人間力とは何か:答えのない問題を、楽しんで、自分の頭で、たくさん失敗する力

中学校の教室で、黒板に枝分かれした四角の図を見て、数学のノートを抱えたままひらめいた顔をする女子中学生。「大人になって」「因数分解 使うの?」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

専門学校の記事で、「15歳で決めたことを40年続ける人は少ない」と書きました。では、仕事が変わっても持って行けるものは何か。小池の答えは、人間力です。マンガの編集者にも、スポーツメーカーの営業にも、編集学部や営業学部はない。技術は入ってから会社が教える。だから就職では、結局、人間力が問われます。

でも「人間力」という言葉は、便利なぶん曖昧です。この記事では、小池が考える人間力の中身と、なぜそれが大事なのか、そしてそれを今どこで鍛えているのかを書きます。

目次

スキルは、すぐ古くなる

古くて分厚い技術書を抱えた若い男性が、ノートパソコンの中で勝手に組み上がっていくウェブサイトを見て目を丸くしているイラスト。「覚えた技術 あと何年使える?」の文字。

まず、技術の話から。

これは小池の実体験です。大学生のとき、HTMLというウェブサイトを作るための言語を、一生懸命覚えました。おかげでウェブサイトが作れるようになって、当時は1行ずつ手で打っていた。それから20年たった今、HTMLを打てる人はほとんど要りません。文字だけ打てば、勝手にウェブサイトになります。一生懸命覚えた技術が、そのまま消えた。

もう一つ。小池は塾を始める前、リクルートという会社にいました。この会社は2、3年に1回、部署の異動があります。異動すると、その部署の仕事を何も知らない状態に、ポンと放り出される。業界の知識もない、その仕事の技術もない。ところが、異動してきた人は半年で追いついて、1年で前からいた人を抜いていったりします。技術がゼロの人が、技術を持っている人を抜く。これを何度も見ました。

ここ数年はAIが、絵を描くことも、文章を書くことも、プログラムを書くことも、やり始めています。専門学校の記事で書いた、アニメの「動画」がAIに置き換わる話は、その一例です。だから、どんな技術も、40年の仕事の途中で必ず古くなる。「この技術を持っているから安心」という状態は、10年と続かない。

技術は競技のスキル、人間力は運動神経

では、技術がゼロの人が、技術を持っている人をなぜ抜けるのか。スポーツで考えると分かります。

小学生のころから野球をやっている子は、野球の技術を持っています。バットの振り方、捕り方、走塁。ところが、運動神経のいい子が中学から野球を始めると、1年でその子を追い抜くことがある。皆さんも見たことがあるはずです。長くやっているのに、あまり運動ができない子。後から始めたのに、急に伸びる子。

違いは、根底にあるものです。運動神経が根底にあって、競技ごとの技術はその上に乗った表面的なスキル。運動神経のいい子は、サッカーに移っても、バスケに移っても、また速く伸びる。競技の技術は競技が変わると消えるが、運動神経は消えない。

仕事も同じ構造です。HTMLも、部署の仕事も、競技ごとの技術です。競技が変われば消える。その下にある「新しいことを覚える速さ」「人に聞ける」「失敗して直せる」が、仕事の運動神経で、これが人間力です。リクルートで1年で抜いていった人たちは、部署の技術ではなく、運動神経で抜いていた。技術を身につけること自体は必要です。でも、その技術が古くなったときに次を覚えられるのは、運動神経のほうです。

表面のスキルと、持ち運べるスキル

この「競技の技術」と「運動神経」の区別は、小池が勝手に言っているわけではありません。厚生労働省は、業種や職種が変わっても持っていける力を「ポータブルスキル」と呼んでいます。定義は「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」。中身は次の3つに分かれています。

種類中身野球でいうと
専門技術・専門知識その仕事でしか使わない技術や知識バットの振り方、変化球の投げ方
仕事のし方現状をつかむ、課題を決める、計画を立てる、やり切る、状況の変化に合わせる運動神経(足の速さ、パワー、体を思い通りに動かす力)
人との関わり方社内の人、社外の人、上司、部下とうまくやるコーチに教えてもらう力、気にかけてもらってよく見てもらう、試合に出してもらう

野球がうまくても、コーチの話を聞かず、見てもらえない選手は、試合に出してもらえません。仕事も同じで、上司やお客さんに教わり、気にかけてもらい、任せてもらえる人に、大事な仕事が回ってきます。

