Appleで働くには:iPhoneの中の日本の部品、輪の形の本社、そして秘密主義の入口

輪の形のガラスの建物の中の明るい作業場で、若い男性エンジニアがピンセットで小さなカメラの部品を持ち上げ、目を輝かせて見つめている。後ろでは同僚が大きな設計のスケッチを見ている。「Appleで働くには」「学歴は最低でも早慶」の文字。

ランゲージ・ラボラトリーの小池です。

2%。

2009年、ニューヨークに新しくできたApple Store(アップルの直営店)が店員を募集したとき、約1万人が応募して、採用は約200人でした。同じころのハーバード大学の合格率は約7%。お店の店員の募集で、世界一有名な大学より狭い。 Appleの人気は、それほどのものです。

iPhone、Mac、iPad、AirPods。皆さんのポケットやカバンに入っているものを、自分の手で生み出す会社。本社は輪の形をした巨大なガラスの建物で、社員は自分の会社の株をもらえる。憧れる人が世界中から集まるのは当然です。

だから、iPhoneが好き。Appleの新製品は全部チェックしている。英語が少しできる。勉強ができる。全部、当たり前。 その中で、どうやって選ばれるのか。Appleの年次報告(10-K)と株主総会の資料、Appleの公式ニュース(Newsroom)、Appleの求人、口コミの年収サイトから調べました(数字は2026年10月時点)。

この記事でわかること:

  • Appleが作っているもの、会社の大きさ、iPhoneの中の日本の部品
  • 輪の形の本社と、横浜の研究所
  • 海外へ行く道と、毎日の英語
  • 年収と、その中身(同じAppleでも仕事で大きく違う)
  • 入るのがどれだけ難しいか、秘密主義の会社の選考
  • 学歴のリアル、Apple Storeの店員という入口の現実、中学生の今からやること
目次

Appleは、何を作っている会社か

白い作業着とフードの若い女性技術者が、日本の工場のクリーンルームで、指先ほどの小さなカメラの部品をピンセットで持ち上げ、驚いて目を丸くしている。「カメラの心臓は、日本の会社が作る」の文字。

Appleは、世界の25億台の機械の「中身」と「使い心地」を決めている会社です。

製品・サービス数字
使われているApple製品(iPhone・Mac・iPadなど)25億台を超えた(2026年1月)
iPhone売上の約半分(50.4%)
App Store毎週8億5,000万人以上が使う。175の国と地域
日本のスマホ出荷の51.6%がiPhone。15年連続の1位(2025年度)

出典:Apple 2025年10〜12月期 決算発表(2026年1月)、Apple 2025年度 決算発表(2025年10月)、Apple Newsroom(2026年6月)、MM総研の調査(2025年度、報道による)

会社の大きさは、Googleと並ぶ桁違いです。2025年度(2025年9月まで)の売上は4,161億ドル。1ドル150円で計算すると約62兆円。利益だけで約16.8兆円あります。社員は約16万6,000人(パートを正社員の人数に換算した数)。Appleは売上を地域ごとに分けて発表していますが、国の名前で1つの区分になっているのは日本だけです。日本だけで約4.3兆円を売っています。

出典:Apple 2025年度 年次報告(10-K)、Apple 2025年度 決算発表(2025年10月)

そしてトップも変わりました。2026年9月1日から、新しいCEO(会社の最高責任者)はジョン・ターナスさん。2001年に製品デザインのチームに入ったエンジニアで、25年かけて会社のトップになりました。

出典:Apple Newsroom(2026年4月)

青い光に照らされた半円形の大きな会場。客席を埋めた人たちが、前の大きなスクリーンを見ている
本社の中の「スティーブ・ジョブズ・シアター」。新しいiPhoneは、ここで発表される(2018年)
写真:Justin Ormont/CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

iPhoneの中は、日本の部品でいっぱい

Appleは、自分の工場をほとんど持っていません。組み立てのほとんどは、アジアの協力会社に任せています。Appleがやるのは、何を作るかを決めて、設計して、世界中から最高の部品を集めること。その部品の大事なところを、日本の会社が作っています。

