東京農大の調味食品科学研究室:味噌・しょうゆのおいしさを、こうじ菌と舌のセンサーで解き明かす研究室

木の味噌だるが並ぶ醸造の実習室で、たるの味噌に顔を近づけて香りをかぎ、うっとりするおだんご頭の女子大学生。緑のエプロン。「東京農大の研究室」「味噌のうま味はこうじ菌から」「舌のセンサーで測る」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

毎朝のみそ汁、卵かけごはんのしょうゆ。どちらも、目に見えない小さな生き物が何か月もかけて作った食べ物です。その「小さな生き物の仕事」を、大学で本気で研究している学科があります。東京農業大学の応用生物科学部 醸造科学科です。

青空の下、れんが色の大きな校舎にはさまれた広い通り。奥に高い建物と黄色く色づいた木が見える
東京農業大学 世田谷キャンパスの大通り(2025年)。醸造科学科はこのキャンパスにある
写真:かなえゆうじん/CC0(Wikimedia Commons)

醸造科学科には6つの研究室があります。酒の研究室、チーズやくさやの研究室もあります。今回はその中から、味噌・しょうゆのおいしさを研究する「調味食品科学研究室」を紹介します。台所にある物から、理科の生物と化学につながる研究室です。

目次

ひとことで言うと、何の研究?

朝の台所の食卓で、みそ汁のおわんを両手で持ってひと口すすり、ほっとした顔で首をかしげる館山中の女子。横にしょうゆさしと卵かけごはん。「おいしさのしくみを解く」の文字。

調味食品科学研究室の研究をひとことで言うと、味噌・しょうゆ・みりんがどうやっておいしくなるのかを、菌と酵素と舌のしくみから解き明かす研究です。

味噌やしょうゆは、大豆や米、麦に「こうじ菌」を育てて作ります。こうじ菌が出す酵素が、大豆のタンパク質やお米のでんぷんを細かく分けます。そこから、うま味や甘み、香りが生まれます。研究室は、そのしくみを調べて、もっとおいしく、体にいい調味料を作ろうとしています。

学生の研究テーマを、中学生向けに言い換えるとこうなります。

研究テーマ中学生向けに言うと
大麦の味噌醸造適性どの大麦を使うと、おいしい味噌になるか
各種原料からの製麹米や麦以外の材料でも、こうじが作れるか
肉からグルタミン酸を作る酵素お肉の中で「うま味」を生み出す酵素を探す
苦味を減らす技術食べ物や薬の苦さを、舌に感じにくくする
こうじ菌の有用遺伝子の機能こうじ菌の設計図(遺伝子)の中から、役に立つものを探す

出典:東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科「調味食品科学研究室」(学生の主な研究テーマ)。中学生向けの言い方は小池が言い換えた

研究室には、先生が3人います。前橋 健二 教授、吉川 潤 教授、辻 聡 准教授です。

出典:東京農業大学「調味食品科学研究室」(nodai.ac.jp/academics/app/fer/lab/704/)

味噌・しょうゆは、カビと菌が作る

大学の実験室で、顕微鏡から顔を上げて目を輝かせる眼鏡の男子大学生。机の上に白いこうじがついたお米のシャーレ。「こうじ菌はカビの仲間」の文字。

こうじ菌は、麹菌こうじきんとも書きます。正体はカビの仲間です。カビと聞くと食べ物をだめにするイメージがありますが、こうじ菌は日本の台所で何百年も働いてきた、役に立つカビです。

たくさんのお米の粒が、白い粉をまぶしたようなこうじ菌におおわれている
お米の上で育ったこうじ菌(米こうじ)。お米の粒をおおう白いものが、こうじ菌
写真:Forrest O./CC BY-SA 2.0(Wikimedia Commons)

中学の理科で習う言葉で言うと、こうじ菌は「菌類」で、酵素を出して物を分解します。中2で習う消化酵素は、体の中でタンパク質をアミノ酸に、でんぷんを糖に分けます。こうじ菌の酵素は、それと同じことを樽の中でやっています。タンパク質から出てくるアミノ酸の1つが、うま味のもと「グルタミン酸」です。