業界が変わっても通用するのは、下の2つです。小池の言葉にすると、目標を決めて最後までやり切る力と、人と話して一緒に動ける力。頑張る力、コミュニケーション、目標に向かう意欲。どの業界に行っても、ここは変わりません。

自分という会社を経営する

「アイ・カンパニー」という考え方があります。自分の人生を1つの株式会社に見立てて、自分で経営する、という考え方です。日本では、リンクアンドモチベーションという会社を作った小笹芳央さんが、2003年の本『「アイ・カンパニー」の時代』で広めました。アメリカでも1997年に、経営の本で有名なトム・ピーターズが「私たちは、自分という会社のCEO(社長)だ」と書いています。

会社にたとえると、専門技術は「今売っている商品」です。商品は、時代が変われば売れなくなる。小池にとってのHTMLがそうでした。それでも会社がつぶれないのは、次の商品を作れる経営の力があるから。この経営の力が、ポータブルスキルであり、人間力です。リクルートで異動のたびに追いついていった人たちは、商品が変わっても、会社の経営がうまかった。

皆さんは今、自分という会社を作ったばかりの時期です。何を売るか(どんな仕事をするか)は、まだ決めなくていい。今やるべきは、どんな商品でも作れる会社の体力をつけること。それが勉強です。

大人の仕事には、答えがない

館山の海沿いの遊歩道で、市役所の人、商店のおじさん、若い大人が大きな地図を広げて、それぞれ違う場所を指さしながら真剣に話し合っているイラスト。「大人も 答えを知らない」の文字。

もう一つ、中学生のうちは気づきにくいことがあります。大人の仕事には、答えがありません。

集英社の編集者は、何がヒットするか分かりません。分かっていたら、全部の漫画がヒットしている。編集長でも、新人の原稿を読んで「これは当たる」と言い切れない。当たると思って連載した作品が10週で終わり、どうかなと思った作品が世界中で読まれる。

館山の話をします。館山市の人口は2026年1月で42,059人(市の常住人口)。2025年4月からの9か月で、440人あまり減りました。65歳以上はおよそ4割です。どうしたら人口が増えて、街に活気が戻るか。市役所も、商店の人も、小池も、答えを持っていません。観光、移住、企業の誘致、学校、いろいろ試している。どれも「正解」ではなく「試行」です。

小池の塾もそうです。どう教えたら成績が上がるか、どうしたら生徒が勉強を続けるか、まなぶ君にどんな機能があれば使われるか。毎週、何かを試して、半分は外れています。塾を15年やっても、答えは出ていない。出ないから、試し続けている。

つまり大人は全員、答えのない問題を、答えが分からないまま、試行錯誤でもがいている。テストのように「正解が用意されていて、それに当てにいく」仕事は、世の中にほとんどありません。そしてこの「もがく力」が、人間力の正体だと小池は思っています。

答えのない中でもがいた人たち

歴史の教科書に出てくる人は、ほぼ全員がこれをやっています。3人だけ挙げます。

エジソン:6,000種類の材料を試して、京都の竹にたどり着いた

失敗した電球や材料が散らばる実験室で、扇子を手に竹のフィラメントの電球を掲げて喜ぶエジソンのイラスト

トーマス・エジソンは1879年、木綿の糸を炭にしたフィラメントで、電球を40時間光らせました。でも40時間では商品になりません。そこから、炭にできる材料を6,000種類試した。髪の毛、釣り糸、いろいろな木、いろいろな草。その中で扇子の骨の竹がよかったので、世界中に人を送って竹を集め、1880年に京都・八幡の竹にたどり着きました。この竹のフィラメントで、電球は1,000時間以上光るようになった。

エジソンには「竹が正解だ」と教えてくれる人はいなかった。6,000回の失敗は、答えのない問題を試行錯誤で解いた回数です。

テスラ:正しかったのに、生きているうちには勝てなかった

ナイアガラの滝の発電所と無線送電の塔を背に、手のひらに電気の光を浮かべて静かに微笑むテスラのイラスト

ニコラ・テスラは、電気を遠くまで送るなら交流のほうがいい、と考えた技術者です。1884年にアメリカに渡ってエジソンの会社に入りましたが、エジソンは直流で商売をしていたので、テスラの交流は認められませんでした。テスラは会社を辞め、別の実業家と組んで交流の発電機とモーターを作り、エジソンと真っ向から争います。

