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ランゲージ・ラボラトリーの小池です。
専門学校の記事で、「15歳で決めたことを40年続ける人は少ない」と書きました。では、仕事が変わっても持って行けるものは何か。小池の答えは、人間力です。マンガの編集者にも、スポーツメーカーの営業にも、編集学部や営業学部はない。技術は入ってから会社が教える。だから就職では、結局、人間力が問われます。
でも「人間力」という言葉は、便利なぶん曖昧です。この記事では、小池が考える人間力の中身と、なぜそれが大事なのか、そしてそれを今どこで鍛えているのかを書きます。





まず、技術の話から。
これは小池の実体験です。大学生のとき、HTMLというウェブサイトを作るための言語を、一生懸命覚えました。おかげでウェブサイトが作れるようになって、当時は1行ずつ手で打っていた。それから20年たった今、HTMLを打てる人はほとんど要りません。文字だけ打てば、勝手にウェブサイトになります。一生懸命覚えた技術が、そのまま消えた。
もう一つ。小池は塾を始める前、リクルートという会社にいました。この会社は2、3年に1回、部署の異動があります。異動すると、その部署の仕事を何も知らない状態に、ポンと放り出される。業界の知識もない、その仕事の技術もない。ところが、異動してきた人は半年で追いついて、1年で前からいた人を抜いていったりします。技術がゼロの人が、技術を持っている人を抜く。これを何度も見ました。
ここ数年はAIが、絵を描くことも、文章を書くことも、プログラムを書くことも、やり始めています。専門学校の記事で書いた、アニメの「動画」がAIに置き換わる話は、その一例です。だから、どんな技術も、40年の仕事の途中で必ず古くなる。「この技術を持っているから安心」という状態は、10年と続かない。
では、技術がゼロの人が、技術を持っている人をなぜ抜けるのか。スポーツで考えると分かります。
小学生のころから野球をやっている子は、野球の技術を持っています。バットの振り方、捕り方、走塁。ところが、運動神経のいい子が中学から野球を始めると、1年でその子を追い抜くことがある。皆さんも見たことがあるはずです。長くやっているのに、あまり運動ができない子。後から始めたのに、急に伸びる子。
違いは、根底にあるものです。運動神経が根底にあって、競技ごとの技術はその上に乗った表面的なスキル。運動神経のいい子は、サッカーに移っても、バスケに移っても、また速く伸びる。競技の技術は競技が変わると消えるが、運動神経は消えない。
仕事も同じ構造です。HTMLも、部署の仕事も、競技ごとの技術です。競技が変われば消える。その下にある「新しいことを覚える速さ」「人に聞ける」「失敗して直せる」が、仕事の運動神経で、これが人間力です。リクルートで1年で抜いていった人たちは、部署の技術ではなく、運動神経で抜いていた。技術を身につけること自体は必要です。でも、その技術が古くなったときに次を覚えられるのは、運動神経のほうです。
この「競技の技術」と「運動神経」の区別は、小池が勝手に言っているわけではありません。厚生労働省は、業種や職種が変わっても持っていける力を「ポータブルスキル」と呼んでいます。定義は「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」。中身は次の3つに分かれています。
| 種類 | 中身 | 野球でいうと |
|---|---|---|
| 専門技術・専門知識 | その仕事でしか使わない技術や知識 | バットの振り方、変化球の投げ方 |
| 仕事のし方 | 現状をつかむ、課題を決める、計画を立てる、やり切る、状況の変化に合わせる | 運動神経(足の速さ、パワー、体を思い通りに動かす力) |
| 人との関わり方 | 社内の人、社外の人、上司、部下とうまくやる | コーチに教えてもらう力、気にかけてもらってよく見てもらう、試合に出してもらう |
野球がうまくても、コーチの話を聞かず、見てもらえない選手は、試合に出してもらえません。仕事も同じで、上司やお客さんに教わり、気にかけてもらい、任せてもらえる人に、大事な仕事が回ってきます。
業界が変わっても通用するのは、下の2つです。小池の言葉にすると、目標を決めて最後までやり切る力と、人と話して一緒に動ける力。頑張る力、コミュニケーション、目標に向かう意欲。どの業界に行っても、ここは変わりません。
「アイ・カンパニー」という考え方があります。自分の人生を1つの株式会社に見立てて、自分で経営する、という考え方です。日本では、リンクアンドモチベーションという会社を作った小笹芳央さんが、2003年の本『「アイ・カンパニー」の時代』で広めました。アメリカでも1997年に、経営の本で有名なトム・ピーターズが「私たちは、自分という会社のCEO(社長)だ」と書いています。
会社にたとえると、専門技術は「今売っている商品」です。商品は、時代が変われば売れなくなる。小池にとってのHTMLがそうでした。それでも会社がつぶれないのは、次の商品を作れる経営の力があるから。この経営の力が、ポータブルスキルであり、人間力です。リクルートで異動のたびに追いついていった人たちは、商品が変わっても、会社の経営がうまかった。
皆さんは今、自分という会社を作ったばかりの時期です。何を売るか(どんな仕事をするか)は、まだ決めなくていい。今やるべきは、どんな商品でも作れる会社の体力をつけること。それが勉強です。






