鳥取大学 乾燥地研究センター:鳥取砂丘から世界の砂漠へ、乾いた土地で作物を育てる研究センター

砂丘の畑で、白いキャップに首にタオルを巻いたくせ毛の男子大学生が、両手で砂をすくって見つめている。「鳥取大学の乾燥地研究センター」「砂漠で作物を育てる研究」「鳥取砂丘から世界へ」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

日本にも砂漠のような場所があります。鳥取砂丘です。その砂丘のすぐそばに、世界の砂漠や乾いた土地で作物を育てる方法を研究している、日本でただ1つの研究機関があります。鳥取大学の乾燥地研究センターです。短く「乾地研かんちけん」と呼ばれています。

乾地研は、ふつうの研究室とは少し違います。1人の先生の研究室ではなく、大学の中にある「研究センター」です。天気、土、水、植物、作物の育て方を研究する先生たちが、1つの建物に集まっています。そして全国の大学の研究者が、乾地研の施設を使いに来ます。

松の林の間をのびる坂道の両側に、古い石の門柱が立っている。右には見学の案内の看板がある
鳥取大学 乾燥地研究センターの入口(鳥取市浜坂・2013年)
写真:Hasec/CC0(Wikimedia Commons)
目次

ひとことで言うと、何の研究センター?

砂漠を再現した実験室で、乾いた砂の鉢に並ぶ元気な芽としおれた芽を、夢中で見比べる茶髪の女子大学生。「少ない水で作物を育てる」の文字。

乾地研の研究をひとことで言うと、雨が少なく乾いた土地で、人が食べ物を作り、暮らし続けられるようにする研究です。

乾燥地は、世界の陸地のおよそ4割を占めます。そこに約20億人、世界の人口の約35%が暮らしています(2000年の時点)。乾燥地では、土が風や雨で削られたり、土に塩がたまって作物が育たなくなったり、草木が枯れたりします。こうして土地が弱っていくことを「砂漠化」と呼びます。

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「センターの取り組み」(alrc.tottori-u.ac.jp)

研究は3つの分野に分かれています。中学生向けに言い換えると、こうなります。

分野中学生向けに言うと
砂漠化対処砂漠が広がるのを止める。風で飛ぶ砂ぼこり(黄砂こうさ)、土の中の小さな生き物、土の中の炭素を調べる
乾燥地農業少ない水で作物を育てる。水のやり方、土にたまる塩の防ぎ方、乾きや暑さに強い作物を作る
気候変動対応雨の降り方や気温が変わっても、農業が続けられるようにする

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「組織」「スタッフ」「乾地研で学ぶには」(先生ごとの研究テーマ)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

日本は、乾燥地の国から食べ物やエネルギーをたくさん買っています。春に飛んでくる黄砂も、アジアの乾燥地から来ます。乾燥地の問題は、遠い国の話ではありません。

茶色い大地の上を、黄土色の砂ぼこりの帯が風に流されて広がっている衛星写真
宇宙から見た、ゴビ砂漠から舞い上がる砂ぼこり(中国とモンゴルの国境付近・2013年3月、NASAの人工衛星の写真)
写真:NASA Goddard Space Flight Center/Public domain(Wikimedia Commons)

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「センターの取り組み」「センター長あいさつ」

土に塩がたまると、なぜ植物は困るのか。センターの公式チャンネルが、植物の塩への強さの研究を紹介しています(3分)。

動画:鳥取大学乾燥地研究センター(YouTube 公式チャンネル)

鳥取砂丘から世界の砂漠へ

砂丘の上に建つ大きな白い半球のドームの温室を、目を輝かせて見上げる黒髪の女子大学院生。「100年前の砂丘の畑から」の文字。

乾地研の始まりは、1923年です。今の鳥取大学農学部の前身の学校が、砂丘に試験地を作り、砂が飛ばないように木を植える研究を始めました。

展望台の手すりの向こうに松の林が広がり、その先に薄茶色の砂丘と青い日本海が見える
松林の向こうに広がる鳥取砂丘と日本海(2021年)。乾地研の研究は、砂丘の試験地から始まった
写真:Drivephotographer/CC0(Wikimedia Commons)
年できごと
1923年鳥取高等農業学校(今の鳥取大学農学部)に砂丘の試験地ができる
1949年鳥取大学ができ、浜坂の砂丘で、砂丘を畑として使う研究を始める
1958年農学部の砂丘利用研究施設になる
1990年乾燥地研究センターになり、全国の研究者が使える施設になる
1998年丸い大きな温室「アリドドーム」ができる

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「沿革」「センター長あいさつ」

最初は「砂丘で作物をどう育てるか」の研究でした。その知恵を、世界の砂漠で使えるように広げたのが今の乾地研です。センター長あいさつの言葉を借りると、研究の場を砂丘から乾燥地へと広げました。 試験地の時代から数えると、100年を超える歴史があります。