日本の会社iPhoneのどこを作っているか
ソニーカメラの「目」にあたるイメージセンサー(光を電気の信号に変える部品)
TDKズームのレンズの位置をはかるセンサー。米粒ほどの大きさ
AGC目に見えない赤外線をカットするフィルター
京セラセンサーを載せる、何層も重ねたセラミックの板

出典:Forbes JAPAN(2025年9月、Appleの横浜の研究所の初公開の取材)、Apple 2025年度 年次報告(10-K)

Appleによると、取引のある日本の会社は約1,000社。過去5年で1,000億ドル(約15兆円)以上を日本の会社に払い、日本で100万人以上の仕事を支えています(2023年の発表)。ソニーの工場は熊本・長崎・大分・鹿児島など、九州に多く並んでいます。

出典:Apple Newsroom(日本、2023年8月)、Apple Supplier List(2024年4月公開)

iPhoneのカメラで撮った1枚の写真の中に、九州の工場で作られた部品が入っている。 Appleで働くとは、世界中の一番の技術を集めて、1つの製品にまとめる仕事です。何を作るかを決める「上流」の仕事の、世界の頂点にあたります。そしてソニーやTDKのように、世界でその会社にしか作れない部品を持つ会社も、また上流です。

輪の形の本社と、横浜の研究所

木がたくさん植えられた中庭に面した、曲がったガラスの壁の前で、若い男性社員がガラスの継ぎ目を指でなぞりながら、夢中で細部を見つめている。「建物そのものが、Appleの製品」の文字。

Appleのオフィスは、「最高の仕事をする場所」として細部まで作り込まれています。

場所どんなところか
アメリカ・クパチーノの本社「Apple Park(アップルパーク)」(2017年〜)輪の形をした巨大な建物で、外の壁は曲がったガラス。敷地は約71ヘクタール(東京ドーム約15個分)。1万2,000人以上が働く。屋根の太陽光パネルなどで、電気は100%再生可能エネルギー。9,000本以上の木、1周約3.2kmの散歩道、新製品を発表する1,000席の劇場「スティーブ・ジョブズ・シアター」
東京・六本木ヒルズ日本の本社。日本で最初のオフィスは1983年
横浜・綱島つなしまの研究所(YTC)パナソニックの工場の跡地に、2017年ごろできた研究所。カメラ・光学・ディスプレイなどを研究する。2025年9月に初めて報道陣に公開された

出典:Apple Newsroom(2017年2月、2023年8月)、東洋経済オンライン、Forbes JAPAN(2025年9月)、9to5Mac

夕方の空の下、道路の向こうの木々の奥に、ガラス張りの丸く曲がった大きな建物が見える
アメリカ・クパチーノの本社「Apple Park」。木々の向こうに、輪の形の建物が続いている(2018年)
写真:Gregory Varnum/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

社員の福利厚生ふくりこうせい(給料以外の待遇)で、Appleらしいのはこのあたりです。

待遇中身
株をもらえるアメリカの公式ページでは、社員の全員が自社の株をもらえる対象。2015年からは、お店やサポートの社員にも広がった
株を安く買える自社の株を、株価の85%(15%引き)で買える制度がある
製品を安く買える社員はApple製品を割引で買える。割引の率は公表されていない
学び続ける仕事に役立つ授業の学費の補助。社内の学校「Apple University」
体を整える大きな拠点には医師や看護師のいる健康センターと、ジム

出典:Apple Careers「Benefits」(アメリカ、2026年10月閲覧)、Apple 年次報告(10-K、2018年度)、Fortune(2015年10月)。日本の待遇の公式ページは見つからなかった

小池の見立てでは、Apple Parkの作りにはAppleの考え方がそのまま出ています。建物そのものが、Appleの「製品」です。 曲がったガラスの継ぎ目、ドアの取っ手、机の角まで、iPhoneと同じように細部を突き詰める。毎日そこで働く社員は、「細部に手を抜かない」を体で覚えていきます。

木の板の大きな屋根が張り出した、壁がすべてガラスの建物。ガラス越しに中の人が見える
本社の隣のビジターセンター。社員でない人が入れるのは、ここまで(2018年)
写真:Gregory Varnum/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