1893年のシカゴ万博と、ナイアガラの滝の発電所で交流が採用されて、テスラの側が勝ちました。今、皆さんの家のコンセントに来ている電気は交流です。テスラが正しかった。

ところがテスラはその後、電線を使わずに電気を送る「無線送電」に挑み、ニューヨークに巨大な塔を建てて、失敗しました。資金を出していた大銀行家は手を引き、テスラは晩年、ホテルを転々として、1943年に86歳で財産を残さず亡くなっています。

正しいことを考えた人が、必ず報われるわけではない。それでもテスラの交流は、130年後の今も世界中を動かしています。答えのない問題に挑む人は、自分が生きているうちに答え合わせができないことがある。それでも挑んだ人が、歴史に残っています。

杉田玄白:辞書がないのに、オランダ語の医学書を訳した

行灯の明かりの和室で、医学書の横顔の図と自分の鼻を指してひらめく杉田玄白と、驚く前野良沢のイラスト

日本の例も一つ。1771年、杉田玄白と前野良沢は、江戸の小塚原で死体の解剖を見ました。持っていたオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」の図が、実物とぴったり合っていた。それまでの日本の医学書は、中身が違っていた。二人はその場で、この本を日本語に訳すと決めます。

問題は、オランダ語の辞書がなかったことです。良沢が少しオランダ語を知っているだけで、玄白はほとんど読めない。玄白が後に書いた回想には、「櫓も舵もない船で大海に乗り出したようだった」とあります。

有名な話があります。鼻の説明に「フルヘッヘンド」という言葉が出てきて、意味が分からない。別の本を見ると、木の枝を切った後の切り口が「フルヘッヘンド」する、庭を掃いて落ち葉が集まると「フルヘッヘンド」する、と書いてある。何日も考えて、玄白は気づきます。枝を切った跡は、盛り上がる。落ち葉は、集めると積もって山になる。「フルヘッヘンド」は、盛り上がって高くなることだ。だから鼻は、顔の真ん中で盛り上がっているもの。

ただし、これは玄白が83歳で書いた思い出話『蘭学事始』に出てくる話です。のちの調べで、原書の鼻の説明には「フルヘッヘンド」という言葉が見当たらないことが分かっています。それでも、知らない言葉を別の文から推し量るやり方は、今もそのまま使えます。

玄白たちはこれを「堆(うずたか)し」と訳しました。「うずたかい」は、盛り上がって高く積もっている様子を表す古い言葉です。「堆」は、理科で習う「堆積(たいせき)」の「堆」と同じ字です。

辞書があれば1秒で分かる言葉に、何日もかけた。この作業を3年半、11回書き直して、1774年に「解体新書」ができました。中学の歴史で習う1行の裏に、答えのない問題を自分の頭で解き続けた3年半があります。

人間力の中身を、6つに言語化する

エジソン、テスラ、杉田玄白の3人が肩を並べて、竹のフィラメントの電球、手の中の電気の光、解剖の医学書をそれぞれ持ち、いたずらっぽく笑っているイラスト。「3人の共通点は?」の文字。

3人に共通しているのは、頭のよさではありません。答えが用意されていない問題を、楽しんで、自分の頭で考えて、たくさん失敗して、それでも続けたことです。ここから、小池が考える人間力の中身を6つにします。

  • 約束と期限を守る。エジソンの実験は、毎日決めた数をこなす作業でした。天才の仕事の中身は、地味な繰り返しです。
  • 人の話を聞いて、要約して返せる。玄白と良沢は、毎日集まって、分からない箇所を持ち寄った。一人では3年半も続かない。
  • 人に頼める、人に頼まれる。テスラは一人では勝てなかった。実業家と組んだから交流は世に出た。
  • 自分の失敗を、自分の言葉で言える。6,000回の失敗を「失敗」と数えられる人が、6,001回目を試せる。
  • 好きなものを、熱を持って、相手に分かるように語れる。玄白は解剖の図を見た興奮を、その場で仲間に語って翻訳を決めた。熱は人を動かします。
  • 知らないことを、その場で調べる。「フルヘッヘンド」を、別の本の別の文で調べたのが玄白です。

