「第3の感覚」と呼んでいます。映像(目)と音(耳)は、もうインターネットで送ったり、録画したりできます。次は、手の動きと力加減を送ったり、記録したりする時代が来る、という考えです。
出典:Business Insider Japan「『触覚のデジタル化』で建設現場を変える。大林組も注目、慶大准教授開発の『リアルハプティクス』がすごい。」(2025年11月14日)、慶應義塾公式 YouTube「ヒトとロボットとをつなぐ技術」(2024年7月25日の講演)
まずは、慶應義塾の公式チャンネルにある研究室の紹介です(2分)。研究室のモットーは「大学に思い出を、世界に足跡を」。終わりのほうで、ロボットがやさしい動きを見せます。
次は、野崎先生本人の講演です(18分)。少し長いですが、いちばんおすすめです。触覚があるロボットハンドはブルーベリーをつかめるのに、触覚を切るとつぶしてしまう。その比べる映像から始まり、義手、建設機械、手術、トンネル工事へと話が広がります。イラストではなく、実際に動いている映像で見せてくれます。
3本目は、慶應義塾大学のハプティクス研究センターが作った、両腕のロボットの動画です(3分)。操作する人はカメラの映像を見ながら、ロボットの両腕を動かします。コップに水を注ぐなど、力の加減がいる作業に挑みます。
動画:慶應義塾 Keio University(YouTube 公式チャンネル)、慶應義塾大学 新川崎先端研究教育連携スクエア(YouTube 公式チャンネル)


野崎先生は講演で、この技術を使えば人の体の限界を越えられると話しています。例を4つ挙げます。
右手のない人に、野崎研が作った義手を使ってもらいました。義手は足の親指で動かします。すると、練習なしの1回目から、ポテトチップスを割らずに運べました。
これまでの電気で動く義手は、およそ300万円もするのに、つかんだ感覚が返ってきません。だから力が入りすぎて、ポテトチップスを割ってしまいます。力が手に返ってくるかどうかで、できることがまったく変わります。
2台の装置は、同じ大きさで動かす必要がありません。土木工事で使う大きな油圧の機械では、操作する人の力を2000倍にして伝える実験をしました。逆に手術では、手の動きを小さくして伝えることで、10円玉の厚みもない細い血管を縫い合わせることに成功しました。
左官(壁をコテで平らにぬる職人の仕事)の動きを、東日本と西日本の間で、ふつうの通信の回線を使って送ることにも成功しています。


動きと力加減は、データとして記録できます。ナットを外す動きを記録して速く再生すると、ロボット1台で十数人分の作業ができる、と先生は話しています。
出典:Business Insider Japan(2025年11月14日)、慶應義塾公式 YouTube「ヒトとロボットとをつなぐ技術」(2024年7月25日の講演)。義手の値段は講演での先生の説明


野崎研の技術がいちばん大きく使われているのが、山を掘ってトンネルを作る工事です。
トンネルは、山の岩に穴をあけ、火薬を詰めて爆破しながら少しずつ掘り進めます。いちばん奥の掘っている面を切羽と呼びます。切羽では、上から岩が落ちてくることがあります。火薬を穴に詰める装填の作業は、これまで人が切羽のすぐ下に立ち、手の感覚を頼りにやってきました。危険な作業です。
そこで野崎研と建設会社の大林組は、トンネルの外から火薬を詰めるロボットを作りました。ロボットが穴の壁に当たった感触や、火薬を押し込むときの手ごたえが、離れた所で操作する人の手に返ってきます。
| 年月 | できごと |
|---|---|
| 2023年9月 | 大林組と野崎准教授らが「自動火薬装填システム」を開発 |
| 2024年12月 | 長野県のトンネル工事で、切羽から320m離れたトンネルの外から火薬を詰め、爆破に成功。カメラで穴を見つけて自動で押し込むことにも成功 |
| 2026年1月 | 切羽の下で5人でしていた作業を、切羽から50m離れた場所から1人でできるようにした(山梨県の国道20号のトンネル工事) |
出典:NEDO・慶應義塾大学・大林組「『自動火薬装填システム』でトンネル切羽発破に成功」(2024年12月2日)、大林組「力触覚技術『リアルハプティクス®』を応用し、切羽直下での火薬装填作業無人化を実現」(2026年1月20日)
トンネルの外から火薬を詰めて爆破するまでを、ニュースの形で見せる動画です(7分)。操作する人の手元のリモコンと、トンネルの奥のロボットが、同じように動くようすが分かります。
大林組とは、建設機械にもこの技術を使っています。手袋のような装置で大きな機械を動かし、つかんだ物の手ごたえを手元で感じる動画です(3分)。
動画:慶應義塾大学 新川崎先端研究教育連携スクエア(YouTube 公式チャンネル)。トンネルの動画は NEDO・慶應義塾大学・大林組のプレスリリースの動画
ほかにも、果物を選ぶ機械の会社と、傷んだ果物をつぶさずに選び分ける機械を作っています。
出典:慶應義塾大学 理工学部「究理図解」野崎貴裕 専任講師(当時)のインタビュー


