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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
17.9倍と、3.6倍。
中学校の先生の採用試験の倍率です。17.9倍は2000年度。3.6倍は2025年度で、過去最低です(文部科学省、2025年12月公表)。25年前は18人受けて1人しか受からなかった試験が、今は4人に1人受かります。
先生になるのは、昔よりずっと簡単になりました。
では、なぜ人が集まらなくなったのか。もう1つ数字を出します。20代の先生の約45人に1人が、心の病気で1か月以上仕事を休んでいます。 1年目で辞めた新任の先生は、全国で897人。3年連続で増えています(どちらも文部科学省、2024年度)。
入口が広くなったのは、中がきついからです。
この記事は、先生になりたい人に「やめておけ」と言うための記事ではありません。逆です。本気で先生になりたい人に、良いところも、きついところも、全部見せます。そのうえで、辞めずに、楽しく続けられる先生になるには何が要るのかを考えます。数字は、文部科学省・千葉県教育委員会・総務省の資料から調べました(2026年9月時点)。
この記事でわかること:
「先生」とひと口に言っても、小学校・中学校・高校・特別支援学校で、仕事も免許も試験も違います。中学校と高校の先生は、教科ごとの先生です。 そして教科によって、採用試験の難しさがまったく違います。
| 学校 | 教え方 | 免許 | 全国の倍率(2025年度) |
|---|---|---|---|
| 小学校 | 担任がほぼ全教科を教える | 小学校の免許(取れる大学が限られる) | 2.0倍(過去最低) |
| 中学校 | 教科ごとに専門の先生 | 中学校の免許(教科ごと) | 3.6倍(過去最低) |
| 高校 | 教科ごと。より専門的 | 高校の免許(教科ごと) | 3.8倍(過去最低) |
| 特別支援学校 | 障害のある子に合わせて教える | 特別支援学校の免許+小中高の免許 | 2.0倍 |
出典:文部科学省「令和7年度公立学校教員採用選考試験の実施状況」(2025年12月)。倍率は受験者÷採用者。
公立の学校の先生は、都道府県(千葉県なら千葉県と千葉市)の採用試験に受かって、その県の公務員になります。私立の学校の先生は、学校ごとの採用です。この記事は、人数がいちばん多い公立の中学校の先生を中心に書きます。
千葉県の中学校の先生の試験を、教科ごとに見ます。
| 教科 | 受けた人(志願者) | 合格した人 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 保健体育 | 648人 | 80人 | 8.1倍 |
| 社会 | 482人 | 96人 | 5.0倍 |
| 音楽 | 102人 | 30人 | 3.4倍 |
| 家庭 | 70人 | 27人 | 2.6倍 |
| 国語 | 296人 | 128人 | 2.3倍 |
| 数学 | 257人 | 118人 | 2.2倍 |
| 英語 | 229人 | 118人 | 1.9倍 |
| 理科 | 158人 | 99人 | 1.6倍 |
| 技術 | 14人 | 9人 | 1.6倍 |
| 美術 | 30人 | 20人 | 1.5倍 |
出典:千葉県教育委員会「令和8年度 千葉県・千葉市公立学校教員採用候補者選考の結果」。中学校・中高共通。倍率は志願者÷2次合格者(文部科学省の計算とは少し違う)。
表を見て、驚いた人も多いと思います。体育の先生は8倍。理科の先生は1.6倍。同じ「中学校の先生」でも、教科で5倍もの差があります。
部活が好きで体育の先生になりたい人は多い。だから倍率が高い。一方、理科・数学・英語は、なりたい人が足りていません。どの教科の先生になるかは、中学生の今の「好きな教科」から始まります。ただ、好きな教科を選ぶときに、この表も一度思い出してください。
動画や漫画は、作り手の描き方で見え方が変わります。この記事の動画はアニメのドラマ仕立てで、作り話も含みます。これがすべて正しいわけではありません。いろんな人の話を聞きながら、自分で考えてください。