もう一つ、中学生のうちは気づきにくいことがあります。大人の仕事には、答えがありません。
集英社の編集者は、何がヒットするか分かりません。分かっていたら、全部の漫画がヒットしている。編集長でも、新人の原稿を読んで「これは当たる」と言い切れない。当たると思って連載した作品が10週で終わり、どうかなと思った作品が世界中で読まれる。
館山の話をします。館山市の人口は2026年1月で42,059人(市の常住人口)。2025年4月からの9か月で、440人あまり減りました。65歳以上はおよそ4割です。どうしたら人口が増えて、街に活気が戻るか。市役所も、商店の人も、小池も、答えを持っていません。観光、移住、企業の誘致、学校、いろいろ試している。どれも「正解」ではなく「試行」です。
小池の塾もそうです。どう教えたら成績が上がるか、どうしたら生徒が勉強を続けるか、まなぶ君にどんな機能があれば使われるか。毎週、何かを試して、半分は外れています。塾を15年やっても、答えは出ていない。出ないから、試し続けている。
つまり大人は全員、答えのない問題を、答えが分からないまま、試行錯誤でもがいている。テストのように「正解が用意されていて、それに当てにいく」仕事は、世の中にほとんどありません。そしてこの「もがく力」が、人間力の正体だと小池は思っています。
歴史の教科書に出てくる人は、ほぼ全員がこれをやっています。3人だけ挙げます。


トーマス・エジソンは1879年、木綿の糸を炭にしたフィラメントで、電球を40時間光らせました。でも40時間では商品になりません。そこから、炭にできる材料を6,000種類試した。髪の毛、釣り糸、いろいろな木、いろいろな草。その中で扇子の骨の竹がよかったので、世界中に人を送って竹を集め、1880年に京都・八幡の竹にたどり着きました。この竹のフィラメントで、電球は1,000時間以上光るようになった。
エジソンには「竹が正解だ」と教えてくれる人はいなかった。6,000回の失敗は、答えのない問題を試行錯誤で解いた回数です。


ニコラ・テスラは、電気を遠くまで送るなら交流のほうがいい、と考えた技術者です。1884年にアメリカに渡ってエジソンの会社に入りましたが、エジソンは直流で商売をしていたので、テスラの交流は認められませんでした。テスラは会社を辞め、別の実業家と組んで交流の発電機とモーターを作り、エジソンと真っ向から争います。
1893年のシカゴ万博と、ナイアガラの滝の発電所で交流が採用されて、テスラの側が勝ちました。今、皆さんの家のコンセントに来ている電気は交流です。テスラが正しかった。
ところがテスラはその後、電線を使わずに電気を送る「無線送電」に挑み、ニューヨークに巨大な塔を建てて、失敗しました。資金を出していた大銀行家は手を引き、テスラは晩年、ホテルを転々として、1943年に86歳で財産を残さず亡くなっています。
正しいことを考えた人が、必ず報われるわけではない。それでもテスラの交流は、130年後の今も世界中を動かしています。答えのない問題に挑む人は、自分が生きているうちに答え合わせができないことがある。それでも挑んだ人が、歴史に残っています。


日本の例も一つ。1771年、杉田玄白と前野良沢は、江戸の小塚原で死体の解剖を見ました。持っていたオランダの医学書「ターヘル・アナトミア」の図が、実物とぴったり合っていた。それまでの日本の医学書は、中身が違っていた。二人はその場で、この本を日本語に訳すと決めます。
問題は、オランダ語の辞書がなかったことです。良沢が少しオランダ語を知っているだけで、玄白はほとんど読めない。玄白が後に書いた回想には、「櫓も舵もない船で大海に乗り出したようだった」とあります。
有名な話があります。鼻の説明に「フルヘッヘンド」という言葉が出てきて、意味が分からない。別の本を見ると、木の枝を切った後の切り口が「フルヘッヘンド」する、庭を掃いて落ち葉が集まると「フルヘッヘンド」する、と書いてある。何日も考えて、玄白は気づきます。枝を切った跡は、盛り上がる。落ち葉は、集めると積もって山になる。「フルヘッヘンド」は、盛り上がって高くなることだ。だから鼻は、顔の真ん中で盛り上がっているもの。
ただし、これは玄白が83歳で書いた思い出話『蘭学事始』に出てくる話です。のちの調べで、原書の鼻の説明には「フルヘッヘンド」という言葉が見当たらないことが分かっています。それでも、知らない言葉を別の文から推し量るやり方は、今もそのまま使えます。
玄白たちはこれを「堆(うずたか)し」と訳しました。「うずたかい」は、盛り上がって高く積もっている様子を表す古い言葉です。「堆」は、理科で習う「堆積(たいせき)」の「堆」と同じ字です。
辞書があれば1秒で分かる言葉に、何日もかけた。この作業を3年半、11回書き直して、1774年に「解体新書」ができました。中学の歴史で習う1行の裏に、答えのない問題を自分の頭で解き続けた3年半があります。