海外へ行く道と、毎日の英語

横浜の研究所の会議室で、若い男性エンジニアがアメリカの同僚とのビデオ会議の最中、英語の説明がうまく伝わらず、しょんぼりして頭をかいている。「お店は日本語、研究は英語」の文字。

Appleで働くと、お店は日本語、研究と本社の仕事は英語です。

Appleの求人サイトには、決まり文句として「本社部門の仕事の多くは、英語の力が必要です」と書かれています。日本の求人を並べると、違いがはっきりします。

日本の求人(2026年10月)言葉の条件
Apple Storeのスペシャリスト(店員)日本語の読み書きと会話。英語の条件はない
東京の広報の責任者英語と日本語が流ちょうなこと
横浜の研究所のAIのエンジニア求人の文そのものが英語だけで書かれている
東京の学生インターン(情報システム)英語は必須、日本語は歓迎。英語の履歴書だけ受け付ける

出典:Apple Careers の日本の求人(jobs.apple.com、2026年10月閲覧)

横浜の研究所で働いていても、同じチームの仲間はアメリカの本社にいます。会議も資料も英語。日本の部品メーカーの人と、日本語で話し、その内容をアメリカの本社へ英語で伝える。日本語と英語の両方で中身を運べる人が、日本のAppleでは頼られます。

日本からアメリカの本社へ渡った人もいます。松井博さんは、Appleに16年いて、2009年まではアメリカの本社でシニアマネージャー(部長クラス)として製品の開発に関わりました。そのときの経験を本に書いています。

出典:松井博『僕がアップルで学んだこと』(KADOKAWA、2012年)、本人の会社の紹介

ここで1つ、間違えないでほしいことがあります。英語が話せる人は、世界に何億人もいます。Appleが探しているのは、英語で「何を伝えるか」を持っている人です。数学で考え抜いた答え、理科で確かめた実験の結果、国語で組み立てた説明。それを英語で伝える。英語は中身を運ぶ道具で、中身は5教科で作ります。

年収:同じAppleでも、仕事で4倍違う

机の上に、低いコインの山と、その4倍ほど高いコインの山が並んでいる。若い女性が高い山を見上げて、驚いて目を見開いている。「同じ会社でも、仕事で4倍」の文字。

Appleの年収は、どの仕事をしているかで、日本の平均と同じくらいから4倍以上まで分かれます。

比べるもの年収
日本の会社員の平均(2025年)487万円
日本のApple(Apple Japan合同会社)の平均700万円(社員226人の回答)
└ お店(RETAIL)の人528万円(7人の回答)
└ 営業の人713万円(46人の回答)
└ エンジニア2,204万円(8人の回答)
Apple全体の社員の真ん中の人(2025年度)13万9,483ドル(1ドル150円で約2,090万円)
アメリカ本社の新卒エンジニア(ICT2)約16万7,000ドル(約2,500万円)

出典:国税庁「民間給与実態統計調査」令和7年分(2026年9月公表)、OpenWork「Apple Japan合同会社」(2026年10月閲覧、口コミの平均)、Apple 2026年 株主総会招集通知(Proxy Statement)、Levels.fyi「Apple Software Engineer Salaries」(2026年10月閲覧、本人の申告の集計)

Appleは日本の社員の給料を公表していません。表の2〜5行目と最後の行は、社員が自分で書き込んだ数字を集めたサイトのもので、公式の数字ではありません。とくにお店とエンジニアは回答が10人もいないので、目安として見てください。Apple全体の真ん中の数字は公式で、世界中のお店の店員やパートの人も入れて計算したものです。

表を見ると、同じAppleの名刺を持っていても、お店の人とエンジニアでは4倍ほど違います。何を作るかを決めて形にする人ほど、給料が高い。 これは、どの業界の記事でも出てくる上流と下流の話と同じです。

年収の中身は、3つに分かれます。

  • 給料(基本給):日本の社員は、1年分の給料を12か月に分けてもらう「年俸制」という声が多い
  • 賞与:会社や自分の成績に応じた上乗せ(仕事によってある・ないが分かれる)
  • 株:Appleの株を、4年かけて毎年4分の1ずつ自分のものにしていく