しょうゆができるまでを追った動画です(14分、2001年の制作)。原料は、うま味を作る大豆、香りを作る小麦、くさるのを防ぐ塩の3つ。大豆を蒸し、小麦を炒って砕くところから、しょうゆになるまでの手作りの工程を順に見せてくれます。

動画:SCIENCE CHANNEL(JST〈科学技術振興機構〉の YouTube 公式チャンネル)「THE MAKING(91)しょう油ができるまで」

研究室の学生は、3年生の前期の実験で、実際に米味噌と濃口しょうゆを手作りします。お米にこうじ菌を育てて米こうじを作るところから始め、味噌をねかせ、しょうゆは仕込んでから1年間ねかせます。できたしょうゆをしぼって、火を入れる前と後の香りのちがいもかぎ分けます。最後に成分を分析して、作るところから評価までを一通り学びます。

出典:東京農業大学 醸造科学科「研究室トピックス|調味食品科学研究室」(調味料生産学実験)

木造の蔵の入口の奥に、人の背より高い木の樽がいくつも並んでいる
味噌をねかせる大きな木の樽が並ぶ味噌蔵(長野県松本市の石井味噌・2012年)
写真:KCyamazaki/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

動画で見る

まずは東京農業大学の公式チャンネルにある、醸造科学科の紹介動画です(2分半)。学科の雰囲気を短くつかめます。

次は、オープンキャンパスで行われた醸造科学科の模擬授業です(13分)。醸造科学科で何を学べるのかを、先生が高校生に向けて話します。

3本目は、同じ醸造科学科の數岡 孝幸 教授が、甘酒ができるしくみを話す動画です(14分)。「中学・高校生に伝えたい!農学のトビラ」というシリーズで、中高生向けに作られています。甘酒も、米こうじの酵素がお米のでんぷんを糖に変えてできる飲み物です。味噌・しょうゆと同じしくみが、ここでも分かります。

動画:東京農業大学(YouTube 公式チャンネル)、東京農業大学 入学センター(YouTube 公式チャンネル)

研究室から生まれたもの

味見の机で、小さなカップの液体をなめてあまりの苦さに顔をしかめる黒髪ボブの女子大学生。机の上に番号のない小さなカップが並ぶ。「苦さを数字で測る」の文字。

研究室の研究は、台所の調味料の話だけでは終わりません。舌のしくみや、薬の飲みやすさにまでつながっています。

島根県の町と作った「ローズマリー塩麹」

塩麹は、米こうじを塩と水につけて作る調味料です。塩の代わりに使うと、しょっぱさに甘みとコクが加わり、こうじの酵素のはたらきでうま味も増えると考えられています。

研究室は、島根県の邑南町(おおなんちょう)と協定を結んで共同研究を行い、ハーブのローズマリーを組み合わせた「ローズマリー塩麹」を開発しました。 2016年から、地元のしょうゆの店(垣崎醤油店)が売っています。

出典:東京農業大学 醸造科学科「研究室トピックス|調味食品科学研究室」(塩麹の特徴と機能性向上のための研究。参考:前橋ら、日本食品科学工学会誌 62巻、2015年)

口に入れずに「苦さ」を測る

大豆や牛乳のタンパク質を酵素で分けると、苦い成分ができやすくなります。研究室は、その苦い成分が、人の舌にある苦味のセンサー(苦味受容体)の1つ「T2R1」を刺激していることを見つけました。

センサーがどれだけ反応するかを測れば、人が口に入れなくても、味を数字で比べられます。研究室はこれを使って、薬や健康食品の苦さを抑える研究を進めています。

出典:同上(味を感じる分子機構に基づいたおいしさ向上。参考:Maehashi et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008、Maehashi and Huang, Cell. Mol. Life Sci. 2009)

甘いタンパク質と、味噌の中の甘み

卵の白身に入っている「リゾチーム」というタンパク質は、砂糖の20倍以上甘いことが知られています。研究室は、人の母乳のリゾチームは甘く、牛の胃のリゾチームは甘くないことを見つけました。