3人に共通しているのは、頭のよさではありません。答えが用意されていない問題を、楽しんで、自分の頭で考えて、たくさん失敗して、それでも続けたことです。ここから、小池が考える人間力の中身を6つにします。
就職の面接で見られているのは、この6つです。編集も営業も、技術は入ってから覚える仕事なので、会社は技術ではなくこの6つを見ています。




「人間力」は、ふわっとした言葉に聞こえます。でも実は、国がきちんと定義しています。
2003年に内閣府の人間力戦略研究会が出した報告書では、人間力を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」としています。中身は3つです。
| 要素 | 中身 |
|---|---|
| 知的な力 | 基礎学力と専門知識。その上に、筋道を立てて考える力と、新しいものを生み出す力 |
| 人と関わる力 | コミュニケーション、リーダーシップ、ルールを守る心、人を尊重して高め合う力 |
| 自分をコントロールする力 | 上の2つを発揮するための意欲、忍耐力、自分らしい生き方を追いかける力 |
見てほしいのは1つ目です。基礎学力が、人間力の土台に入っている。勉強は人間力の外にあるものではなく、人間力そのものの一部。
もう一つ、経済産業省の「社会人基礎力」(2006年)。職場や地域で、いろいろな人と一緒に仕事をするための基礎の力を、3つの力と12の要素に分けたものです。
| 3つの力 | 12の要素 |
|---|---|
| 前に踏み出す力 | 主体性・働きかけ力・実行力 |
| 考え抜く力 | 課題発見力・計画力・創造力 |
| チームで働く力 | 発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール力 |
小池の6つと並べると、ほとんど重なります。期限を守るは「規律性」、聞いて要約するは「傾聴力」、頼める・頼まれるは「働きかけ力」、失敗を言えるは「課題発見力」、好きを語れるは「発信力」、その場で調べるは「主体性」と「実行力」。言葉は違っても、見ているものは同じです。
経済産業省はその後、この社会人基礎力に「学び続けることを学ぶ」を加えました。人生100年の時代、技術は途中で必ず古くなるから。この記事の最初に書いた話と、同じ結論です。


理由は3つあります。






「頑張る力やコミュニケーションなんて、どうやって測るの?」と思うかもしれません。
就職試験でよく使われるものに、SPIという検査があります。リクルートのグループ会社が作っているもので、中身は2つです。
能力検査について、作っている会社自身が「暗記や受検対策で簡単に得点が上がるものではなく、長い期間の日常的な努力で培われる」と説明しています。つまり、中学・高校で積み上げた勉強が、そのまま試される。
では、性格検査で「頑張る力」が分かるかというと、分かるのは「傾向」までです。自分で答える検査なので、「私は最後までやり切るほうだ」と答えることは誰にでもできる。会社も性格検査だけで決めるのではなく、面接の参考に使います。検査の結果には、「面接で確かめるポイントと質問の例」まで付いてきます。
本番は面接です。面接では「学生時代に力を入れたこと」を必ず聞かれます。何を目標にして、どこでつまずいて、どう乗り越えたか。それを、具体的な事実で話せるかどうか。アメリカの研究者が採用の研究をまとめ直した論文(Sackett ら、2022年)でも、入社後の仕事ぶりといちばん関係が強かったのは、決まった質問で過去の行動を聞く面接でした。
頑張る力は、「頑張れます」と口で言っても伝わりません。何をやり切ってきたかという、過去の事実で見せるしかない。その事実を作れるのは、中学・高校・大学の時間です。