3つ目の株は「譲渡制限付じょうとせいげんつき株式」、英語でRSUと呼ばれます。入社のときに「4年でこれだけの株をあげます」と約束され、働き続けると少しずつ自分のものになります。Appleの株価が上がれば年収も増え、下がれば減る。途中で辞めると、まだもらっていない分はなくなります。だから社員は、会社の成長を自分ごととして考えます。

出典:Levels.fyi(株の受け取り方の説明)、OpenWork の口コミ、Apple 2025年度 年次報告(10-K)。株の割合は人と時期で違い、Appleの公式発表はない

入社の難しさと、秘密主義の選考

鍵のかかった扉の前で、布をかぶせた試作品の箱を抱えた若い男性社員が、口をきゅっと結び、眉を寄せた真剣な顔で人差し指を口に当てている。「自分の仕事を、家族にも言えない」の文字。

Appleに入るのは、数字が公表されていないほど、外からは見えない難しさです。

Appleは、応募の数も採用の数も公表していません。冒頭の「2%」も、2009年のニューヨークの1店舗の話です。それでも、手がかりはあります。

  • 社員は約16万6,000人(2025年度)。コロナのあいだも社員を急に増やさなかった。2019〜2022年ごろ、Googleは社員を約57%増やしたのに、Appleは約20%(報道)
  • 2023年、Google・Amazon・Metaなどが1万人単位の解雇を発表したとき、Appleは大きな人員削減をしなかった。当時のクックCEOは、大量の解雇は「最後の手段」と話した
  • 辞める人が少なく、席が空きにくい。だから1つの求人に応募が集まる(小池の見立て)

出典:Apple 年次報告(10-K)2020・2025年度、Fortune(2023年5月)、UNLEASH(2023年2月)

選考にも特徴があります。

特徴中身
求人はチームごと「Siriの品質のエンジニア」「カメラ部品の担当」のように、チームと仕事を決めて1件ずつ募集する
日本は経験者の採用が中心日本の学生向けに公式に用意されているのは、インターンとApple Storeの仕事。研究所の求人には「5年以上」「8年以上」の経験が並ぶ
英語の履歴書本社部門やインターンでは、英語の履歴書を求められる
なぜAppleか選考では、製品への情熱と「なぜAppleなのか」を深く聞かれるという

出典:Apple Careers(日本の学生向けページ・日本の求人、2026年10月閲覧)、外資就活ドットコム「Apple完全ガイド」(2026年9月)

自分が作っているものを、家族にも言えない

Appleは、世界でいちばん秘密主義ひみつしゅぎの会社として知られています。

  • 関わっていない製品の話は、同じ社員どうしでもしない。新製品は鍵のかかった部屋で作る
  • 2018年の社内メモでは、前の年に情報を外にもらした29人を見つけ、うち12人が逮捕されたと伝えた
  • 何回も面接を通っても、入社するまで何の製品を担当するか教えてもらえないことがある、と言われている(2012年の本『Inside Apple』)

出典:Fortune(2012年1月、『Inside Apple』の抜粋)、Bloomberg(2018年4月)、AppleInsider(2012年5月)

お店の店員の求人にまで、「機密きみつ(外に出してはいけない情報)を任せられる人」と書かれています。Appleが選んでいるのは、腕のいい人である前に、信頼できる人です。 新製品の発表の日に、世界中が驚く。その驚きを守るために、社員は家族にも話さずに、黙って細部を磨き続けます。

見られるのは、好奇心と「人生で最高の仕事」

Appleは年次報告で、目指す職場を「さまざまな背景の人が集まって、人生で最高の仕事をする場所」と書いています。お店の求人の最初に書かれているのは「好奇心」。社内の学校Apple Universityでは、ピカソが牛の絵を何枚も描きながら線を減らしていき、最後は数本の線だけにした連作を使って、「削って、削って、シンプルにする」考え方を教えていると報じられています。

出典:Apple 2025年度 年次報告(10-K)、Apple Careers の日本の求人、The New York Times(2014年8月、報道による)