小学校の先生は、担任がほぼ全教科を教えます。1日中同じクラスの子どもと過ごす小学校の先生の毎日は、この動画で見られます(18分)。(YouTube「俺たち天下のゆとりーマン」のアニメ)
公立の中学校の先生になるには、①大学で教員免許を取る → ②都道府県の採用試験に受かる、の2段階です。どちらか片方では、先生になれません。
教員免許には、専修・一種・二種の3種類があります。どれを持っていても、教えられる学校と教科、仕事の中身は同じです。 違うのは、どこまで学校で学んだかと、それで変わる給料・その後の道です。
| 専修免許 | 一種免許(標準) | 二種免許 | |
|---|---|---|---|
| 必要な学歴 | 大学院の修士(大学卒+2年) | 4年制大学の卒業 | 短大の卒業 |
| 取る単位(中学校) | 83単位 | 59単位 | 35単位 |
| 教えられること | 同じ | 同じ | 同じ |
| 高校の免許 | ある | ある | ない(高校は専修と一種だけ) |
| 千葉県の初任給(月、手当込み) | 約32万円 | 約30万円 | 約27万円 |
| 校長・教頭になる条件 | 先生などの経験5年以上 | 先生などの経験5年以上 | 経験10年以上が必要 |
| その後 | — | — | 一種を取るよう努めることが法律で決まっている |
出典:教育職員免許法 別表第一・第9条の2、学校教育法施行規則 第20条・第23条、千葉県の初任給(2024〜2025年、学歴別)。
二種免許は、先生になってから一種に上げる前提の免許です。給料も低く、高校では教えられません。中学校の先生の標準は、4年制大学で取る一種免許です。大学で教科の専門の授業に加えて、「教職課程」という先生になるための授業を取ります。途中で、実際の中学校で授業をする教育実習(3〜4週間ほど)と、特別支援学校や福祉施設で7日間以上過ごす介護等体験があります。
取り方は2通りです。
| 取り方 | 中身 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 教育学部で取る | 先生になるための学部。小学校の免許も取れる | 先生になると決めている人 |
| 他の学部(文学部・理学部・経済学部など)で教職課程も取る | 学部の授業に、教職課程の授業を上乗せする。中学・高校の免許が取れる | 教科の専門を深く学びたい人。先生以外の道も残したい人 |
注意が1つあります。小学校の免許が取れる大学は、中学校の免許が取れる大学の約半分です(小学校254校、中学校509校。文部科学省、2025年4月)。小学校の先生になりたい人は、教育学部か、小学校の課程がある大学を選ぶ必要があります。
千葉県・千葉市の試験は、毎年こう進みます。
| 時期 | 段階 | 中身 |
|---|---|---|
| 4〜5月 | 出願 | — |
| 7月 | 1次試験 | 教職教養(教育の法律・千葉県の教育など)、専門教科の筆記、集団面接、論作文 |
| 8月 | 2次試験 | 個別面接、模擬授業、適性検査。体育・音楽・英語などは実技も |
| 9月下旬〜10月上旬 | 合格発表 | 翌年4月から先生に |
出典:千葉県教育委員会「令和9年度 選考方針」「第2次選考の実施」。
千葉県には、大学3年生から受けられる「ちば夢チャレンジ特別選考」があります。3年生で1次試験の筆記を受けて通れば、4年生の1次試験は面接だけになります。2026年は1,685人が出願しました。
試験で一番大事なのは、2次の面接と模擬授業です。筆記の点数だけでは受かりません。「この人に、40人の中学生を任せられるか」を見られます。




中学校の先生を目指すなら、4年制大学に行くことが前提です。 千葉県で先生になるなら、代表は千葉大学教育学部。ただし、教育学部でなくても先生にはなれます。
千葉大学教育学部は、千葉県で唯一の国立の「先生を育てる学部」です。中学校の全教科の免許が取れます。
| コース | 共通テストの得点率の目安 | 偏差値の目安 |
|---|---|---|