就職の面接で見られているのは、この6つです。編集も営業も、技術は入ってから覚える仕事なので、会社は技術ではなくこの6つを見ています。

国も、人間力を定義している

明るい会議室で、スーツの女性が、本・握手・炎の絵が描かれた3本の柱で支えられた小さな家の模型を、誇らしげに指し示しているイラスト。「国が定めた 人間力の3つの柱」の文字。

「人間力」は、ふわっとした言葉に聞こえます。でも実は、国がきちんと定義しています。

2003年に内閣府の人間力戦略研究会が出した報告書では、人間力を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」としています。中身は3つです。

要素中身
知的な力基礎学力と専門知識。その上に、筋道を立てて考える力と、新しいものを生み出す力
人と関わる力コミュニケーション、リーダーシップ、ルールを守る心、人を尊重して高め合う力
自分をコントロールする力上の2つを発揮するための意欲、忍耐力、自分らしい生き方を追いかける力

見てほしいのは1つ目です。基礎学力が、人間力の土台に入っている。勉強は人間力の外にあるものではなく、人間力そのものの一部。

もう一つ、経済産業省の「社会人基礎力」(2006年)。職場や地域で、いろいろな人と一緒に仕事をするための基礎の力を、3つの力と12の要素に分けたものです。

3つの力12の要素
前に踏み出す力主体性・働きかけ力・実行力
考え抜く力課題発見力・計画力・創造力
チームで働く力発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール力

小池の6つと並べると、ほとんど重なります。期限を守るは「規律性」、聞いて要約するは「傾聴力」、頼める・頼まれるは「働きかけ力」、失敗を言えるは「課題発見力」、好きを語れるは「発信力」、その場で調べるは「主体性」と「実行力」。言葉は違っても、見ているものは同じです。

経済産業省はその後、この社会人基礎力に「学び続けることを学ぶ」を加えました。人生100年の時代、技術は途中で必ず古くなるから。この記事の最初に書いた話と、同じ結論です。

なぜ、人間力が問われるのか

技術と人間力の手描き図解。青い土台「運動神経」の上に「野球の技術」「水泳の技術」、=で、青い土台「人間力」の上に「今の技術」が2つ。片方はオレンジで崩れ「古くなる」。見出しは「技術は崩れる、人間力は残る」。

理由は3つあります。

  • 新卒の採用は、今できることではなく「教えたら伸びるか」で採るから。編集も営業も、入ってから覚える仕事です。会社が見ているのは、教えたことを吸収して、締切を守って、人と組めるかどうか。それを測ろうとすると、技術ではなく人間力の話になる。
  • 仕事の中身そのものが、人を動かすことだから。編集者は作家という人間に、締切を守らせ、直しを納得させ、10年付き合う。営業は監督や顧問という人間を動かす。技術は道具で、人間力が仕事そのものです。
  • 40年のあいだに、技術は古くなるが人間力は古くならないから。AIに置き換わるのは作業の技術です。残るのは、人に信頼されて、人を動かせて、答えのない問題を楽しめる力。横に動くときに持って行けるのも、これだけ。

会社は、人間力をどうやって測るのか

リクルートスーツの大学生が、ノートパソコンで適性検査を受けながら真剣な顔をしていて、奥のガラス越しに面接官が待つ面接室が見えるイラスト。「性格テストで 頑張る力は分かる?」の文字。

「頑張る力やコミュニケーションなんて、どうやって測るの?」と思うかもしれません。

就職試験でよく使われるものに、SPIという検査があります。リクルートのグループ会社が作っているもので、中身は2つです。

  • 能力検査:言語(言葉の意味や、話の要点をつかむ力)と、非言語(数を扱う力と、筋道を立てて考える力)。中身は、国語と数学の延長です
  • 性格検査:約300問。人との接し方、仕事への取り組み方、目標の持ち方など、性格の傾向を見る

能力検査について、作っている会社自身が「暗記や受検対策で簡単に得点が上がるものではなく、長い期間の日常的な努力で培われる」と説明しています。つまり、中学・高校で積み上げた勉強が、そのまま試される。

では、性格検査で「頑張る力」が分かるかというと、分かるのは「傾向」までです。自分で答える検査なので、「私は最後までやり切るほうだ」と答えることは誰にでもできる。会社も性格検査だけで決めるのではなく、面接の参考に使います。検査の結果には、「面接で確かめるポイントと質問の例」まで付いてきます。

