AIの時代に必要な力:刀が鉄砲に負けた明治から考える

明治の町並みで、光るタブレットを手にした男子中学生が、後ろで刀を見つめて肩を落とす武士に気づいてハッとする。「AIの時代」「次に負ける腕はどれ?」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

時代が変わると、求められる力が変わります。

江戸時代の武士にとって、いちばん大事な力は刀の腕でした。子どものころから修行を積み、腕が立てば、それだけで身分と収入が守られた。

ところが明治に入ると、その刀の腕が、ほとんど役に立たなくなります。

今、同じくらい大きな変化が起きています。AIです。

では、AIの時代には、どんな力があれば生きていけるのか。小池の答えは、「こんなものがあったら面白いよね」と思いつく力です。今日は、明治の武士の話から、その理由を説明します。

目次

刀の腕が、価値を失った日

明治の戦場の草原で、刀を握りしめて歯を食いしばる薩摩の武士。遠くには鉄砲を肩にかついで整列する洋服の兵士たち。「最強の武士が、なぜ負けた?」の文字。

1877年の西南戦争。西郷隆盛が率いた薩摩の士族は、当時の日本で最強といわれた武士の集団でした。

相手の政府軍の中心は、徴兵令で集められた農民や町人の若者です。刀の修行など、したことがありません。

勝ったのは、政府軍でした。

もちろん薩摩軍も鉄砲を使っていました。それでも勝負を分けたのは、刀の腕ではありませんでした。鉄砲と弾薬を大量にそろえ、訓練した兵を組織で動かす。新しい戦い方を身につけた側が勝ちました。

何十年も積み上げた刀の腕が、数か月の訓練で鉄砲を扱えるようになった若者に負けた。時代が変わるというのは、こういうことです。

武士の商法と、置いていかれた人たち

明治の小さな甘味屋の店先で、腕を組んだまま客に去られ、眉を下げて途方にくれる元武士の店主。「刀を置いて、商売を始めたら?」の文字。

刀で食べられなくなった武士たちは、商売を始めました。でも、うまくいかない人がほとんどでした。威張って客に頭を下げられない、損得の計算ができない。「武士の商法」という言葉が生まれたくらいです。

1876年には廃刀令で刀を差すことが禁じられ、秩禄処分で国からの収入も打ち切られます。刀も、収入も、誇りも失った士族の不満は、各地の反乱になりました。その最後が、西南戦争です。

時代の変化に置いていかれた人たちの行き場のない思いが、最後は内乱になった。これも歴史が教えてくれることです。

生き残った武士は、何を持っていたか

明治の木造の小学校の教室で、刀の代わりに分厚い本を胸に抱え、胸を張って誇らしげに子どもたちの前に立つ元武士の先生。「刀の代わりに持っていたのは?」の文字。

一方で、新しい時代でしっかり生きた武士もたくさんいます。

その人たちが持っていたのは、刀の腕ではなく、読み書きと学問でした。武士は子どものころから漢文を読み、字を書き、ものを考える訓練をしていました。明治になって、多くの士族が役人、教師、警察官、軍人になります。刀の腕は役に立たなくなっても、学問は形を変えて生き残りました。

もう1人、象徴的な人がいます。新政府軍の作戦を立て、日本の近代的な軍隊の仕組みを考えた大村益次郎です。この人は、剣の達人ではありません。もとは村の医者です。

刀の時代の主役は、刀の強い人でした。鉄砲の時代をつくったのは、新しい道具で何ができるかを考えた人でした。

つまり、力には2種類あります。

その時代の道具に結びついた力どの時代でも効く力
刀の腕読み書き・学問
時代が変わると、価値がなくなる時代が変わっても、形を変えて生きる

「AIがあるなら、勉強しなくていいんじゃない?」と思った人もいるかもしれません。答えは逆です。AIの時代に価値が下がるのは左の列で、右の列はむしろ効いてきます。

AIの時代に、値段が下がるもの

夜の書斎の机で、ノートパソコンに浮かぶアプリの画面の試作を前に、口を結んで没頭して作る塾長。「9人でした仕事を1人で?」の文字。

仕事を「思いつくこと」と「作ること」の2つに分けてみます。

これまでは、思いつく人1人に対して、作る人が9人くらい必要でした。アプリを1つ作るにも、デザインする人、プログラムを書く人、テストする人と、たくさんの手が要りました。