「因数分解って、大人になって使うんですか」。数学の授業で、毎年のように聞かれます。
正直に答えます。小池は塾を経営していますが、x²+5x+6 を (x+2)(x+3) にしたことは、仕事で一度もありません。でも、因数分解の考え方は、ほぼ毎日使っています。
因数分解は、ごちゃっとした式を、掛け算のかたまりに分ける作業です。分けると、どこが効いているかが見える。塾の売上も、同じように分けます。
「売上が足りない」とだけ言っても、何をすればいいか分かりません。分けると、問い合わせが少ないのか、体験には来るのに入塾しないのか、入っても途中でやめてしまうのかが見える。直す場所が分かれば、打つ手が決まる。
これは小池の発明ではなく、経営の基本です。国の中小企業向けの解説(中小機構のJ-Net21)でも、売上をまず「客数×客単価」に分け、客数を新しいお客さんと来店の回数に、客単価を買う点数と1つの値段に分けて考えるよう書かれています。
ほかの教科も同じです。中身は仕事で使わなくても、考え方の型は毎日使う。
勉強で鍛えているのは、教科書の中身より、この考え方の型のほうです。中身は忘れても、型は残ります。




入るのが難しい会社には、高学歴の人が多い。これは事実です。


でも、会社は大学の名前そのものが欲しいわけではありません。経団連の調査(2018年度)で、企業が選考で重視した点の1位はコミュニケーション能力(82.4%)、2位は主体性(64.3%)。「学業成績」を選んだ企業は4.4%でした。成績はほとんど見ていないと言いながら、難関企業に入るのは難関大学の学生ばかり。
矛盾しているように見えますが、小池はこう考えています。学歴は、中学から高校までの6年間、頭を使って、やり切ってきた結果の記録。会社が欲しいのは記録ではなく、その記録を作った中身のほうです。中身は2つ。
研究も、この2つを指しています。先ほどの Sackett らの論文では、面接のほかに、頭を使う力をはかる検査と、「計画的に、最後までやる」という性格(誠実性)も、入社後の仕事ぶりと関係していました。ニュージーランドで約1,000人を32歳まで追いかけた研究(Moffitt ら、2011年)では、子どものころに自分を抑えて続ける力が強かった人ほど、大人になってからの収入や健康がよかった。IQや家庭の豊かさの差を差し引いても、です。
だから、大学名だけあって中身がない人は、入社してから苦しくなります。逆に、中身を鍛えた人には、学歴はあとからついてくる。


では、中学生の今、この力はどこで鍛えられるか。答えは拍子抜けするくらい普通で、勉強と部活と、学校生活そのものです。
テストには答えがあります。だから「テストは答えのない大人の仕事と違う」と思うかもしれない。でも、鍛えているものは同じです。
勉強は、答えのある問題で「もがき方」を練習する場所です。答えのある問題でもがけない人は、答えのない問題ではもっともがけない。逆に、答えのある問題で粘れる人は、大人になって答えのない問題に出会ったとき、「これは前にやった感覚だ」と分かる。


答えのない問題は、怖いものではなく、面白いものです。エジソンも玄白も、たぶん楽しんでいた。皆さんが今日、数学の問題に30分粘ったら、それはもう同じ練習です。


「こんな勉強、将来使わない」。そう思う気持ちは、よく分かります。小池も中2のころ、本気でそう思っていました。
でも高校生になり、大人になって分かってきたのは、勉強で鍛えていたのは教科書の中身そのものではなく、その根っこにある人間力だったということ。部活も、行事も、好きなことに打ち込む時間も、同じです。
この本質を、今の皆さんに伝えたくて、この記事を書きました。
この練習の、いちばん近い本番が大学受験です。答えの決まった問題を相手に、自分の頭でどこまで粘れるか。ここで粘れた人は、その先の答えのない問題でも粘れます。
ランゲージ・ラボラトリーの先には、小池がオーナーをしている東進館山校があります。朝6時から夜23時まで開いていて、2026年の共通テストでは、館山校の生徒の「伸び」が千葉県内の東進56校舎で1位でした。中学で積んだ練習を、高校の3年間、大学受験までそのまま続けられます。
進路をもっと具体的に考えたい人は、次の記事も読んでみてください。





塾生サイトには、この話の続きを塾生だけが読める記事で載せています。塾生サイトで読む
※塾生の方は、まなぶ君と同じID・パスワードで読めます
ランゲージ・ラボラトリー 小池


ランゲージ・ラボラトリー塾長、東進衛星予備校 館山校オーナー。安房郡白浜町(今の南房総市白浜町)に生まれ、白浜中から安房高校へ。高2で学年82人中81位まで落ちたところから、浪人して慶應義塾大学経済学部に合格しました。リクルートで4年働いたあと2011年に1993年開校の塾を先代から引き継ぎ、2015年から館山で小中学生を教えています。2026年卒の中学3年生は30名中8名が学年1位。志学館高校のSS特待には3年続けて合格者を出しています(2024年4名・2025年5名・2026年6名)。東進館山校は2026年の共通テストで平均+218.4点(千葉県内1位)。館山・南房総の高校入試を、塾で見てきた事実と数字で書いています。
塾長のプロフィール ランゲージ・ラボラトリーについて