本番は面接です。面接では「学生時代に力を入れたこと」を必ず聞かれます。何を目標にして、どこでつまずいて、どう乗り越えたか。それを、具体的な事実で話せるかどうか。アメリカの研究者が採用の研究をまとめ直した論文(Sackett ら、2022年)でも、入社後の仕事ぶりといちばん関係が強かったのは、決まった質問で過去の行動を聞く面接でした。

頑張る力は、「頑張れます」と口で言っても伝わりません。何をやり切ってきたかという、過去の事実で見せるしかない。その事実を作れるのは、中学・高校・大学の時間です。

因数分解は使わない。でも、因数分解の考え方は毎日使う

塾の教室で、塾長の小池がホワイトボードに大きな四角を3つの四角に分ける図を描いて説明し、中学生が身を乗り出して聞いているイラスト。「売上も、因数分解」の文字。

「因数分解って、大人になって使うんですか」。数学の授業で、毎年のように聞かれます。

正直に答えます。小池は塾を経営していますが、x²+5x+6 を (x+2)(x+3) にしたことは、仕事で一度もありません。でも、因数分解の考え方は、ほぼ毎日使っています。

因数分解は、ごちゃっとした式を、掛け算のかたまりに分ける作業です。分けると、どこが効いているかが見える。塾の売上も、同じように分けます。

  • 売上 = 生徒の数 × 1人あたりの月謝 × 続けてくれる月数
  • 生徒の数 = 問い合わせの数 × 体験に来てくれる割合 × 入塾してくれる割合

「売上が足りない」とだけ言っても、何をすればいいか分かりません。分けると、問い合わせが少ないのか、体験には来るのに入塾しないのか、入っても途中でやめてしまうのかが見える。直す場所が分かれば、打つ手が決まる。

これは小池の発明ではなく、経営の基本です。国の中小企業向けの解説(中小機構のJ-Net21)でも、売上をまず「客数×客単価」に分け、客数を新しいお客さんと来店の回数に、客単価を買う点数と1つの値段に分けて考えるよう書かれています。

ほかの教科も同じです。中身は仕事で使わなくても、考え方の型は毎日使う。

  • 国語の要約:長い文章から、筆者の言いたいことを1文にする。上司に3行で報告する、会議の話をまとめる、の練習
  • 数学の証明:「なぜそう言えるか」を順番に並べる。人を説得するときの筋道そのもの
  • 理科の実験:予想を立て、条件を1つだけ変えて、結果を比べる。チラシを2種類作って、どちらで問い合わせが増えたか比べるのと同じ
  • 社会の歴史:出来事を、原因と結果でつなぐ。ニュースを読んで「なぜ今これが起きたか」を考える力
  • 英語の長文:知らない単語があっても、前後から意味を推し量る。玄白の「フルヘッヘンド」と同じ作業

勉強で鍛えているのは、教科書の中身より、この考え方の型のほうです。中身は忘れても、型は残ります。

学歴は結果。中身は、頭を使う力とやり切る力

桜の咲く大学の門の前で、袴姿の卒業生が卒業証書の筒を持ってほほえみ、その後ろに使い込んだノートや鉛筆、部活のかばんが高く積み上がっているイラスト。「大学名の 下にあるもの」の文字。

入るのが難しい会社には、高学歴の人が多い。これは事実です。

でも、会社は大学の名前そのものが欲しいわけではありません。経団連の調査(2018年度)で、企業が選考で重視した点の1位はコミュニケーション能力(82.4%)、2位は主体性(64.3%)。「学業成績」を選んだ企業は4.4%でした。成績はほとんど見ていないと言いながら、難関企業に入るのは難関大学の学生ばかり。

矛盾しているように見えますが、小池はこう考えています。学歴は、中学から高校までの6年間、頭を使って、やり切ってきた結果の記録。会社が欲しいのは記録ではなく、その記録を作った中身のほうです。中身は2つ。

  • 頭を使う力:複雑なことを理解する、抽象的に考える、分けて考える
  • やり切る力:やりたくない日にも机に向かう、決めた量を最後まで終わらせる。いわば気合

研究も、この2つを指しています。先ほどの Sackett らの論文では、面接のほかに、頭を使う力をはかる検査と、「計画的に、最後までやる」という性格(誠実性)も、入社後の仕事ぶりと関係していました。ニュージーランドで約1,000人を32歳まで追いかけた研究(Moffitt ら、2011年)では、子どものころに自分を抑えて続ける力が強かった人ほど、大人になってからの収入や健康がよかった。IQや家庭の豊かさの差を差し引いても、です。