知識はあとから身につきます。見られるのは、知りたがる力と、「これぐらいでいいや」で止めずに削り続ける力です。就職活動の流れそのものは、別の記事にまとめました。

学歴のリアル:最低でも早慶・旧帝大の理系

夜の大学の研究室で、白衣の大学院生がレンズと光の実験装置の前に座り、光の筋に没頭している。後ろの棚には実験器具が並ぶ。「製品の仕事は、大学と大学院から」の文字。

はっきり言います。日本のAppleで製品の仕事をしたいなら、最低でも早稲田・慶應、本命は東大・京大などの国立のトップの理系。そして大学院。 安房高校なら、学年240人の中で1桁の順位に入り続けることが目安です(小池の見立て)。

日本のAppleの社員がどの大学の出身かは、公表されていません。それでも、こう考える理由が3つあります。

理由中身
求人の条件横浜の研究所や東京の技術の仕事の求人は「コンピューター科学の学士か修士」「機械工学の学士か修士」から始まり、そこに5〜8年以上の経験が足される
アメリカの本社社員の出身大学でいちばん多いのはスタンフォード大学(LinkedInをもとにした集計、2022年)。本社の近くのカリフォルニアの大学がずらりと並ぶ
同じ外資のIT企業のGoogle日本のGoogleの内定者は、東大・慶應・早稲田が上位を占める(Googleの記事に表を載せた)

出典:Apple Careers の日本の求人(2026年10月閲覧)、Poets&Quants(2022年11月、Hubs.com の集計の紹介)、外資就活ドットコム

「Appleは学歴を気にしない、と聞いたことがある」という人もいるでしょう。たしかに2019年、当時のクックCEOは「去年アメリカで雇った人の約半分は、4年制大学を出ていない」と話しました。ただしこれは、アメリカで新しく雇った人の話で、数の多いお店の店員も入っていると見られます。日本の研究所や技術の仕事の求人で、学位を条件にしていないものは、2026年10月に出ていた求人を調べた範囲では1つもありませんでした。

では、館山の中学生にとって、これはどのくらいの高さなのか。安房高校の大学合格の実績(浪人を含む延べの数)と重ねます。

大学のレベル(河合塾の偏差値)安房高校からの合格(延べ)学年240人の中の位置(小池の見立て)
東大(67.5)・京大2026年に東大1人・京大1人トップ1〜2人
早稲田・慶應(65.0)毎年3〜11人(2020〜2026年)上位10人以内
MARCH(明治〈60.0〉・青山学院・立教・中央・法政)毎年24〜70人上位30人くらい

出典:安房高校「進路情報」合格者数一覧(令和元〜7年度)。偏差値は河合塾のボーダー偏差値(2027年度入試の予想、文系の主な学部の目安)

理系は、学部で仕事がほぼ決まります。カメラの部品なら電気・電子や物理、ソフトウェアなら情報、ものの形なら機械。どの学部に進むかは、高校の早い時期から考えておく必要があります。

Apple Storeの店員という入口

日本には11のApple Storeがあります(千葉県にはありません)。最初の店は2003年の銀座で、アメリカの外で初めてのApple Storeでした。

お店の仕事は、製品を案内するスペシャリスト、困りごとを解決するテクニカルスペシャリストやジーニアスなど。応募の条件は「夜・週末・祝日のシフトに入れること」と「日本語」の2つだけで、学歴の条件はありません。学生のパートの仕事もあります。給料は、2019年の求人で時給1,750円から、と出ていました。

出典:Apple 直営店リスト・Apple Careers(日本の小売のページと求人、2026年10月閲覧)、doda の求人(2019年)

では、お店から本社の製品の仕事に移れるのか。公式のページは「お店の中でも、ほかの部門でも、キャリアを応援する」と書いています。ただ、元ジーニアスたちの声を集めると、道はあるけれど、とても珍しい。本社に移る人の多くは、店長や地域のマネージャーになって、本社でお店をまとめる仕事に就く人です。iPhoneを設計する側に移った例は、ほとんど聞きません。

出典:Apple Careers(アメリカの小売のページ)、Cult of Mac、Blind(元社員の声)