AIで、作るコストが一気に下がりました。1対9が1対1になり、今では思いつく人が自分で作れるようになってきています。作る人の価値が、どんどん下がっているということです。

まなぶ君は、その実例です。小池は、プログラマーではありません。「こんな問題があったら面白いよね」「生徒がここでつまずくから、こういう画面がほしい」とAIに伝えて、一緒に作っています。10年前なら、何人ものエンジニアを雇わないとできなかったことです。

ただし、これはまず「形のないもの」の世界で起きています。

今これから
形のないものアプリ・Webサイト・文章・デザインAIがすでに作れる。思いつく人が直接作れるこの流れがさらに進む
形のあるもの家・家具・料理「こんな家があったら面白い」と思っても、大工さんが動かないと建たないロボットが入ってきて、遅かれ早かれ「作る」の値段は下がる

家を建てる仕事でも、設計図を描くところまでは、もうAIが手伝えるようになっています。残っているのは、設計図を実物にする工程です。そこにもロボットが入ってくるのは時間の問題だと、小池は考えています。

思いつく力の中身は、3つある

塾の教室で、問題集の同じところで止まってしまい、頬をふくらませてむっとする女子中学生。後ろでは塾長がその様子に気づいてメモを取っている。「AIに立てられない問いとは?」の文字。

「思いつく力が大事」と言うと、「アイデアがぽんぽん出る天才の話でしょ」と思うかもしれません。そうではありません。

それに、アイデアを100個出すだけなら、もうAIのほうが速い。では、人に残る「思いつく力」とは何か。小池は3つあると考えています。

1つ目は、困りごとに気づく力です。まなぶ君は、空想から生まれたものではありません。毎日生徒を見ていて、「この子はここで止まっている」「この教材のこの順番だと分からない」と気づいたことから生まれました。現場にいる人にしか見えない問題があります。AIは答えを出せても、その問いは立てられません。

2つ目は、選ぶ力です。作るのが簡単になると、アイデアも試作品も山のように出てきます。そのとき「これは違う」「こっちが面白い」と言える目を持っている人が強い。この目は、いろんなものを見て、読んで、体験して育ちます。

3つ目は、作って、使ってもらって、直す力です。1回で正解を出す必要はありません。作って、使ってもらって、「ここが使いにくい」と言われたら直す。このくり返しを何回まわせるかで、差がつきます。

英語が喋れることと、伝えたい何かを持っていること

館山の海沿いの遊歩道で、翻訳アプリの入ったスマホを手にしたまま、身ぶり手ぶりで夢中になって海の話をする男子中学生と、興味深そうに聞く外国人の旅行者。「翻訳機があれば話せる?」の文字。

この話は、英語にもそのまま当てはまります。

英語が喋れること。伝えたい何かを持っていること。この2つは、レベルが違います。

喋る、訳すは、AI翻訳や音声翻訳がどんどん肩代わりしてくれるようになりました。「英語が喋れます」だけで仕事になった時代は、刀の腕だけで食べられた時代に似ています。

でも、翻訳機は、中身のない言葉を中身のある言葉にはしてくれません。伝えたい何かを持っている人の価値は、道具がいくら良くなっても下がりません。

日本語で考えると分かりやすいです。日本語が話せない日本人はいません。それでも「話がおもしろい人」と「何を言いたいのか分からない人」がいます。差は語学力ではなく、伝えたい中身と、それを順番立てて言葉にする力です。

AIに何かを作ってもらうときも同じです。AIへのお願いは、言葉でします。思いついたことを言葉にできないと、AIは動いてくれません。言いたいことがない人は、そもそも何を頼めばいいかが分かりません。