だから、大学名だけあって中身がない人は、入社してから苦しくなります。逆に、中身を鍛えた人には、学歴はあとからついてくる。

勉強も部活も、人間力の練習

部活のあと、自分の部屋の机で、制服姿の男子中学生が数学の難しい問題に鉛筆を握って食らいつき、楽しそうに集中しているイラスト。「難問に 30分粘れるか」の文字。

では、中学生の今、この力はどこで鍛えられるか。答えは拍子抜けするくらい普通で、勉強と部活と、学校生活そのものです。

テストには答えがあります。だから「テストは答えのない大人の仕事と違う」と思うかもしれない。でも、鍛えているものは同じです。

  • 数学の難しい問題に30分粘る。これは「答えが分からないまま、もがく」練習です。すぐ解答を見る人は、この練習をしていない。
  • 提出物を期限に出す。約束と期限を守る練習。
  • 分からないことを先生に聞きに行く。知らないことをその場で調べる練習。玄白がやったことと同じ。
  • 部活で後輩に教える、班長を引き受ける。人に頼み、頼まれる練習。
  • テストで失敗した理由を自分の言葉で言う。「勉強不足」ではなく「英単語を3日前から始めたから間に合わなかった」と言えるか。
  • 好きな漫画やスポーツについて、なぜ好きかを語る。熱を、相手に分かる形にする練習。

勉強は、答えのある問題で「もがき方」を練習する場所です。答えのある問題でもがけない人は、答えのない問題ではもっともがけない。逆に、答えのある問題で粘れる人は、大人になって答えのない問題に出会ったとき、「これは前にやった感覚だ」と分かる。

まとめ

  • 技術は40年の途中で必ず古くなる。業界が変わっても持っていけるのは、仕事のし方と人との関わり方(ポータブルスキル)。自分という会社の商品は変わっても、経営の力は残る
  • 大人の仕事には答えがない。何がヒットするか、館山をどうすれば活気づくか、誰も知らない。全員が試行錯誤でもがいている
  • エジソンは6,000回失敗して竹に行き着き、テスラは正しかったのに生きているうちに報われず、玄白は辞書なしで3年半かけて訳した。歴史は、答えのない問題を楽しんだ人の記録
  • 人間力の中身は6つ。期限を守る、聞いて要約する、頼める・頼まれる、失敗を言える、好きを語れる、その場で調べる。国の「人間力」「社会人基礎力」とも、ほとんど重なる
  • 因数分解そのものは使わない。でも、分けて考える型は毎日使う。勉強で鍛えているのは中身より型
  • 会社は、能力検査で勉強の積み上げを、面接で「何をやり切ったか」を見る。性格検査で分かるのは傾向まで
  • 学歴は結果。中身は、頭を使う力とやり切る力
  • 勉強も部活も、その練習。答えのある問題でもがけない人は、答えのない問題ではもっともがけない

答えのない問題は、怖いものではなく、面白いものです。エジソンも玄白も、たぶん楽しんでいた。皆さんが今日、数学の問題に30分粘ったら、それはもう同じ練習です。

塾長 小池

「こんな勉強、将来使わない」。そう思う気持ちは、よく分かります。小池も中2のころ、本気でそう思っていました。
でも高校生になり、大人になって分かってきたのは、勉強で鍛えていたのは教科書の中身そのものではなく、その根っこにある人間力だったということ。部活も、行事も、好きなことに打ち込む時間も、同じです。
この本質を、今の皆さんに伝えたくて、この記事を書きました。

この練習の、いちばん近い本番が大学受験です。答えの決まった問題を相手に、自分の頭でどこまで粘れるか。ここで粘れた人は、その先の答えのない問題でも粘れます。

ランゲージ・ラボラトリーの先には、小池がオーナーをしている東進館山校があります。朝6時から夜23時まで開いていて、2026年の共通テストでは、館山校の生徒の「伸び」が千葉県内の東進56校舎で1位でした。中学で積んだ練習を、高校の3年間、大学受験までそのまま続けられます。

進路をもっと具体的に考えたい人は、次の記事も読んでみてください。

塾生限定

塾生サイトには、この話の続きを塾生だけが読める記事で載せています。塾生サイトで読む

※塾生の方は、まなぶ君と同じID・パスワードで読めます

ランゲージ・ラボラトリー 小池

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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