| 中学校コース 社会 | 76% | 55.0 |
| 中学校コース 国語 | 71% | 55.0 |
| 中学校コース 数学 | 71% | 57.5 |
| 中学校コース 理科 | 70% | 52.5 |
| 英語教育 | 67% | 57.5 |
| 小学校コース | 68% | 52.5 |
| 中学校コース 技術 | 59% | 50.0 |
出典:河合塾 Kei-Net(2027年度入試用、2026年9月)。
安房高校なら、学年でおよそ上位30〜40番が目安です(小池の見立て)。高校3年間、学年の上のほうに居続けないと届きません。
面白い数字があります。千葉大学教育学部を2025年3月に卒業した人のうち、先生になったのは47.0%。全国の国立の教育学部の平均63.4%より低いです(文部科学省)。教育学部を出ても、半分は先生以外の道に進んでいる。教育学部は「先生になるしかない学部」ではありません。
15歳の今、「先生になりたい」と思っている人。その気持ちは大事にしてください。そのうえで、覚えておいてほしいことがあります。
4歳のころ、将来の夢を聞かれて、仮面ライダーかプリキュアと答えていたはずです。11年で何度も変わりました。15歳の答えが最後だと考える理由はありません。
だから、先生の道も、先生以外の道も両方残る大学を目指してください。国立の教育学部か、MARCH以上の大学で、教職課程を取る。教科の専門を深く学んだ先生は、授業が面白くなります。途中で「やっぱり違う」となっても、大学を出ていれば横に動けます。


塾生サイトには、この話の続きを塾生だけが読める記事で載せています。塾生サイトで読む
※塾生の方は、まなぶ君と同じID・パスワードで読めます
中学校の先生は、平日に学校に11時間いて、土日も学校に来ています。 残業代は出ません。ただ、国はここ数年で、少しずつ待遇を変え始めています。
| 中学校の先生(2022年度) | 6年前(2016年度) | |
|---|---|---|
| 平日、学校にいる時間 | 11時間01分 | 11時間32分 |
| 土日、学校にいる時間(1日あたり) | 2時間18分 | 3時間22分 |
| うち、土日の部活動 | 1時間29分 | 2時間09分 |
出典:文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)」。
朝7時半に学校に来て、夕方6時半に帰る。これが平均です。授業のほかに、授業の準備、テストの採点、部活、生徒指導、保護者への連絡、会議、書類。授業は仕事の一部でしかありません。
国の推計では、中学校の先生の約36%が、月80時間を超える残業に相当する時間、学校にいました(2022年度)。月80時間は、「過労死ライン」と呼ばれる基準です。より新しい2024年度の集計では、月80時間を超える中学校の先生は7.4%まで減っています(文部科学省「見える化」調査。測り方が違うので、単純には比べられません)。
千葉県の公立の小・中学校の先生の年収を、年代と役職ごとに計算しました。
| 年代・役職 | 年収の目安 |
|---|---|
| 20代前半(大学を出て1〜3年目) | 約510万〜540万円(1年目はボーナスが少なく約460万円) |
| 30代前半 | 約610万〜660万円 |
| 40代 | 約720万〜790万円 |
| 50代(先生のまま) | 約790万〜800万円 |
| 主幹教諭(学年や校務をまとめる先生) | 約750万〜800万円 |
| 教頭(副校長) | 約850万〜900万円 |
| 校長 | 約900万〜1,000万円 |
千葉県人事委員会「令和7年 報告及び勧告」の給料表から、小池が計算した推計です。給料に教職調整額(2026年からの5%)と地域手当を足し、ボーナス(年4.65か月分)を入れました。家族・家賃・通勤・部活の手当は入れていません。教頭・校長の管理職手当は、千葉県の額が公表されていないので見込みです。
千葉県の小・中学校の先生の平均は39.6歳で、月の給与は手当込みで約43万円。年収にするとおよそ700万円です(千葉県「給与・定員管理等について」、2025年)。