味噌を調べた研究もあります。いろいろな味噌を分析すると、ほとんどの味噌に、カロリーのない甘味料として使われる「エリスリトール」が入っていました。米こうじからも見つかったので、こうじ菌が作っていると考えられています。

出典:同上(甘味タンパク質リゾチームの不思議、味噌中の糖アルコール生成に関わる研究。参考:Maehashi et al., Chem. Senses 2007、Matano et al., Comp. Biochem. Physiol. B 2015、Yoshikawa et al., Food Sci. Technol. Res. 2025)

どんな人が研究しているか

古い和綴じの本が開いた木の机で、小さなグラスの酢の香りを目を細めて確かめる白衣の中年の男性研究者。後ろにガラスの瓶が並ぶ棚。「昔の酢も今の味も研究」の文字。

研究室の中心は、前橋 健二(まえはし けんじ)教授です。東京農業大学の大学院の醸造学専攻を出て、1999年に博士(農芸化学)を取りました。2003年から2004年には、アメリカの味とにおいの研究所(モネル化学感覚研究所)で研究しています。大学の「食と農」の博物館の館長も務めています。

  • 前橋 健二 教授:発酵食品の味の特徴。味と香りが一緒になったときに、おいしさがどう変わるか
  • 吉川 潤 教授:微生物と酵素で、食べ物の材料を作る
  • 辻 聡 准教授:発酵に使う微生物と、発酵食品の成り立ち

出典:東京農業大学「調味食品科学研究室」、東京農業大学 研究者データベース(前橋 健二)

前橋先生は、江戸時代の書物に書かれた米酢(よねず)の作り方を再現する研究や、鶏肉を料理するあいだにうま味のグルタミン酸を作る酵素の研究もしています。昔の台所と今の台所の両方が、研究の材料です。

出典:東京農業大学 研究者データベース(前橋 健二)の論文一覧(2021・2022年)

前橋先生本人が、発酵食品が体の「免疫」を整えるはたらきを話す講座の動画です(56分)。酢を作る「酢酸菌」を残したままの「にごり酢」を中心に、発酵食品に共通する力を解説します。長いので、興味のある人は最初の10分だけでも見てください。

動画:せたがやeカレッジ(世田谷区内の大学の公開講座を配信する YouTube チャンネル。この回の開催団体は東京農業大学)

研究室の学生の人数と、研究室だけの卒業後の進路は、公式に出ていません。

この研究室に入るには

研究室の扉が並ぶ大学の廊下で、手に持った紙を見つめて不安そうに眉を下げる短い茶髪の男子大学生。「3年の前期に研究室を選ぶ」の文字。

道は3つあります。

道流れ
東京農大に入る(学部から)東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科に入る → 3年生の前期に研究室を決める → 4年生で卒業研究
短大・高専・専門学校から入る卒業してから醸造科学科の2年生に編入する(試験は英語・化学・生物)
ほかの大学から入る(大学院から)ほかの大学の理系の学部を卒業する → 東京農業大学大学院 応用生物科学研究科 醸造学専攻の博士前期課程(修士)に受かる

出典:東京農業大学 醸造科学科「研究室トピックス|微生物工学研究室」、東京農業大学「編入学選抜・学士編入学選抜」(2024年度入試の案内)、東京農業大学大学院「醸造学専攻」「出願にあたって」

学部から入る人は、3年生の前期に、研究室を何度も訪ねてから希望を出して、研究室が決まります。3年生の後半には、4年生から実験のやり方や材料を引き継ぐ「引継実験」があり、4年生から本格的な研究が始まります。

醸造科学科には、ほかの大学にはない実習もあります。12月の半ばから14日間、全国の醸造や食品の工場に行って、現場で働きながら学ぶ「醸造科学特別実習」です。行き先は、東京農大の卒業生が経営したり働いたりしている工場です。

出典:東京農業大学「醸造科学科」(学科の紹介)