じゃあ英語の勉強は意味がないのかというと、そうではありません。AIの訳が正しいかどうかを確かめられるのは、英語が読める人だけです。そして、英語で実際に人とやり取りした経験がある人は、「この相手にはこう言わないと伝わらない」という感覚を持っています。英語は、それ自体がゴールではなく、伝えたい中身を届けるための力になります。

作った経験がないと、思いつけない

家の台所で、エプロン姿の男子中学生が、フライパンの上の焦げていびつなパンケーキを見つめて、眉を下げてしょんぼりする。「作らずに思いつける?」の文字。

ここまで「作る人の価値は下がる」と書いてきました。でも、作らなくていいという話ではありません。

作った経験がない人は、思いつく力も弱くなります。

料理をしたことがない人が、新しいレシピを思いつくのは難しい。何ができて、何ができないのか、どこが難しいのかが分からないからです。小池がまなぶ君を思いつけたのも、何年も自分の手でプリントや教材を作ってきたからです。

「AIに頼めば何でもできる」と思い込んで、現場も相手も知らないまま作ろうとする人は、たぶん失敗します。明治の武士の商法と同じです。

これからは、思いつく人と作る人が分かれているのではなく、1人で思いついて、作って、届けるところまで一気通貫でやる時代になっていきます。だからこそ、思いつく側も、手を動かして作った経験が要ります。

皆さんが今やっておくこと

自分の部屋の机で、AIと一緒に作った自分用の単語帳アプリがタブレットで動き、拳を握って目を輝かせる女子中学生。「最初に作るなら何にする?」の文字。

では、中学生の皆さんが今やっておくことは何か。小池は3つだと考えています。

1つ目は、言葉の力を鍛えること。読む、考える、書く。これは明治の武士の学問と同じで、時代が変わっても形を変えて生きる力です。AIへのお願いも、人に伝えるのも、全部言葉です。目の前の国語・英語・数学の勉強は、ここにつながっています。

2つ目は、「好き」「面白い」を持つこと。何を作りたいのか、何を伝えたいのかがない人は、AIという最強の道具を持っていても使い道がありません。夢中になれることは、伝えたい何かの種です。

ただ、「好きなことが見つからない」と焦らなくて大丈夫です。明治の人たちも、好きだから英語を学んだわけではありません。福沢諭吉は通じなかったオランダ語を捨てて英語へ、津田梅子は6歳で国の募集に乗ってアメリカへ、夏目漱石は国の命令でロンドンへ。世の中に求められていることをやり切った先で、福沢は『学問のすゝめ』を、梅子は女性のための学校を、漱石は小説を見つけました。好きは探すものではなく、目の前のことをやり込んだ中で見つかるものです。

3つ目は、小さく作ってみること。自分用の単語帳をAIと一緒に作ってみる、部活の練習メニューを表にしてみる。それくらいでかまいません。「思いついたものが、形になった」という経験を一度しておくと、そこから先が変わります。

まとめ

  • 時代が変わると、求められる力が変わる。明治の刀の腕と同じで、AIの時代には「作る」力の値段が下がっていく。
  • 生き残った武士が持っていたのは、刀の腕ではなく読み書きと学問だった。どの時代でも効く力は、形を変えて生きる。
  • AIの時代に価値が上がるのは、思いつく力。その中身は、困りごとに気づく力・選ぶ力・作って直す力。
  • 英語が喋れることと、伝えたい何かを持っていることは、レベルが違う。
  • 作った経験がないと、思いつく力も育たない。これからは1人で一気通貫でやる時代。

伝えたい何かの種は、自分が夢中になってきたことの中にあります。まなぶ君の「じぶんノート」では、AIが質問しながら、皆さんの「好き」の奥にあるものを一緒に探してくれます。

道具は、時代で変わります。何を作りたいか、何を伝えたいかは、皆さんの中にしかありません。

ランゲージ・ラボラトリー 小池

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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