見てわかるとおり、先生の給料は年齢とともに上がります。ただし、50代の先生はほとんど上がりません。大きく上がるのは、教頭・校長になったときです。先生の年収は「何歳か」と「どの役職か」で決まり、授業のうまさや残業の長さでは変わりません。
公立の先生には、残業代が出ません。代わりに、給料に「教職調整額」という上乗せが一律で付きます。この上乗せは50年以上ずっと4%でした。2025年に法律が変わり、2026年1月に5%、そこから毎年1%ずつ上がって、2031年に10%になります。あわせて、残業を月平均30時間ほどに減らす目標も決まりました。
公務員なので、給料は景気に左右されにくく、安定しています。ここは先生という仕事の大きな良いところです。
中学生は、先生の言うことを聞きません。 全員ではありません。でも、聞かない生徒は、どのクラスにも必ずいます。中学校の先生の仕事の多くは、この「聞かない」との戦いです。
正直に書きます。皆さんの学校のことを思い出してください。
これを、毎日、40人の前でさばくのが中学校の先生です。しかも、クラスに何人かいる「聞かない生徒」を放っておくと、まじめに授業を受けたい生徒が損をします。授業が崩れ、学級が崩れます。
数字でも見てみます。
| 中学校で起きたこと(2024年度) | 件数 |
|---|---|
| 暴力行為 | 4万39件(全国の中学校の52.6%で発生) |
| うち、先生への暴力 | 3,546件 |
| いじめ | 13万5,865件 |
| 不登校の中学生 | 21万6,266人(約15人に1人) |
出典:文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」。
先生を殴る、蹴る。それが1年で3,500件以上。全国の中学校の半分以上で、何らかの暴力が起きています。いじめの対応も、不登校の生徒への連絡も、担任の仕事です。
そこに、保護者の対応が重なります。夜の電話、何時間も続く面談、理不尽な要求。国も放っておけなくなり、2026年8月に、保護者などからの行き過ぎた要求(カスタマーハラスメント)への対応の手引きを出しました。やりとりを録音する、1人でなく複数の先生で対応する、といった中身です。



小池も毎日、中学生を教えています。塾は「勉強したい」と思って来る生徒がほとんどです。それでも、やる気のない日、話を聞かない日はあります。学校はそもそも、全員が来る場所です。勉強したくない生徒も、先生が嫌いな生徒も、同じ教室にいる。学校の先生の大変さは、塾の比ではありません。
授業のほかに、部活・行事の準備・保護者への対応まで、中学校の先生の1日がどう埋まっていくかは、この動画で5分ほどで見られます。(YouTube「俺たち天下のゆとりーマン」のアニメ)
心の病気で休む先生は、過去最多の水準です。 とくに若い先生と、新しい学校に来たばかりの先生が折れています。
| 年度 | 心の病気で休職した先生 | 休職+1か月以上の病気休暇 |
|---|---|---|
| 2015年度 | 5,009人 | — |
| 2020年度 | 5,203人 | 9,496人 |
| 2022年度 | 6,571人 | 12,229人 |
| 2023年度 | 7,119人(過去最多) | 13,045人 |
| 2024年度 | 7,087人 | 1万3,310人(過去最多) |
出典:文部科学省「令和6年度 公立学校教職員の人事行政状況調査」。休暇の数は2020年度から集計。
10年で、休職する先生は約1.4倍になりました。中学校だけで、休職が1,639人。1か月以上の休みまで含めると3,028人です。
年代で見ると、1か月以上休んだ先生の割合がいちばん高いのは20代で、2.21%。約45人に1人です。4年前(2020年度)は1.44%でした。
1年目で辞めていく先生も増えています。
| 項目(全国) | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 |
|---|---|---|---|
| 1年目で正式採用にならず辞めた先生 | 637人 | 791人 | 897人 |