センターには、乾燥地を再現する施設がそろっています。

  • アリドドーム:広さ1000㎡の半球の形の温室。中に「ミニ砂漠博物館」がある
  • デザートシミュレーター6基:砂漠の気温や乾き方を部屋の中で再現する装置
  • 共同実験農場:広さ6万2000㎡の畑。乾燥地の実験を外で行う

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「施設」

センターが作った、鳥取砂丘を案内するバーチャルツアーの動画です(30分)。長いので、気になったところだけ見れば十分です。

動画:鳥取大学乾燥地研究センター(YouTube 公式チャンネル)

動画で見る

まずはセンターの紹介動画です(10分)。乾地研がどんな研究をしているか、全体の流れをつかめます。

次は、丸い温室アリドドームの紹介です(6分)。日本ではまず見ない、乾燥地の植物が並びます。

3本目は、鳥取のテレビ局・日本海テレビのニュースです(3分)。センターが施設を一般の人に公開した日のようすを伝えています。

動画:鳥取大学乾燥地研究センター(YouTube 公式チャンネル)、日本海テレビニュース(YouTube 公式チャンネル)

研究センターから生まれたもの

強い日差しの照りつけるアフリカのコムギ畑で、暑さでしおれかけた穂を手に取り、負けないと歯を食いしばる日本人の男性研究者。「種の3分の1が新しい品種に」の文字。

スーダンの暑さに強いコムギ

アフリカのスーダンでは、パンの原料のコムギを食べる人が増えています。でも暑く乾いた土地なので、自分の国で作るコムギでは足りず、多くを外国から買っています。

乾地研は、スーダンの農業研究機関と一緒に、暑さと乾きに強いコムギを作る研究を進めました。国の国際協力のプロジェクト(SATREPS)で、日本側の代表は乾地研の辻本つじもと壽ひさしさんです。コムギの野生の仲間がもつ強さを、スーダンのコムギに取り入れました。

結果は数字に出ています。新しい品種の種を使った農家は、自分で取った種を使った農家より、収量が39%多くなりました。そして2022〜23年の作付けでは、スーダン全土で使われるコムギの種のうち、3分の1がこのプロジェクトで作った新品種の種になりました。

白いターバンを巻いた年配の男性が、緑のコムギ畑を背に立っている
スーダンのゲジラ州のコムギ畑と農家の人(2016年)
写真:Nduati.githae/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

途中で政変や新型コロナ、2023年の紛争の広がりがあり、現地のスタッフが避難したこともありました。それでも研究は続き、プロジェクトは2025年3月まで延びました。

出典:科学技術振興機構(JST)SATREPS「スーダンおよびサブサハラアフリカの乾燥・高温農業生態系において持続的にコムギを生産するための革新的な気候変動耐性技術の開発」研究課題ページと終了報告書

エチオピアの土を守る農業

エチオピアの高地では、雨で畑の土が流されることが大きな問題です。乾地研の恒川つねかわ篤史あつしさんが代表のプロジェクトは、土が流れないようにする工夫と、家畜のふんを畑に返す農業を組み合わせて、その効果を調べました。2023年3月には、土地を守るための手引き(SLMガイドライン)を公開しています。

出典:プロジェクト公式サイト「砂漠化対処に向けた次世代型『持続可能な土地管理(SLM)』フレームワークの開発」(鳥取大学 乾燥地研究センター)、JST SATREPS 終了報告書。プロジェクト公式サイトでは、JST の終了時の評価が最高の「S」だったと伝えている

イネとコムギの雑種

もう1つ、世界初の研究があります。イネとコムギは仲間が遠く、ふつうは雑種ができません。東京都立大学と乾地研の石井いしい孝佳たかよしさんたちは、花から卵細胞と精細胞を取り出し、顕微鏡を見ながら受精させる方法で、2021年にコムギとイネの雑種「イネコムギ」を作りました。2025年には、コムギとトウモロコシの雑種「トウモロコシコムギ」も作っています。

トウモロコシコムギには、乾きや暑さへの強さに関わるとされるトウモロコシの部品(ミトコンドリア)が入っています。コムギにない強さを持てるかどうかを、今まさに調べています。こうした雑種は、乾地研の砂地の畑で研究されています。

出典:東京都立大学・鳥取大学 共同発表「世界初!コムギとイネの雑種植物の創生」(2021年10月6日)、「世界初!コムギとトウモロコシの雑種植物の創生」(2025年8月21日)、鳥取大学 乾燥地研究センター「一般公開2026」

どんな人が研究しているか

実験室の作業台で、外国から来た研究者と土の入った小びんを囲み、夢中で話しこむ眼鏡の男子大学院生。「3つの分野12人の先生」の文字。

センター長は坪つぼ充みつる教授です。専門は気候リスク管理学で、乾燥地の天気と農業、気候の変化に負けない農業を研究しています。

研究スタッフは、3つの分野に12人です。

分野先生
砂漠化対処黒崎泰典 教授、木村玲二 教授、谷口武士 准教授、寺本宗正 准教授、木村圭一 特命助教
乾燥地農業藤巻晴行 教授、岸井正浩 教授、安 萍 准教授、石井孝佳 准教授、関口結佳 特命助教
気候変動対応坪 充 教授、井芹慶彦 准教授

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「スタッフ」(2026年10月現在)

このほか、外国から来たプロジェクト研究員も一緒に研究しています。センターは中国・モンゴル・スーダン・エチオピア・チュニジア・メキシコ・モロッコなどの大学や研究所と協定を結んでいます。

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「スタッフ」「センターの取り組み」「乾地研で学ぶには」

塾長 小池

鳥取砂丘のそばの研究センターから、スーダンのコムギの種の3分の1が生まれました。研究の舞台は、日本の外に広がっています。

乾地研で学ぶには

夜の自分の部屋の机で、日本地図を広げて遠い鳥取を指でたどり、少し心細そうな館山中の女子。「大学院から入る道もある」の文字。

道は2つあります。

道流れ
鳥取大学に入る(学部から)鳥取大学 農学部 生命環境農学科に入る → 2年生で「国際乾燥地農学コース」を選ぶ → 研究室に分かれて卒業研究 → 大学院 持続性社会創生科学研究科 国際乾燥地科学専攻(修士)へ
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の農学・理学・工学などの学部を卒業する → 国際乾燥地科学専攻(修士)の入試に受かる。博士は大学院 連合農学研究科へ

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「乾地研で学ぶには」、鳥取大学 農学部 生命環境農学科「国際乾燥地農学コース」「4年間の学び」、鳥取大学 持続性社会創生科学研究科 国際乾燥地科学専攻「入試情報」

乾地研の先生が学生を教える公式の案内は、大学院(修士・博士)からです。センターは「大学院生を積極的に受け入れています」と書いています。研究センターなので、大学院で入る人が中心になります。

学部の国際乾燥地農学コースでは、メキシコかタイの乾燥地に行く海外実習があります。卒業生は大学院へ進むほか、建設コンサルタント、建設会社、食品会社、国土交通省や県庁などに就職しています。

出典:鳥取大学 農学部 生命環境農学科「国際乾燥地農学コース」(コース全体の進路で、乾地研だけの数字ではない)

大学院の国際乾燥地科学専攻には、授業を全部英語で行う「特別コース」もあります。世界中から留学生が集まる専攻です。専攻の紹介動画です(10分)。

動画:鳥取大学持続性社会創生科学研究科国際乾燥地科学専攻(YouTube 公式チャンネル)

農学部で何を学ぶかは農学部・生命・家政の学部ってどんな学部?に、地方の国立大学を目指す勉強の進め方は地方の国公立大学に行くならにまとめました。

中高生のうちにできること

大きなドームの温室の中で、背より高いサボテンとアガベを見上げて満面の笑顔になる私服の中学生の男子。「休みの日にドームを見学」の文字。

いちばん手軽なのは、アリドドームの中のミニ砂漠博物館です。休みの日に一般公開していて、開く日は毎月センターのお知らせに出ます。

行けるところ対象いつ
ミニ砂漠博物館の休日公開だれでも毎月のお知らせで開館日を確かめる(2026年10月は4日が休館)
乾燥地研究センター 一般公開だれでも(申し込み不要・無料)2026年は7月19日(日)だった。研究者の講演、実験室のツアー
鳥取大学 オープンキャンパス高校生2026年の農学部は7月19日(日)だった。2027年の日程はまだ出ていない

出典:鳥取大学 乾燥地研究センター「ニュースリリース」「一般公開2026」「ご見学情報」、鳥取大学農学部「オープンキャンパス2026の申込み受付がはじまりました!」。休日公開以外の施設見学は、センターが認めた案内ガイドを通して申し込む

乾燥地の研究に近づく教科は、理科の生物と地学(植物のしくみ、天気、土)、そして数学です。雨の量や作物の収量を比べるのは、グラフと割合の計算です。研究相手は世界の乾燥地の国なので、英語も欠かせません。中学生のうちは、理科の植物と天気の単元、数学の資料の活用から逃げないこと。これがいちばん乾地研に近づく勉強です。

塾長 小池

「収量が39%増えた」と言えるのは、数字を比べる力があるからです。数学の1問は、世界の畑につながっています。

まとめ

放課後の学校の図書室で、ノートに2本の棒グラフを描きながら、違いが分かってきてワクワクする館山中の男子。「近道は理科・数学・英語」の文字。
  • 乾地研は、鳥取大学の乾燥地研究センター。研究室ではなく、乾いた土地で食べ物を作り、暮らし続けるための研究センター
  • 1923年の鳥取砂丘の試験地から始まり、研究の場を世界の乾燥地へ広げた
  • スーダンでは暑さに強いコムギを広め、国の種の3分の1が新品種になった
  • イネコムギ、トウモロコシコムギと、世界初の雑種も生まれている
  • 学ぶ道は、鳥取大学 農学部の国際乾燥地農学コースから、または大学院の国際乾燥地科学専攻から
  • 近づく勉強は、理科(生物・地学)・数学・英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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