お店で働くのは、Appleの製品とお客さんを一番近くで知ることのできる、いい仕事です。でも、「Appleで製品を作りたい」なら、お店は入口になりません。 入口は大学です。

日本の部品メーカーで腕を磨いてから入る道

日本のAppleの製品の仕事は、経験者の採用が中心です。だから、多くの人は別の会社で腕を磨いてから入ります。

いちばん近い道は、最初の章に出てきた日本の部品メーカーです。ソニーのカメラのセンサー、TDKのセンサー、京セラのセラミックの板。その会社で何年もAppleと一緒に仕事をした人が、Appleに移っていく。研究所の求人に並ぶ「5年以上の経験」は、そういう人を探しています。

ただし、ソニーやTDKの技術の仕事に入るのも、理系の大学、多くは大学院を出ていることが前提です。新卒で入るだけが道ではありません。でも、どの道を通っても、入口は大学です。

今の勉強と、Appleの仕事はつながっている

中学校の理科室で、制服の女子生徒がガラスのブロックを通る光が曲がる実験を見て、ひらめいてうれしそうに笑っている。「教科書の屈折が、カメラの中に」の文字。

Appleの仕事は、中学の5教科の延長線の上にあります。

教科Appleの仕事のどこで使うか
理科カメラのレンズは中1の「光の屈折」。ズームの位置をはかるセンサーは中2の「電流と磁界」。電池は中3の「化学変化とイオン」
数学写真をきれいにする計算、顔を見分けるAI、電池がどれだけもつかの予測。全部、関数と統計
英語アメリカの本社との会議、資料、プログラムの説明
国語「削ってシンプルに」伝える。新製品の説明は、短い言葉で中身を言い切る仕事
社会日本・中国・インド・ベトナムなどの工場をつなぐ世界の分業。国ごとの法律や貿易のルール

iPhoneのカメラの中では、皆さんが理科の教科書で習う光の屈折と、電流と磁界が、米粒の大きさで働いています。教科書の1ページは、そのまま世界の製品の1ページです。数学と理科の伸ばし方は、別の記事に書きました。

中学生のうちから挑戦できる、Appleのコンテスト

Appleには、学生向けのアプリのコンテスト「Swift Student Challenge」があります。日本からは13歳以上なら応募できます。毎年350人が受賞し、そのうち50人はApple Parkに3日間招待されます。

2024年は日本から6人が受賞し、最年少は中学3年生でした。色の見え方を調べるアプリを作ったそうです。プログラムの言葉(Swift)は、iPadやMacの無料のアプリ「Swift Playgrounds」で、パズルを解きながら学べます。

出典:Apple Developer「Swift Student Challenge」(応募の条件)、Apple Newsroom(2026年5月)、マイナビニュース(2024年8月)

中学生の今から:やり切る力を鍛える

中学生の今から鍛えるのは、1つだけ。目の前のことに没頭して、燃え尽きるまでやり切る力。 しかも、やらされてではなく、自分から楽しんで。

ここまでの話を思い出してください。Appleは、建物の継ぎ目まで細部を突き詰める会社でした。選考で見られるのは、知りたがる好奇心と、削って削ってシンプルにする粘りでした。そして、秘密を守れる信頼でした。

定期テスト

  • やり切るとは:範囲と日にちが決まった締め切りに向けて、「これぐらいでいいや」で止めずに仕上げる。終わったら、なぜその点だったかを1行で書いて、次を変える
  • 将来につながる:学年の上位に入り続けることが、早慶以上への道。Appleの新製品も、発表の日という動かせない締め切りに向けて細部を詰める

部活

  • やり切るとは:部長になって全体をまとめる。練習メニュー、目標、やる気の出ない部員への声かけまで、自分で考えて動く
  • 将来につながる:チームのみんなが信頼して任せてくれる人になる。Appleが選ぶのは、腕の前に信頼できる人

行事

  • やり切るとは:文化祭や体育祭を、楽しむ側から企画する側へ。乗り気でない人をどう巻き込むかまで考える
  • 将来につながる:世界中の部品とチームをまとめて、1つの製品に仕上げる仕事そのもの