| 採用された人に占める割合 | 1.94% | 2.29% | 2.56%(約39人に1人) |
| うち、心の病気で辞めた先生 | 229人 | 269人 | 321人 |
出典:同上(条件付採用期間の状況)。
千葉県は3.31%、千葉市は3.57%で、全国より高い数字です。
| 心の病気で休んだ理由(教育委員会の見方) | 割合 |
|---|---|
| 生徒への指導そのもの | 26.5% |
| 職場の人間関係(上司・同僚) | 23.2% |
| 事務の仕事・調査への対応 | 12.7% |
| もともとの病気の悪化 | 11.8% |
| 家族など、個人的な人間関係 | 8.9% |
| 保護者・地域の人との関係 | 6.1% |
出典:同上。本人ではなく、教育委員会がどう見ているかの調査。
1位は「生徒への指導」、2位は「職場の人間関係」です。聞かない生徒に消耗し、それを職員室で相談できずに1人で抱え込む。この2つが重なったとき、先生は折れます。
もう1つ、見逃せない数字があります。休職した先生の63.4%が、今の学校に来て3年未満でした。新任の1年目、異動した直後。まだ職員室に頼れる人がいない時期に、折れる先生が集中しています。


きつい数字を並べましたが、日本の先生の約9割は、教える仕事にやりがいを感じています。 そして国も、先生の仕事を軽くするために動き始めています。
国際調査(OECD「TALIS 2024」、2025年10月公表)では、日本の小中学校の先生の約9割が「教える仕事に満足している」と答えました。国際平均より高い数字です。同じくらいの学歴の、ほかの仕事をしている人と比べても、仕事への満足度が高いという結果も出ています。
中学生が1年でぐっと大人になる。できなかった問題が解けて、顔が変わる。卒業式で「先生のおかげです」と言われる。何年もたってから、教え子が会いに来る。これは、ほかの仕事ではなかなか味わえません。
国の対策も進んでいます。
| 対策 | 中身 |
|---|---|
| 中学校の35人学級 | 2026年度に中1、2027年度に中2、2028年度に中3。1クラスが40人から35人以下に(約40年ぶり) |
| 部活動の地域展開 | 2031年度までに、休日の部活動は原則すべて地域のクラブへ |
| 先生の手伝いをする人 | 書類・データ入力などを手伝う「教員業務支援員」を約3万人。スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーを約3万7,500校に |
| 給料 | 教職調整額を4%から10%へ(2031年まで) |
出典:文部科学省、スポーツ庁・文化庁、財務省「令和8年度 文教・科学技術予算」。
皆さんが先生になる10年後、学校はきっと今より変わっています。ただ、1つだけ変わらないことがあります。教室には、言うことを聞かない中学生がいる。 ここは、どんなに制度が変わっても同じです。だから、次の章が大事です。




続けられる先生は、生徒に「言うことを聞かせる」先生ではありません。生徒が動きたくなる教室を作れる先生です。そして、1人で抱え込まない先生です。
きつい現実の中でも、10年、20年と楽しそうに続けている先生はたくさんいます。その先生たちには、共通する力があります。
研究で、はっきり出ていることがあります。
小中学校の先生287人を調べた研究では、同僚や管理職からの気持ちの支え(話を聞いてもらう、わかってもらう)があると、燃え尽き(バーンアウト)が減りました(貝川直子、2009年、『パーソナリティ研究』)。1年目に生徒指導で危機を迎えた中学校の先生を調べた研究でも、立ち直りを支えたのは「先輩からの具体的な手助け」と「同期からの気持ちの支え」でした(『学校メンタルヘルス』、2017年)。
国の調査も、いじめが深刻になった背景として「先生が1人で抱え込んでしまうこと」を挙げています。
困ったら、「困っています」と言える。先輩に「どうしたらいいですか」と聞ける。これは弱さではありません。続けられる先生の、いちばんの力です。
言うことを聞かない生徒に、大声で怒鳴る。一時は静かになります。でも、次の日はまた同じです。怒鳴る先生ほど、消耗して折れていきます(小池の見立て)。