研究室を率いているのは、野崎 貴裕(のざき たかひろ)准教授です。
子どものころはドラえもんが好きで、物理が得意でした。一浪して、制御工学(機械を思いどおりに動かす学問)の強い大学を調べて慶應に入りました。4年生で研究室を選ぶとき、子どものころの「ロボットをやりたい」という気持ちを思い出し、リアルハプティクスを生んだ大西公平先生の研究室に入りました。
| 年 | 経歴 |
|---|---|
| 2014年 | 慶應義塾大学の大学院で博士(工学)を取る。そのあと1年間、横浜国立大学で電気の使い方(パワーエレクトロニクス)を学ぶ |
| 2015年 | 慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科の助教 |
| 2018年 | 専任講師 |
| 2019〜2021年 | アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で客員研究員 |
| 2022年 | 准教授 |
出典:慶應義塾大学 研究者情報データベース(K-RIS)、慶應義塾大学 理工学部「究理図解」
研究室には、准教授1人、特任助教4人、研究員1人のほか、博士課程11人、修士課程10人、学部4年生5人がいます。電気、機械、AIと、学生が自分の興味でテーマを選べる研究室です。
出典:野崎研究室「Members」「FAQ」(nozaki-lab.jp。人数は2025年度の表記)


野崎先生は「中高時代は学校をサボることもあった」と話しています。大事なのは、大学で「これをやりたい」を見つけたときに、それを追いかけられる力をつけておくことです。


慶應の理工学部は、入試のときに学科ではなく「学門」を選びます。学門は5つ(A〜E)あり、2年生に上がるときに学科を決めます。野崎研のあるシステムデザイン工学科へは、学門B(電気・情報)か学門D(機械・システム)から進めます。
| 道 | 流れ |
|---|---|
| 慶應の理工学部に入る | 学門BかDで入学 → 2年生でシステムデザイン工学科に進む → 4年生で研究室に入る |
| ほかの学門から | 学門A・C・Eで入学しても、各学科およそ5人まで、1年生の成績と書類で学門を越えて学科を選べる |
| ほかの大学から(大学院から) | ほかの大学の理系の学部を卒業する → 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻の修士課程の入試に受かる |
出典:慶應義塾大学 理工学部「学びの流れ(学門制)」、慶應義塾大学大学院 理工学研究科「入学試験要項(2026年9月・2027年4月入学)」と教員リスト(2026年4月1日現在)
学科を決めるときは本人の希望が優先され、第1希望の学科に進む人は85〜90%です。ただし、希望が多すぎる学科は1年生の成績で決まります。1年生の勉強から手を抜けません。
大学院の入試では、教員リストの中から指導を受けたい先生を選び、出願の前に相談します。野崎研は「受験の前に研究室の見学が必須」としています。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。
卒業生・修了生は、JR東海、日本製鉄、キヤノン、ソニー、オリンパス、本田技術研究所、川崎重工業、富士フイルム、東芝、セガなどに進んでいます。
出典:慶應義塾大学 理工学部「学びの流れ」、野崎研究室「FAQ」
慶應そのものは慶應義塾大学の紹介に、理系の学部の選び方は理学部・工学部・情報学部ってどんな学部?にまとめました。






慶應義塾大学は、高校生向けのオープンキャンパスを毎年開いています。2026年は「講義編」(6月7日・日吉キャンパス、学部の説明と模擬講義)と「学生生活編」(8月4日・5日・三田キャンパス、在学生との懇談会)でした。どちらも事前に申し込みます。2027年の日程はまだ出ていません。
出典:慶應義塾大学「オープンキャンパス」(keio.ac.jp)。理工学部の矢上キャンパスでの研究室見学の案内は、公式ページに載っていない
野崎研の研究には、電気・機械・プログラムの3つがそろっています。ロボットの力の計算は、中学の比例と一次関数、高校の三角比・ベクトル・微分でできています。モーターを動かすのは電気で、中学理科の電流と電圧、力のつり合いが入口です。そして論文と学会発表は英語です。研究室の学生は、2025年から2026年だけでも、スペイン・韓国・カナダの国際学会で英語で発表しています。
出典:野崎研究室「News」(nozaki-lab.jp。IECON 2025・SAMCON 2026・AMC 2026・ECCE 2026)
中学生のうちは、数学の関数と、理科の電気・力の単元から逃げないこと。これがいちばん野崎研に近づく勉強です。






ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
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