趣味

  • やり切るとは:1つ、人が引くほどやり込む。毎日使っているスマホやアプリに「ここ、もっとこうならない?」を見つけたらメモする。Swift Playgroundsで、小さなアプリを1つ最後まで作ってみる
  • 将来につながる:Swift Student Challengeの中学3年生も、「色の見え方を調べたい」という1つの興味を作品にした

没頭する力は、才能ではなく習慣です。 今日の宿題で、今日の部活で、あと一歩深く入る。その積み重ねが、10年後の面接で話す中身になります。

Googleの記事も読んだ人は、この章を見て「一緒じゃん」と思ったはずです。その通りです。ゲーム会社でも、Googleでも、Appleでも、会社が見ている力は同じです。その力の正体を、「人間力とは何か」の記事で6つに分けて書きました。

まとめ

夜、自分の部屋の机で、制服姿の男子中学生がタブレットで小さなアプリを作ることに夢中になり、目を輝かせている。机の上には分解したおもちゃの部品とノート。「「なぜ?」で、深く入る」の文字。
  • Appleは、世界の25億台の機械の中身と使い心地を決める会社。売上の半分はiPhone。日本のスマホの約半分はiPhone
  • iPhoneのカメラの大事な部品は、ソニー・TDK・AGC・京セラなど日本の会社が作っている
  • 本社Apple Parkは、細部まで突き詰めた「建物という製品」。日本には六本木の本社と横浜の研究所がある
  • お店は日本語、研究と本社の仕事は英語
  • 年収は仕事で大きく違う。日本のAppleの平均は700万円、エンジニアは2,000万円を超える(口コミ)
  • 採用の数は非公表。秘密主義で、選ばれるのは腕の前に信頼できる人
  • 学歴は、最低でも早慶、本命は東大・京大などの国立のトップの理系と大学院。安房高校なら学年で1桁が目安(小池の見立て)
  • Apple Storeの店員は学歴の条件がないが、製品を作る仕事への入口にはならない
  • 中学生の今から鍛えるのは、自分から楽しんで燃え尽きるまでやり切る力

Appleで働いてみたい。それは、皆さんのスタート地点です。毎日使っているものの細部に「なぜ?」を持ち、誰よりも深く入る。 そして勉強を、当たり前に積み上げる。その両方をそろえた人に、世界の扉は開きます。

出典一覧

出典(一次情報):Apple 2025年度 年次報告(10-K)/Apple 2018年度・2020年度 年次報告(10-K)/Apple 2025年度 決算発表(2025年10月)・2025年10〜12月期 決算発表(2026年1月)/Apple 2026年 株主総会招集通知(Proxy Statement)/Apple Newsroom(2003年11月 銀座、2017年2月 Apple Park、2023年8月 日本40周年、2026年4月 CEOの交代、2026年5月 Swift Student Challenge、2026年6月 App Store)/Apple Careers(アメリカの福利厚生・小売のページ、日本の学生向け・小売のページ、日本の求人)/Apple 直営店リスト/Apple Supplier List(2024年4月公開)/Apple Developer「Swift Student Challenge」/国税庁「民間給与実態統計調査」令和7年分/安房高校「進路情報」

出典(報道・調査):Forbes JAPAN(2025年9月)/東洋経済オンライン/9to5Mac/Fortune(2012年1月、2015年10月、2023年5月)/Bloomberg(2018年4月)/AppleInsider(2012年5月)/The New York Times(2014年8月)/UNLEASH(2023年2月)/Poets&Quants(2022年11月)/マイナビニュース(2024年8月)/MM総研の調査(報道による)/Business Insider(2009年、ニューヨークのApple Storeの採用)/松井博『僕がアップルで学んだこと』(KADOKAWA、2012年)

出典(就職情報・口コミ。二番手で、本人の申告や会員のデータ):OpenWork「Apple Japan合同会社」/Levels.fyi(Appleのソフトウェアエンジニア)/外資就活ドットコム「Apple完全ガイド」/doda の求人(2019年)/Cult of Mac・Blind(元社員の声)

この記事を書いた人

小池哲平のアバター 小池哲平 ランゲージ・ラボラトリー塾長

ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて

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