続けられる先生は、別のやり方をしています。
| 続けられる先生 | 折れやすい先生 |
|---|---|
| 4月の最初に、クラスのルールと「なぜそのルールか」をはっきり言う | その場その場で注意する |
| 授業がおもしろい。だから生徒が聞く | 授業が退屈。だから注意が増える |
| できたことを先にほめる | できていないことを先に叱る |
| 生徒1人1人と、授業の外で話す。関係ができてから注意する | 関係ができる前に、注意だけする |
| 叱るときは短く。終わったら引きずらない | 長々と叱る。次の日も不機嫌 |
| 学年の先生・生徒指導の先生とチームで対応する | 自分のクラスの問題を1人で片づけようとする |
表は小池の見立てです。
一番大きいのは、授業のおもしろさです。わかる授業、「なるほど」がある授業では、生徒は勝手に聞きます。教科の中身を深く知っている先生ほど、授業がおもしろい。だから大学で教科を深く学ぶことに意味があります。
中学校の先生は、毎日うまくいかないことがあります。授業が崩れた。生徒に暴言を吐かれた。保護者に責められた。
続けられる先生は、失敗を「自分はダメな先生だ」とは受け取りません。「今日の授業は、ここがまずかった。明日はこう変える」と、自分の言葉で言い直して、次の日に持ち越しません。生徒の暴言も、「自分を否定された」とは受け取らず、「この子は今、何かにいら立っている」と見ます。
失敗を自分の言葉で言えて、次を変えられる。これは、どんな仕事でも求められる力です。
先生になると、自分が中学生のときに習っていないことを教えることになります。教える中身は、10年ごとに大きく変わるからです。
| いつから | 学校に入ってきたもの | 先生に起きたこと |
|---|---|---|
| 2012年度 | 中学1・2年の体育で、ダンスが必修に | ダンスを習ったことのない体育の先生が、ダンスを教えることに |
| 2019年度 | 中学校で道徳が「教科」に | 教科書を使い、生徒1人1人の様子を文章で評価することに |
| 2020年度 | 小学校でプログラミングが必修に。5・6年の英語が教科に | 小学校の先生が、プログラミングと英語も教えることに |
| 2020〜2021年度 | 小中学生に1人1台の端末 | 端末を使った授業を、先生が一から作ることに |
| 2021年度 | 中学校の英語の授業は、英語で行うのが基本に | 英語を話しながら授業をすることに |
| 2023年〜 | 生成AI(国が学校での使い方の指針を出した) | AIをどう使わせ、どう使わせないかを決めることに |
出典:文部科学省「学習指導要領」、GIGAスクール構想、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」(2023年7月に暫定版、2024年12月にVer.2.0)。
とくにきついのが英語です。今の英語の先生の多くは、文法と読解で英語を勉強してきた世代です。英語が読めて、試験の点も取れる。でも、ペラペラ話せるわけではない。その先生が、ある日から「授業は英語で、流ちょうに話しながら教えてください」と言われる。これは、かなりきついことです。
体育の先生も同じです。柔道や陸上は教えてきた。でも、ダンスは自分が踊ったことがない。それでも、4月には40人の前で教えなければなりません。
ここで分かれます。「自分は習っていないから無理」と構える先生は、変わるたびに苦しくなります。「おもしろそう、自分もやってみよう」と、生徒より先に学び始める先生は、変わるたびに授業が新しくなります。先生は「教える人」である前に、学校でいちばん学んでいる人でなければなりません。
新しい学校に来て3年以内に折れる先生が多い、と書きました。学校が変わっても、教える中身が変わっても、学び直せる人が続けられます。
最後は、当たり前のことです。寝る。食べる。休みの日は休む。先生の仕事は、やろうと思えば無限にあります。どこかで「今日はここまで」と線を引けるかどうか。それも、続けるための力です。