大学院の醸造学専攻は、修士の定員が20人です。2027年度の指導教員の一覧に、前橋先生と吉川先生の名前があります。大学院を受ける前に、指導を受けたい先生に直接相談するよう、大学は案内しています。研究室は、大学院からもう一度選び直せます。

出典:東京農業大学大学院「応用生物科学研究科」「出願にあたって」「指導教授・指導准教授一覧(2027年度在職予定者、2026年5月1日)」

醸造科学科の卒業生の就職先には、ヤマサ醤油、キユーピー醸造、合同酒精、ロッテなどの食品の会社が並びます。航空会社の機内食の会社や、食品の商社に進む人もいます。

出典:東京農業大学「就職状況|醸造科学科」(令和7年度の主な就職先)。学科全体の数字で、調味食品科学研究室だけの数字ではない

社会で働く醸造科学科の卒業生を紹介する動画です(6分半)。

動画:東京農業大学(YouTube 公式チャンネル)

塾生限定

塾生サイトには、この話の続きを塾生だけが読める記事で載せています。塾生サイトで読む

※塾生の方は、まなぶ君と同じID・パスワードで読めます

中高生のうちにできること

博物館の展示室で、古い木の樽とラベルのない瓶がずらりと並ぶ棚を見上げて、満面の笑顔で目を輝かせる館山中の男子。「大学の博物館は入館無料」の文字。

東京農業大学は、中学生でも行ける場所が2つあります。

行ける場所いつ・どうやって
収穫祭(大学祭)2026年は10月30日(金)〜11月1日(日)、世田谷キャンパス
「食と農」の博物館入館無料・予約なし。9時30分〜16時30分、月曜・祝日は休み。世田谷区上用賀

出典:東京農業大学「2026年度 収穫祭」、東京農業大学「『食と農』の博物館」。展示や催しは時期で変わるので、行く前に公式ページで確かめること

博物館の2階には、東京農大の卒業生の蔵元が作った日本酒・焼酎・ワインを紹介するコーナーがあります。味噌やしょうゆ、酒を作る会社に、どれだけ多くの卒業生がいるかが、目で分かります。

ガラス張りの建物の前の植え込みに、色あざやかなニワトリの像とソテツが立っている
東京農業大学「食と農」の博物館の入口(東京都世田谷区・2017年)。入館は無料
写真:Daderot/CC0(Wikimedia Commons)

勉強で言うと、この研究室にいちばん近いのは理科です。中学では、中2の「消化と酵素」、中3の「自然界の分解者(菌類・細菌類)」がそのまま入口になります。高校では、生物(酵素・遺伝子)と化学(タンパク質・アミノ酸・糖)が中心です。論文は英語で読み書きします。

家でもできることがあります。みそ汁の味噌を2種類くらべて、色・香り・味のちがいを書き出してみる。それだけで、研究室の「味を言葉と数字にする」研究の入口に立てます。

塾長 小池

樽の中で何が起きているかを説明できる人は、理科の「酵素」と化学の「タンパク質」を自分の言葉で言える人です。理科と数学の計算から逃げないことが、いちばんの近道です。

塾生限定の表(ぼかし)

塾生限定:安房高校の指定校推薦の枠

塾生はログインして見られます(ID とパスワードは各自のもの)

まとめ

家の机で理科の教科書とノートを開き、横に置いたみそ汁のおわんを見て、うれしそうにうなずく館山中の女子。「台所から理科につながる」の文字。
  • 調味食品科学研究室は、東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科の研究室。味噌・しょうゆのおいしさを、こうじ菌と酵素と舌のしくみから解き明かす
  • こうじ菌はカビの仲間。酵素でタンパク質をアミノ酸に、でんぷんを糖に分けて、うま味と甘みを作る
  • ローズマリー塩麹の開発、苦味のセンサーで味を測る研究、甘いタンパク質の発見などが生まれた
  • 入る道は、醸造科学科から(3年前期に研究室を決める)、短大・高専などからの編入、大学院から。研究室は大学院からも選び直せる
  • 近づく勉強は、理科(生物・化学)、数学、英語

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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