数学って大人になって使うの? 数学で身につく力をデータで見る

会社の机で、中学時代の古い数学の問題集を胸の前に持ち、下がっていくグラフが映ったパソコンの前で目を丸くして驚く若い会社員。「暗記した数学」「仕事で使える?」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

「数学って、大人になって使うの?」

毎年必ず聞かれる質問です。二次関数や図形の証明を、仕事でそのまま使う人は多くありません。

でも小池の答えは「使う。ただし、どう勉強したかによる」です。

数学で自分で考えて、試行錯誤した人は、その考え方を一生使います。パターンを暗記して点を取っただけの人は、一時的にいい点が取れても、どこかで崩れていきます。大人になって仕事をするときも、その数学はたぶん生きません。

15年以上、小学生から高校生まで算数と数学を見てきた実感です。ただ、小池の感想で終わらせたくないので、今日はデータで確かめます。

目次

学年が上がるほど「分からない」が増える

まず、算数・数学の授業が「ほとんど分かる」と答えた子の割合です。

学年授業が「ほとんど分かる」
小5算数46.6%
中2数学29.2%
高2数学1割前後
出典:ベネッセ教育総合研究所「第5回学習基本調査」(2015)。高2はどの教科も1割前後。同じ子を追った調査ではなく、学年ごとに別の子に聞いたもの。

小5では半分近くの子が「ほとんど分かる」と答えています。中2で3割を切り、高2では1割前後です。

小学校の算数は、やり方を覚えれば解ける問題がまだ多いです。学年が上がると、覚えることが増えすぎて、暗記では追いつかなくなります。

全国学力テストにも、同じ傾向が出ています。

中3の数学(平成30年度)平均正答率
知識の問題A66.6%
活用の問題B47.6%
出典:国立教育政策研究所「平成30年度 全国学力・学習状況調査 結果概要」。A と B は別の問題なので、難しさの違いも含む。

公式を知っているかを聞く問題は3分の2が解けます。その知識を使って考える問題になると、半分を切ります。

暗記の子は、難しい問題で崩れる

学校の教室でのテスト中、見たことのない形の図の問題を前に、鉛筆を止めて冷や汗をかき、目を見開いて固まる男子中学生。「初めて見る問題だったら?」の文字。

いちばんはっきりしたデータは、OECD(経済協力開発機構)が世界の15歳に行った学力調査「PISA」の分析です。「数学を暗記で勉強しているか」を生徒に聞き、問題ごとの正答率と比べました。

  • 易しい問題(全体の正答率87%):暗記で勉強している子も、そうでない子も、正答率はほとんど同じ。
  • いちばん難しい問題(全体の正答率3%):暗記にいちばん頼っている子が解ける確率は、いちばん頼っていない子の4分の1。

易しい問題では差がつきません。だから定期テストでは、暗記でもそこそこ点が取れます。

差がつくのは、初めて見る形の問題です。実力テスト、高校入試、そして高校の数学。ここで暗記の子は崩れます。

小池が見てきた子もそうでした。中学の実力テストで100点を取っていた子が、高校で三角比の表を丸暗記しようとして、数学で赤点を続けました。図を描けば、中学で習った三平方の定理と同じ話でした。

自分で考えた子は、初めて見る問題に強い

夜、自分の部屋の机で、ノートに何通りもの図を描き直しながら、周りが見えないほど夢中で考えている女子中学生。「教わる前に考えてみたら?」の文字。

逆に、自分で試行錯誤した子はどうなるか。

シンガポールの研究者カプールが、中3の生徒を2つのグループに分けて実験しました。

  • グループ1:先に先生が解き方を教え、そのあと問題を解く。
  • グループ2:先に自分たちで考えさせる(うまく解けなくてもいい)。そのあと先生が教える。

結果、手順を使って解く力は同じでした。一方、考え方の理解と、初めて見る問題を解く力は、先に自分で考えたグループのほうが上でした。しかも、自分で考え出した解き方の数が多い生徒ほど、成績が良かったのです。

もう一つ、古くから知られている実験があります。水の中の的に、ダーツを当てる練習です。

水の中の物は、光が曲がるので実際とは違う位置に見えます。「光は水で曲がる」という原理を教わったグループと、教わらずにひたすら練習したグループでは、最初の深さでは成績が同じでした。

ところが、的の深さを変えると、差がつきました。原理を知っているグループだけが、すぐに狙いを直せたのです。

練習だけで覚えたやり方は、条件が変わると使えません。原理が分かっていれば、条件が変わっても自分で直せます。

※練習がいらないという話ではありません。計算の練習と考え方の理解は、お互いを支え合います。危ないのは、やり方を覚えるところで止まってしまうことです。

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数学をやった人は、稼ぐ力も高い

朝の街のオフィス街で、上がっていく棒グラフが映ったタブレットを胸の前に持ち、得意げに笑う30代の女性会社員。「年収の差はどれくらい?」の文字。

ここからは、大人になってからの話です。

京都大学の西村和雄先生たちが、2011年に1万3千人あまりを調べました。文系の学部を出た人を、大学入試で数学を受けたかどうかで分けています。

文系学部の卒業生平均の年収
入試で数学を受けた532.2万円
数学を受けなかった443.1万円
出典:京都大学 西村和雄ほか 2011年調査(京都大学 2012年4月10日発表)。平均年齢は数学を受けた人が43.5歳、受けなかった人が41.4歳。

差は約90万円です。数学を受けた人のほうが、大企業の正社員になった率も、役職に就いている率も高いという結果でした。

「もともと勉強が得意な人が数学を受けただけでは?」という疑問は当然あります。そこで、デンマークの研究を紹介します。

デンマークでは、ある時期に一部の高校だけ、上級の数学を選びやすくなりました。数学が好きかどうかと関係なく、通った高校によって上級数学を取る人が増えたのです。この偶然を使うと、「数学を学んだこと」そのものの効果を取り出せます。

結果、上級の数学を取った人は、収入が約3割高くなりました。数学を学ぶと、そのあとの稼ぐ力が上がる。そう言える、数少ない研究です。

でも、暗記した数学は仕事に持っていけない

閉店後の小さなパン屋のカウンターで、売れ残ったパンの棚を背に、メモ帳に関係の図を描きながら真剣な顔で原因を考える30代の店主。「習ってない問題、どう解く?」の文字。

ここがいちばん大事なところです。

仕事で出てくる問題は、どれも「習ってない問題」です。教科書もないし、答えも載っていません。

  • 売上が落ちた。原因はどこにあるのか。
  • 会議で話がこじれた。何と何がぶつかっているのか。
  • このやり方で本当にうまくいくのか。確かめる方法は。

数学の公式は、そのままでは出てきません。使えるのは、数学で身につけた考え方のほうです。関係を図にする。分けて考える。小さく試して確かめる。

では、数学で学んだことは、別の場面に自然に移っていくのか。

これも心理学の実験があります。ある問題の解き方を物語で読ませたあと、同じ仕組みの別の問題を出しました。

条件解けた人
物語を読んでいない10%
物語を読んだヒントなし約35%
物語を読んだ+「さっきの話が使える」とヒント76%
出典:Gick & Holyoak (1980) の実験。各グループ10〜20人の小さな実験。

直前に解き方を読んでいても、自分で「あ、これ同じだ」と気づけた人は3人に1人しかいません。学んだことは、自動的には別の場面に移らないということです。

移るのは、仕組みまで理解して学んだものです。ダーツの実験がそうでした。

だから、パターンを暗記して点を取った数学は、仕事には持っていけません。「この問題はこのやり方」と覚えただけでは、形の違う問題の前で何もできないからです。自分で図に描いて、自分で試して、なぜそうなるかまで分かった数学だけが、仕事に持っていけます。

世の中が求めているのも「考える力」

世界経済フォーラムが1,000社以上に聞いた調査(2025年)では、企業が最も重視する力は分析的思考でした。10社中7社が「欠かせない」と答えています。

アメリカの研究では、1980年から2012年の間に、数学の力と、人と関わる力の両方が要る仕事で、雇用も給料も特に伸びました。計算するだけの仕事は減り、考えたことを人に伝えて、みんなで動かす仕事が増えています。

数学で筋道を立てて考え、それを人に分かる順番で説明する。この組み合わせが、これからいちばん強いということです。

ランゲージの数学が「やり方を教えない」理由

塾の教室で、文章題を自分で絵に描いて解き方がひらめき、目を輝かせてノートを掲げる女子中学生と、その横で腕を組んで笑顔で見守る塾長。「やり方、教えないの?」の文字。

ランゲージの算数・数学の授業では、先にやり方を教えません。絵かき算で、問題文を読んで自分で絵を描き、自分で式を立てます。

すぐに分からなくても、数字を当てはめて試す。図を描き直す。逆から考えてみる。先生はそれを横で待ちます。

時間はかかります。定期テストの点を取るだけなら、やり方を教えて反復させたほうが早いです。

それでもこのやり方を続けているのは、今日見てきたデータのとおり、自分で考えた力だけが、高校の数学にも、仕事にも持っていけるからです。

まなぶ君の数学の一問一答も、同じ考え方で作っています。聞いているのは答えではなく、「どんな式を立てるか」「どう考えるか」です。まなぶ君で練習していれば、自然に「自分で式を立てる」練習になります。

まとめ

  • 学年が上がるほど、数学が「分からない」子は増える(小5で半分近くが「ほとんど分かる」、高2で1割前後)。
  • 暗記で勉強している子は、易しい問題では困らない。でも難しい問題では、解ける確率が4分の1に落ちる。
  • 先に自分で考えた子は、初めて見る問題に強い。
  • 数学を学んだ人は収入が高い。デンマークでは、数学を学んだことそのものの効果として約3割。
  • ただし、学んだことは自動的には移らない。仕事に持っていけるのは、仕組みまで分かった数学だけ。

「習ってない」「やり方を教えて」と言いたくなったら、そこがチャンスです。まず自分で図を描いてみてください。

後伸びする数学を!

ランゲージ・ラボラトリー 小池

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この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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