小池がいろいろな先生を見てきて思うのは、長く続けている先生ほど「生徒が好き」と「自分も楽しんでいる」がそろっているということです。生徒をなめられないように構えるより、授業を楽しんでいる先生のほうが、結局生徒はついてきます。
これからの先生は、知識を教え込む人から、生徒の学びに伴走する人に変わっていきます。説明するだけなら、AIでもできる時代だからです。
国(中央教育審議会)は、これからの学校の姿として、「一人ひとりに合った学び(個別最適な学び)」と「みんなで考える学び(協働的な学び)」を掲げています。中学生は1人1台の端末を持ち、自分のペースで学べるようになりました。
では、先生は何をするのか。
| これまでの先生 | これからの先生 |
|---|---|
| 黒板の前で、全員に同じ説明をする | 1人1人の「わからない」を見つけて、手を貸す |
| 答えを教える | 問いを出して、生徒に考えさせる |
| 1人の先生がクラスを全部見る | カウンセラー・支援員・地域の人とチームで見る |
| 知っていることを教える | 自分も学び続けて、学ぶ姿を見せる |
| 端末は使わない | 端末とAIを道具として使いこなす |
表は国の答申の考え方を、小池が中学生向けに言い直したものです。
昔、学校は町でいちばん進んだ場所でした。家にないピアノがあり、顕微鏡があり、プールがあり、パソコンがありました。子どもは学校で珍しいものを見て、家に帰って「今日、こんなことがあったんだよ」と親に話した。学校は、新しい世界の入口でした。
今はどうでしょう。家にはスマホがあり、動画があり、AIがあります。生徒のほうが、先生より新しいアプリを知っている。学校の端末は制限が多く、家のほうが自由に調べられる。気づけば、学校のほうが世の中より遅れている。 そう感じている中学生も多いはずです。
これからの先生の仕事は、学校をもう一度「いちばん進んだ場所」に戻すことです。AIを怖がって遠ざけるのではなく、先生が誰より先に使ってみる。使い方と、使ってはいけない場面を、自分の言葉で生徒に教えられる。英語のスピーキングも、ダンスも、プログラミングも、AIも同じです。世の中が変わるスピードに、先生の学びが追いついているか。 これからの先生は、そこで差がつきます(小池の見立て)。
ここに、先生という仕事の「上流と下流」があります。教科書の内容を説明するだけの仕事は、AIに置き換わっていきます。一方で、生徒のやる気に火をつける、クラスをまとめる、困っている生徒に気づく、保護者と信頼をつくる。これは人にしかできません。前の章の「続けられる先生の力」と、そっくり同じです。
つまり、これからの先生に求められる力と、辞めずに続けられる先生の力は、同じものです。
先生になりたい人が今から鍛えることは、1つだけです。目の前のことに没頭して、燃え尽きるまでやり切ること。 そして、人と一緒にやり切ること。
ここまでの話を思い出してください。続けられる先生は、困ったら頼れる人でした。怒鳴らずに人を動かせる人でした。失敗を自分の言葉で言い直して、次を変えられる人でした。教科が好きで、学び続ける人でした。場面は違っても、中身は同じ力です。大学4年の採用試験で、急にこの力は作れません。
定期テスト
友だちに教える
部活
行事
困ったとき
一番大事なのは、どれも「自分から楽しんでやる」ことです。
没頭する力は、才能ではなく習慣です。 今日の宿題で、今日の部活で、あと一歩深く入る。その積み重ねが、10年後の先生としての力になります。
ゲーム業界やアニメ業界の記事も読んだ人は、この章を見て「一緒じゃん」と思ったはずです。その通りです。仕事が違っても、求められる力は同じです。その力の正体を、「人間力とは何か」の記事で6つに分けて書きました。ここから先は、そちらを読んでください。


先生になりたい。それは、皆さんのスタート地点です。言うことを聞かない中学生も含めて、人を好きでいられるか。 そして勉強を、当たり前に積み上げる。その両方をそろえた人が、10年、20年と教室に立ち続けられる先生になります。
ランゲージ・ラボラトリー 小池








ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて